【第1分科会】「震災・難民」報告要旨

【第1分科会】「震災・難民」
司会:滝田 祥子

「福島原発事故経験者としての在日中国人の女性のライフヒストリー」
王 石諾(大阪大学人間科学研究科・博士後期課程)
東日本大震災及びそれに起因する福島原発事故は、特に現地に住む人々に甚大な被害もたらし、10年経った現在においてもそれに関する議論は盛んである。報告者は福島県に現地調査を行った際、現地の在日中国人の中で、国際結婚で移住してくる中国東北地方出身の女性が圧倒的に多いことに気づいた。彼女らの語りに耳を傾けることを通じて、故郷に留まらない理由、日本語を話せず移住してくる記憶から、福島原発事故の経験、日中の境界にさまよう内面的な動きまで、戦争歴史の残響及び予測不可能な災害事故のリスクを織りなすライフヒストリーを感じ取った。本報告は、こうしたマクロな歴史描写で見逃されがちな移住者女性の視点から、個々人から捉える災害リスクを描写する試みである。

「『徹底的に絶望する』ところから福島原発事故を捉える-福島県会津若松市における不安を語り合える場づくりを通して-」
佐久川 恵美(同志社大学大学院 博士後期課程)
東京電力福島第一原子力発電所の事故は10年目を迎え、避難、健康影響、廃炉といった課題が山積するなか、復興政策がすすめられている。復興政策において、原発事故や放射線被ばくによる健康影響への不安は払しょくする対象であり、人々を苦しめているのは放射線そのものではなく、知識不足から生まれる偏見・差別だと説明されている。不安を語ることすら憚れる状況下で、福島県会津若松市に暮らしているAさんは「徹底的に絶望するところから、この局面に立ち向かわないと」と語った。本報告では、「徹底的に絶望する」という言葉に込められたものを考察し、不安を語り合うことのできる場づくりをとおして、福島原発事故に遭っている自分たちにとっての「現実」を捉えようとする営みを明らかにする。

「在日ベトナム系移住者の生活の中でのことばをめぐる経験」
林 貴哉(立命館大学授業担当講師)
本発表では、難民として来日したベトナム系移住者を対象に、当事者の視点からことばをめぐる経験を明らかにする。定住開始前に実施される日本語教育が短期間であることに加え、定住開始後に日本語を学ぶ機会も限られていた。そのため、学齢期を過ぎてから定住生活を開始したベトナム系移住者に関しては、日本語習得の不十分さが問題点として指摘されてきたが、これは、暗黙裡に日本語母語話者が規範とされている等、ホスト社会からの視点にとどまっていた。本発表では、ベトナム人集住地域での参与観察や半構造化インタビューの結果をもとに、ベトナム系移住者の経験を分析することで、移住者にとっての生活の中における言語の意味づけを理解することを試みる。

「神戸生まれタタール移民2世と1950~1960年代イスタンブル―「理想の国民像」の相対化を目指して」
沼田 彩誉子(東洋大学アジア文化研究所客員研究員)
1917年ロシア革命を機に、ヴォルガ・ウラル地域から旧満洲、朝鮮半島、日本へ避難したテュルク系ムスリムがいた。彼ら「タタール移民」は、戦前日本の大陸政策における「イスラーム工作」に取り込まれたことで知られる。本発表ではまず、従来の研究で看過されがちだった第二次世界大戦後の時期について、トルコや北米へと移住した彼らが、複数の「故郷」を創出したことを示す。次に、神戸出身の女性に焦点を当て、幼少期にイスタンブルへと渡った彼女が、移動によって生じた経験を参照軸に、移住先社会を相対化する姿を描きだす。ただ一つの場所との結びつきを想定しない/できない極東生まれの2世は、「理想の国民像」を拠り所に移民の善悪を判断する社会的多数派とどう向き合うのか。歴史のうねりと交差しながら揺らぐ国民概念を、2 世の視点から位置づけることを目指す。

JOHA第19回大会 開催日程・形態の変更について

新型コロナウイルス感染拡大による影響について今後の見通しが立たないことを受け、9月4日・5日に青森公立大学を会場にハイブリッドでの開催を予定していたJOHA第19回大会開催の可否を理事会で慎重に協議した結果、日程を9月5日(日)の1日のみとし、開催形態をオンラインとすることを決定いたしましたことをご報告申し上げます。
大会プログラムや参加方法などについての詳細は、確定次第、会員メーリングリストならびにホームページでご連絡いたします。
末尾になりましたが、みなさまのご健康をお祈り申し上げます。

JOHA会長 赤嶺淳
大会開催校理事 佐々木てる
研究活動委員長 橋本みゆき

JOHAシンポジウム「戦争体験に関わる「二次証言」の可能性」のご案内

6月27日(日)に、「戦争体験に関わる「二次証言」の可能性-福井県の歩兵第三六聯隊に所属した一農民の体験を事例に考える-」というテーマでシンポジウムを、オンライン研究会方式で開催します(歴史学研究会現代史部会・同時代史学会と共催)。参加申し込みの方法と企画内容の詳細は以下をご確認ください。

日本オーラル・ヒストリー学会シンポジウム
戦争体験に関わる「二次証言」の可能性
-福井県の歩兵第三六聯隊に所属した一農民の体験を事例に考える-
(共催:歴史学研究会現代史部会、同時代史学会)

◆企画の趣旨
日本オーラルヒストリー学会では、このたび戦争体験に関わる「二次証言」の可能性をめぐるシンポジウムを企画しました。
その趣旨は、タイトルに明記してありますように、戦争体験に関する「二次証言」の可能性を考えたい、というところにあります。ただし、ここでいう「二次証言」という表現は、当事者ではない人が当事者から聞いたことを伝える証言という意味で、あくまで仮称として用いるものであり、証言としての価値の軽重を意識して用いるものではありません。戦争体験者(特に出征経験者)が自らの体験を直接語ることが次第に困難になりつつある昨今、その近親者などによる戦争体験を語り継ぐ活動が注目されつつあります。そのような活動の意義と可能性について、基調講演とシンポジウム形式の討論という二部構成の企画で考えたいというものです。
具体的には、福井県の鯖江に衛戍していた歩兵第三六聯隊に所属して、中国に出征した山本武さん(1913~1984)の戦争体験を取り上げます。山本武さんの戦争体験と、武さんが書き残された陣中日記と回顧録は、吉見義明さんのご著作『草の根のファシズム』(東京大学出版会、1985年)や、2000年に放映されたNHKの番組「ETV2000 シリーズ太平洋戦争と日本人 第5回 一兵士の従軍日記 -祖父の戦争を知る-」で取り上げられました。そして現在は、武さんのご子息である山本富士夫さんと山本敏雄さんによって、武さんの体験を語り継ぐ活動がなされています。
今回のシンポジウムでは、山本富士夫さんと敏雄さんをお招きして、実際に武さんの戦争体験を語り継ぐ基調講演をしていただきます。そして、その語り継ぐ活動の意義と可能性について、現代史やオーラルヒストリーに詳しい研究者(吉見義明さん、中村江里さん)にコメントしていただき、さらに企画担当者である能川泰治委員からのコメントも加え、全体討論を通じて理解を深めていきたいと思います。どうぞ奮ってご参加ください。

日時:2021年6月27日(日)13:00~17:00
【注記】
このシンポジウムは昨年6月に開催する予定でしたが、新型コロナウィルス感染拡大のために延期することにしたものです。今度はオンライン研究会方式で開催することになりしました。参加希望者には事前登録をお願いします。

会員・非会員を問わず参加費無料

参加登録方法
参加を希望される方は、下記申し込みフォームから事前登録をお願いします。申し込みフォームには、①お名前、②メールアドレス、③ご所属、④参加のきっかけ(シンポジウムのことを何でご存知になったか)を登録していただきます。登録しないと当日は参加許可されません。また、シンポジウムの前日に関係資料をお届けする予定ですので、なるべく6月25日(金)の17時までに申し込み手続きを完了させてください。
事前参加申し込みフォーム ←ここをクリック

Zoomの使用方法については、zoomの利用について案内をご確認ください。

問い合わせ先
日本オーラル・ヒストリー学会の研究活動委員会・能川泰治 (ysnogawa[at]staff.kanazawa-u.ac.jp)
※ [at]を@に変えて送信してください。

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JOHA19(第19回学会大会)報告エントリー募集

 2021年度のJOHA第19回大会の自由報告部会(個人報告/共同報告/テーマセッション)の報告者募集のご案内です。

 JOHA第19回大会は、9月4日・5日に青森公立大学で、現在のところ対面・オンライン併用のハイブリッド開催を予定しております。
 大会の詳細は、大会プログラムが確定する7月頃に決定次第、メーリングリストで会員のみなさまにお知らせするとともに、ウェブサイトに掲載します。
 ただし今後の新型コロナウィルス感染拡大の状況によっては、再調整の可能性があります。
 開催方法について検討していた関係で報告募集の開始が例年よりも遅くなりましたこと、お詫び申し上げます。ふるってのご応募お待ちします。

◎第19回日本オーラル・ヒストリー学会大会
・日時:2021年9月4日(土)〜5日(日)
・会場:青森公立大学
 〒030-0196 青森市大字合子沢字山崎153番地4
・自由報告部会は9月4日(土)午後前半と5日(日)午前の見込み。ほかに総会・シンポジウム・研究実践交流会など。

◎自由報告(個人報告/共同報告/テーマセッション)報告者募集
〇個人報告および共同報告は、報告20分・質疑応答10分(合計30分)で構成されます。
〇テーマセッションは、150分間(上限)の時間枠で設定できます。1人あたり報告時間は20分を目安とします。全体の時間配分・報告者人数・報告順・コメンテーターは、コーディネーターが調整してください。
・募集期間:2021年4月16日〜6月1日
・報告を希望する会員は申込用紙に各項目を記入のうえ、下記の応募要項に従ってお申し込みください。
・オンライン報告/現地報告の選択肢があります。お申し込み時に選んでください。詳しくは後日打ち合わせます。

【応募要項】
◆申し込み資格
申込時点でJOHAの会員であること、および2021年度会費納入済みであること。
(会費納入のご案内、振り込み用紙は4月中に郵送いたします)

◆申し込み手続き
1.申込用紙に記入し、メール添付で、必ず下記2アドレス両方宛にお送りください。
申込用紙(個人報告・共同報告テーマセッション
−JOHA事務局・矢吹康夫(joha.secretariat[at]ml.rikkyo.ac.jp)
−研究活動委員会委員長・橋本みゆき(5522825[at]rikkyo.ac.jp)
※迷惑メール防止のため[at]としております。実際のメール送信では[at]の部分は@を入力してください。
※折り返し、事務局より受付の返信をします。返信がない場合は、ご面倒でもお問い合わせください。

2.メールで連絡できない方は、申込用紙をJOHA事務局へ郵送してください。受領連絡が必要な場合は返信用ハガキを同封してください。
〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1
立教大学社会学部 矢吹康夫宛
日本オーラル・ヒストリー学会事務局

◆申込締め切り
6月1日(火)(必着)

◆問い合わせ先:日本オーラル・ヒストリー学会事務局
JOHA事務局・矢吹康夫 (joha.secretariat[at] ml.rikkyo.ac.jp)

対面&オンライン参加 オーラル・ヒストリー複合ワークショップ2021「作品と現地をオンラインでつなぐ」『語り継ぐ いいおか津波』の現場を訪ねて

昨年3月にコロナ禍の中で延期にしていた企画です。今回はオンライン参加の選択肢もあります。
東日本大震災から10年。千葉・飯岡は、震災の際に関東でも特に津波被害が集中した地域です。
飯岡地域で『語り継ぐいいおか津波──被災者聞き取り調査記録集』や「復興かわら版」を発行してきたNPO光と風のみなさんに、現在の飯岡、聞き書き・発信活動について話をうかがいます。
現地訪問(Aプラン)・オンライン参加(Bプラン)のどちらかを選び、ふるってご参加ください。

【日時】2021年3月14日(日)
A)飯岡駅集合11:45~16:00
B)13:40~16:00
【場所】千葉県旭市飯岡地域(ワークショップ会場:飯岡刑部岬展望館)
【対象】オーラルヒストリーの作品化や災害・地域づくりに関心ある方
A)先着7名、B)オンライン参加最大90名
【参加費】会員・非会員とも、両プランともに無料。
【参加申込・問合せ】参加希望者は3/12までに申し込んでください。各プランの申込方法は:
A)JOHA研究活動委員・橋本(5522825[at]rikkyo.ac.jp →[at]を@に替えて送信)へ
①名前、②所属、③当日の緊急連絡先、④昼食参加希望の有無、をE-mailでお知らせください。
B)申込ページで自動受付します。①名前、②メールアドレス(当日使用するZoomアカウント)を登録すると、参加方法の案内があります。登録しないと当日は参加許可されません。
問い合わせ:前日までは橋本へ、当日は山本(eyamamoto_nufs[at]yahoo.co.jp)にお願いします。

《日程》
A:現地訪問 =11:45 JR飯岡駅集合→現地見学・写真撮影(1時間15分)→昼食休憩→13:40~16:00ワークショップに対面参加
B:オンライン参加 =13:40~16:00オンライン会議システムZoomによるミーティング参加

◎現地見学先:九十九里海岸に出て避難タワー、慰霊碑(飯岡ユートピアセンター内)、防災資料館、津波最高記録碑、タイムカプセル、仮設住宅(現物保存)、我らの波止、かさ上げ防潮堤/遡上防止水門、元禄津波記録(津波標識・浅間神社・波切不動)、飯岡小学校(当時の避難所)、玉崎神社(天の石笛、飯岡助五郎など石碑)、海津見神社、津波避難道(銚子海道の一部) →会場そばのレストラン海辺里。

◎ワークショップのプログラム:13:40 Zoomミーティング開始
・刑部岬展望館へ移動(散歩10分)
・開会、Aプラン参加者による現地歩き写真報告(15分)
・展示中の復興かわら版を閲覧(15分)
・語り部、聞き書き集の聞き手のお話(30分)
・双方向的実践交流会(質疑応答、実践事例紹介など積極的にご発言ください)

◎Aプラン参加者へ
・現地までの交通手段:JR東京駅から向かう場合、特急しおさい3号銚子行10:11発に乗車すると集合時間にちょうど到着します(片道3,340円)。
・現地での移動:NPO光と風の方が車を出してくださいます。
・会場で、NPO光と風の企画展示「いいおか津波10年の歩み」を開催中。
・昼食をご一緒する場合、予約しておくのでお知らせください。食事代は1500円です。
・体調を整えマスク着用・アルコール消毒等、新型コロナウィルス感染症防止にご協力願います。

《協力》NPO法人光と風キャンペーン実行委員会 NPO法人光と風(hikaritokaze.org
被災者聞き取り調査記録編集委員会『語り継ぐいいおか津波──被災者聞き取り調査記録集』*(2013年、改訂版、本体1429円+税)や「復興かわら版」の発行のほか、復興まちづくり、防災教室等の活動を展開中。
*『語り継ぐいいおか津波』は一般書店の取り扱いなし。当日購入可、またはNPOに問合せ。

《企画担当:研究活動委員会・橋本みゆき》

JOHA編集委員会主催実践ワークショップ「『良い論文』を書く」のご案内

JOHAでは、編集委員会の主催で論文執筆について学ぶワークショップをオンラインで開催します(全3回。zoom使用)。
未公刊の論⽂(たとえば、すでに投稿したが査読は通らなかったもの)を題材として提供していただき、参加者全員で検討します。提供者にはワークショップでの議論を踏まえて原稿を修正していただき、完成させたものを次号の『日本オーラル・ヒストリー研究』に原則掲載します。また、検討者として参加する方々には、他の人の書いた原稿を詳細に検討することで論⽂を批判する視点を⾝につけ、ご自身の論⽂に還元していただきたいと思います。

JOHA編集委員会主催実践ワークショップ「『良い論文』を書く」

【日時】
第1回 2020年11月8日(日) 13:00~16:00
(第2・3回は2020年12月、2021年2月を予定)

【定員】
会員限定。題材提供者2~3名/検討者7~8名。
-若手会員(大学院生・PD)を優先します。
-題材提供者には10月末に投稿できる程度に仕上がっている原稿を提出していただきます。未完成原稿は検討できません。

【申込み方法】
申込み期限:10月15日(金)
申込み・問い合わせ先:joha_journal[at]ml.rikkyo.ac.jp ※[at]を@に変えてください。

必要事項:①~④は申込み者全員(メール本文に記入)、⑤⑥は題材提供者のみ(添付ファイルで送付)です。

①氏名と所属(大学院生は学年も)
②参加希望枠(題材提供者/検討者)
③専攻(歴史学・社会学・人類学など)
④研究テーマ
⑤応募の動機・論文の概要(1000字程度)
⑥現段階での原稿

※詳細は添付ファイルをご覧ください。

日本オーラル・ヒストリー学会第18回大会(JOHA18)のご案内

日本オーラル・ヒストリー学会第18回大会(JOHA18)を下記の要領で開催いたします。
今大会は、新型コロナウィルスの感染拡大にともない、オンラインでの開催となります。当学会として初めてのオンライン開催の試みであり、至らない点も多々あるかと思いますが、ご理解をいただければ幸いです。
また、大会プレ企画として9月5日に開催される研究実践交流会「コロナ禍の「声」を記録する―オーラル・ヒストリーになにができるか―」にもふるってご参加ください。

日本オーラル・ヒストリー学会 第18回大会
Japan Oral History Association 18th Annual Conference

開催日:2020年9月13日(日)
開催方法:Zoomミーティング(要事前申し込み)
下記ミーティングアドレスから事前登録をお願いします。登録後、ミーティング参加に関する情報の確認メールが届きます。
https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZIpcu6oqjopHdGi9emS7to4kfuTE9utiUTu
別途、Zoomミーティングアドレスをお伝えします。また、総会などの確定情報についても、随時、会員メーリングリストならびにJOHAホームページで更新していきます。

参加費:無料

※大会に関してご不明な点がございましたら、下記までお問い合わせください。
問合せ先:joha18(at)ml.rikkyo.ac.jp

大会プログラム

9月13日(日)
10:20 開会

10:25〜12:00 自由報告部会1 報告要旨
第1分科会(環境・文化) 司会:李 洪章(神戸学院大学)
・有馬絵美子「多雪環境に生きた一住民の記憶−民俗学の視点から−」
・中澤英利子「継承語とともに生きる―ブラジル日系コミュニティの日本語教師の語りから」
・Jay Alabaster「『ザ・コーヴ』が与えた副次的な影響の語り」

12:00〜12:55 休憩

12:55〜14:30 自由報告部会2 報告要旨
第2分科会(戦争・歴史) 司会: 酒井朋子(神戸大学)
・山本真知子「弔いの場からはじめる――死者から託されたことばを契機とした記憶行為の試み――」
・江口千代、橋本清勇、大庭悠希、桜井厚「「軍港都市」がもたらした子どもの生活への影響~戦中・戦後を生き抜いた人々の語りから」
・吉本裕子「アイヌ古老のライフストーリー展示から「歴史化」へ」

14:30〜15:00 連絡コーナー(仮称)
15:00〜15:10 休憩
15:10〜15:50 総会

第1分科会(環境・文化)報告要旨

第1分科会(環境・文化)
司会: 李 洪章

・多雪環境に生きた一住民の記憶 −民俗学の視点から−
有馬絵美子(神奈川大学 歴史民俗資料学研究科博士前期課程)
長野県飯山市において、昭和元年生まれの女性より2008年~2009年に行った聞き書きをもとに、多雪環境下での人生をオーラルヒストリーを用いて検証する。
女性への聞き取りでは、雪の種類に応じて積雪を認識及び命名して生業に役立てていること、ライフステージの変化とともに雪への印象が変わっていったことが、回想と語りから伺えた。
「多雪環境」に生きた一住民の「雪」への認識とその変化や生き様を、オーラルヒストリーを用いて記録することで、人と自然との関係について記録を残す足がかりとしたい。

・継承語とともに生きる―ブラジル日系コミュニティの日本語教師の語りから
中澤英利子(横浜市立大学大学院 都市社会文化研究科博士後期課程)
ブラジル日系社会の日本語教育は、日本語を母語とする移民一世世代の教師により長く教育環境が保たれてきた。しかし、世代交代が進んだことでバイリンガルの教師が多く現れており、その生活経験やライフコースも多様になっている。本報告は、日系コミュニティの日本語学校の教師である日系三世の女性Lの語りから、日本語という継承語とともに生きる「日本語人生」を考察するものである。日本での就労経験を持つLは、ブラジルでも日本でも日本語を活用することで選択的に社会関係の移動を行ってきた。現在、多くの日系コミュニティでは日本語が生活言語として機能しなくなっているが、そのような状況のなかでコミュニティの日本語学校の日本語教師として生きる現実を考察する。また、ブラジルの日系人の日本語継承と日系コミュニティの維持という問題もあわせて検討する。

・『ザ・コーヴ』が与えた副次的な影響の語り
Jay Alabaster(アリゾナ州立大学博士課程)
2010年、ルイ・シホヨス氏が監督を務めた『ザ・コーヴ』(The Cove)が、第82回アカデミー賞を受賞すると、和歌山県にある人口約3千人の小さな漁師町の太地町は、捕鯨・反捕鯨という世界的論争に巻き込まれ、国内外のメディアで特集記事が組まれることとなった。
その記事の多くは、「イルカの追い込み漁は残酷である」といった環境保護および動物愛護の観点を主張する外国人活動家と、「イルカの追い込み漁は日本古来の伝統である」とする伝統・歴史的な観点を主張する漁師との論争を紹介するものである。
しかし、『ザ・コーヴ』の公開は、論争に直接的な関与をしていない人々の生活や信念までも変化させているが、今まで焦点が当てられることはなかった。そこで、今まで取り上げられることがなかった人々への影響を、彼らの経験の語りから紹介し、考察を行う。

第2分科会(戦争・歴史)報告要旨

第2分科会(戦争・歴史)
司会: 酒井朋子

・弔いの場からはじめる――死者から託されたことばを契機とした記憶行為の試み――
山本真知子(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士後期)
戦争体験者がいなくなった後の記憶の継承は、どのようになされうるのか。残された者たちは、何をどう記憶していくことが求められているのか。本報告は、体験者不在のなかでの記憶の継承という問題を考える一歩手前において、死者を弔うための場をつくろうと試みるものである。その方法として、沖縄県東村高江を取り囲むように計画された米軍ヘリパッドの新設・運用に対して座り込み抗議してきた、沖縄戦体験者の故・伊佐眞三郎さんから託された言葉を出発点に、彼の家族へのインタビューを重ねた。その過程を通して、彼の生の痕跡が浮かび上がってくるだけでなく、死者を弔う場が生み出されていくということに注目し、そこに内包された記憶行為の可能性を探る。

・「軍港都市」がもたらした子どもの生活への影響~戦中・戦後を生き抜いた人々の語りから(共同報告)
江口千代(広島国際大学)、橋本清勇(広島国際大学)、大庭悠希(西九州大学)、桜井厚(日本ライフストーリー研究所)
世界各国で原爆投下の街として知られる「Hiroshima」から20kmほど離れた「呉」は、その恵まれた地形により東洋一の「軍港都市」として発展し、戦艦大和を創出したことで知られている。当時は最大40万人もの人々が生活し、様々に恵まれていたと言い伝えられ、豊かな都市だったという伝承が残っている。しかし、その豊かさは何だったのか、言い伝えられている豊かさは子どもたちに何をもたらしていたのか、それらはまだ明確になっていない。そこで本研究は、「軍港都市」と呼ばれた「呉」を研究対象とし、戦中・戦後を通して今も居住し続ける人々の子ども時代の語りを紐解き、軍港都市がもたらした子どもの生活への影響を明らかにする。

・アイヌ古老のライフストーリー展示から「歴史化」へ
吉本裕子(横浜市立大学 客員研究員)
本報告では、今を生きるアイヌ古老のライフストーリーが地域博物館で展示されたことにより、古老の記憶が何度も語りなおされ「歴史化」してゆくプロセスを考察する。展示の題材になったライフストーリーは、聞き手(私=報告者)と語り手(古老)の双方向的な関係性の中から共同製作的に生み出されたものである。しかし、この展示実践では、古老が会期中、会場に常駐したことにより、多くの観覧者(複数の聞き手)との対話が実現し、「いま・ここ」での語りやコミュニケーションが繰り返された。これは企画想定外のことであり、古老の主体的な展示参加によるものである。本報告では、このような偶発的な対話から何が生成され、一個人のライフストーリーが民族の「近い過去の歴史」へと、いかに接続されたのかを検証する。

研究実践交流会 コロナ禍の「声」を記録する―オーラル・ヒストリーになにができるか―

2020年度大会に先立ち、プレ企画として、「研究実践交流会 コロナ禍の「声」を記録する―オーラル・ヒストリーになにができるか―」をオンラインで開催いたします。

2020年度 研究大会プレ企画 研究実践交流会
コロナ禍の「声」を記録する
―オーラル・ヒストリーになにができるか―

【概要】
日時:2020年9月5日(土) 13:00~16:30(開場 12:30)
場所:オンライン開催 (Zoom利用)
※要事前申し込み:下記ミーティングアドレスから事前登録をお願いします。
https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZYod-2vqT0rGtLF7XoMrHqoFEujqkBCY7HG

参加費:無料

【プログラム】
趣旨説明
発表(各20分)
1.小林多寿子・庄子諒 「コロナ禍のフィールドワーク ―福島県南相馬市における相馬野馬追調査に取り組む一橋大学社会学部小林ゼミナールの場合―」
2.安岡健一・松永健聖 「「緊急事態」の声を聞く―大阪大学文学部文化交流史演習の取り組み―」
3.野入直美  「アフターコロナに残したいこと-琉球大学学生プロジェクトチームによるweb公開の試み」
コメント 菊池信彦
質疑応答・事例紹介
グループディスカッション (グループは主催者が割り振ります)
まとめの討論

【趣旨】
2020年、新型コロナウイルス感染症が世界を覆っている。犠牲者は50万人を超えてなお感染は拡大しており、危機の収束は見通せていない。日本社会もまた2月末の一斉休校措置にはじまり、4月初頭から5月末に至る全国的な緊急事態宣言という未曽有の経験を経て、いまも歴史的変動のただなかにある。予断を許さない現状は、対話や集会という営みを、恐れを伴うものに変えてしまった。
こうした状況において、オーラル・ヒストリーに何ができるだろうか。一つの応答として、この非日常的な日常を生きる人びとの声を少しでも集め記録することがある。すでに感染の爆発的拡大の直後から、応急的な反応の記録(Rapid Response Collecting)として、オーラル・ヒストリーを含む資料収集が呼びかけられ、世界各地の大学・公共図書館・博物館など多様な機関が聞き取りに取り組みはじめている。日本国内でもいくつかの博物館やデジタルアーカイブ関係者が資料収集を呼びかけている。
ただちに症状がでない感染症の流行は、教育・研究の場からフィールドワークの機会を奪っている。しかし、こうした状況であっても、可能な聞き取りもあるだろうし、この間に普及した遠隔コミュニケーションのツールを活用する方法などもあるのではないだろうか。
今回の研究実践交流会では、大学の授業として取り組んだ、コロナ禍の「声」を記録する実践を報告する。まず小林・庄子両氏には、現在困難を極める実地フィールドワークの現在について福島県南相馬市を事例に報告をいただく。次に、安岡・松永両氏が4月から取り組んだオーラル・ヒストリーの実習授業を素材に、目的・アウトライン・結果について報告する。最後に、野入氏に受講生たちが自主的に取り組んだコロナ禍の生活記録公開プロジェクトについて報告していただく。これらの報告に対して関西大学でコロナアーカイブに取りくむ菊池氏よりアーキビストの立場からコメントをいただく。この3つの報告およびコメントを通じ、このような状況でも/だからこそできることがあることを共有したい。
さらに、今後私たちが連携することをつうじて、各地の声を収集し紐づけることが出来れば、まとまった量の声を後世に残すこともできるはずである。1910年代のインフルエンザの流行をはじめ感染爆発の歴史が真剣に参照されている現状を見ても、いまを生きる自分たちが現代と後世のために果たしうる役割は小さくない。
当日は、質疑とグループ・ディスカッション、各地における実践例の交換などをつうじて今後の連携につなげて、学問の社会的意義を展望することを目指したい。

主催:日本オーラル・ヒストリー学会
問合せ先:joha18[at]ml.rikkyo.ac.jp
※ [at] を @ に差し替えてください。