第1分科会(環境・文化)報告要旨

第1分科会(環境・文化)
司会: 李 洪章

・多雪環境に生きた一住民の記憶 −民俗学の視点から−
有馬絵美子(神奈川大学 歴史民俗資料学研究科博士前期課程)
長野県飯山市において、昭和元年生まれの女性より2008年~2009年に行った聞き書きをもとに、多雪環境下での人生をオーラルヒストリーを用いて検証する。
女性への聞き取りでは、雪の種類に応じて積雪を認識及び命名して生業に役立てていること、ライフステージの変化とともに雪への印象が変わっていったことが、回想と語りから伺えた。
「多雪環境」に生きた一住民の「雪」への認識とその変化や生き様を、オーラルヒストリーを用いて記録することで、人と自然との関係について記録を残す足がかりとしたい。

・継承語とともに生きる―ブラジル日系コミュニティの日本語教師の語りから
中澤英利子(横浜市立大学大学院 都市社会文化研究科博士後期課程)
ブラジル日系社会の日本語教育は、日本語を母語とする移民一世世代の教師により長く教育環境が保たれてきた。しかし、世代交代が進んだことでバイリンガルの教師が多く現れており、その生活経験やライフコースも多様になっている。本報告は、日系コミュニティの日本語学校の教師である日系三世の女性Lの語りから、日本語という継承語とともに生きる「日本語人生」を考察するものである。日本での就労経験を持つLは、ブラジルでも日本でも日本語を活用することで選択的に社会関係の移動を行ってきた。現在、多くの日系コミュニティでは日本語が生活言語として機能しなくなっているが、そのような状況のなかでコミュニティの日本語学校の日本語教師として生きる現実を考察する。また、ブラジルの日系人の日本語継承と日系コミュニティの維持という問題もあわせて検討する。

・『ザ・コーヴ』が与えた副次的な影響の語り
Jay Alabaster(アリゾナ州立大学博士課程)
2010年、ルイ・シホヨス氏が監督を務めた『ザ・コーヴ』(The Cove)が、第82回アカデミー賞を受賞すると、和歌山県にある人口約3千人の小さな漁師町の太地町は、捕鯨・反捕鯨という世界的論争に巻き込まれ、国内外のメディアで特集記事が組まれることとなった。
その記事の多くは、「イルカの追い込み漁は残酷である」といった環境保護および動物愛護の観点を主張する外国人活動家と、「イルカの追い込み漁は日本古来の伝統である」とする伝統・歴史的な観点を主張する漁師との論争を紹介するものである。
しかし、『ザ・コーヴ』の公開は、論争に直接的な関与をしていない人々の生活や信念までも変化させているが、今まで焦点が当てられることはなかった。そこで、今まで取り上げられることがなかった人々への影響を、彼らの経験の語りから紹介し、考察を行う。