第1分科会(環境・文化)報告要旨

第1分科会(環境・文化)
司会: 李 洪章

・多雪環境に生きた一住民の記憶 −民俗学の視点から−
有馬絵美子(神奈川大学 歴史民俗資料学研究科博士前期課程)
長野県飯山市において、昭和元年生まれの女性より2008年~2009年に行った聞き書きをもとに、多雪環境下での人生をオーラルヒストリーを用いて検証する。
女性への聞き取りでは、雪の種類に応じて積雪を認識及び命名して生業に役立てていること、ライフステージの変化とともに雪への印象が変わっていったことが、回想と語りから伺えた。
「多雪環境」に生きた一住民の「雪」への認識とその変化や生き様を、オーラルヒストリーを用いて記録することで、人と自然との関係について記録を残す足がかりとしたい。

・継承語とともに生きる―ブラジル日系コミュニティの日本語教師の語りから
中澤英利子(横浜市立大学大学院 都市社会文化研究科博士後期課程)
ブラジル日系社会の日本語教育は、日本語を母語とする移民一世世代の教師により長く教育環境が保たれてきた。しかし、世代交代が進んだことでバイリンガルの教師が多く現れており、その生活経験やライフコースも多様になっている。本報告は、日系コミュニティの日本語学校の教師である日系三世の女性Lの語りから、日本語という継承語とともに生きる「日本語人生」を考察するものである。日本での就労経験を持つLは、ブラジルでも日本でも日本語を活用することで選択的に社会関係の移動を行ってきた。現在、多くの日系コミュニティでは日本語が生活言語として機能しなくなっているが、そのような状況のなかでコミュニティの日本語学校の日本語教師として生きる現実を考察する。また、ブラジルの日系人の日本語継承と日系コミュニティの維持という問題もあわせて検討する。

・『ザ・コーヴ』が与えた副次的な影響の語り
Jay Alabaster(アリゾナ州立大学博士課程)
2010年、ルイ・シホヨス氏が監督を務めた『ザ・コーヴ』(The Cove)が、第82回アカデミー賞を受賞すると、和歌山県にある人口約3千人の小さな漁師町の太地町は、捕鯨・反捕鯨という世界的論争に巻き込まれ、国内外のメディアで特集記事が組まれることとなった。
その記事の多くは、「イルカの追い込み漁は残酷である」といった環境保護および動物愛護の観点を主張する外国人活動家と、「イルカの追い込み漁は日本古来の伝統である」とする伝統・歴史的な観点を主張する漁師との論争を紹介するものである。
しかし、『ザ・コーヴ』の公開は、論争に直接的な関与をしていない人々の生活や信念までも変化させているが、今まで焦点が当てられることはなかった。そこで、今まで取り上げられることがなかった人々への影響を、彼らの経験の語りから紹介し、考察を行う。

第2分科会(戦争・歴史)報告要旨

第2分科会(戦争・歴史)
司会: 酒井朋子

・弔いの場からはじめる――死者から託されたことばを契機とした記憶行為の試み――
山本真知子(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士後期)
戦争体験者がいなくなった後の記憶の継承は、どのようになされうるのか。残された者たちは、何をどう記憶していくことが求められているのか。本報告は、体験者不在のなかでの記憶の継承という問題を考える一歩手前において、死者を弔うための場をつくろうと試みるものである。その方法として、沖縄県東村高江を取り囲むように計画された米軍ヘリパッドの新設・運用に対して座り込み抗議してきた、沖縄戦体験者の故・伊佐眞三郎さんから託された言葉を出発点に、彼の家族へのインタビューを重ねた。その過程を通して、彼の生の痕跡が浮かび上がってくるだけでなく、死者を弔う場が生み出されていくということに注目し、そこに内包された記憶行為の可能性を探る。

・「軍港都市」がもたらした子どもの生活への影響~戦中・戦後を生き抜いた人々の語りから(共同報告)
江口千代(広島国際大学)、橋本清勇(広島国際大学)、大庭悠希(西九州大学)、桜井厚(日本ライフストーリー研究所)
世界各国で原爆投下の街として知られる「Hiroshima」から20kmほど離れた「呉」は、その恵まれた地形により東洋一の「軍港都市」として発展し、戦艦大和を創出したことで知られている。当時は最大40万人もの人々が生活し、様々に恵まれていたと言い伝えられ、豊かな都市だったという伝承が残っている。しかし、その豊かさは何だったのか、言い伝えられている豊かさは子どもたちに何をもたらしていたのか、それらはまだ明確になっていない。そこで本研究は、「軍港都市」と呼ばれた「呉」を研究対象とし、戦中・戦後を通して今も居住し続ける人々の子ども時代の語りを紐解き、軍港都市がもたらした子どもの生活への影響を明らかにする。

・アイヌ古老のライフストーリー展示から「歴史化」へ
吉本裕子(横浜市立大学 客員研究員)
本報告では、今を生きるアイヌ古老のライフストーリーが地域博物館で展示されたことにより、古老の記憶が何度も語りなおされ「歴史化」してゆくプロセスを考察する。展示の題材になったライフストーリーは、聞き手(私=報告者)と語り手(古老)の双方向的な関係性の中から共同製作的に生み出されたものである。しかし、この展示実践では、古老が会期中、会場に常駐したことにより、多くの観覧者(複数の聞き手)との対話が実現し、「いま・ここ」での語りやコミュニケーションが繰り返された。これは企画想定外のことであり、古老の主体的な展示参加によるものである。本報告では、このような偶発的な対話から何が生成され、一個人のライフストーリーが民族の「近い過去の歴史」へと、いかに接続されたのかを検証する。

研究実践交流会 コロナ禍の「声」を記録する―オーラル・ヒストリーになにができるか―

2020年度大会に先立ち、プレ企画として、「研究実践交流会 コロナ禍の「声」を記録する―オーラル・ヒストリーになにができるか―」をオンラインで開催いたします。

2020年度 研究大会プレ企画 研究実践交流会
コロナ禍の「声」を記録する
―オーラル・ヒストリーになにができるか―

【概要】
日時:2020年9月5日(土) 13:00~16:30(開場 12:30)
場所:オンライン開催 (Zoom利用)
※要事前申し込み:下記ミーティングアドレスから事前登録をお願いします。
https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZYod-2vqT0rGtLF7XoMrHqoFEujqkBCY7HG

参加費:無料

【プログラム】
趣旨説明
発表(各20分)
1.小林多寿子・庄子諒 「コロナ禍のフィールドワーク ―福島県南相馬市における相馬野馬追調査に取り組む一橋大学社会学部小林ゼミナールの場合―」
2.安岡健一・松永健聖 「「緊急事態」の声を聞く―大阪大学文学部文化交流史演習の取り組み―」
3.野入直美  「アフターコロナに残したいこと-琉球大学学生プロジェクトチームによるweb公開の試み」
コメント 菊池信彦
質疑応答・事例紹介
グループディスカッション (グループは主催者が割り振ります)
まとめの討論

【趣旨】
2020年、新型コロナウイルス感染症が世界を覆っている。犠牲者は50万人を超えてなお感染は拡大しており、危機の収束は見通せていない。日本社会もまた2月末の一斉休校措置にはじまり、4月初頭から5月末に至る全国的な緊急事態宣言という未曽有の経験を経て、いまも歴史的変動のただなかにある。予断を許さない現状は、対話や集会という営みを、恐れを伴うものに変えてしまった。
こうした状況において、オーラル・ヒストリーに何ができるだろうか。一つの応答として、この非日常的な日常を生きる人びとの声を少しでも集め記録することがある。すでに感染の爆発的拡大の直後から、応急的な反応の記録(Rapid Response Collecting)として、オーラル・ヒストリーを含む資料収集が呼びかけられ、世界各地の大学・公共図書館・博物館など多様な機関が聞き取りに取り組みはじめている。日本国内でもいくつかの博物館やデジタルアーカイブ関係者が資料収集を呼びかけている。
ただちに症状がでない感染症の流行は、教育・研究の場からフィールドワークの機会を奪っている。しかし、こうした状況であっても、可能な聞き取りもあるだろうし、この間に普及した遠隔コミュニケーションのツールを活用する方法などもあるのではないだろうか。
今回の研究実践交流会では、大学の授業として取り組んだ、コロナ禍の「声」を記録する実践を報告する。まず小林・庄子両氏には、現在困難を極める実地フィールドワークの現在について福島県南相馬市を事例に報告をいただく。次に、安岡・松永両氏が4月から取り組んだオーラル・ヒストリーの実習授業を素材に、目的・アウトライン・結果について報告する。最後に、野入氏に受講生たちが自主的に取り組んだコロナ禍の生活記録公開プロジェクトについて報告していただく。これらの報告に対して関西大学でコロナアーカイブに取りくむ菊池氏よりアーキビストの立場からコメントをいただく。この3つの報告およびコメントを通じ、このような状況でも/だからこそできることがあることを共有したい。
さらに、今後私たちが連携することをつうじて、各地の声を収集し紐づけることが出来れば、まとまった量の声を後世に残すこともできるはずである。1910年代のインフルエンザの流行をはじめ感染爆発の歴史が真剣に参照されている現状を見ても、いまを生きる自分たちが現代と後世のために果たしうる役割は小さくない。
当日は、質疑とグループ・ディスカッション、各地における実践例の交換などをつうじて今後の連携につなげて、学問の社会的意義を展望することを目指したい。

主催:日本オーラル・ヒストリー学会
問合せ先:joha18[at]ml.rikkyo.ac.jp
※ [at] を @ に差し替えてください。

JOHA第18回大会 開催日程・形態の変更について

新型コロナウイルス感染拡大による影響について今後の見通しが立たないことを受け、9月12日・13日に立命館大学での開催を予定していたJOHA第18回大会開催の可否を理事会で慎重に協議した結果、日程を9月13日の1日のみとし、開催形態をオンラインとすることを決定いたしましたことをご報告申し上げます。
大会プログラムや参加方法などについての詳細は、確定次第、会員メーリングリストならびにホームページでご連絡いたします。
末尾になりましたが、みなさまのご健康をお祈り申し上げます。

JOHA会長 赤嶺淳
大会開催校理事 佐藤量
研究活動委員長 橋本みゆき

シンポジウムの企画と延期のお知らせ

日本オーラル・ヒストリー学会では、数カ月前から6月13日(土)に戦争体験の「二次証言」の可能性をめぐるシンポジウムを開催するべく、準備を積み上げておりました(企画の詳細については案内用のチラシをご確認ください)。
しかしながら、ご承知のように、新型コロナウィルス感染の拡大のため、シンポジウムを予定通り開催することは困難となりました。そこで本会の理事会で慎重に協議を重ねた結果、誠に残念ながら、シンポジウムの開催を延期することにいたしました。いつ開催するのかという点については未定ですが、詳細が確定次第あらためてお知らせいたします。どうか今後とも本会の活動にあらためてご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。

シンポジウム案内用チラシ

 

JOHA18(第18回学会大会) 自由報告エントリー募集

JOHA第18回大会を以下のように開催いたします。つきましては自由報告(個人報告/共同報告/テーマセッション)の報告者を募集します。

現在のところJOHA第18回大会は、9月12日・13日に立命館大学衣笠キャンパスでの開催を予定していますが、新型コロナウィルス感染拡大の今後の状況をふまえ、中止の可能性もあります。
当初の予定通り開催するか、あるいは中止するかについては、決定次第すみやかにウェブサイトで発表するとともに、会員のみなさまにはメーリングリストでもご案内いたします。
また、仮に中止となった場合は、報告申込をされた方々の研究発表の機会をどのような形で提供するかもあわせて検討中です。
大会開催について理事会内で協議していたため、報告募集の開始が例年よりも遅れてしまったこと、お詫び申し上げます。

なお、大会時託児サービスも昨年同様に実施する予定です。詳細は、大会プログラムが確定する7月頃にあらためてお知らせしますので、あわせてご利用ください。

 

第18回日本オーラル・ヒストリー学会大会
日時:2020年9月12日(土)~13日(日)
12日(土)午後:自由報告
13日(日)午前:自由報告、午後:総会・シンポジウム

会場:立命館大学 衣笠キャンパス
〒603-8577 京都市北区等持院北町56-1

〇個人報告および共同報告は、報告20分・質疑応答10分(合計30分)で構成されます。
〇テーマセッションは、150分間(上限)の時間枠で設定されます。各報告時間は個人発表に準じて1人20分を目安とし、セッション全体の時間配分・報告者人数・報告順・コメンテーターはコーディネーターが調整してください。

報告を希望する会員は、以下の応募要項に沿ってお申し込みください。
申込用紙ファイルはこちら→個人報告/共同報告テーマセッション

【応募要項】
◆申し込み資格
申込時点でJOHAの会員であること、および2020年度会費納入済みであることです。
(会費納入のお知らせ、振り込み用紙は4月中に郵送いたします)

◆申し込み手続き
1.申込用紙に必要事項を記入し、メール添付で下記2アドレスにお送りください。
JOHA事務局・矢吹康夫(joha.secretariat[at]ml.rikkyo.ac.jp)
研究活動委員会委員長・橋本みゆき(5522825[at]rikkyo.ac.jp)
必ず両方宛にお送りください。折り返し、事務局より受付の返信をします。返信がない場合は、ご面倒でもお問い合わせください。
※迷惑メール防止のため[at]としております。実際のメールは[at]の部分は@を入力ください。

2.メールで連絡できない方は、申込用紙をJOHA事務局へ郵送してください。受領連絡が必要な場合は返信用ハガキを同封してください。

〒171-8501
東京都豊島区西池袋3-34-1
立教大学社会学部矢吹康夫宛
日本オーラル・ヒストリー学会事務局

◆申込締め切り
6月1日(月)(必着)

◆問い合わせ先:日本オーラル・ヒストリー学会事務局(上記参照)
JOHA事務局・矢吹康夫 (joha.secretariat[at]ml.rikkyo.ac.jp)

オーラルヒストリー実践ワークショップ 開催延期のお知らせ

3月26日(木)に開催を予定していた「オーラルヒストリー実践ワークショップ「現地と作品を結ぶ」3 『語り継ぐいいおか津波』の現場を歩く」は、新型コロナウィルス感染症が拡大する現況に鑑み、今回は見合わせとしました。参加を予定・検討されていた皆様にはたいへん申し訳ありません。ご理解、ご了承のほどよろしくお願いいたします。

今後の開催につきましては、状況が収まった後を見込んで再検討し、改めてご案内いたします。

オーラルヒストリー実践ワークショップ「現地と作品を結ぶ」3 『語り継ぐいいおか津波』の現場を歩く

美しい九十九里浜を臨むまちで標記ワークショップを開催します。

『語り継ぐいいおか津波──被災者聞き取り調査記録集』や「復興かわら版」を発行してきた地元NPOに協力いただいて、東日本大震災9年後の津波被害地域を歩くとともに、地道に続けておられる聞き書き・発信活動について話をうかがいます。ふるってご参加ください。

チラシ

【日時】2020年3月26日(木) 現地集合12時半~現地解散17時過ぎ

【場所】千葉県旭市飯岡地域

【対象】オーラルヒストリーの作品化や災害、地域づくりに関心ある方(先着20名)

【参加費】JOHA会員500円(学生他も同額)、非会員1000円。このほか昼食代1500円をご用意ください。

【参加申込・お問合せ】参加を希望される方は3/19までにE-mailでJOHA研究活動委員会・能川(ysnogawa[at]staff.kanazawa-u.ac.jp)へ、①お名前、②当日の緊急連絡先、をお知らせください。
※ [at]を@にして送信してください。

《スケジュール》
12:30   現地集合 [カントリ-ハウス海辺里]
*高速バス利用者は「飯岡」下車後、NPOの方の車で移動。
昼食、開会・自己紹介など
13:30~16:00 セッション「津波を語る、語りを聴きとる」 [飯岡刑部岬展望館]
①震災をテーマとする語り部・交流会
②聞き書き・かわら版発行・『語り継ぐいいおか津波』について実践交流
16:00~17:00 旭市防災資料館・仮設住宅の見学 [車に分乗]
17時過ぎ 閉会、バス停へ移動

◎受入れ:NPO光と風キャンペーン実行委員会
被災者聞き取り調査記録編集委員会『語り継ぐいいおか津波──被災者聞き取り調査記録集』(2013年、改訂版、1492円)*や「復興かわら版」の発行、復興まちづくり、防災教室等の活動を展開。
*同書は一般書店での取り扱いなし。購入希望あればNPOに問合せ、また当日直接購入も可。

《交通手段》
◎現地まで
‐「東京駅八重洲口前」10:30発(または「浜松町」10:10発など)の京成バスに乗車し「飯岡」下車。バス運賃は降車時に支払い(片道2400円)。
京成バス時刻表
‐または他の交通手段で各自集合場所(カントリ-ハウス海辺里)へ。
*公共交通機関(路線バス等)の本数は僅少。JR「旭」駅から集合場所まで約8㎞。

◎現地での移動:NPOの方々が車を出してくださいます。

◎帰路:1時間に1本程度高速バスの便あり。
*17時解散なら直近で「飯岡」17:34発、最終21:58。

【主催】日本オーラル・ヒストリー学会

日本オーラル・ヒストリー学会第17回大会(JOHA17)のご案内

日本オーラル・ヒストリー学会第17回大会(JOHA17)が2019年9月7日(土)、8日(日)の2日間にわたり横浜市立大学において開催されます。お誘い合わせのうえ、ふるってご参加ください。
報告要旨などの詳細は、順次アップロードしていきますので、いましばらくお待ちください。

日本オーラル・ヒストリー学会 第17回大会
Japan Oral History Association 17th Annual Conference

開 催 日:2019年9月7日(土)、8日(日)
開 催 場 所:横浜市立大学金沢八景キャンパス(〒236-0027  横浜市金沢区瀬戸22-2)
・会場は、キャンパス内YCUスクエア(報告、シンポジウム等)といちょうの館(懇親会)で行われます
交通アクセス:京浜急行線「金沢八景駅」下車徒歩5分、シーサイドライン「金沢八景駅」下車徒歩7分
交通アクセスとキャンパスマップ
大会参加費:会員 1,000円、非会員 一般:2,000円、学生他:1,000円
懇 親 会 費:一般 4,000円、学生他 2,000円
大会時託児サービスを実施します。詳細は こちら をご確認ください。

大会に関してご不明な点がございましたら、JOHA 事務局までお問い合わせください。
E-mail: joha.secretariat(at)ml.rikkyo.ac.jp
※ [at]を@に差し替えて送信してください。

大会プログラム

大会プレ企画 9月6日(金)
中村高寛監督、陳天璽さんと一緒にヨコハマの歴史を歩く、味わう、語る
詳しくは こちら
9月3日追記 大会プレ企画は、定員に達しましたので、申込受付は終了しました。

第1日目 9月7日(土)
10:00 受付開始 @ピオニーホール(YCUスクエア1階)前ロビー

10:30〜13:00 映画『禅と骨』(中村高寛監督、2017年)上映会 @ピオニーホール

【監督紹介】
中村高寛さんは、1975年横浜生まれ。松竹大船撮影所でキャリアをスタートさせた後、北京電影学院でドキュメンタリー映画の手法を学ぶ。帰国後、中国人ドキュメンタリー映画監督李纓氏の撮影助手を務める。『ヨコハマメリー』が監督第1作。今回上映の『禅と骨』は第2作目。DVD化されていない作品のため、実践交流会で話題を提供していただく前に上映することにした。

【作品解説】
1918年に横浜でアメリカ人実業家の父と新橋芸者の母の間に生まれたヘンリー・ミトワの93年の人生をその複雑さ、滑稽さ、胡散臭さ、愛おしさを包み隠さずに作品にした。1923年に横浜で関東大震災を経験し、1940年には単身渡米。日米開戦後すぐに自ら志願して日系人強制収容所で過ごす。アメリカ国籍を放棄するが、帰還船に乗ることを拒否しアメリカに留まる。戦後はロサンゼルスで順風満帆な生活を築いていたが、突然1961年日本に帰国。京都嵐山天龍寺で禅僧になり、古都の文化人や財界人に囲まれて悠々自適の晩年を過ごすとおもいきや、80歳を目前に突如「赤い靴」の映画を作りたいと中村監督を彼の夢に巻き込むことになる。
この作品は、ヘンリー・ミトワの人生を観客に伝えるために、ドキュメンタリー+ドラマ+アニメ+時代背景や制作過程を解説したパンフレットというジャンルを縦横無尽に駆け巡る手法をとった。縦軸には横浜の近現代史の流れと日米関係、とりわけ第二次世界大戦の日系アメリカ人強制収容所体験が暗い影を差す。横軸には家族や友人との関係が彼の人物像を際立たせるように配置されている。一人の人生を歴史軸に据え、かつ、人間関係の網目の中に位置付けることは、オーラルヒストリーの正統的な手法である。本作品は、全部で9つの章に分かれている。

13:00 – 15:30 自由報告部会
第1分科会(戦争)@YCUスクエア4階401 報告要旨
・竹原 信也「移動する女性の体験が意味すること~済南の日本人居留地、満州・錦州での生活経験と八路軍従軍看護婦経験を有する女性のライフ・ヒストリー~」
・四條 知恵「ろう者の原爆の語り」
・那波 泰輔「1980年代のわだつみ会における加害者性との向き合い——1988年の規約改正に着目して」
・福田 真郷「沖縄県の在日米軍基地における「黙認耕作」」

第2分科会(仕事)@YCUスクエア4階403 報告要旨
・中原 逸郎「芸の発信−京都上七軒北野をどりの創成を中心に−」
・三浦 優子「海外駐在員女性配偶者の生活の中の両義性―語りからの考察」
・島田 有紗「高齢者労働力化と就労当事者の経験――高齢自営漁師たちの出漁実践と語りを事例に」
・八鍬 加容子「語り始めた「ホームレス」の人々―『ビッグイシュー日本版』「今月の人」誌面分析から」

16:00〜18:00 研究実践交流会(開催校企画)@ピオニーホール
作品化の手法:伝えること、伝わること、共有すること
【司会】滝田祥子
【発題者】中村高寛 「横浜をめぐる近現代史の聞き取りのドキュメンタリー映画化をめぐっての模索:『ヨコハマメリー』『禅と骨』そしてその先へ」
【趣旨】
研究実践交流会の目的は、オーラルヒストリーの実践をめぐり大会参加者同士が自分自身の研究実践の内容を共有し、今後の研究を続けていく上で有用な気づきを得やすい場をつくることにある。
JOHA2019年春季シンポジウム『ビジュアルオーラルヒストリーの可能性と現在』と実践ワークショップ『作品と現地をつなぐ』の流れを受けて、今回は<作品化>の局面に焦点をあて、聞き取りやオーラルヒストリーインタビューを作品化するときに、1)伝えていくための工夫はどのようにしているのか、2)作品化したあとに実際に伝わったのは何か手応えはあるのか、3)過去の記憶を共有することの難しさと可能性とはなにか、の3つの問いについて議論していきたいと考えている。
まず、前半は中村高寛監督をおむかえし、対話形式でこれまでの作品化のプロセスで苦労した点、工夫した点、成功した点、失敗した点、これからチャレンジしようと思っている企画などについてお話を伺う。実際の映像のダイジェストを見せていただきながら、膨大なビジュアルデータや収集した情報をどのようにして選択し作品に落とし込んでいくのか、など監督自身のドキュメンタリーの手法を明らかにしていく。前作『ヨコハマメリー』が、自分自身を語らぬメリーさんをめぐる様々な人の記憶から伊勢佐木町という<現地>の一つの時代を描いたのに対して、2作目の『禅と骨』では、メリーさんに負けず劣らずユニークな人物を目の前にしてその人の人一倍複雑な人生を理解することをその人自身の語りを主軸に描いている。前者は撮れてしまった映画で、後者は監督が確信的に撮った映画だと言われたこともあるようだが、その違いはどのようにして生まれ、そのことは監督自身の作品化をめぐる手応えにどのような影響を与えているのだろうか。
後半は、ワークショップ形式で、参加者の方々の作品化(論文、本、映像、など)実践を共有し、先に挙げた3つの問いについて考えを深めていきたいと企画している。最後に全体で共有し、中村監督からコメントをいただくことにする。

18:30〜20:30 懇親会 @いちょうの館

9月8日(日)
9:00 受付開始 @ピオニーホール(YCUスクエア1階)前ロビー

9:30〜12:00 自由報告部会
第3分科会(移民)@YCUスクエア4階401 報告要旨
・孫夢「「留学(さ)せざるを得ない」-当事者のライフストーリーから中国の教育現実を解明する」
・山崎 哲「「あなたの名」を知らぬ者は生活史をどう語るか -ある中国帰国者3世への聞き取り事例から-」
・竹田 響「在日コリアンの国境を越えた親族の繋がり―朝鮮半島の南北に離散して暮らす親族との「再会」に着目して―」
・仙波 梨英子「在日フィリピン人の第二世代のオーラルヒストリー:アートを通じた表現活動から考察する」

第4分科会(メディア)@YCUスクエア4階403 報告要旨
・林 貴哉「在外ベトナム人コミュニティにおける声の発信:米国のベトナム語メディア関係者の語りから」
・澁谷 由紀「ベトナム戦争期のジャーナリスト/諜報員の語りと現在:『ファム・スアン・アン―名前のとおりに生きた男』とその関連書籍をめぐって」
・石井 育子「ラジオドラマ史にみる脚本制作の変遷についての1考察」
・西村秀樹・小黒純「社会派TVドキュメンタリーの成立過程の研究、戦争の加害と被害をめぐる『記憶の澱』の研究」

12:05〜13:00 総会 @ピオニーホール

13:00〜14:00 特別イベント @ピオニーホール
科研費改革の背景と動向 (田中雅一JOHA研究活動委員会委員長)

14:00〜17:30  シンポジウム @ピオニーホール
〈見えないもの〉のオーラル・ヒストリー
【司会】田中雅一(国際ファッション専門職大学)、橋本みゆき(立教大学)
【趣旨】
幻覚や幻聴、夢、心霊現象、超常現象といった目に見えないものは、しばしば当事者たちの生に大きな影響を与える。たとえば、災害や戦争で亡くなった者が夢に現れ、遺言を残したり、自らの進むべき道に何か示唆を与えていたり、過去の夢が「虫の知らせ」であり予言・予知であったと認識していたりする。しかし、いかにそれが当事者たちにとってリアリティのあるものとして存在していても、目に見えないものは虚構であるかのように受け止められることも多い。
このシンポジウムは〈見えないもの〉のオーラル・ヒストリーに関連する研究に取り組む人々をパネリストとして招き、その意義や方法について議論する。私たちは〈見えないもの〉に対してどのようにアプローチし表現することができるのか。そして〈見えないもの〉に着目することで〈見える〉ようになるものとは何なのか。
〈見えないもの〉はオーラル・ヒストリーの実践にも深く関わる。インタビューにおいて、相手が自分の経験した幻覚や超常現象を話すとき、私たちは戸惑ったり疑ったりするかもしれない。一方、彼・彼女らが家族や仕事について話をしてもそれを疑うことはほとんどないだろう。だが、その対象者が過去に体験したいずれも、私たちにとっては〈見えないもの〉でもある。〈見えないもの〉のオーラル・ヒストリーを考えることは、フィクションとノンフィクション—虚構と現実—の境界を問い直すことにもつながることになるだろう。 (文責 研究活動委員会・根本雅也)
【報告】
・金菱清(東北学院大学)幽霊と夢のナラタージュ―東日本大震災の〈いまはむかし〉
・北村毅(大阪大学)平和学習とシャーマニズムの接点―あるガマにおける日本兵の「亡霊」をめぐって
・根本雅也(日本学術振興会)幻覚の口述史―ある被爆者の憎しみと赦しの物語り
【コメント】有薗真代(龍谷大学)、村上陽子(沖縄国際大学)