第2分科会(戦争・歴史)報告要旨

第2分科会(戦争・歴史)
司会: 酒井朋子

・弔いの場からはじめる――死者から託されたことばを契機とした記憶行為の試み――
山本真知子(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士後期)
戦争体験者がいなくなった後の記憶の継承は、どのようになされうるのか。残された者たちは、何をどう記憶していくことが求められているのか。本報告は、体験者不在のなかでの記憶の継承という問題を考える一歩手前において、死者を弔うための場をつくろうと試みるものである。その方法として、沖縄県東村高江を取り囲むように計画された米軍ヘリパッドの新設・運用に対して座り込み抗議してきた、沖縄戦体験者の故・伊佐眞三郎さんから託された言葉を出発点に、彼の家族へのインタビューを重ねた。その過程を通して、彼の生の痕跡が浮かび上がってくるだけでなく、死者を弔う場が生み出されていくということに注目し、そこに内包された記憶行為の可能性を探る。

・「軍港都市」がもたらした子どもの生活への影響~戦中・戦後を生き抜いた人々の語りから(共同報告)
江口千代(広島国際大学)、橋本清勇(広島国際大学)、大庭悠希(西九州大学)、桜井厚(日本ライフストーリー研究所)
世界各国で原爆投下の街として知られる「Hiroshima」から20kmほど離れた「呉」は、その恵まれた地形により東洋一の「軍港都市」として発展し、戦艦大和を創出したことで知られている。当時は最大40万人もの人々が生活し、様々に恵まれていたと言い伝えられ、豊かな都市だったという伝承が残っている。しかし、その豊かさは何だったのか、言い伝えられている豊かさは子どもたちに何をもたらしていたのか、それらはまだ明確になっていない。そこで本研究は、「軍港都市」と呼ばれた「呉」を研究対象とし、戦中・戦後を通して今も居住し続ける人々の子ども時代の語りを紐解き、軍港都市がもたらした子どもの生活への影響を明らかにする。

・アイヌ古老のライフストーリー展示から「歴史化」へ
吉本裕子(横浜市立大学 客員研究員)
本報告では、今を生きるアイヌ古老のライフストーリーが地域博物館で展示されたことにより、古老の記憶が何度も語りなおされ「歴史化」してゆくプロセスを考察する。展示の題材になったライフストーリーは、聞き手(私=報告者)と語り手(古老)の双方向的な関係性の中から共同製作的に生み出されたものである。しかし、この展示実践では、古老が会期中、会場に常駐したことにより、多くの観覧者(複数の聞き手)との対話が実現し、「いま・ここ」での語りやコミュニケーションが繰り返された。これは企画想定外のことであり、古老の主体的な展示参加によるものである。本報告では、このような偶発的な対話から何が生成され、一個人のライフストーリーが民族の「近い過去の歴史」へと、いかに接続されたのかを検証する。