JOHAニュースレター21_1

日本オーラル・ヒストリー学会第9回大会盛況のうちに閉幕

 日本オーラル・ヒストリー学会第9回大会は、9月10日(土)、11日(日)の両日にわたって松山大学(愛媛県松山市)で開催されました。5つの分科会と研究実践交流会では、いずれも活発な議論が交わされました。大会2日目の午後は、「四国遍路-ピルグリメージとオーラル・ヒストリー」と題するシンポジウムが開かれ、学際的な討議が繰り広げられました。

 来年度の大会は、2012年9月8日(土)、9日(日)に椙山女学園大学星が丘キャンパス(愛知県名古屋市)で開催される予定です。会員の皆様の、積極的なご参加をお待ちしております(次回のニュースレターは、学会大会概要を掲載して8月頃の刊行を予定しております)。

【目次】
(1)学会大会報告

1.大会を終えて 2.第1分科会 3.第2分科会 4.第3分科会

5.第4分科会 6.第5分科会 7.研究実践交流会 8.シンポジウム

(2)総会報告

2010年度事業報告・決算報告・会計監査報告、2011年度事業案・予算案・理事選挙報告・理事構成案

(3)理事会報告

1.第四期 第8回理事会 2.第四期 第9回理事会 3.第五期 第1回理事会

(4)お知らせ

1.『日本オーラル・ヒストリー研究』第8号投稿募集

2.国際学会大会のお知らせ

3.会員異動(略)

4.2011年度会費納入のお願い

(1)学会大会報告

1.大会を終えて

 2011年9月10・11日、松山大学において第9回大会を開催しました。四国の松山という場所での開催は初めてでしたが、両日含めて65名(会員50名、非会員15名)の参加者がありました。地元愛媛の地域女性史のメンバーの参加もあり、自由報告の各分科会、ならびにワークショップとシンポジウムにおける議論も盛況でした。この大会では故松重美人氏の「ヒロシマ」写真展も同時開催され、原爆投下直後の貴重な写真が展示されました。

 今回の企画として、大会一日目の午前中に城山エクスカーションを行い、松山市観光ボランティアガイドの先導で9名の参加がありました。また、懇親会での地ビールと郷土料理も楽しんでいただけたようです。なお、松山大学から大会開催費の一部を援助していただいたため、ほぼ予算通りの決算となり、ほっとしております。参加された会員のみなさまのご協力に感謝いたします。(山田富秋)
2.第1分科会

 第1分科会では、4件の研究報告が行われ、20名ほどが参加した。4件とも戦争体験を語り継ぐことに焦点を当てた研究で、1件は日中戦争に参戦した元日本兵へのインタビュー、3件は沖縄県南風原町をフィールドとした語りの継承についてであった。

 第1報告の張嵐(日本学術振興会外国人特別研究員)『戦争体験を語る・伝えるという実践―日中戦争体験の語りから見る』は、元日本兵へのインタビューで、若い日本人学生が質問できた、たとえば靖国参拝の有無など、聞き手である張自身が「聞きたいこと」を尋ね得ないもどかしさを、「聞き手である私が持っている先入観、構え、そして、日中戦争に関するモデルスートリー」がライフヒストリーを聞く妨げになっていた、と気付き、「こうした先入観を排除し、インタビューに臨みたい」とする。オーラルヒストリアンなら体験したことのある実践上の悩みに共感すると同時に、インタビュアーのエスニシティが意識せずしてインタビュー時の身構えを引き起こしがちであることがわかり、「構え」からの自由がどのようにもたらされ結果に反映されるのか、今後に期待したい。

 第2、第3、第4報告は沖縄県南風原町をフィールドとした連続した内容である。

第2報告:桜井厚(立教大学)『戦争体験を語り継ぐ―沖縄県南風原町の実践から』は、沖縄戦終盤において有数の被災地となった南風原町での13年間に亘る町内の戦争に関する聞き取り調査終了後に、その調査を生かす形で「平和ガイド」が組織化された経緯が述べられた。現在NPO法人として活動する南風原平和ガイドは沖縄戦当事者では無い。中心当事者ではない者が「体験を語り伝えることができるのか」という素朴な問いには、戦争体験は「身内でも伝えられていない」という複雑な現実があり、「語り継ぐことをどう捉えるのか」という「語り伝え」の根本を改めて問う事に繋がった。

 第3報告の石川良子(日本学術振興会特別研究員)『「南風原平和ガイドの会」の実践』は、第2報告を受け、南風原陸軍病院壕の管理・案内のために結成された平和ガイドの会の活動がまちづくりとタイアップしていく様子を、初代会長である男性の語りから紡ぎだし、まちづくりと関わらせることで、さまざまな属性をもった人々が平和ガイドに参加、継承関係が豊かに広がる様子が伝えられ、第1報告の問い「語り継ぐことをどう捉えるのか」への南風原での実践に基づく答えがなされたように思う。

第4報告の八木良広(小田原看護専門学校)『沖縄戦の「死」の語り伝え』では、67年たった今でも発掘される沖縄戦の遺骨について、「遺骨は単なるモノではなく、人の死そのものである」という立場が述べられ、「沖縄戦で掘り返すべきは、「死体」ではなく「死」である」として、それらの「死」が語り伝えられる様子が述べられた。語りべは言語をあやつる人間のみに限定されないという視点に、戦争考古学とオーラルヒストリーの結びつきの可能性を感じると同時に、遺骨を慰霊の対象としてきた沖縄の風習とどのように折り合いをつけ、発掘現場そのものを「死者の語り」として継承がなされていくのか、関心をそそられた。

第1分科会の報告全般を通して、次のようなことを感じた。1つは、町行政とNPOという行政公認の市民団体との協同は、関係性に上下が生じることで語り伝える実践に影響がでる懼れはないのか。2つはまちづくりと関わった平和ガイドの活動が観光客と結びついて脚光を浴びがちである一方、町内の学校の平和学習との連携はどのように語られているのか。3つは、行政の取り組みは首長の交代等で活動の未来に不安定要素を伴う。町民との不断の草の根の結びつきが重要となると思われるが、語りの中で意識されているのか。司会者としては、進行に手間取り後半の報告者には平等に発表時間を確保することができなかったことを反省としたい。(大城 道子)

3.第2分科会:「病い」を語るということ

 第2分科会では、さまざまな疾患をもつ人びとの生活世界に焦点を当てた4題のライフヒストリーが報告された。結婚前に自らの意志で優生手術を選択したアルビノの当事者、統合失調症の子とともに31年間を歩んできた母親、1970年代初頭に心臓ペースメーカーを植え込んだ女性たち、ハンセン病療養所で長年生活してきた入所者。発表者は当事者、医療者、研究者と立場はさまざまであったが、いずれも深い洞察力で切りこんだ発表であった。発表者は以下の通りである。

『優生手術経験の語り難さ:アルビノ当時者のライフストーリーから』(矢吹康夫:立教大学大学院)

『精神障害者の子を抱えて生きる、ある母親の生活史』(青木秀光:立命館大学大学院)

『1970年代初頭に心臓ペースメーカーを植え込んだ女性たちの働く事の難しさ』(小林久子:藍野大学)

『ハンセン病療養所におけるサバイバーズ・ ギルト』(木村知美:松山大学大学院)

 遺伝性疾患、慢性疾患、障がい、感染症といった疾患は、単に医療ケアの対象としてだけではなく、長い間、社会の偏見(stigma)と差別(discrimination)に晒されつづけてきた。このような歴史的文脈のなかで、生活者として「病い」を語ること、その語りに耳を傾け聴くこと、語りの意味を分析することは、決して容易な作業ではない。社会と病いの葛藤から距離を置いた研究者という立場に、安穏と居続けることができなくなってしまう。研究を深めるにつれて、差別と偏見を生み出してきた社会の一員としての関わりに研究者自身が直面することになるからである。また、当事者あるいは医療者として関わっている研究者は、自らの当事者性が問われ、あるいは医療者としての限界性を問われ、二重の負荷を担うことになる。「病い」を語るオーラル・ヒストリー研究とは、パンドラの匣を開いてしまう振舞いなのかもしれない。

 大会が開催された愛媛県松山市は、病いに臥せながら自己の身体と精神を写生した『病牀六尺』を書いた俳人正岡子規が育った土地でもある。この不思議なえにしを契機として、日本のオーラル・ヒストリーの発展のなかで、保健医療分野の研究が蓄積されていくことを期待したい。(中村安秀)

4.第3分科会

本分科会では、戦争の時代を生きた人々を対象とした若手研究者による四つの研究報告が行なわれた。いずれも時間をかけてインタビュー調査を重ねてきた厚みのある研究から得られた知見をそれぞれの切り口で報告する充実した内容であった。

 最初の発表、三田牧(日本学術振興会特別研究員)「記憶の合わせ鏡:日本統治下パラオにおける「他者」の記憶」は、日本統治下パラオで暮らした「日本人」(その半数は沖縄出身者。朝鮮、台湾の出身者も含まれていた)、パラオ人、その他のミクロネシア人が、日本内地人を頂点とする階層社会において互いの姿をどう見ていたかという観点から口述資料を整理して示した。

 2番目の森亜紀子(京都大学大学院)「委任統治領南洋諸島に暮らした沖縄出身移民:1910~1924年生まれの人々の経験に注目して」は、上記のパラオを含む「南洋群島」(ミクロネシアの島々に対する日本統治時代の総称)において主要労働力として積極的に招致された沖縄出身移民の口述資料から、南洋群島に暮らした沖縄出身移民の多様性と全体像を描き出そうとした。

 3番目の小林奈緒子(島根大学)「戦争体験の受容と地域社会:元兵士のオーラル・ヒストリーより」では、先の戦争において兵士として従軍し、戦後シベリヤに抑留され、中国の戦犯教育を受け、帰国後島根にて中国帰還者連絡会山陰支部の事務局を長く務めた人の口述資料から、当事者が受容した戦争体験がその後どう変化したのか、またそうした経験を、地域社会がどのように受け止めたのか、あるいは彼らが地域社会にどんな影響を与えたのかが報告された。

 最後の発表、木村豊(慶応大学大学院)「空襲で焼け出された人の戦後生活:都市から地方への移住をめぐって」では、北海道に渡った東京空襲被災者へのインタビュー調査をもとに、都市空襲被災者の地方移住と戦後生活、戦災と移住の記憶の現在について発表された。

戦後66年が過ぎ、戦争の時代を生きた人々から直接話を聞くことは難しくなりつつあるが、当時の若者、そして子どもだった人々への調査はなお大きな可能性を湛えていることが、本分科会の報告からはよくわかり、今こうした研究にとりくむことの重要さをフロア全体で確認、共有することができた。また、自由討論の時間を比較的多くとることができたため、フロアと発表者、また発表者間の質疑応答のみならず意見交換ができたのも収穫であった。それぞれの個の経験である口述資料を歴史的文脈の中でどう解釈してゆくかなどが話題となった。(河路由佳)
5.第4分科会

 本分科会は、ほかの分科会と比べてあまり統一が取れていたとは言えない。とはいえ、各報告は水準の高いものばかりで、多くのことを学ぶことができた。

 (1)酒井朋子(東北学院大学)「移行期社会における記憶と歴史――和平条約後の北アイルランドにおける」

 最初の報告者の酒井朋子氏は、長年北アイルランドの紛争をめぐる語りについて研究をされてきた研究者である。本報告は、「移行期社会」をキーワードにイギリス領北アイルランドに住み、長期紛争を経験した当事者たちのライフ・ストーリーを扱っている。とくに夫の殺害に関する妻の語りとその後何年もしてから明かされる真実をめぐる分析は強く印象に残った。トランスクリプションの分析におわらないで、生の語りを参加者に伝えるという方法は、わたしたちがあたかもインタビューの場にいるかのような臨場感あふれるものであった。たいへん力強く、また感銘的な報告であった。オーラルヒストリーにおいては、書かれた史料からでは見えてこなかった事実を明かすだけでは不十分で、そのときの語り口そのものを提示するということが一般的になってきていると思われるが、今後は語り自体をAV機器を使って再生するという方向に向かうことになるのであろうか。

(2)水谷尚子(中央大学兼任講師)「在外ウイグル人への口述史収集をめぐる諸問題:中国新疆からの政治亡命者・経済移民者を訊ねて」

 本報告は、予定されている報告の前編ということで、ウイグル人とはだれか、というきわめて根本的な問いから始まった。彼らは20世紀前半に幾度か独立国家建設を試みるが、現在は中国領域内の「少数民族」と位置付けられている。水谷氏はここ数年、中国政府と対立し政治亡命したウイグル人を訪ね、中央アジアやトルコ、欧米などで口述史収集調査を行っている。本報告はそのような収集をめぐる問題やデータについてのたいへん力強い報告であった。政治的に周縁化されて世界中に散った人々に会い、かれらの歴史を丹念に掘り起こすというオーラルヒストリーの原点を思い起させる報告であった。

(3)吹原豊(福岡女子大学)「滞日インドネシア人社会の成立と現況:当時者および関与者の語りを中心に」

 吹原氏の報告は 茨城県の大洗町に住む、400人近いインドネシア人が対象である。かれらは1992年からこの町に流入し、研修生を中心とする中国人労働者と勢力を2分している。ほとんどはインドネシア・スラウェシ島北部出身者であり、吹原氏自身、当地での長期滞在経験があるため、大洗町に住むインドネシア人の世界を、歴史的かつ空間的に描くことに成功していた。今後の移民研究の範ともなる発表であった。暴力や弾圧が主題であった酒井報告や水谷報告のときと異なり、会場は笑いに包まれていた。

 (4)山口裕子(一橋大学大学院)「歴史語りの「真実さ」をめぐって:インドネシア東部の小地域社会における複数の対抗的な「ブトン王国史」」

山口氏の報告は、旧ブトン王国領における地位の異なる二つの村落の人たちが語る王国史についての分析である。ひとつは王族貴族の子孫から、もうひとつは平民からなる村である。前者の語りは政府から公定史として承認され、正統な歴史として位置づけられている。これに対し平民たちは自村こそが王国の起源地だという「真実の歴史」を語る。山口氏は、実証主義的な手法で「真の歴史」を求めたり、反対に両者の歴史を言説として認めたうえでその差異を論じたりするという方法から距離をおいて、語る文脈となる人々の生活世界を考慮することを主張する。この報告もまたオーラルヒストリーのこれからの方向を示唆するものとして評価したい。(田中雅一)

6.第5分科会

第5分科会では、5つの報告と白熱した質疑応答が展開された。日本語訳書が公刊されたばかりのV.Yow著『オーラルヒストリーの理論と実践』(インターブックス社)の論点を引きつつ、司会者が前もって提示したのは、オーラルヒストリーの次の特徴である。オーラルヒストリーは、語りを聞きとって研究を深める方法的営為でありながら同時に、そうして収集した記録そのものがアーカイブとしての価値を持っている。5つの報告を横断する論点として、記録を公開するときの範囲(特定研究者⇔ウェブ上)、記録を残す目的、対象範囲 (過去⇔現在)が最終討論の対象となった。

青木麻衣子氏(北海道大学)・伊藤義人氏(藤女子大学)による第1報告は、現地調査に基づく「オーストラリア木曜島の最後の日本人ダイバー藤井富太郎」である。戦後の現地日本人の強制帰国のため、木曜島の先行研究には空白が生じている。戦前・戦後を架橋して日系二世にあたる子孫のオーラルヒストリーから、個人史と全体の歴史との両方に焦点を当てた報告がなされた。

第1報告は、金森敏氏(松山大学非常勤講師)による「女性社内企業家の語り」である。報告者は、これまで「英雄物語」に近かった社内企業家のモデルストーリーに対して、モデルストーリーの「構え」に着目して、その変化、抵抗する語りを析出した。これは、経営学において一般化と特殊事例をどのように扱うか等の論点とも関連する。成功例・失敗例など、経営学においてオーラスヒストリー(アーカイブズ)を残す意義が議論となった。

第3報告は、新井かおり氏(立教大学大学院)による「アイヌの歴史はどのように書かれねばならなかったか?」である。1960年代後半まで、アイヌは、客体化された過去となり、滅びゆく者としての倭人の世界観の範疇から抜け出るものではなかった。これに対して、1970年代以降のアイヌの権利回復を目指す運動の当事者の一人として、アイヌ自身の声やその他の1次資料を収集したのが、貝澤正『二風谷』(にぶたに)である。(貝澤家文書の整理・調査に当たった)報告者による長期の聞き取りに裏打ちされた情報提供者への深い配慮と慎重な姿勢、またそこから垣間見える「生々しい声」には、強いインパクトが感じられた。

第4報告は、川又俊則氏(鈴鹿短期大学)「男性養護教諭へのインタビューとアーカイヴをめぐって」である。まず、いわゆるピンクカラー職業のなかの男性、「元」養護教諭を対象とした点をめぐって、討論が広がった。ジェンダーの観点からは啓蒙的な研究、マイノリティとしての男性養護教諭の観点からはナレッジマネジメントのような研究として意義深く、興味深い着眼点である。また、調査のアーカイブ化についての戦略が議論となった。

第5報告は、塚田守氏(椙山女学園大学)による「個人のホームページ上でのライフストーリーのアーカイヴ化の可能性」である。報告者は、ロバート・アトキンソン氏が1988年に設立したライフストーリーセンターをモデルに、ライフストーリー文庫~きのうの私~を代表として運営している。(1)「人生の物語」の収集・一般公開によって、何かを感じ、学ぶ機会を提供する。(2)様々な人々が自分の「人生の物語」を書くきっかけとなる。(3)研究者によるライフストーリー研究の交流の場となる、という三点を目的として掲げている。編集方法や運営等の舞台裏が惜しみなく情報提供され、フロアを交えた議論が尽くされた。(安倍尚紀)
7.研究実践交流会

今回の研究実践交流会は、「オーラル・ヒストリーをいかに作品化していくか?」と題して、参加者の経験や意見の率直な交流を重視した参加型でおこなった。

JOHA年次大会は今回で第9回を迎え、来年は第10回という節目を迎えることになる。その間、オーラル・ヒストリー研究は、生活史研究やライフストーリー研究、ナラティブ論、言説分析などといった質的調査研究の議論と重なり合いながら、声の複数性や文脈性、語り手と聞き手の共同制作性(相互行為性)や聞き手(調査研究者)の立場性、語りの現在性やそれを限界づける語りえなさの問題など、認識論的・方法論的議論が一定程度蓄積されてきた。

しかしながら、それらを生かした記述や作品化のしかたという点では、個々に悩みながら試行錯誤している状態で、真正面から議論したり、率直に意見交流をする場が意外に設けられてこなかったように思う。また一部では、認識論的・方法論的議論ばかりをくりかえし問うことが、結果的に「閉塞感」につながってはいないかという声も聞かれるようにもなった。肝心の羊羹をおいしく切って味わいたいのに、切るナイフばかり研いでいても先には進めない。そこで、具体的に羊羹を切っていくうえでの、つまり作品化するうえでの悩みや葛藤などを吐露し、共有し、どうすればよいかをセルフヘルプ的に考える場をもとうではないか、というのが今回の研究実践交流会のねらいであった。

会ではまず、学術論文色のもっとも強い博士論文「戦後日本社会における被爆者の『生きられた経験』――ライフストーリー研究の見地から」を書き上げたばかりの八木良広さんと、4年前に博士論文を『ひきこもりの〈ゴール〉――「就労」でもなく「対人関係」でもなく』(青弓社)として書籍化され、さらに次回作の刊行を模索されている石川良子さんに、上記の意見交流や議論の口火として短い話題提供をしていただいた。

八木さんからは、博士論文はあくまで学術的な論文スタイルをとる必要があるが、論文調では対象者のライフを適切に表現できないと思い、執筆時には読み物風の文体も意識したこと。自分自身が漸次作品化していくなかで発見し気づいていったプロセスをも入れ込むために、これまで作品化した個々の論文を連結させるのではなく改めて書き下ろしたこと。それらの経験から、さまざまさ制度上の制約があるなかで、業績づくりのためではなく、対象者のライフを厚く記述していくためにはどうすればよいのかといった問題提起がなされた。

石川さんからは、発信することが研究者の役目であり、「読んでもらってなんぼ」ではないか。その際、誰に読んでもらいたいか、いつ出版するか、どう書くか等が鋭く問われてくること。読み物風じゃないと書けないことがあり、そこにもっと積極的な学問的意味があるのではないか、そしてそれをちゃんと書かなければならないのではないか。つまるところ、自分にとって学問するとはどういうことなのかを抜きには発信できないといったことなど、「社会のなかのオーラル・ヒストリー」にかかわる問題提起がなされた。

その後、6つのグループに分かれて、話題提供者のお二人から提示された悩みや課題・考えていることを触媒にして、参加者自身が抱えている悩みや課題・考えを吐露したり、あるいはそれに対して創意工夫したことなどを新たに付け加え、経験談なども交えながら、どうすればよいかを話し合う時間をもった。そして、それぞれのグループでどんな意見が出たか、グループごとに発表していただき、参加者全体で共有した。

オーラル・ヒストリーは誰のものなのか。経験を位置づけるのに大きな物語・理論的枠組みはいらないのか。読まれることは大事だが「消費」されてしまってよいのか。オーラル・ヒストリーはスキマ産業であり、スキマ産業ならではの強みが学問のありかたを揺り動かしていくのではないか。技術的なところで対抗するのではなく、資料の「無」をどう扱うかなどオーラル・ヒストリーの実質的なところで対抗すべきではないか。他方で、査読に通るように書かなければならない我々院生は?等々といった率直な意見が次々に出され、「いかに学術的であるか」というところで悩んでいる人がこんなに多いとは!といった感想も出た。

学問・学術とは何なのかといった根本的なところまでさかのぼり、自由闊達な本音の議論がなされ、またそれがセルフヘルプ的なコミュニケーションを展開させることになったように思う。このような、参加者が個人的な課題などを気軽に話し合い、多くの参加者の声を出していく研究実践交流会のような場は、オーラル・ヒストリーという学問の足場を築いていくために、今後ますます重要になっていくのではないかと強く感じた。(小倉康嗣)

8.シンポジウム

 四国で初めて開催される大会ということで、四国遍路をテーマにオーラル・ヒストリーとの接点を探るシンポジウムを行いました。

まず愛媛大学の「四国遍路と世界の巡礼研究会」の代表を長年務められた内田九州男先生に現在の遍路のスタイルの歴史的な定着過程について実証的に説明してもらい、次に大阪大学の川村邦光先生に、ゼミ生と一緒に四国遍路を行った経験にもとづいて、生者と死者との語らいという遍路の一面について報告してもらいました。本学会の小林多寿子先生からはアメリカの日系インターンメントの収容所を巡るピルグリメージと四国遍路の共通性と違いについて報告をいただきました。

その後、元会長の清水透先生から、マウンテンバイクによる四国遍路を行った経験から、明確に言語化できない宗教的体験として、四国遍路の意味づけがありました。本学会の川又俊則先生からは、各報告者について非常にていねいな要約とコメントがありました。

結論として、確かに伝統となり習慣化した遍路の中にも、個人的体験と宗教性をつなぐ何らかの超越的な回路があることが示唆され、実り多いシンポジウムであったと評価できます。(山田富秋)

JOHAニュースレター20号

 日本オーラル・ヒストリー学会第9回研究大会(JOHA9)が、2011年9月10日(土)、11日(日)の二日間にわたって、松山大学において開催されます。みなさま、お誘い合わせのうえ、ふるってご参加ください。

【目次】
(1) 第9回年次大会
1.大会プログラム
2.自由報告要旨
(2) 第17回国際オーラル・ヒストリー学会への参加を!
(3) 本年度ワークショップ「オーラル・ヒストリー・フォーラム」スタートしました!
(4) 理事会報告
(5) 事務局便り
1.会員異動
2.2011年度会費納入のお願い

(1) 日本オーラル・ヒストリー学会第9回大会

1.大会プログラム

http://joha.jp/?eid=174

2.自由報告要旨

第1分科会
(1)張嵐(日本学術振興会外国人特別研究員)・桜井厚(立教大学)
戦争体験を語る・伝えるという実践
 敗戦後65年余が経過し、日本では戦争の実体験を持たない人びとがほとんどとなる。しかし、戦争体験の記憶を風化させまいとする活動は、さまざまな形で行われている。ここでは、日常の場で求められて戦争体験を子どもたちや身近な人びとに語っている人びとに注目する。かれらの体験は満州での兵士体験であったり、子どもの頃の空襲体験であったりするが、それをどのように今日、戦争を知らない世代に語ろうとしているのか。本報告は、個人的記録(日記、手紙、自分史、写真など)を補助的に用い、戦時を中心にその前後を含めた歴史的出来事を体験した人びとの語りをもとに、戦争を知らない私たちに伝える実践に焦点を当てる。かれらが今、戦争体験の何をどのように語っているのか、さらに、何を伝えようとしているのか、について考察する。

(2)桜井厚(立教大学)
戦争体験を語り継ぐ――沖縄県南風原町の実践から
 沖縄県南風原町は、太平洋戦争時には重要な軍事的拠点とされ沖縄戦では住民の42%もの人が犠牲となった。南風原町は、戦後いち早く「非核平和の町」宣言をし、「南風原陸軍病院壕」を戦争遺跡として全国発の町文化財に指定(1990)したり、町内の戦争体験を収集する戦災調査、南風原文化センター常設展示や平和学習事業の取り組み、また平和ガイドの育成などをとおして、住民と一体になって戦争体験を継承する活動を精力的に行ってきた。これらの活動にかかわる町職員や平和ガイド参加者の語りをもとに戦争体験を語り継ぐ実践の意味を南風原のローカルな世界と関連づけて報告する。

(3)石川良子(日本学術振興会特別研究員)
「南風原平和ガイドの会」の実践
 「南風原平和ガイドの会」は、2007年に一般公開された南風原陸軍病院壕20号壕の管理・案内のために結成された。2009年にNPO法人化されてからは町内全体にガイドの範囲を広げ、字ごとのマップ作りや「総合ガイド」の養成に取り組んでいる。まず、このような事業方針を打ち出した経緯・背景を、ある中核メンバーの語りから明らかにする。この人は「たとえ壕があっても人が集まってこなければ平和ガイドは成立しない」と考えているようだが、沖縄戦を語り継ぐという実践にとって「まちづくり」という視点を取り入れることは、単なる人集め以上の意味を持ちうるのではないか。このことを他のメンバーの語りも交えて考察する。

(4)八木良広(小田原看護専門学校)
沖縄戦の「死」の語り伝え
 沖縄県では、66年経た現在に置いても人びとの生活圏から不発弾だけでなく遺骨が頻繁に出土される。南風原町においても出土されるのは各壕の発掘調査時や公園整備の際など時と場合を問わない。掘り出されるのはその人の最期の瞬間そのままの「死」(北村毅)である。一般的には、「死」の発見は、困難であるものの身元の特定やその後の遺族の割り出しにつながり、実際取り組んでいる団体や個人は存在するが、語り伝えるという文脈で「死」の意味を捉えようとする試みがある。それはどういうものであろうか。報告では、対象者の語りからその内容を明らかにするとともに、「死」をめぐる現代的状況についても見ていく。

第2分科会
(1)矢吹康夫(立教大学大学院)
優生手術経験の語り難さ:アルビノ当時者のライフストーリーから
 アルビノとは全身のメラニン色素を作れない常染色体务性の遺伝疾患である。私が継続しているアルビノ当事者へのインタビュー調査では、問題経験を聞きたがっている調査者のストーリーが相対化され、「困ったことはなかった」「差別されたことはない」という語りにたびたび出くわす。 しかし一方で、結婚や出産の話題になると、「やっぱり」という言葉に続けて否定的な経験が語られることがある。そこでは、全体主義的で強制的な旧来の優生学は明確に否定されるが、かといって自発的で個人本意の修正優生学に対しては容認とも否認ともとれない曖昧な語りが展開される。本報告では、結婚前に自らの意志で優生手術を選択したアルビノ当事者(70代・男性)のライフストーリーを主に検討し、優生手術経験の語り難さを確認するとともに、既存の優生学的言説に回収されないような新しい語りの可能性を模索したい。

(2)青木秀光(立命館大学大学院)
精神障害者の子を抱えて生きる、ある母親の生活史
 精神障害者の子を持つ親は、様々な苦悩とともに生きている。精神疾患(特に統合失調症)は青年期に好発する。親たちは、子どもが将来巣立ち、第2 の人生を考え始める時期にある。そのような時期に、自らの子が精神疾患を発症するところに中途障害の困難さがある。また、精神疾患発症時の知識のなさ、症状の不可解性、周囲を含む自らの偏見、親亡き後の不安、これまでの子育てへの後悔、等々多くの負荷要因も存在する。そのなかで生きる家族は、どのような思いで日々を生活しているのだろうか。本報告では、統合失調症の子とともに31年間歩んできた、ある母親のライフストリーを提示することで、彼女の主観的意味世界に接近することを目的とする。

(3)小林久子(藍野大学)
1970年代初頭に心臓ペースメーカーを植え込んだ女性たちの働く事の難しさ
 近年、心臓ペースメーカーの社会的認知は高く、公共の場での電磁波障害にも配慮がある。障害者1級の承認は、医療費免除の社会的恩恵を受けている。しかし、1970年代初頭の日本で、「障害者手帳をもったら、嫁にも行けない」と医師に言われた3人の女性たちは、病気を隠して働き、病気が発覚して解雇され、2年毎の器械の電池交換と同時に転職するという歴史を生きてきた。彼女らが仕事を通して抱いた“みじめさ”と“後ろめたさ”の思いは、医療を取り巻く社会の変化によって、今に語り継がれることはない。そこで、当時

JOHAニュースレター20号

 日本オーラル・ヒストリー学会第9回研究大会(JOHA9)が、2011年9月10日(土)、11日(日)の二日間にわたって、松山大学において開催されます。みなさま、お誘い合わせのうえ、ふるってご参加ください。

【目次】
(1) 第9回年次大会
1.大会プログラム
2.自由報告要旨
(2) 第17回国際オーラル・ヒストリー学会への参加を!
(3) 本年度ワークショップ「オーラル・ヒストリー・フォーラム」スタートしました!
(4) 理事会報告
(5) 事務局便り
1.会員異動
2.2011年度会費納入のお願い

(1) 日本オーラル・ヒストリー学会第9回大会

1.大会プログラム

2.自由報告要旨

第1分科会

第2分科会

第3分科会

第4分科会

第5分科会

(2) 第17回国際オーラル・ヒストリー学会への参加を!

http://joha.jp/?eid=170

(3) 本年度ワークショップ「オーラル・ヒストリー・フォーラム」スタートしました!

 昨年度の連続ワークショップは、実行委員の方々の企画力やご努力もあって、大学人だけではなく、郷土史家や市民研究者、ドキュメンタリーを制作しているジャーナリスト、社史を作成したいと参加されていた方など、幅広く多彩な方々が参加され、たいへん活気がありました。私は、第4回の話題提供者として呼んでいただいたのを機にこのワークショップに参加させていただくようになったのですが、やはり多様なアクターによって民主的に歴史や記憶を構築していくところにオーラル・ヒストリーの可能性があるのではないか、そしてそういうことを平場で率直に議論し共有できる「場」がJOHAワークショップなのではないか、と感じました。今年度のワークショップの企画運営委員となった皆さん(下記)も、同じような思いだったようです。
 そこで、今年度はとくに「オーラル・ヒストリー・フォーラム」と銘打って、さまざまな立場の参加者同士で「愚直」な議論を交わすことを重視したいと考えました。迷いや戸惑いのようなものも率直にさらけ出せる、正直なコミュニケーションをベースにして、オーラル・ヒストリーは人間と社会にどんな働きかけをするのか。手法だけにとどまらないオーラル・ヒストリーの学問的・実践的意味・意義とは何か。そういったことを議論し、深めていく場にしていくことができればと願っています。
 今年度も複数回のフォーラムを開催し、担当の企画運営委員が毎回持ち回りでコーディネートする運営となりますが、フォーラム全体を貫くテーマとして「学知と現実のはざま」を掲げました。オーラル・ヒストリーに向き合うとき、私たちが共通して直面するのがこの問題ではないかと思ったからです。それは、生活知と学知の乖離として感受されることもあるでしょうし、報告書や論文、著書、ドキュメンタリーなどに作品化するときの戸惑いや悩みとして感じられることもあるでしょう。学知・運動・当事者の「はざま」で葛藤したり、ききとりをしながら「自分はいったい何者なのか」というジレンマにさいなまれる場面も少なくないと思います。また、3.11の大震災は、「学知と現実のはざま」を根底からから問うているようにも思えます。
 この「はざま」には、イデオロギーや運動、あるいは大小さまざまなコミュニティの解釈枠組や、写真や映像などの多様なメディアも介在し、さらに重層的で錯綜した様相を呈しているといえるでしょう。しかしながら、こういった「はざま」に胚胎するさまざまな問題こそが、既存の枠組を革新したり、新たなコンテクストを生成していくのであり、それがオーラル・ヒストリーの創造性の源泉でもあろうかと思います。とはいえ、オーラル・ヒストリーのこういった側面を正当に位置づけ、生かし、評価していく場はそれほど共有されていないようにも感じます。
 そこで、上述のようなさまざまな立場の参加者同士の正直なコミュニケーションから始め、「学知と現実のはざま」に胚胎する悩みや問題を吸いあげていく「場」をまずはつくっていこうではないか、というのがこのフォーラムのねらいです。昨年度のワークショップは、参加者が各々プロジェクトを遂行していくという目的もありましたので、議論の時間だけをゆっくり・たっぷりとるということが難しい部分もあったように思います。そこで今年度は、昨年度のワークショップの精神を引き継ぎながら、とくに議論(コミュニケーション部分)に力点を置こうということで「フォーラム」としました。それは、先日おこなわれたフォーラム第1回のプログラムにも反映されています。
 門出となるフォーラム第1回は、企画運営委員の木村豊さんと清水美里さんのコーディネートのもと、「市民運動とのかかわりのなかで」というセッションテーマで開催されました(なんとその日は、はからずも清水透・JOHA会長のバースデーと重なり、縁起のいい門出となりました!)。
 オーラル・ヒストリー実践・研究のなかで、市民の集まりや市民活動とどのようなかかわりかたが可能なのか。長年その模索をされてきた八木良広さん(話題提供題目「『平和』『核兵器廃絶』と被爆者の生きられた経験のあいだ――被爆者へのライフストーリー研究の見地から」)と山本唯人さん(話題提供題目「学知/ことばの生まれる場所――東京大空襲・戦災資料センターの試みから」)に話題提供をしていただきました。二つの話題提供をめぐる質疑応答を口火にして、それらと参加者自身が抱えている悩みとを交差させた議論を趣旨に、5つのグループに分かれてグループ・ディスカッションを1時間ほどおこない(話題提供者のお二人には、各グループを回って議論に加わっていただきました)、グループ・ディスカッションで議論になった論点を出し合って全体討論をさらに1 時間ほどおこないました。
 お二人の話題提供が、ご自身をまな板の上に乗せるような率直な、そしてまさしく「学知と現実のはざま」をめぐる刺激的なお話だったこともあり、予定時間を大幅にオーバーするほどの白熱した議論が展開されました。
 秋に開催予定のフォーラム第2 回は、「女性史」をセッションテーマとした企画を練っているところです。多様な背景の方々の多くのご参加をお待ちしています。また、第3回の企画についてはまだ白紙状態です。フォーラムの企画運営委員会は自由に加われるオープンな自治組織ですし、持ち込み企画大歓迎ですので、われこそは!と思う方、どうぞ気軽に

JOHAニュースレター第19号

 日本オーラル・ヒストリー学会第8回大会
盛況のうちに閉幕
 日本オーラル・ヒストリー学会第8回大会は、9月11日(土)、12日(日)の両日にわたって立教大学池袋キャンパスで開催されました。3分科会と研究実践交流会ではいずれも活発な報告や議論が交わされました。大会二日目、午後からは「ジェンダー史とオーラル・ヒストリー」と題するシンポジウムが開かれ、熱心な討議が繰り広げられました。
来年度の年次大会は、2011年9月に松山大学(愛媛県松山市)で開催される予定です。会員のみなさまの積極的な参加をよろしくお願いいたします。(「お知らせ」をご覧ください)。

【目次】
(1) 第8回大会報告
1.第8回大会を終えて
2.第1分科会
3.第2分科会
4.第3分科会
5.シンポジウム
6.研究実践交流会(ワークショップ第4回)
7.保苅実写真展

(2) 第7回総会報告

(3) 理事会報告

(4) ワークショップ案内

(5) お知らせ
1.第9回大会について
2.第7号投稿案内
3.国際交流委員会より
4.会計報告および会費納入のお願い
5.会員の異動


(1) 第8回大会報告
1.第8回大会を終えて
 第8回大会は、2010年9月11日(土)、12日(日)の両日にわたって、立教大学池袋キャンパスにおいて開催されました。1日目は、1分科会のほかに研究実践交流会が開かれました。研究実践交流会は例年、参加者が自由に発言できる貴重な機会になっていますが、今回は、4月からはじまった連続ワークショップの一環(第4回)として、オーラル・ヒストリーにおける「発見は何?」をテーマに活発な議論がなされました。2日目は、午前中は2分科会が行われ、午後にシンポジウム「ジェンダー史とオーラル・ヒストリー」が開かれました。本学会は設立当初から女性会員の割合が多く、その点からも待ち望まれたテーマであったと見られ、フロアを含めて充実した討論がなされました。
 また、大会開催に並行して受付のある1階フロアにおいて「保苅実

JOHAニュースレター第18号

 日本オーラル・ヒストリー学会第8回研究大会(JOHA8)が、2010年9月11日(土)、12日(日)の二日間にわたって、立教大学池袋キャンパスにおいて開催されます。みなさま、お誘い合わせのうえ、ふるってご参加ください。
※大会に併せて「保苅実写真展」を7号館1階ロビーにて開催します


【目次】
(1) 第8回年次大会
1.大会プログラム
2.自由論題報告要旨
(2) 「保苅実写真展 カントリーに呼ばれて」のご案内
(3) オーラルヒストリーと演劇・ダンスについて――「ガラスの仮面」を思いつつ
(4) ワークショップ報告
(5) 理事会報告
(6) 事務局便り
1.会員異動
2.2010年度会費納入のお願い


(1) 日本オーラル・ヒストリー学会第8回大会

1.大会プログラム
http://joha.jp/?eid=111
第4回ワークショップ「発見は何?」
http://joha.jp/?eid=115

2.自由報告要旨
第1分科会
http://joha.jp/?eid=121
第2分科会
http://joha.jp/?eid=122
第3分科会
http://joha.jp/?eid=123


(2) 「保苅実写真展 カントリーに呼ばれて ~オーストラリア・アボリジニとラディカル・オーラル・ヒストリー~」のご案内
http://joha.jp/?eid=113


(3) オーラルヒストリーと演劇・ダンスについて――「ガラスの仮面」を思いつつ
  先だって、アメリカの学生、18歳のアンソニー君が、日本で一人芝居を行った。15分で、7名の人間を演じ分けるというものだ。想像できるだろうか? 小道具は椅子ひとつ、そして、衣裳も目の前で着替える。――ブラックアウト(暗転)も何もない。彼の、しかし、その迫真性は、英語で演じられているにも関わらず、みる物を引き寄せる強い力があった。演じた後の感想には、『引き込まれた』『英語は全部わからないのに、その感情が押し寄せてきた』とあった。戦争に関わるものではあるが、戦争の悲惨さを感じる者もいれば、「自分は20歳を過ぎて、いったい、彼と比べて何をやっているんだろう」と自問する感想も多かった。
 その迫真性には、理由がある――と、二度みた私は思う。彼は、14歳の時、「ゴーストソルジャーズ」という、『バターン死の行進』という、アメリカ人捕虜(また捕虜問題か、と思わないでほしい)の体験記を母から与えられた。「僕らはなんで歴史のことを知らないんだろう?」「僕らはなんでこういう事を語りあわないんだろう?」その本にあらわれる中尉がたまたま、近所に住んでいた。彼と彼の家族はインタビューに出向いた。それから彼は、紹介される元捕虜に電話し、幾人かの話のオーラルヒストリーを元に、この劇(寸劇というには重すぎ、深すぎる)を作ったと言う。彼に、それを演じ続ける理由を聴くと「自分が演じ始めてから、幾人もの元兵士・元捕虜に会った。彼らの目をみたとき、<これは二度と繰り返されてはならないことだ>とアンソニーは深く思ったのだと言う。彼が、それらの生きたお爺さんたちの話を聴いたこと、直接、その人々に会って話を聴いたことが、この劇の迫真性を高めているのは確かである。
 日本でも、この夏、戦争を扱った演劇やテレビドラマが放送された。NHKの『ゲゲゲの女房』でも、終戦記念日後の一週間は、水木しげるを演じる役者が、ボルネオでの経験を語るものだった。だが――その迫真性には二つの違いがある。一つは、映像を通した「作品」であること。アンソニーのそれは、彼の若さもあって、元捕虜の往時を思わせる。実際、この演劇をみたアメリカ人兵士やその遺族は胸を揺さぶられ涙しているのを私もアメリカで見た。受け継ぎ、演じる人間が「なまもの」である事が、その迫真性を増しているのだ。水木しげるの役を演じる俳優が、ボルネオで悲惨な目に遭った日本兵士に会ったかどうかはわからないので、ここではその点はおくとする。
 この直前に、チェコでの国際IOHA大会では、「語る」ことをバレエにした作品もあった。練習風景しか目にできなかったが口をいましめられた踊り手が、次第に自由になっていく、そんな作品だった。英国のオーラルヒストリーソサエティでも、現在進行中のオーラルヒストリープロジェクトに参加している若者が、演劇を披露した――ヴィクトリア&アルバート美術館で演じるにはかなりショッキングなので、九月のJOHA大会での報告までのお楽しみとして置いておくとしよう。オーラルヒストリーの成果をまとめるにはいくつもの方法がある。日本では論文、ドキュメンタリーが大勢を占める。だが、アンソニーの劇のような、生々しくかつ、迫力のある「再表現」の仕方もある。初めてアメリカの大会に出た時も、最後が演劇である事に驚いたものだ。オーラルヒストリーの豊穣性と多様化の一環として、日本でも試みられてもよいのではなかろうか。聴いた人、あるいは聴かれた記録を読んだ人が、演劇や踊りにしていくことは可能だ。演歌や琵琶語り、能や狂言でも可能であろう――いやこれらの芸術とて、一部は、大本はオーラルヒストリーだと考えることさえできる。今後の、日本のアートシーンとオーラルヒストリーとのセッションを期待したい。
(文責 中尾知代)


(4) 2010連続ワークショップ報告
 2010連続ワークショップでは、「私たちの歴史を創る、私たちの歴史を書く」は、参加者が受け身の拝聴者としてではなく、それぞれの小プロジェクトを持ち寄り、自らのオーラル・ヒストリー経験を基にして、研究調査実践の過程で生じる諸問題について具体的に議論していくことを目指した。ここで、「私たちの歴史」という表現を用いたのは、単一の歴史を強制するという意味ではなく、又その逆に、「歴史は私たちの数だけ複数ある」という歴史相対主義を意味したわけでもない。「私」という政治的主体が協同しあえる可能性を求めて、という意味を込めて「私たち」という表現を用いた。さらに、個人としての「私たち」の経験の総体としての歴史事象の説明に、私たちの視点や働きかけを取り込んでいこうという希望を示した。
 2009年12月に発行されたJOHAニュースレター16号でワークショップ実行委員を募集し、2010年3月に5人の実行委員(大城道子、郷崇倫、酒井順子、橋本みゆき、森田系太郎)が集まって概要を定め、これまで3回のワークショップを開催してきた。第1回(5月5日)は、「オーラル・ヒストリーとは何か」をテーマに掲げ、ワークショップ実行委員が話題提供者として(大城道子:沖縄県内自治体編纂地域史専門員、郷崇倫:横浜市立大学大学院、橋本みゆき:立教大学兼任講師)問題提起をし、参加者もそれぞれのオーラル・ヒストリー観を交換した。

JOHAニュースレター第17号

日本オーラル・ヒストリー学会第7回大会
盛況のうちに閉幕
 「日本オーラル・ヒストリー学会第7回大会」は、2009年9月12日(土)、13日(日)の両日にわたって北星学園大学で開催されました。二つの分科会と研究実践交流会では、いずれも活発な報告や議論が交わされました。大会2日目、午後からは「アイヌのオーラル・トラディション」と題するシンポジウムが開かれ、アイヌの方々の語りや歌をとおして、北海道ならでのオーラルな文化や歴史を考える絶好の機会となりました。また、パフォーマンスでもオーラルなライフストーリーと歌を通してアイヌ文化の豊かなオーラル・トラディションを十二分に堪能させていただいた大変有意義で貴重な大会となりました。
 来年度の年次大会は、2010年9月に立教大学で開催される予定です。会員のみなさまの報告申し込みをお待ちしております(「お知らせ」をご覧ください)。


【目次】
(1) 第7回年次大会報告
1.第7回大会を終えて
2.第1分科会
3.第2分科会
4.シンポジウム
5.パフォーマンス
6.研究実践交流会
(2) 第6回総会
1.2008年度事業報告
2.2008年度決算報告
3.2008年度会計監査報告
4.2009~10年度理事会構成
5.2009年度事業計画
6.2009年度予算
(3) 理事会報告
(4) ワークショップのご案内
(5) お知らせ
1.第8回大会について
2.第6号投降募集 
3.国際交流委員会から
4.会計より
5.会員異動 


(1) 第7回大会報告

1.第7回大会を終えて
吉田 かよ子(北星学園大学)
 200
9年9月12日(土)、13日(日)の両日、第7回大会が札幌の北星学園大学を会場に開催された。関東に会員が集中しているJOHAでは、遠隔地である北海道での大会ということで会員による研究発表数の減少を懸念したが、大会第一日の第一分科会、第二日の第二分科会で多岐にわたるテーマでの多くの興味深い発表がなされ、年次大会に発表の場を求める会員諸氏の熱意を感じることができた。
 北海道での大会開催ということで、第一日目のシンポジウム&パフォーマンスは「アイヌのオーラル・トラディション」いうテーマで行われた。アイヌ民族の方々6名を招き、その豊かな口承の文化、歴史を自らの体験として自らの言葉で語り、あるいは歌っていただき、短時間ではあったが参加者全員が多くを学んだシンポジウムになったと思う。第一日夕刻より学内で行われた懇親会では、パフォーマンスのゲストであった遠山サキさん、堀悦子さん母娘のムックリ演奏や歌に合わせて参加者が輪踊りを楽しむなど、交流の時間が続いた。
 大会開催に当たって、北海道在住のJOHA会員が精一杯準備に努め、大会のスムーズな進行に心を砕いた。新会員も獲得することができ、小さいながらも地域支部活動を立ち上げられる数になったことも、地域のオーラルな伝統の発見と同時に、地方で大会を開催することの大きな利点と言えよう。JOHA会長、事務局長、理事の方々、会員の皆様のご協力に心よりの感謝を申し上げたい。

2.第一分科会
 本分科会では当初3名の報告を予定していたが、鄭京姫報告は本人の欠席により行われなかった。第一報告者の郷崇倫は,日系史と日本史をつなぐ試みとしてのオーラルヒストリーの可能性を台湾系日本人(「ハパ」)としての自分史と重ねあわせながら報告した。具体的には、1950年代にカリフォルニア州のオレンジ郡に群馬県から派遣された短期農業実習生(派米農業研修生)と彼らの雇用者の帰米二世三宅明美氏のオーラルヒストリーインタビューが紹介された。内容の分析は時間の関係上十分にはおこなわれなかったが、それよりも、オーラルヒストリーという手法が歴史的に切断されてきた日本人と日系アメリカ人を結びつける「きっかけ」になるのではないかというアメリカのオーラルヒストリー・プロジェクトでよくみられる社会運動論的な報告が大変興味深かった。第二報告者の藤井大亮は、学校教育におけるオーラルヒストリー・プロジェクトの草分け的存在(1966年から)とされるジョージア州のFoxfireプロジェクトの刊行物の内容分析を行った。記事内容の歴史的変遷を丁寧に分析することにより、40年の時をへて、オーラルヒストリーの内容が口承文明の文字化という特徴から、すでに文字記録をもつ集団の家族史・個人史へ変化してきたことが立証された。社会変動というプロジェクト外の要因と、教師の資質や専門性、指導・支援のあり方、生徒の属性という内部的要因との関係については今後の研究が待たれる。(滝田 祥子)

3.第二分科会
 小林久子「心臓ペースメーカーと共に生きる、ある女性の生活史」インタビューに応じた語り手は、1960年代に完全房室ブロック治療のため日本製ペースメーカー第一号を装着し、装着期間が世界最長に達する人である。語り手の43年間の軌道を簡潔なわかりやすいグラフに落として報告された。心臓ペースメーカー装着者の困難体験が、妊娠、出産、夫をはじめとする家族の対応、器械の不具合、医師の対応などに関連付けてリアルに語られた。器械のトラブルごとの不安が精神を追い詰めることが多かったが、器械が改良されるのに比例して落ち着く様子が理解できた。
 木村一枝「KEK最初の10年:名古屋大学の共同研究者とのインタビューを通して」高エネルギー物理学研究所は1971年につくば市に創設された最初の大学共同利用機関であり、日本の素粒子物理学の中枢研究機関である。そのなかで、KEK:高エネルギー加速器研究機構の最初の十年の聞き取りは研究者集団の性格をよくあらわしている。平等で民主的な雰囲気、日本は貧しく、十分な実験費用はなくとも実験装置を自力で作るという気概、おおらかな関係のなかにも最先端をめざす機運などか語られた。
 深谷直弘「原爆の記憶の継承と若者の平和活動:高校生一万人署名活動参加者の聞き取りから」近年、戦争体験を語り継ごうという実践や活動があらゆる集団で行われている。この活動の参加者は若者であり自身は被爆体験をしていない。彼らにとってはいろいろなボランティアのひとつとして選択された活動である。しかし、原爆の痕跡は記念の場所などが日常生活にあり、過去が想起される環境である。また、彼らの活動継続を推進する要因として、広島ではなく長崎であること。その対抗関係が重要であるとの報告がなされた。
 八木良広「語り部としての被爆者:家族との歩み」語り部としての増田さんは、その語りを家族や親族への頻繁な言及とともに時系列に沿って行う。被爆者団体の東友会に早くから入会していたが、夫の反対で活動していなかった。しかし、その夫が癌で亡くなってから、他の被爆者の語りに遭遇してみずからも

JOHAニュースレター第16号

【目次】
(1) 第7回大会プログラム、自由報告要旨
(2) オーラル・ヒストリーと倫理的・法的問題
(3) 第5回ワークショップ報告
(4) 理事会報告
(5) 事務局便り

(1) 日本オーラル・ヒストリー学会第7回大会プログラム、自由報告要旨

http://joha.jp/?eid=102


(2) オーラル・ヒストリーと倫理的・法的問題
酒井 順子
 オーラル・ヒストリーの社会的・学問的認知が高まってきた今日、プロジェクトを実施する団体・研究者と話し手の間の、研究者間の、そしてインタビュー資料を保存するアーカイヴと寄贈者および利用者の間の、調査研究時における倫理的・法的問題について議論をしていくことが急務の課題となっており、本学会でもこの問題についての検討を開始しました。
 まず考えなければならないのは著作権とプライヴァシィの保護です。現行の著作権法では聞きとり資料の著作権については直接言及されていませんが、オーラル・ヒストリー・インタビューの内容およびテープも、「スピーチ」と同様に広い意味での「固定されていない言語の著作物」と考えられます。海外のオーラル・ヒストリー研究者の間では、話し手の話した内容には著作権があると考え、その使用にあたっては、著作権を譲ってもらう、あるいは許可を得ることが慣例化しています。日本においても、オーラル・ヒストリー・インタビューの音声と内容、書き起こしの著作権をいかに扱うべきか検討が必要です。
 プライヴァシィの保護に関しても、話し手の不利益にならないようにし、個人情報を保護していかなければなりません。例えば、プロジェクトの実施時に、録音テープと話し手のリストは別々に保存するなどの配慮が必要です。インタビュー内容の引用にあたっては、実名表記か仮名表記かについて話し手からの了解を得る必要があります。
 オーラル・ヒストリー研究の蓄積の厚い国々においては、著作権やプライヴァシーの保護だけでなく、インタビュー資料の保存、研究・教育目的のための資料公開とその公開条件(例えば非公開期間など)、また成果発表の方法などについて、プロジェクト実施機関あるいは個人研究者、インタビュアーと話し手との間で同意書を交わすことが一般化しています。そうしたところでは、多くの場合、話し手はインタビューの資料価値を理解し、著作権を研究機関やプロジェクト実施者に譲渡しています。しかし、研究協力における契約が社会的な慣例となっていない日本においては、どのような形で、話し手の著作権やプライヴァシィを保護していくべきか十分な議論が求められています。
 海外のオーラル・ヒストリー研究団体の倫理的法的問題への対応事例をみると、合衆国のオーラル・ヒストリー学会では、ガイドラインを作って会員に指針を示しています。イギリスのオーラル・ヒストリー協会の場合は、協会による指針としてではなく、考えられうるあらゆる法的・倫理的問題を扱った論文をホームページに掲載しています。オーストラリアのオーラル・ヒストリー学会では、基本的な指針のみをホームページに示した上で、個々のケースについては学会が相談に応じるとしています。本学会でも、統一したガイドラインを作ることが必要であるかどうかについて検討していく必要があります。
 オーラル・ヒストリー研究における倫理的な問題は、法律を遵守するだけでは十分ではなく、研究者と話し手との間の倫理的な関係性について絶えず意識していかざるをえません。社会的に有利な立場にいる研究者が話し手の語りから研究成果をあげて去っていくことへの批判も確かにあります。しかし同時に、オーラル・ヒストリー実践者や研究者には、個々人の貴重な経験を聞き、埋もれていた事実や感情に光を与え、より全体的な歴史像や社会像を描いていく責任があります。そのためにも、社会的・学問
的な力関係を越えて、話し手との間に対等で一貫した信頼関係を築いていく努力が聞き手には求められます。さらには、話された経験を広く共有して公共の議論を作っていくために、資料をアーカイヴに蓄積していくことを話し手に理解してもらう努力が必要です。
 本学会では、引き続き、こうした倫理的・法的問題を検討していく予定です。


(3) 第5回ワークショップ報告
 JOHA第5回ワークショップは「オーラリティにおける当事者性/非当事者性をめぐって」をテーマに、7月4日、上智大学にて開催された。この古くて新しい課題を設定したのは、従来の「権力性」の視点からではなく、語り手と聞き手が対峙する場に差し戻して議論したかったからである。「オーラリティの場」にこだわることによって、「当事者/非当事者」という二項対立図式を超える新しい関係性を見出したいと考えた。通常の報告者数より多い5名を設定したのは、そうした意図からである。方向性が拡散したまま収拾がつかなくなる危惧はあったが、多声の可能性にかけてみた。結果として、扱う対象もアプローチの方法も異なりながら、当事者/非当事者として他者とどのようにつながることができるのかを追及するという点で、共通の議論ができたと思う。
 第一報告者の李洪章は、「在日」というポジショナリティに依拠してきた「私」が、「ダブル」と出会うことによって揺らぎを経験するなかで、在日朝鮮人運動が抱える痛みにこだわり、「ダブル」との対話を試みようとしている。第二報告者の鈴木隆雄は、「障害」を持つ当事者として同じ当事者の対象と向き合う時、利点よりむしろ困難の方が多く、そこに立ち現れる当事者としての感情、研究者としての感情にどう折り合いをつけるのかについて語った。第三報告者の石川良子は、当事者への共感から「ひきこもり」研究を始め、当事者からの反発に遭いながら「分からないことが分かる」地点へと到り、そこから当事者と共有可能な地平を見つめる。第四報告者の大城道子は、200人にもおよぶ聞き取り経験から、対象者の当事者性が拡大・越境し、みずからの当事者性が問われていることに気づく。聞き手の声を消して語り手の「声」を聞けるようになる時、当事者性を共有できた瞬間がおとずれる。第五報告者の門野里栄子は、経験の関係性から非当事者が当事者に接続する可能性を示しながら、どうしても越えられない断絶について再考する。そして歴史的時間と社会的状況を生きる〈あなた〉と〈わたし〉の関係から「寄り添う」ことの意味を見出そうとした。
 フロアーからの質問を契機に、マイノリティの声をどのようにひろいあげるのか、時間の経過によって変化する当事者性あるいは関係性、どのような関係性の持ち方・あり方がありうるのか、予想が裏切られていくオーラリティの面白味、「寄り添う」とはどういうことかなど、2時間にわたってじっくり議論が交わされた。最初は拙かった報告が、フロアーからの触発によって「生きること」を問う豊かな内容になったことは、コーディネーターとしてこの上ない喜びであり、また深い感謝を持つものである。
文責 齋藤雅哉・門野里栄子


(4) 理事会報告
1.2008~09年度 第2回理事会議事録
日時 2009年3月7日 13時~17時20分
場所 日本女子大学目白キャンパス

1) ワークショップの件
 (1) 2名のコーディネーター中心に準備が進められているとの経過報告があった。数名からの問い合わせがあり、セッション構成可能。司会者・報告者等の詳細を4月のNLで報告予定。会場使用料無料化のため、上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科国際関係論専攻との共催が承認された。
 (2) 前回ワークショップは学会誌第5号に小特集を、今回のワークショップは第6号に小特集を予定。
 (3) 今回のワークショップは実践講座的なものではなく、テーマセッションとすることが確認された。

2) 編集委員会報告
 (1) 編集委員長から、現時点で大学図書館は本学会誌を27館が所蔵し(前回報告より23館増)、県立図書館も2館ほど所蔵しているとの報告があった。学会誌の販売として、アマゾンへの手続きが進行中。
 (3) 学会誌の発行サイクルが確認された。
 (4) 学会誌広告依頼先として、過去の掲載・依頼社以外にも打診することが確認された。

3) 学会誌ガイドラインの件
 (1) 2008年10月2日修正の「執筆要項」が示され、他領域にまたがる本学会では、参照文献表示についてそれぞれの分野の慣行にしたがうことでよいということが確認された。英文についてはシカゴスタイルを踏襲。
 (2) 査読規定案について検討、確認された。
 (3) 今後の学会誌編集に協力していただく「編集顧問」案が提起され、承認された。
 (4) 査読者・編集顧問等の公開が検討され、当分の間本学会では現状通り公開しないことが確認された。

4) 電子化の件
  小林会長から、学会誌3、4号はすでにCiNiiに掲載されていることが報告された。

5) 第7回大会の件
 (1) 吉田理事よりパネリスト案が提示された。
 (2) 北星学園大学へ4月に公開講座補助金を申請することが報告された。
 (3) シンポジウムタイトルは、「アイヌのオーラルトラディション」に決定。

6) 学会倫理規程の件
 (1) 酒井理事から、『著作権ハンドブック』や他学会を参照して作成した「倫理的問題に関する指針(素案)」が提出された。
 (2) 他国の状況などを周知すること、実践する会員の方々の意識を高める目的などもあり、今後、NLなどで各国の情報を提供する方向が提案された。
 (3) 「倫理的問題」について継続して審議を続けることが確認された。

7) 次期理事選挙の件
  前回の選挙担当者から選挙の流れが説明され、現事務局長を中心に選挙の作業を進めていくことが確認された。

8) ニューズレターの件
 発行のスケジュールと内容が発表された。

9) 会計
  前回理事会以降の入金等の報告。会計担当より、今年度分の現時点での入金
は152名(一般84名、学生他68名)であり、全体の60%台の納入率(前年度同様)であること、4月1日付で未納入の会員へ督促状を郵送する予定であることが報告され承認された。

10) その他
  次回理事会の日程について確認した。

2.2008~09年度 第3回理事会議事録
日時 2009年7月4日 10時~12時55分
場所:上智大学四谷キャンパス

1) 会計報告
 川又理事から、電子化によって学会誌著作権料収入があったこと、現時点で、238名(79%が会費納入済み)の会員数であること等が報告された。

2) ワークショップの件
 蘭理事から、当日午後開催のワークショップについての説明があった。

3) 第7回大会の件
 吉田理事から、第7回大会のシンポジウムの説明があり、コメンテーターの人選について報告・承認された。分科会の報告順序を決定するとともに、報告時間20分、質疑応答5分とすることにした。
 北星学園から補助金20万円を受けることが報告された。

4) 編集委員会報告
 舛谷理事から第5号の編集状況の報告があった。
 「聞き書き資料」の定義について話し合ったが、様々な点についてさらに検討する必要があり、継続審議とした。アマゾンでの委託販売について協議した。

5) 学会誌ガイドラインの件
 学会誌ガイドラインが提案され大枠を承認した。本案を総会に諮ることにした。

6) 学会倫理規程の件
 酒井理事から倫理規定についてはなお検討中との報告があり、これまで話し合った内容紹介を次号のNL16号に掲載することにした。

7) 次期理事選挙の件
 野本選挙管理員会委員長から経過についての報告があった。選出理事を招集し、その際に次期会長ならびに推薦理事を決定することを確認した。

8) ニュースレターの件
 7月末発行を予定。担当理事および掲載内容について確認した。退会者名については理事会で報告し議事録に残すが、NLには掲載しないことを確認した。

8) その他
 次回理事会は、9月12日(土)10:30~12:00、北星学園大学で開催することになった。


(5) 事務局便り

1.会員異動
(非掲載)

2.【会計から】2009年度会費納入のお願い
 いつも学会運営へのご協力ありがとうございます。会計担当です。2008年度の会費納入率も、会員の皆様のご協力のおかげで前年度水準を維持できました。
 さて、本学会の2009年度の会計年度は、2009年7月1日から2010年6月30日までとなっております。この会費には該当年度の学会大会参会費・学会誌代等が含まれております。新年度2009年度会費の納入をお願いいたします。学会大会時のお支払いは、大会のみ参加者・新入会者などとの区別のため、受付での混乱を招きやすいので、既会員の方につきましては、できるかぎり事前に郵便振替等による納入をお願いいたします。振り込み用紙には住所・氏名・電話番号・電子メールアドレス等をご記入ください。また、郵便振替の控えで領収書に代えさせていただきます。控えは必ず保管してください。 
 また、2008年度以前の会費を未納の方は、2009年度会費と併せてご入金くださいますようお願いいたします。入金確認の後、既刊の学会誌などをお送りいたします。本学会では会則により、2年間会費を未納の方は自動的に退会の扱いとなります。したがって、2007・2008年度(2007年7月1日~2009年6月30日)の会費2年度分をまだお支払い頂いていない方につきましては、今回のニュースレターが本学会からの最後のご連絡となります。学会の運営は、会員の皆様の会費で成り立っております。ご協力のほど重ねてお願いいたします。 
〈会費〉一般会員 5,000円 学生会員・その他 3,000円
〈振込先〉ゆうちょ銀行 口座名:日本オーラル・ヒストリー学会
口座番号: 00150-6-353335
 すでにご存じの通り、平成21年1月5日から、ゆうちょ銀行と全国の金融機関との相互振り込みが可能になっています。本学会の情報は以下の通りですのでご参照ください。
銀行名:ゆうちょ銀行、金融機関コード:9900、店番:019、店名(カナ):〇一九店(ゼロイチキュウ店)、預金種目:当座、
口座番号:0353335、カナ氏名(受取人名):ニホンオーラルヒストリーガツカイ
 ●従来の記号・番号は上記の通りで変わりありません。
(ゆうちょ銀行口座間の振替はこの記号・番号が使えます)。
 本学会の会計や入金確認などは、会計担当の川又俊則(059-378-1020:鈴鹿短期大学代表番号、もしくはkawamatat[at]suzuka-jc.ac.jp)へお問い合わせください。

JOHAニュースレター第15号

第7回オーラル・ヒストリー学会年次大会が、はじめて北海道で開かれます。
大会報告者募集!!
http://joha.jp/?eid=99

【目次】
(1) 第7回大会案内
(2) JOHA第5回ワークショップのお知らせ
(3) 理事会報告
(4) 理事選挙のお知らせ
(5) 会員からシンポジウムのご案内
(6) 編集委員会からお知らせ
(7) 会計からのお願い
(8) 事務局から

(1) 第7回大会案内

日時:2009年9月12日(土)~13日(日)
会場:北星学園大学 札幌市厚別区大谷地西2-3-1
http://www.hokusei.ac.jp

 第7回大会は、JOHAの年次大会としては初めて北海道で開催されることになりました。北海道は先住民族アイヌの豊かな口承の伝統の地であると同時に、和人による同化政策によって言葉や文化を奪われたアイヌの人々の記憶の地でもあります。アイヌ文化振興の気運の高まる現在、人々は多様な、時には斬新な形態で「語ること」によって民族の過去、現在、そして未来をどのように紡ごうとしているのか。シンポジウムは、報告者それぞれの個人史を通して、アイヌのオーラル・トラディションの今を参加者と共有する時間とする予定です。多くの会員のご参加を期待いたします。(研究活動委員会:第7回大会担当 吉田かよ子)

大会プログラム
http://joha.jp/?eid=102

(2) JOHA第5回ワークショップのお知らせ

http://joha.jp/?eid=100

(3) 理事会報告

1.2008~2009年度第1回理事会報告
日時:2008年11月29日13:00~16:00
場所:日本女子大学

議事録
0) 2007~2008年度第5回議事録承認
1) 第6回大会について
(1)大会全体について
参加者延べ100名、4セッションのうち沖縄戦にかんする三報告があった第一分科会、研究実践交流会に参加者多数、シンポのテーマは今後深めていきたい
(2)大会会計について
(3)今後の課題
 大会のもちかたに関連して学会の性格および運営方法について、さまざまな意見が交わされた。
2) 2008~2009年度理事会体制の確認
 昨年度の体制を維持する。7回大会、または東京、あるいは関西でミニシンポなどの開催を企画する。今年度は来年6月、7月ころミニシンポ、ワークショップなどの企画の実現を予定し、次回理事会に担当者は企画案を提案する。
3) 研究活動委員会報告
 第7回大会は2009年9月12・13日に開催12日は遠方からの参加者の便を考慮して11時から理事会にし、午後に分科会、シンポを設定。シンポテーマは「地域とオーラルトラデイション」としてアイヌ民族をめぐる問題をとりあげる。
4) 編集委員会報告
(1)永久保存本、各号10冊は事務局に保存する。
(2)寄贈本について
(3)会誌販売は丸善を通じて行うよう手続きが完了した。アマゾンにリストアップし宣伝販売する手続きも完了。
(4)(学術定期刊行物)科研費成果公開促進費の申請をおこなった。
(5)投稿論文・査読、論文スタイルのガイドラインについての提案がなされた。
5) オーラルヒストリー研究ガイドラインについて
 論文ガイドラインの作成に関連してオーラルヒストリーに関する倫理や著作権などさまざまな規定を委員会を設置して検討することになった。
6) 学会誌電子化について
 12月末を目途に1号、2号の寄稿者への電子化許諾作業を続けていることが報告され、CiNiiでの論文本文の電子化は許諾を得られた人に限ることが確認された。
7) ニュースレターの担当者の確認
8) 会計報告
9) 事務局報告

2.2008~2009年度第2回理事会報告
日時:2009年3月7日13:00~17:20
場所:日本女子大学

議事録
0) 2008~09年度第1回議事録承認
1) ワークショップの件
(1)2名のコーディネーター中心に準備が進められている。数名からの問い合わせがあり、セッション構成可能。司会者・報告者等の詳細を4月のニュースレターで報告予定。会場使用料無料化のため、上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科国際関係論専攻との共催が承認された。
(2)前回ワークショップは学会誌第5号に小特集(原稿自体は蘭理事が集約し、4月末に揃える予定)を、今回のワークショップは第6号に小特集を予定。
(3)今回のワークショップは実践講座的なものではなくテーマセッション。次年度以降は、このようなテーマセッションならば、学会大会のなかに位置づける可能性もあること、ワークショップは従来のような実践講座的なものの開催を検討することが確認された。
2) 編集委員会報告
(1)現時点で大学図書館は本学会誌を27館が所蔵し(前回報告より2 館増)、県立図書館も2館ほど所蔵。所蔵可能大学については、今後の寄贈が承認された。学会誌の販売として、アマゾンへの手続きが進行中。
(2)学会誌の発行サイクルが確認された。
(3)学会誌広告依頼先を確認した。
3) 学会誌ガイドラインの件
(1)2008年10月2日に修正された「執筆要項」が示され、他領域にまたがる本学会では、それぞれの分野の慣行にしたがうことでよいということが確認された。英文についてはシカゴスタイルを踏襲。
(2)査読規定について確認。
(3)会長・編集委員長経験者(および分野別のバランスを考えたメンバー)を「編集顧問」(任期無期)として、今後の学会誌編集にご協力いただくことが提案され、承認された。
(4)査読者・編集顧問等の公開が検討され、他学会の状況等などを見た上で、当分の間本学会では現状通り公開はしないことが確認された。
4) 電子化の件
 学会誌 3,4号はすでにCiNiiに掲載されていること、および1,2号の執筆者についての許諾状況について報告された。
5) 第7回大会の件
(1)前回理事会で提案した内容とは大きく異なる内容を検討中であることがパネリスト案として提示された。
(2)担当の吉田理事と清水理事にシンポジウム案の最終的議論を一任した。
(3)会場校の北星学園大学へ公開講座補助金を申請することが報告された。
(4)シンポジウムタイトルは、「アイヌのオーラルトラディション」に決定。
(5)「日本以外の先住民族問題(外国のマイノリティ)」という内容での自由報告を集めた分科会を企画し、ニュースレターで公募。
6) 学会倫理規程の件
(1)話し手に対する倫理、アーカイブ構築のための倫理などがとくに重要であることが示され、指針(素案)や日本や英国・豪州などの状況その他の質疑応答がなされた。
(2)ニュースレターなどで各国の情報を提供する方向が提案された。
(3)理事会で拙速に指針案をまとめて提

JOHAニュースレター第14号

第6回日本オーラル・ヒストリー学会年次大会 盛況のうちに閉幕
 「第6回日本オーラル・ヒストリー学会大会」は、10月11日(土)、12日(日)の両日にわたって慶応義塾大学三田キャンパスで開催されました。4分科会と実践交流会では、いずれも活発な報告や議論が交わされました。大会2日目、午後からは「オーラルヒストリーと<和解>」と題するシンポジウムが開かれ、グアテマラでの大量虐殺事件や満州移民、差別問題を素材として、熱心な討議が繰り広げられました。なお、大会を通しての参加者は100名を越えています。
 来年度の年次大会は、2009年9月に北海学園大学で開催される予定です。会員のみなさまの報告申し込みをお待ちしております(「お知らせ」をご覧ください)。

【目次】
(1) 第6回年次大会報告
1.第6回大会を終えて
2.第1分科会
3.第2分科会
4.第3分科会
5.第4分科会
6.研究実践交流会
7.第6回大会概要(英文)
8.大会に参加して

(2) 国際オーラル・ヒストリー学会に参加して

(3) 第5回総会
1.2007年度事業報告
2.2007年度予算案訂正
3.2007年度決算報告
4.2007年度会計監査報告
5.2008~09年度理事会構成
6.2008年度事業計画
7.2008年度予算
8.会則及び理事選挙規程の改定

(4) 第5回理事会報告

(5) ワークショップのご案内

(6) お知らせ
1.第7回大会について
2.会計から
3.第5号投稿募集
4.会員異動

(1) 第6回年次大会報告

1.第6回大会を終えて 有末賢(慶應義塾大学)
 10月11日(土)と12日(日)の両日、慶應義塾大学・三田キャンパスにおいて、日本オーラル・ヒストリー学会第6回大会が開催されました。11日午前中は、少し雨が降りましたが、大会が始まってからは天候にも恵まれ、2日間で延べ90名ほどの参加者がありました。自由報告部会は4部会、計18人の報告者で、それぞれの会場で活発な議論が展開されました。初日の研究実践交流会「オーラル・ヒストリー史料の収集、保存、公開」にも多くの方々が参加されて、各自の貴重なオーラル・ヒストリー調査や史料について研究の交流が行われました。また、2日目の午後にはシンポジウム「オーラル・ヒストリーと<和解>」というテーマで、興味深い報告や討論が展開されました。
 今までの学会大会においては、「オーラル・ヒストリー」という用語や概念、研究の方法や分析の意義、歴史学における意味、社会学・人類学における意味など、日本において「産声」を上げた学会の存在意義を主にアッピールしてきました。そのことは、学会を立ち上げた以上、必要でもあり、重要でした。しかし、今回の第6回大会においては、単に外側に対してのアッピールだけではなくて、オーラル・ヒストリーを研究するわれわれ自身にとって、オーラル・ヒストリーとは何なのか? 戦争や紛争、病気や死別など生身の人間たちの「声」を集めていくことと、話すこと、聞くことを通して、何が生み出されてくるのか、といった実質的な議論に入ることが課題であると認識しました。そこから、「オーラル・ヒストリーと<和解>」というシンポジウムのテーマが、開催校理事である清水透先生から提案されました。司会と討論者を務めたわれわれの意を十分に汲み取っていただいた3人の報告者の方々は、それぞれの調査実践の現場で経験されてきたオーラル・ヒストリーと<和解>という課題について、実験的な報告がなされました。もちろん、虐殺や差別の問題、「死と死別」など「和解などあり得ない」という立場もあるでしょう。その意味で、「和解」など存在しないという立場も認め、含めることで、<和解>という表現を使用しました。<和解>はある意味で、永遠の課題ですし、いつまでも問い続けるしかないのかもしれません。オーラル・ヒストリーは、単なる資料の問題でもないし、歴史記述の問題だけでもありません。一見「唐突」に見えるかもしれませんが、<和解>という人間の根源的問題とかかわっていることを問題提起しようと思ったわけです。
 慶應義塾大学は1858(安政5)年、福澤諭吉による小さな蘭学塾から始まって、今年(2008年)で創立150年を迎えました。三田に塾を移したのは10年後の明治維新の時でしたが、その歴史のあるキャンパスで第6回大会が開催されたことも意味のあることだと思っています。ただし、塾内には学会会員も少なく、充分な大会準備やきめ細かいご案内ができなかったことをお詫びいたします。マイクや機械の整備などにおいても不都合が生じ、皆様に大変ご迷惑をおかけしました。最後に準備から受付、進行、後片付けにいたるまで担っていただいた若い大学院生や会員の皆様、本当にどうもありがとうございました。会長以下理事の皆様方にもお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。

2.第1分科会:「<戦争体験>とオーラル・ヒストリー」
 第一報告 木村豊「東京大空襲の記憶に関する一考察―1945年3月10日を生きた家族への聞き取り調査からー」では、東京大空襲に関するマスター・ナラティブの不在であるという認識に立ち、空襲遺族会の一つの家族にインタビュー調査を行い、大空襲の記憶がどのように継承されているかを読み解こうとした。いままでの戦争体験の被害者たちの記憶の継承という時には、その空襲をどのように逃げ回ったかなどの体験の語りが主であったが、発表では家族という「私的な空間」の中で、<戦争体験>がいかに捉えられ継承さ、それぞれの人生にどのような意味を持っていたかを解明しようとした点がユニークであった。東京大空襲を継承することの重要性が近年言われている時に、新しい視点から空襲体験の記憶を掘り起こす発表であった。
 第二報告 八木良広「沖縄線を語り継ぐ(1)オーラル・ヒストリー実践としての沖縄線研究」では、沖縄戦についての実証研究をしている石原昌家氏にインタビューし、沖縄戦の記憶をどのように解釈するかについて発表された。事実と真実を見分ける方法が重要であると述べられ、証言を振るいにかける必要性が指摘された。また、事実は必ずしも真実ではないことなどが、「集団自決」をめぐる証言について、当時の駐在巡査の発言と他の住民の証言との関係性について言及され論じられた。そのように論じる時には、<戦争体験>の語り手の立ち位置も問題が重要であると指摘された。
 第三報告 石川良子「沖縄戦を語り継ぐ(2)-「戦争」と「日常」をつなぐ」では、平和活動に参加する学生たちにインタビューを試み、戦争体験を持たない現代若者がどのように戦争体験を語り継ご
うとしているのかについて発表した。沖縄国際大学の近くで起きた「ヘリ事件」(「事故」とは呼ばない)をきっかけに、平和の重要さを実感し、「笑顔で生きたい」という平和活動「スマイルライフ」の活動として、平和ガイドとしている若者たち。その若者たちにとっては、平和活動を特別なものと見なすプロの活動家とは違う、大学生たちの、自分たちの身近にある問題から発展したこのような活動の今後の可能性に論じられた。
 第四報告「沖縄戦を語り継ぐ(3)-戦争体験の表象方法」では、戦争体験を継承する難しさとして、体験者の「特権性」の存在があり、また、語り継ぐ人々は体験の特権性を強調し、体験者をヒーロー化する傾向があることが指摘された。その批判に基づき、どのような<戦争体験>の語り継ぎの方法があるかを、南風原文化センターへのフィールド調査に基づき発表している。このセンターの遺品の展示の仕方に見られる「作品化」により、見学者が体験に直接関わる工夫などがあるという点が説明された。また、語り部を観察する説明員と来館者との相互作用という「対話」を通して語りが継承されるなどの例が指摘された。時間が限られていたものの、部会の後でも活発な質疑応答があった。<戦争体験>の語りの継承の仕方について、幽霊話などのようにファンタジー化するなどの方法もあるのではないかなどの指摘。また、事実と真実の違いをどのように検証するのかなどの議論も展開された。(塚田 守)

3.第2分科会:「オーラル・ヒストリーの多様な展開」
 第2分科会は4人の報告者による興味深い報告が並び、テーマはそれぞれ異なるもののオーラル・ヒストリー研究の幅広さとおもしろさを示してくれる分科会となった。第一報告者の小林奈緒子氏(島根大学図書館)は「運動史におけるオーラル・ヒストリー研究の有効性」と題して長崎被爆者運動史における戦災者組織とその活動をめぐるオーラル・ヒストリー調査を紹介された。「戦争体験を抱えて人々がどのように生きてきたのか、何を求め、訴えたかったのかを聞き取りによって読み解く」試みはオーラルヒストリー研究の可能性を深めていくことができるだろう。
 第二報告者の下田健太郎氏(慶應義塾大学大学院)は「水俣埋立地の石像物を創出するライフヒストリー」として、水俣病被害者家族で水俣湾埋立地後の公園に二体の石像を建立した女性のライフヒストリーからその「不自然な読点」に注目し水俣病認識をめぐる問題を浮かびあがらせた。とくに語りのなかの「不自然な読点」への注目というユニークな着眼は今後の研究が期待される。
 第三報告者の郷崇倫氏(JAリビングレガシー代表)による「JAリビングレガシー、オーラルヒストリー、そして日系二世朝鮮戦争退役軍人(JAリビングレガシーのオーラルヒストリーを通じた活動と対話の実績報告)」はJAリビングレガシーというアメリカ合衆国を拠点とするNPOのオーラルヒストリー活動を紹介された。日系アメリカ人だけでなく日米両国でのオーラルヒストリー活動を実践する方針が披露された。
 清水美里氏(東京外国語大学大学院)は「八田與一物語の形成とその政治性-日台交流の現場からの視点」と題して、戦前期に台湾南部の鳥山頭ダムを中心にした水利事業である嘉南大?を手がけた八田與一をめぐる台湾と日本での語られ方を比較検討し、物語の変容を政治性の観点から検討した。八田物語の両国における差異の縮減という指摘は語りの分析に比較研究の視点をとりいれて浮上したものであり、オーラルヒストリー研究の新たな展開可能性が見いだされる。各報告者への質疑が出て、報告者と聴衆との議論が活発であったが、最後に4人に共通する質問としてオーラルヒストリーへのパッションを尋ねる問いかけがあり、各人の研究への動機が披露された。各報告者が表明したオーラルヒストリー研究へのきっかけはそれぞれのバックグラウンドの反映された個性的な回答であり、感動的なものであった。(小林多寿子)

4.第3分科会:「ポスト・コロニアルとオーラル・ヒストリー」
 定刻より7分ほど遅れて、分科会が始まった。開始当初はフロアの参加者も少なかったが、半ばを過ぎるころには、3、40人前後の参加者となった。まず、松岡昌和氏(一橋大学大学院)の報告タイトルは、「日本軍政下シンガポールにおける「『日本文化』」」である。日本軍政下における音楽工作、とくにラジオを通じて行われた音楽教育のプロパガンダの理念と実態を明らかにしたもので、カタカナ新聞『サクラ』における日本語教育やラジオで唱歌を流す皇民化政策が進められた。National Archives of Singapore所蔵のOral History Collectionのなかの証言が興味深いが、今後は、証言データの質を検討したうえで、詳細に見ていくことで厚みのある研究になると思われる。
 第2報告の北澤慶氏(大阪大学大学院)は、「“在韓日本人妻”の相互扶助組織・『芙蓉会』」と題して、当事者の一人のライフストーリーから、「芙蓉会」の意義を検討している。日本への窓口であり、日本との出合いを感じられる場でもあることが確認されたが、今後はさらに多くの当事者に調査を続けて芙蓉会の重層的な意義をあきらかにすることが期待される。
 続く南誠氏(日本学術振興会特別研究員)は中国残留日本人についてである。「社会運動の中の『中国残留日本人孤児』」と題し、とくに国家賠償訴訟運動における「棄民」と「戦争犠牲者」のモデル・ストーリーに対して、それとは異なるストーリーが生まれつつある現状が指摘された。
 第4報告と第5報告は、在日朝鮮人の「民族カテゴリー」をめぐる問題であった。橋本みゆき氏(横浜市立大学非常勤講師)は、在日二世女性の結婚をめぐって、「ある在日韓国・朝鮮人女性のライフストーリーにおける親密圏の条件」と題する報告を行った。配偶者選択に悩む女性のライフストーリーから、親密圏の行為において民族属性がどのように影響したのかを検討した。安易な「文化」や「民族」による理解ではなく、具体的な社会関係のなかでエスニシティを理解する必要性を説く。また、李洪章氏(京都大学大学院)は、「カテゴリーを拒否する『ダブル』のライフ・ストーリー」と題して、在日朝鮮人と日本人の間に生まれた「ダブル」の存在に焦点をあて、一人の「ダブル」の女性のライフストーリーから、彼女が「民族」カテゴリーから自由な現在の考え方にどのように至ったのかを読み解いている。そこにあるのは、個人と個人の対話を重視し民族カテゴリーの解体を目指す姿勢であった。
 最後の30分ほどの全体討論では、それぞれの報告に質問がでるなど、5人の報

JOHAニュースレター第13号

 日本オーラル・ヒストリー学会第6回大会が、2008年10月11日(土)、12日(日)の二日間にわたって、慶応義塾大学三田キャンパスにおいて開催されます。みなさま、お誘い合わせのうえ、ふるってご参加ください。

【目次】

(1) 第6回年次大会
1.大会プログラム
2.シンポジウム報告要旨
3.自由論題報告要旨
4.会場案内

(2) ワークショップ報告

(3) 理事会報告

(4) 事務局便り

(1) 日本オーラル・ヒストリー学会・第6回年次大会

1.大会プログラム
http://joha.jp/?eid=93

2.シンポジウム報告要旨
http://joha.jp/?eid=94

3.自由報告要旨
http://joha.jp/?eid=94

4.会場案内
 慶應義塾大学三田キャンパス・マップ
http://www.keio.ac.jp/ja/access/index.html

(2) 第4回ワークショップ報告

 去る7月5日(土)、同志社大学において「JOHA第4回ワークショップ」が開催されました。第1部実践講座では岸衛氏を迎え、被差別部落における聞き取りの経験を踏まえて、聞き取り・テープ起こし・論文化というライフストーリー研究の全過程を披露していただき、第2部テーマセッションでは、「<戦争の記憶>を継承するとはいかなる営為か」という共通課題に関し3名の会員によって自らの調査経験にもとづく報告が行われました。第1部、第2部ともに、素晴らしい報告と熱心な質疑・討議が5時間にわたって交わされました。首都圏以外での開催、若手会員への公募によるテーマセッションという試験的な試みにもかかわらず、参加者は60名を超えて大盛会でした。今後とも、このような試みがJOHAの定例活動として積み重ねられることを念じております。
 最後に、会場をお世話いただきました同志社大学鰺坂学先生には厚く御礼申し上げます。なお、会場情報で混線があり、会場に迷われた方がいらっしゃったようです。主催者として配慮が足りなかったことを深くお詫び申し上げます。(文責:蘭信三)

テーマセッションの報告(高山真)
1.テーマセッションの狙い
 近年、<戦争の記憶>という問題は、人文・社会科学の様々な領域で活発に論じられてきた。そして、この議論と深く関連するかたちで、戦争の記憶を継承しようとする個人的、組織的な実践活動や、その可能性を考える研究が営まれている。しかし、戦争体験者の高齢化という現実をはじめ、ポストコロニアルをめぐる議論等が進行中の現在、戦争の記憶の継承には議論すべき多くの問題が残されている。なかでも、直接の戦争体験をもたない若者たちにとってそれは重要課題といえる。職業、世代、性、国籍、あるいは党派性を越え、<いま―ここ>に生きるものとして、報告者・参加者がともに<戦争の記憶>を継承することの可能性について、等身大の立場から論じる場を設定することがセッションの狙いであった。

2.報告概要と主要な質疑
 当日、第一報告者である門野里栄子は、研究者という立場から自身も沖縄の平和活動に関与し、その活動の担い手へのインタビュー調査に基づき、「体験」、「当事者」をキーワードに「語られない経験を継承するとは」をテーマとした話題提供を行った。第二報告者である上原立人は、社会福祉士を務めるという立場から、具体的な臨床事例として一つのジェノグラムを紹介し、精神的・身体的外傷と嗜癖行動について検討する。さらに沖縄出身者という立場から、この問題を社会病理として捉えることで、沖縄戦における戦時暴力と、戦後の私宅監置、障害者の関係という分析の視角の可能性を紹介した。第三報告者である高山真は、長崎における原爆被災の生存者へのインタビュー調査を事例に、被爆者という主体性の構築、インタビューの場における語り手と聞き手の関係性の変化、継承の営みに携わる生存者による継承観の変化を中心として、原爆の記憶の継承という問題にたいする話題提供を行った。
 上記報告にたいして、コメンテイターの八木良広から「個々の報告者が抱く理想的な〈継承〉のイメージについて」、フロアから「加害/被害という枠組みに関する認識について」「語り手による語りと聞き手の自己認識に関して」等の質疑があり、個々の調査経験及び事例に基づく応答のやりとりがみられた。

3.テーマセッションを振り返っての感想
 若手が発案・運営を担うテーマセッションという学会初めての試みにおいて、コーディネイターという貴重な経験を御提供頂けましたこと、また、当日は猛暑のなか私たちが予想した以上に多くの方々がご来場くださったことに心から感謝を申し上げます。
 セッションの内容については、議論の場では十分に語り尽くされなかった問題が数多く残されているように思います。また、一つの目標であった「〈いま―ここ〉に生きる若者たちが等身大の立場から議論する」ことが、どの程度実現できたかという点に関して、コーディネイターとしての力量不足を痛感しております。しかし、セッションでの議論、あるいは懇親会場での語り合い等をとおし、議論の内容に関しては賛否両論あれ、多くの方々が今回のテーマセッション企画に高い関心を示して下さったと認識することができました。
 「若者たち」の自発的な運営による議論の場が、今後、より質的な発展をみることを願います。

(3) 理事会報告

第4回(2007年~2008年)理事会議事録
日時:2008年7月5日10:30~13:00
場所:同志社大学(新町キャンパス)臨光館
出席:蘭、有末、小林、川又、酒井、佐渡、塚田、吉田
委任状:野本(事務局長)、桜井、早川、舛谷、好井、清水
当日書記:酒井

第3回理事会議事録確認
 第3回理事会(2008年3月9日)の議事録が承認された。

議題
1.第6回大会の件
1) プログラム編成
 自由報告については、5月15日が締め切りであったが、6月20日まで締め切りを延長し、最終的に18人の申し込みがあった。これまで会員でなかった報告希望者は2007年度からの会員となった。会費は1名を除いて入金済み。プログラムが決定された。
2) 託児室の件
 当日の大会会場では、託児にふさわしい環境(くつを脱いで上履きで過ごせる場所の確保)が整わないので、託児について問い合わせがあった場合は、近くの品川プリンスホテルにある小学館経営の「だっこルーム」〈託児料2000円/h〉を紹介する。

2.学会誌第4号の件
 以下の事柄が舛谷編集委員長の報告書に基づいて話しあわれた。
1) 『日本オーラル・ヒストリー研究』4号編