JOHAニュースレター第22号

JOHAニュースレター第22号

日本オーラル・ヒストリー学会第10回研究大会 (JOHA10)が、2012年 9月 8日(土)、 9日(日)の二日間にわたって、椙山女学園大学において開催されます。みなさま、お誘い合わせのうえ、ふるってご参加ください。

【目次】
Ⅰ.第 10回年次大会
1.大会プログラム /2.自由報告要旨
Ⅱ理事会報告
1.オーラル・ヒストリー学会第2回理事会議事録 /2.オーラル・ヒストリー学会第3回理事会議事録
Ⅲ事務局便り
1.会員異動 /2.2012年度会費納入のお願い
**************************************

Ⅰ.日本オーラル・ヒストリー学会第10回大会
Japan Oral History Association 10thAnnual Conference
2012年 9月 8日 (土)・ 9月 9日(日)
会場:椙山女学園大学

1.大会プログラム
第 1 日目 9月 8日 (土)
理事会 10:30~12:00
受付開始 12:00 G階のピロティ
※受付にて9日(日曜日)のお弁当販売を受け付けます。

自由報告 12:30~15:30
第1分科会(417教室)司会 小倉康嗣
1.文献資料散逸の補完としての聞き書き調査―1960年代のラジオ深夜放送を事例として(The interviewees filling up the lost fragments in the historical documents―A case study of the youth radio community emerged in the late 1960’s in Nagoya―)
長谷川倫子(東京経済大学)
2.オーラル・ヒストリーが伝えるテレビドラマの黎明期~生放送時代の現場から~(Oral History Enlightening the Dawn of Television Dramas: Behind the scenes of live drama broadcasting)
廣谷鏡子(NHK放送文化研究所専任研究員)
3. 別子銅山社宅街(鹿森社宅)における昭和の生活史(Life in a copper-mining town “Shikamori” in Bessi Area, Niihama, Japan)
竹原信也(新居浜工業高等専門学校)
4. 神明社神楽の歴史と言説(The history and the discourse of Shinmeisha-kagura)
川﨑瑞穂(国立音楽大学大学院)

第2分科会(416教室)司会 田代志門
1.統合失調症の子を抱える親たちの多様性(The diverse lived experience of parents of adult children diagnosed with schizophrenia).
青木秀光(立命館大学大学院)
2.1970年代後半に心臓ペースメーカーを植え込んで職場復帰した男性の働くことの難しさ(Difficulties experienced by a male who returned to work following the implantation of a pacemaker in the late )
小林 久子(藍野大学)
3.米国の医療通訳発展を支えた医療通訳士のオーラル・ヒストリーより(Oral histories of pioneers who shaped medical interpreting history in the United States of America)
竹迫 和美(国際医療通訳士協会)

第10回大会記念テーマセッション 15:40~18:00(418教室)
「日本のオーラル・ヒストリーの源流をたどる――地域女性史の歩みから」
報告 「地域女性史と聞き書き」(仮)伊藤康子(愛知女性史研究会、元中京女子大学短期大学部教授)
コメント 山嵜雅子(立教大学特任准教授、教育学)
司会 和田悠(日本学術振興会)
コーディネイト 山本唯人(政治経済研究所)

開催趣旨:
JOHAが設立されてから、今年で10回目の大会を迎える。JOHAでは、昨年度、開催されたオーラル・ヒストリー・フォーラムの成果を引き継いで、これまでの歩みを振り返り、その足場がどこにあるのかを検証すると共に、この学会が、今後、オーラル・ヒストリーの発展にとって何をなしうるのかを考え合う機会を設けたい。
そこで、本大会では、定例の研究実践交流会に代わる特別企画として、「第10回大会記念テーマセッション」を開催する。
テーマとして、日本におけるオーラル・ヒストリー実践の一源流である、地域女性史のあゆみに焦点を当て、実践的学知としてのオーラル・ヒストリーがどのようにはじまったのか、その原点に含まれていた課題や豊かな可能性を再認識すると共に、そこから、オーラル・ヒストリーの現在の姿を逆照射し、その役割と将来へ向けた可能性を考えたい。
報告者として、1977年、本大会の開催地である名古屋から、女性史研究の全国的ネットワークである「女性史のつどい」の発足を呼びかけ、その後も、名古屋を拠点に、女性史研究を続けてこられた伊藤康子氏をお招きし、「女性史のつどい」が何をめざしたのか、そこでは、どのような女性たちのどのような経験が描かれたのか、方法や残された課題などについて、当事者の立場からご報告いただく。
コメンテーターを社会教育の現場にも関わりながら、近年、京都人文学園についてのご研究をまとめられた、教育学の山嵜雅子氏にお願いする。
当日はフロア参加者も含めて、さまざまな視点・立場から、オーラル・ヒストリーの可能性や今後を語り合う機会としたい。多くの会員、関係者の方々の参加を期待する。

懇親会 18:15~20:15
場所:教育学部 E棟 F19(学食)
一般=4,000円、大学院生=2,500円

第 2 日目 9月 9日 (日)
自由報告 9:00~12:00

第3分科会(417教室)司会 野本京子
1.日系人オーラル・ヒストリー・インターネットサイトの利用方法――教育カリキュラムへの提言(Nikkei Oral Histories on the Internet Can Go a Long Way: Suggested Use in Classroom)
山本 恵里子(移民史研究家・大学講師)
2.オーラル・ヒストリーの著者性(authorship)をめぐって(Authorship in Oral History)
加瀬豊司(四国学院大学名誉教授)
3.移住労働者とその関与者の語りから見た日本語習得の促進要因(Factors, promoting Japanese language acquisition, examined through a narrative of migrant workers and consociates)
吹原 豊(福岡女子大学)

第4分科会(416教室)司会 滝田祥子
1.パレスチナ難民問題の歴史記述における文字資料と証言の位置(Positions of Written Documents and Testimony in the Historiography on the Palestinian Refugee Problem)
金城美幸(立命館大学ポストドクトラルフェロー)
2.ハンセン病に罹患した一人の捕虜の目を通じて見たカウラ事件(Cowra Breakout Seen Through a Prisoner of War Who Suffered from Hansen’s Disease)
山田 真美 (お茶の水女子大学大学院)
3.戦争体験を語りつぐストーリーの分析(Narrative analysis of the wartime experiences conveyed to others )
桜井 厚(立教大学)

総会 12:15~13:00 (418教室)
昼食休憩(受付時予約または持参):13:00~13:45

シンポジウム:14:00~17:00(509教室)
テーマ:語りから「いのち」について考える-聞き難いものを聞き、語り、書く
報告1 「災害のマスター・ナラティヴ-「がんばろう」と“I love New York”」 やまだ ようこ(立命館大学)
報告2 「いのちを支える看護者の語り」佐々木裕子(愛知医科大学)
報告3 「語りにくいこと―自死遺族たちの声」有末賢(慶應義塾大学)

司会 塚田 守(椙山女学園大学)
討論者  清水 透(前学会長)/ 山村淑子(理事、女性史家)
テーマ設定の趣旨:
身近な人、深くかかわった人を失う経験を持ち、人は死と向かい合い、初めて「いのち」について考えるのではないか。残された者の「失われたいのち」との関わる時、人は「いのち」について語り始め、生きていく意味について考え、いまの自分を再考するのではないか。このシンポジウムでは、3つの異なった分野のパネリストがそれぞれの立場から、残された者の「いのちについての語り」について、議論する予定である。
 第1のパネリスト、やまだようこ氏は、『喪失の語り』を書き、残された者がどのように死者とともに生きるかをテーマとしてきた。今回は、東日本大震災3.11のあとの「がんばろう、日本」を、アメリカ同時多発テロ9.11のあとの”I love America”と比較しながら、人は、どのようにして喪失から生成へと変換していくのか、「ナラティヴ(語り・物語)」の働きについて議論する。
 第2のパネリストは、佐々木裕子氏は、在宅看護を中心として死に至る人々のいのちを観てきた看護師としての経験を中心として、患者が死と向かい合う中で、本人の「病いの語り」がどうように話され、生きる意味付け行為に対して関係しているかについて述べ、身内が死に至る過程での家族や看護師の関わりはどのようなものかについて、看護師としての実践経験として、医療における語りの意味について語る。
 第3のパネリスト有末賢氏は、「自死の遺族の会」に深く関わり、フィールド調査をしている経験を中心にして、災害でも病気とは異なり、ある日突然、自らのいのちを絶った身近な人に深く関わり、残された者の意識について、社会学者の立場から論じる。自死の遺族たちは、その死について積極的に語るというよりはむしろ、隠すことが多いと言われている。ただ、同じ経験を共有できる「遺族の会」では、彼らは積極的に語る傾向がある。「遺族の会」で語られる語りとはどのようなものか、それを語る意味などについて論じる。

ご案内
1.発表時間
自由報告:報告30分程度、シンポジウム:報告30分、コメント15分、フロア討論60分
2.会場
椙山女学園大学 星が丘キャンパス
3.大会実行委員会連絡先
〒464‐8662 名古屋市千種区星が丘元町17-3 国際コミュニケーション学部 塚田守研究室気付 電話:052‐781‐5143 E-mail: mamoru[at]sugiyama-u.ac.jp
[入会および会費納入等に関する相談・問い合わせは日本オーラル・ヒストリー学会事務局へ]
4.大会参加費
学会員 無料/学会員以外 一般 2,000円 学生1,000円/シンポジウム参加のみ 無料
5.懇親会
9月9日(土) 教育学部 E棟 F19(学食) 一般=4,000円、大学院生=2,500円
6.自由報告
一発表30分程度とします。発表時間を厳守してください。なお、レジュメを用意される方は、50部程度ご用意ください。万一不足の場合、大会本部ではコピー等致しかねますので、ご了承ください。
7.クローク
学会本部(509教室)に荷物をお預けください。
8.会員休憩室
両日とも415教室。3階の学生控室には自動販売機などがあります。
9.喫煙室
2階のエレベーターの近くの外に「喫煙コーナー」があります。それ以外の場所ではすべて禁煙です。
10.昼食
大会第2日目の昼食については、食堂が日曜日なので、学会参加者は前日に弁当を申し込んでください。申込み者には引換券を渡します。総会の開始時にお弁当と引き換えます。
11.宿泊
基本的には各自で予約してください。地下鉄沿線なら30分以内に大学に着くと思います。比較的近く安価なもの(6,000~7,000円前後)として2つの施設をご紹介します。
1.メルパルクNAGOYA
〒461-0004 愛知県名古屋市東区葵3丁目16−16
052-937-3535
2. ルブラ王山
〒464-0841 愛知県 名古屋市千種区覚王山通8-18
052-762-3105
12.アクセス
椙山女学園大学ウエブサイト:http://www.sugiyama-u.ac.jp/sougou/access.html

2.自由報告要旨
第1分科会
1.文献資料散逸の補完としての聞き書き調査―1960年代のラジオ深夜放送を事例として(The interviewees filling up the lost fragments in the historical documents―A case study of the youth radio community emerged in the late 1960’s in Nagoya―)
長谷川倫子(東京経済大学)
1960年代末における日本のラジオの深夜放送ブームは大きな社会現象となったものの、放送史研究においてもこれを取り扱った先行研究は少ない。2010年から、名古屋の中部日本放送の番組についての資料収集を開始したが、資料の散逸は克服しなければならない課題であった。補完的またはそれ以上の情報提供者となったのは、当時のディレクターとDJたちであった。繰り返しのインタビューによって、社史には登場しない当時の実情を示す貴重な情報の収集が可能となり、放送史、文化史からみた若者向け深夜放送ブームの歴史的な意義についても考察する出発点となった。ここでは、放送におけるパイオニアたちにインタビューを行ったオーラル・ヒストリー研究の事例についての報告を行う。
2.オーラル・ヒストリーが伝えるテレビドラマの黎明期~生放送時代の現場から~(Oral History Enlightening the Dawn of Television Dramas: Behind the scenes of live drama broadcasting)
廣谷鏡子(NHK放送文化研究所専任研究員)
日本のラジオ放送は1925年、テレビ放送は1953年に始まった。放送の歴史はこれまでおもに編年体の資料によって記述・記録されてきたが、それだけでは歴史の本来持つダイナミズムを伝えきれない。放送には実に多くの業種が携わっている。多様な立場の個人によるオーラル・ヒストリーを、既存の文書・映像資料などとつきあわせることで、放送史をより立体的、多元的に再構成できるのではないか。NHK放送文化研究所では、NHK、民放を問わず放送人が旧知の放送人に向けて語った音声・映像記録を始め、650を超える人々の証言記録を保存している。これらを活用し、新たに収録した証言も加えて、放送史の新しい側面に迫りたい。この報告では、テレビドラマの黎明期、なかでもVTRが高額だった「生放送ドラマ」時代に着目し、オーラル・ヒストリーを主な素材に、実際に関わった人たちの「体験」から見えてくる、「正史」が伝えてこなかった新しいテレビドラマ史を提示する。
3.別子銅山社宅街(鹿森社宅)における昭和の生活史(Life in a copper-mining town “Shikamori” in Bessi Area, Niihama, Japan)
竹原信也(新居浜工業高等専門学校)
明治以降、全国各地に“近代的”な社宅街が形成されてきた。そこには企業の合理性の精神、労務管理、福利厚生といった旧来の鉱山集落とは明らかに異なる思想の影響がみられる。近年、社宅街の形成と変遷を明らかにする建築史学的アプローチからの研究が積極的に進められ、その先進性が再評価されるに至っている。その一方で、全国各地で鉱山や炭鉱は閉山しており、社宅街も取り壊されつつある。また、社宅街で生活していた人々も高齢化が進んでいる。本報告では、愛媛県新居浜市の別子銅山(1691-1973)の山間に作られた社宅街(鹿森社宅)の生活文化を、生活経験者の語りから紹介していく。
4.神明社神楽の歴史と言説(The history and the discourse of Shinmeisha-kagura)
川﨑瑞穂(国立音楽大学大学院) 
埼玉県秩父市の白久地域に、江戸期より伝承されている「神明社神楽」という神楽がある。この神楽には歌舞伎の影響があるとされ、伝承者たちもそのような認識で一致しているのだが、神楽を伝承する濱中彌傳冶氏のオーラルデータや、演目の中の特殊な神格「天下土君神」などから神楽の歴史を考察すると、この神楽には「歌舞伎的」とひとまとめにするには困難な、多彩な要素が存在することが判明した。しかも、彼らの重要視しない部分にこそ古い要素があるという興味深い構造を析出することができた。彼らが自身の伝承する神楽について語る内容と、その実際の歴史との間の齟齬をみることで、芸能伝承者の言説と実際の歴史との関係性について論じる。

第2分科会
1.統合失調症の子を抱える親たちの多様性(The diverse lived experience of parents of adult children diagnosed with schizophrenia).
青木秀光(立命館大学大学院)
統合失調症の子を抱える親と一言でまとめても、その生は多様である。多様であるがゆえにどのように親への支援体制を構築すればよいのか困難を極める。現在までに有効な支援方策が提出されていないところには一括りにできない困難さの存在がある。ひとつの手掛かりとして、その多様な親たちの主観的意味世界に接近し、彼ら/彼女たちがいかなる現実と対峙し、それをどのように意味づけているのかを丁寧に解きほぐす試みが必要である。本報告では、5人の親たち(母親2人と父親3人)へのライフストーリーインタビューから明らかになった点を親のジェンダー規範のモデルストーリー、段階論的障害受容言説、慢性的悲哀などから検討したい。
2.1970年代後半に心臓ペースメーカーを植え込んで職場復帰した男性の働くことの難しさ(Difficulties experienced by a male who returned to work following the implantation of a pacemaker in the late )
小林 久子(藍野大学)
心臓ペースメーカー植え込み術の社会的の認知が低い時代に、治療を受けた当事者は、職場で差別待遇と嫌がらせを受けながら仕事を続けてきた経緯があった。本研究の目的は、1970年代後半に心臓ペースメーカーを植え込んで大手企業の職場に復帰した当事者が、職場で体験した苦しみを言語化し、その体験の意味づけに立ち会うことであった。当事者は、会社と産業医は病気を信用しなかったという関係から出発し、やがて組織の判断は納得できるが、精神的に最も苦しいのは同僚からの差別であることに気づいていく。自己の役割を考え、希望を持って会社の中で生き抜いてきた当事者の、体験の意味を考えたい。
3. 米国の医療通訳発展を支えた医療通訳士のオーラル・ヒストリーより(Oral histories of pioneers who shaped medical interpreting history in the United States of America)
竹迫 和美(国際医療通訳士協会)
米国には世界最大最古の医療通訳士のNPOがある。そのNPOの創設者、歴代の会長および医療通訳発展に寄与してきた医療通訳士らのオーラル・ヒストリーを聴いた。報告者が医療通訳士である利点を生かし、アクティブ・インタビューの手法で特に内発的動機に焦点を絞ってインタビューした。語りをテーマ分析した結果、彼らが、NPOの創設および代表としてリーダーシップを取って来た内的動機に、生い立ちや家族、特に親の存在が大きくかかわっていることが明らかとなった。また、1990年代以降英語でコミュニケーションがとれない移民や難民出身の患者が急増し、医療通訳のニーズが顕著となったにもかかわらず、職業としての社会的認知度が低く、待遇も司法通訳と比べて低かったことに対して、彼らがアドボカシーのために立ち上がったことも明らかになった。

第3分科会
1.日系人オーラル・ヒストリー・インターネットサイトの利用方法――教育カリキュラムへの提言(Nikkei Oral Histories on the Internet Can Go a Long Way: Suggested Use in Classroom)
山本 恵里子(移民史研究家・大学講師)
オーラル・ヒストリーは1990年代頃からデジタル録音・録画の進歩とインターネットの普及によって、新たな域に達した。Quiet Americansと呼ばれていた日系アメリカ人たちは、1970年代からその重い口を開き始めていたが、このデジタル化の波にのり、インタビューのデジタル・アーカイヴ化とインターネット上での公開が進んだ。インタビューに応じる日系人は、実名と顔・声が載ることも辞さず、自らの声はアメリカ社会の歴史だと自負する。このようなリソースを日本の教育に積極的に用いることで、我々は学生の日系人史への興味を深めるとともに、オーラル・ヒストリーになじませることが可能になってきた。ここではDiscover NikkeiやDenshoなどのサイトを授業に利用し、学生にアクティヴな学習をさせるカリキュラムを提言したい。
2.オーラル・ヒストリーの著者性(authorship)をめぐって(Authorship in Oral History)
加瀬豊司(四国学院大学名誉教授)
聞きとり場面でオーラル・ヒストリアン(H)の視点と対象者(N)の内面はどう関わるのだろうか。Nの語りの編集(増幅、縮小、省略等)も念頭に置き、それを解釈・記述する際、著者Hの認識からくるその著作は“真実”なものとして描かれるだろうか。今回著者の視点形成している暗黙の前提に批判的省察(reflexivity)を加える事により、日系アメリカ人2世史への“再訪問”(含住込みインタビュー等参与観察)をNとの「異文化間コミュニケーション」として自覚する。このため著者の日本文化的視点に方法論的拘束を意識しつつ、2世の意味世界をオーラル・ライフ・ヒストリーの手法によってPh.D. Dissertationの形で作品化(craft)したエスノグラフィーを使ってみる。
3.移住労働者とその関与者の語りから見た日本語習得の促進要因(Factors, promoting Japanese language acquisition, examined through a narrative of migrant workers and consociates)
吹原 豊(福岡女子大学)
2005年から7年間にわたって、茨城県にあるインドネシア人コミュニティでのフィールド調査を続けている。調査の主な目的は移住労働者の日本語習得の実態とそれを取り巻く要因を明らかにすることである。日本語習得の実態把握に際して、比較的大規模でありかつ中心的に行ったのはOPI(Oral Proficiency Interview)による口頭能力の評価であり、結果として日本語習得が概して初級レベルにとどまっていることが分かったが、ごく一部に中級者の存在も確認された。本報告では中級者のうちで移住労働者自身とその関与者である日本人を対象に聞き取りができたものを中心に取り上げ、双方の語りをもとに日本語習得の促進要因について考察した結果を紹介したい。

第4分科会
1.パレスチナ難民問題の歴史記述における文字資料と証言の位置(Positions of Written Documents and Testimony in the Historiography on the Palestinian Refugee Problem)
金城美幸(立命館大学ポストドクトラルフェロー)
パレスチナ難民問題はパレスチナ/イスラエル紛争における重要課題の一つである。パレスチナ難民の発生の主要原因は、1948年、イスラエル国家独立を目前とするなか、ユダヤ人がパレスチナのアラブ系住民に対する追放作戦を実行したことである。その後の周辺アラブ諸国のパレスチナ侵攻も失敗し、以降、イスラエルとアラブ諸国との間で包括的な和平が結ばれないままであり、パレスチナ難民の要求である故郷への帰還も実現していない。
 本報告では、イスラエル建国に伴って離散・難民化し、一部はイスラエルの軍事占領下に置かれているに至ったパレスチナ人社会のなかで、パレスチナ難民問題についてのナショナルな歴史記述がどのように構築されてきたのかを検討する。イスラエル人歴史家たちは、国家アーカイヴ史料に基づいて「実証研究」であることを自己主張することによって、証言を活用するパレスチナ人の歴史記述を排除してきた。本報告では、このようなパレスチナ人社会の状況のもとで進められてきた難民化の経験についてのオーラル・ヒストリー・プロジェクトの意義と課題を検討する。
2.ハンセン病に罹患した一人の捕虜の目を通じて見たカウラ事件(Cowra Breakout Seen Through a Prisoner of War Who Suffered from Hansen’s Disease)
山田 真美 (お茶の水女子大学大学院)
1944年8月5日、豪州のカウラ第十二戦争捕虜収容所において1104名の日本人捕虜が集団自決的な暴動を起こし、その結果、234名の日本人と4名のオーストラリア兵が命を落とした(カウラ事件)。筆者は1990年代半ば以来、暴動を生き残った捕虜のもとを訪ねては事件発生の経緯とその周辺問題についてインタビュー調査を続けてきた。そのなかの一人である元陸軍兵士のT氏は、カウラ収容所到着と同時にハンセン病が発覚し、2年以上にわたって一人用のテントに隔離された人物である。そのためT氏は暴動に巻き込まれることなく、一部始終を至近距離で見た唯一の目撃者となった。日本人でありながらハンセン病ゆえに日豪両国から疎外されたT氏へのインタビューからカウラ事件とその周辺問題を再考察したい。
3.戦争体験を語りつぐストーリーの分析(Narrative analysis of the wartime experiences conveyed to others )
桜井 厚(立教大学)
戦争体験を語りつぐ実践は、体験者とともに非体験者よってもおこなわれている。その際、語り伝えようとするために語り手はさまざまな工夫や戦略をこらしている。わかりやすい例としては、物語の時空間の枠組みを聞き手の「いま・ここ」へリンクさせる操作がある。そうした語りの特性を分析すると共に、それを聞き手がどのように聞いているかについても併せて考察をくわえたい。

Ⅱ.理事会報告
1.オーラル・ヒストリー学会第2回理事会議事録
日時:2012年2月6日(月) 13:00~16:20
場所:東京外国語大学本郷サテライト7階会議室
出席者:塚田 守、山田 富秋、橋本 みゆき、河路 由佳、森 武麿、山村 淑子、小倉 康嗣、折井 美耶子、山本 唯人、川又 俊則、松田 凡、吉田 かよ子 以上12名
議題
1.事務局報告
(1)新入会員紹介ほか 新入会員3名、再入会1名(会員異動を参照)
(2)学会誌のバックナンバーの販売
現在バックナンバーについては、丸善とアマゾンに委託販売している。丸善については年度末決算に合わせて、こちらから請求し、入金してもらう。
(3)HPの移管状況
当初予定では、カリテスという会社に依頼して、昨年末に移管を完了する予定だったが、2月現在、まだ完了していない状況が報告された。
(4)会員向けアンケート協力について
質的データ・アーカイブ化研究会による科研アンケート(質的データの管理・保存
に関するアンケート)について、JOHAとして共催はしないが、主旨に賛同し、会員に協力をお願いすることになった。会員名簿については慎重に管理する。
2.会計報告
(1)会費収入について
会費年度の変更期ということもあり、やや半端な額が振り込まれているケースがあった。来年度の請求時に割り引いて請求する予定である。2011年度収入としては納入者183名のうち80名程度が見込まれる。
(2)委員会の旅費について
理事会については交通費半額を支払うことは前回の理事会で確認済み(ただし勤務先大学から旅費が支給される場合は除外)だが、委員会開催時の交通費についても同様にすることが合意された。
(3)寄付金について
寄附収入という項目を設け、これを定職のない人の地方開催の学会大会参加時の旅費補助に活用する。これは理事会の内規として事務局が文章化する。
3.編集委員会報告
(1)予算について
学会誌出版の予算額の枠内で編集される分には問題はないが、特集、フォーラム、投稿論文のページ数のバランスを考慮する必要がある。8号に向けて依頼する文字数も減らす方向で調整することになった。
(2)広告について
学会誌の広告については、各出版社に知り合いの理事が依頼してきたが、今回は事務局が引き続き依頼するとともに、他の知り合いの出版社も紹介してもらう。
(3)G.ジョンソン氏の理事就任について
就任が了承された。
(4)英文の執筆要項について
ジョンソン氏に依頼することになった。
(5)バックナンバーの保存について
バックナンバーの保存方法については、事務局長が保持するのは限界がある。CiNiiで読めるのであれば多く保存する必要はない。確認の上、印刷部数を再考する必要がある。
(6)短文書評について
以前、自著や他の会員の著書の紹介として短文紹介というコーナーがあった。次回から学会活動を活発にするため、このコーナーを復活させることになった。
(7)その他
学会誌の購入希望に対応するため、HPにバックナンバーの目次を掲載する等の案内を行っていく。
4.広報委員会報告
(1)NL21号の発行は昨年の12月8日に完了した。22号は大会プログラムを入れたものになる予定である。大会案内について、会員ML及びWeb上で見られない方には、大会案内を入れ、自由報告の募集の案内も同封することを事務局に依頼した。
(2)HPについては移行が完了していない。
7.研究活動委員会報告
大会時の研究実践交流会について、次回は第10回記念大会ということで、通常の会員の交流を目的とした研究実践交流会ではなく、テーマセッションとすることが合意された。テーマは提案の通り、名古屋で第1回女性史の集いが開かれたことに鑑み、呼びかけ人であった伊藤康子氏に話題提供をお願いし、オーラル・ヒストリー研究/実践の源流・諸潮流をたどることを主旨とする。地域の実践グループと研究者との交流、および新たな会員獲得という意味も大きいことが確認された。
5.国際交流委員会報告
第10回のシンポジウムの内容が決まれば、各国際学会に連絡してHPにのせてもらうなどしたい。
6.今年度大会のシンポジウム企画
テーマは、「聞き難いものを聞き、語り、書く:『いのち』について考える」
登壇者は、やまだようこ氏、佐々木裕子氏、有末賢氏。司会は塚田守氏、コメンテーターは、山村淑子氏と清水透氏に依頼する。
7.次回理事会は6月24日(日)に開催予定。

2.オーラル・ヒストリー学会第3回理事会議事録
日時:2012年6月24日(日)13:15~17:00
場所:東京外国語大学本郷サテライト5階会議室
出席者:塚田守、山田富秋、橋本みゆき、河路由佳、グレゴリー・ジョンソン、山村淑子、仲真人、小倉康嗣、和田悠、折井美耶子、山本唯人、川又俊則 以上12名
1.開催校(塚田会長)と研究活動委員会から年次大会の準備状況について
・第10回大会案について、昨年度大会を参考にプログラムを作成した。今回はやや発表予定が少なめなので、議論の時間を多めにできる。
・学会員外の大会参加費が2,000円なので、それに見合う分の報告要旨集(発表者一人400字程度)を配布したいという開催校の提案に対して、発表のエントリー時に発表者に長い要旨の提出を要請していないので、今年度は無理であること、また、予算措置が伴っていないことで、来年度以降の課題とした。
・会員外シンポジスト・講演者の謝金と交通費
会員以外のシンポジウム登壇者や学生アルバイト謝金に対して名古屋市の「大幸(たいこう)財団」の助成金を申請したので、それを謝金の一部に充てることにした。シンポジウムでは2名、テーマセッションでは1名が該当する。会員外の登壇者の交通費に関してはJR換算で学会から支給される規定がある。今回は緊縮財政なので、昨年度実績と同じ額の大会開催校補助を準備している。
・大会参加費について;従来と同じ、学会員以外の一般2,000円、学生1,000円とする。
・懇親会;40人で懇親会の予算を組んだ。
・発表者の報告レジュメのコピーについて
シンポジウムやテーマセッションの登壇者については、レジュメコピーは大会本部で行うが、自由報告者のコピーは各自で用意する。
・日曜日の昼食について、大会一日目に弁当の引換券を購入してもらい、購入者に翌日配布する。
・分科会の司会
司会については、なるべく理事以外の方に司会を頼む方向性が確認された。7月中旬位までに確定する。
・分科会の報告時間
今年は報告者が少なかったので、1つの分科会に3時間取ることができた。そのため、発表時間は一人30分とし、質疑応答と議論の時間は司会者にまかせることにした。この点は大会プログラムをMLに流し、HPに掲載する時に明示することにした。
・テーマセッション
第10回記念テーマセッション名古屋で最初に女性史を開拓した伊藤康子氏に講演してもらい、それに山嵜雅子(会員)がコメントするかたちにする。タイトルは「日本のオーラル・ヒストリーの源流をたどる-地域女性史の歩みから」HP掲載の際に、地域の女性史に関心を持つ人々に参加を呼びかける。
2.事務局報告(山田)
(1)会員異動報告新入会員報告
一名については理事会の場で入会申請書を回覧して承認した。前回理事会から7名が新入会し、再入会が一名、ご逝去された会員が一名である。
(2)新入会員の承認手続きについて
今後の承認手続きとして、入会に必要な条件(入会申込書と会費の入金)が整えば、MLにUPし、自動承認にすることに決定した。特別な問題が生じた時だけ承認のお願いをする。
(3)学会誌委託販売の一本化について
現在、丸善、アマゾン、インターブックスの3社に委託販売を依頼しているが、これは一本化せず、現行の通り3社の委託販売を継続することが決定された。
(4) アンケート調査
JOHAへの協力の依頼があった質的データ・アーカイヴ化研究会による科研アンケート(質的データの管理・保存に関するアンケート)は、2月に実施されたが、結果に関しては追って報告の予定であるとのことである。
(5)HPの移管状況
カリテスの新しい学会ホームページが稼働し、見やすくなったが、旧HPから新HPへの自動移動を可能にする。また、旧情報がいまだに掲載されているので、それをアップデートする。
(6)総会で発表する事業報告案について
例年の総会次第を元にして、資料内容の確認と検討を行った。特に各種委員会について事業報告案に足す活動等があれば、大会一週間前をめどに案を事務局長まで知らせることにした。来年度事業案として設立10周年の企画をする必要があることが話し合われた。ちなみに10周年記念大会は京都文教大学を第一候補として予定する。
3.会計報告
今年度は会計年度が3月末に変更になり、9ヶ月になったため、この9ヶ月の決算について橋本理事が説明を行った。この決算報告に対して、繰越金を食いつぶすような運営は不安であること、また、繰越金が減少している理由として、事務局補助費予算化と印刷費の高騰が影響しているのではないかという意見があった。来年度予算案について、かなり財政的に厳しい状態であることを確認した。滞納者に会費納入を促すことと、会費値上げや学会大会参加費の徴収、あるいは、有料の公開講座などによる財政再建策が必要であることが意見としてだされた。
4.編集委員会報告
学会誌編集の作業として、2つの特集、書評、投稿論文ともに順調に進んでいることが報告された。
次回の理事会は、学会大会1日目9月8日午前10:30から

Ⅲ.事務局便り
1.会員異動  (非掲載)
 連絡先(住所・電話番号・E-mailアドレス)を変更された場合は、できるだけ速やかに事務局までご連絡ください。
2.2012年度会費納入のお願い
いつも学会運営へのご協力ありがとうございます。本学会は会員の皆様の会費で成り立っています。2012年度の年会費納入状況は、6月末現在3分の1ほどです。納入を先送りしていらした方は、なるべく9月のJOHA第10回大会前に郵便振替等でご入金ください。大会時の受付をスムーズに行うためにも、よろしくお願いいたします。
■年会費
一般会員:5000円、学生他会員:3000円 
*昨年度の移行期間を経て、2012年度より会計年度が4月1日から翌年3月31日までとなりました。年会費は12ヵ月分に戻ります(昨年度のみ9ヶ月分)。なお年会費には学会大会参加費・学会誌代が含まれています。
■ゆうちょ銀行からの振込先
口座名:日本オーラル・ヒストリー学会  
口座番号:00150-6-353335
*払込取扱票(ゆうちょ銀行にある青色の振込用紙)の通信欄には住所・氏名を忘れずにご記入ください。
*従来の記号・番号は変わりありません。
■ゆうちょ銀行以外の金融機関から振り込む際の口座情報
銀行名:ゆうちょ銀行
金融機関コード:9900
店番:019
店名(カナ):〇一九店(ゼロイチキュウ店)
預金種目:当座
口座番号:0353335
カナ氏名:(受取人名):ニホンオーラルヒストリーガツカイ
郵便払込・口座振込の控えで領収書に代えさせていただきます。控えは必ず保管してください。
*学会会計全般について、またご自身の入金状況を確認したい場合は、会計担当の橋本みゆきへお問い合わせください。