JOHAニュースレター第23号

日本オーラル・ヒストリー学会Japan Oral History Association(JOHA)
JOHA ニュースレター 第23 号
学会ウェブサイト: http://joha.jp 2012 年11 月22 日

《日本オーラル・ヒストリー学会第10回大会 盛況のうちに閉幕》
日本オーラル・ヒストリー学会第10 回大会は、9月8日(土)、9日(日)の両日にわたって椙山女学園大学(愛知県名古屋市)で開催されました。4つの分科会と大会記念テーマセッションでは、いずれも活発な議論が交わされました。大会2日目の午後は、「語りから『いのち』について考える:聞き難いものを聞き、語り、書く」と題するシンポジウムが開かれ、学際的な討議が繰り広げられました。
会員のみなさまに来年度の開催校をお知らせします。今年度の総会時点では東京近辺の開催とだけお知らせして、まだ具体的な開催校は決定していませんでした。このたび前年度学会事務局を担当していただいた舛谷鋭先生の立教大学観光学部(新座キャンパス)にて第11 回大会を開催することに決定しました。また諸般の事情から、例年9 月に開催している学会を、来年度は7 月27 日(土)~28 日(日)の日程で行います。例年より早い開催になりますので、自由報告の募集も1 ヶ月ほど早くなります。
HP 上での募集に注意してください。なお、次の大会は本学会の10 周年記念大会ですので、ふるって報告のエントリーをお願いします。
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【目次】
Ⅰ.学会大会報告
1.大会を終えて/2.第1分科会/3.第2分科会/4.第3分科会/5.第4分科会/6.大会記念テーマセッション/7.シンポジウム
Ⅱ.総会報告
2011 年度事業報告・決算報告・会計監査報告、2012年度事業案・予算案他
Ⅲ.理事会報告
1.第五期第4回理事会
Ⅳ.お知らせ
1.『日本オーラル・ヒストリー研究』/第9号投稿募集/2.国際学会大会のお知らせ/3.会員異動/4.2012 年度会費納入のお願い
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Ⅰ 学会大会報告
1.大会を終えて
2012 年9 月8 日・9 日、椙山女学園大学において第10 回大会を開催しました。東海地区での開催は初めてでしたが、両日含みて56 名(会員46名、非会員10名)の参加ありました。自由報告の4分科会も例年のように活発な議論が行われたことに加え、本大会は第10 回記念テーマセッションを名古屋を発祥の地とする地域女性史のあゆみをテーマとて、「日本オーラル・ヒストリーの源流をたどるー地域女性のあゆみから」を行ない、まさに、オーラル・ヒストリーの伝統について議論が活発に行われた。また、シンポジウムでは、専門を異にするシンポジストの興味深い発表に続き、討論者からの議論も活発に行われ、規定の時間を越えて議論が続づくほどの盛況ぶりであった。
なお、大会開催に際して、東海地区の財団「大幸財団」からの学会補助金をいただくことができ、ほぼ予算通りの決算になりましたことを報告いたし、財団に感謝いたします。(塚田 守)

2. 第1分科会
第1 分科会では、放送メディア史、生活文化史、民俗芸能史にわたる多彩な4 件の研究報告がおこなわれた。
第1 報告の長谷川倫子(東京経済大学)「文献資料散逸の補完としての聞き書き調査――1960年代のラジオ深夜放送を事例として」は、60 年代の終わりに一大ブームとなったラジオ深夜放送が、いかに誕生したのか。それを、報告者自身も熱心なリスナーであった名古屋CBC(中部日本放送)の深夜番組を事例に、その番組の制作に携わったディレクターやDJ へのインタビュー調査や、それによって新たに発掘された資料等にもとづいて、イメージ豊かに報告された。インタビュー調査が、社史には登場しない新たな実情を示す資料発掘の契機となるのと同時に、インタビューをおこなってよかったこととして、送り手の動機がわかったことを挙げておられたのが印象的であった。
第2 報告の廣谷鏡子(NHK 放送文化研究所)「オーラル・ヒストリーが伝えるテレビドラマの黎明期――生放送時代の現場から」では、テレビ初期の「生ドラマ」に関わった人たちのオーラル・ヒストリーから、テレビドラマの歴史が生成していくさまをビビッドに描出された。当初、テレビドラマは「電気紙芝居」と言われ、誰も担当したがらなかった「非エリート現場」であったことや、現在「歴史的」とされているテレビドラマの手法やシステムが、生ドラマゆえの技術的・物理的制約があったからこその工夫によって生み出されたこと、テレビ美術が、生放送のなかでいわば“でたとこ勝負”(これは報告から私なりに感じた印象を言葉にしたものである)で独自に生み出されていった過程など、「正史」ではうかがい知れない3 つの視点が提示され、検証された。
第3 報告の竹原信也(新居浜工業高等専門学校)「別子銅山社宅街(鹿森社宅)における昭和の生活史」では、都市でも農村でもない空間・共同体としての「社宅街」で人びとがいかなる生活をしていたのかを、その先進性に着目されながら、いまはなき別子銅山(愛媛県新居浜市)の山間につくられた社宅街である鹿森社宅の生活経験者へのインタビュー調査と蓄積された史資料から明らかにされた。そこでは、強い一体感と相互扶助の精神、平等性、平和な生活文化が指摘される一方、個々人の心理や行動に強い抑制・統制が働いていた可能性も示唆された。この報告ではとくに活発な質疑応答がなされ、どういう立ち位置からこのフィールドをとらえていくのかや、オーラル・ヒストリーの可能性と限界というところにまで議論がおよんだ。
第4 報告の川﨑瑞穂(国立音楽大学大学院)「神明社神楽の歴史と言説」では、江戸期から伝承されている「神明社神楽」にたいする歴史的・文化的な認識を、伝承者へのインタビューや祭りへの参与観察(総計8 回)、そして文書資料をトライアンギュレーションしながら、その深層から読みなおしていく試みがなされた。これまで神楽は歌舞伎の影響が強いと認識されてきたが、「歌舞伎的」とひとまとめにするには困難な多彩な要素があること、さらにこれまで重要視されてこなかったところにこそ古い要素があることが明らかにされた。芸能伝承者の言説と「実際の歴史」とのあいだの齟齬から、神明社神楽のアイデンティティ構造を深層からあぶりだしていく、静かなパッションを感じる報告であった。
各々の報告への質疑応答や議論が盛んになされ、全体での討論時間がほとんどもてないほどであったが、いずれも、オーラル・ヒストリーにどんな意味や意義があるのかということを、まっすぐに考えさせてくれる報告と議論がなされたと思う。教室いっぱいの参加者で熱気のある分科会となった。(小倉 康嗣)

3.第2分科会
第2 分科会では、医療分野でのインタビュー・データを用いた2 つの研究報告が行われた。
第1 報告の青木秀光会員(立命館大学大学院)による報告「統合失調症の子を抱える親たちの多様性」においては、統合失調症の子を持つ5 名の親(父親3 名、母親2 名)に対し行われたインタビュー調査のデータを、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析した成果が報告された。報告者によれば、統合失調症の子を持つ「親の育ち」のプロセスは「発症による混乱」と「第2 の人生の計画とはじまり」から開始され、「地域社会からの偏見」や「資源への不満」等の紆余曲折を経て、「できることへの着眼」や「ともに乗り越える」などの〈親の育ち〉をもたらす。しかしその一方で、「できないことへの着眼」や「再発による落胆」などの〈育ちの阻害因子〉も同時に存在し続け、それらは〈育ち〉を阻害するものとして機能しているという(なお、当日の報告ではインタビュー・データの切片とともに、以上のプロセスを図にした結果図が合わせて配布された)。続く質疑応答においては、インタビュー調査の文脈や背景についての詳細な確認や、経験の「多様性」に関わる問題提起などがなされ、活発な議論が行われた。
第2 報告の竹迫和美会員(国際医療通訳士協会)による報告「米国の医療通訳発展を支えた医療通訳士のオーラル・ヒストリーより」においては、米国の医療通訳士のNPO の創設者等へのインタビュー・データを、活動開始や継続への動機という観点から解釈する試みが報告された。報告者によれば、活動開始・継続の動機に関しては、調査対象者たちの生い立ちや家族、特に親からの影響が大きいとされ、具体的にはボランティア活動にコミットしていた母親からの影響などについての語りが示された。フロアとの質疑応答においては、今回のインタビュー・データの内容と解釈についての確認に加えて、医療通訳士の仕事の内容や位置づけについても様々な議論が行われた。
全体を振り返ってみると、プログラムの変更などもあり、1 部会2 報告という異例のセッションではあったが、その分、各報告において十分な報告時間と質疑応答の時間をとることができ、結果として充実した分科会になったと思われる。いずれの報告も新しい分野に積極的に切り込むものであり、今後ますます本学会で医療・福祉の分野におけるオーラル・ヒストリー研究が盛んになることを期待させる内容であった。(田代 志門)

4.第3分科会
第3分科会では、オーラル・ヒストリーという研究方法について、またその可能性について長年にわたり研究・発信されてきた三人の方々による大変充実した報告と、活発な質疑応答がなされた。
第1報告 山本恵里子「日系人オーラル・ヒストリー・インターネットサイトの利用方法―教育カリキュラムの提言」山本恵里子氏はご自身のアメリカでの体験・実践にもとづき、デジタル化の進行にともなうオーラル・ヒストリーの教育面での積極的利用とその意義について大変説得力のある議論を展開された。日系アメリカ人のオーラル・ヒストリーがいかに多様な方法により活用されているかを詳細に紹介し、いまだ研究レベルにとどまっている日本の現状に対し、教育面での利用形態や効用について具体的に例示された。オーラル・ヒストリーの教育的利用の可能性について、自らが歴史をつくる能動的存在であることを学生が実感し得る機会になること等とし、具体的に検証した示唆に富む報告であった。
第2報告 加瀬豊司「オーラル・ヒストリーの著者性( authorship )をめぐって( Authorship in OralHistory)」
加瀬豊司氏の報告は「オーラル・ヒストリーの著者性」について考察されたものであった。加瀬氏はワシントン,D.C.を中心に行った日系アメリカ人へのインタビューにもとづく論文作成過程で考えられたことを、「著者性(authorship)」を基軸に論じられた。「自分の持っている文化による規定性」―「方法論的拘束」に対して批判的省察を行い、オーラル・ヒストリーという研究方法のはらむ問題について、自らの課題として真摯に取り組んだ報告であった。
第3報告 吹原 豊「移住労働者とその関与者の語りから見た日本語習得の促進要因」
本報告は昨年度に引き続き、茨城県東茨城郡大洗町のインドネシア人コミュニティについての調査にもとづくものであった。吹原氏は7年間にわたり同町に足繁く通い、言語教育の立場から、長期滞在者の日本語習得について調査されてきた。大洗町のインドネシア人コミュニティ成立の背景を検証しつつ、長期滞在者でも日本語能力が低いままの人が大多数であることに気づき、OPI(OralProficiency Interview)を実施したという。報告はこのOPI による調査結果にもとづき、日本語習得の阻害要因や促進要因について考察したものであり、言語教育という分野でのオーラル・ヒストリーの可能性を示す報告であった。
以上、第3分科会の各報告を通じ、方法としてのオーラル・ヒストリーの深化とともに、それが実践的課題と密接に結びつくものであること、及びその可能性をあらためて感じた次第である。(野本 京子)

5.第4分科会
第4 分科会では、3件の研究報告が行われ、約30名が参加した。3 件とも研究対象や手法、報告の焦点が異なっていたが、分科会の最後には、過去の経験をどう聞くか、歴史—資料—語りの関係、「複雑なことを複雑なままに」どう語るかという共通の軸が見えて来たことは分科会全体としての大きな成果であった。
第1報告の金城美幸(立命館大学ポストドクトラルフェロー)『パレスチナ難民問題の歴史記述における文字資料と証言の位置』は,イスラエル建国に伴って離散・難民化したパレスチナ人社会のなかで、難民化の経験(ナクバ)についてどのようなナショナルな歴史記述がなされて来たかを検証するものである。パレスチナ人たちはナショナルな実体が不在であり、パレスチナ人の散逸とともに歴史資料も収奪されてしまった。しかし、1980年代に行われた破壊された村のフォークロア研究「ビレッジ・ブックス・プロジェクト」は失われたものへのノスタルジーの理想化だけでなく、過去の再構成による現在に対する権利主張にもつながって来た。しかし、元々離散しているという状況があり、それらのオーラルヒストリーにどのような集合性を見ていくのかという大きな問題が未解決のままである。質疑応答では、このようなナクバの語りはナショナルなものを超えたグローバルな記憶のあり方として語りの「主観」「客観」性の観点から分析すると大変興味深いという指摘があった。
第2報告の山田真美(お茶の水女子大学大学院)『ハンセン病に罹患した一人の捕虜の目を通じて見たカウラ事件』は、1944年8月5日オーストラリアのカウラ戦争捕虜収容所において1104名の日本人捕虜が集団自決的な暴動を起こし、その結果234名の日本人と4 名のオーストラリア兵が命を落としたカウラ事件で生き残った元捕虜たちに行ったインタビュー調査のなかから、ハンセン病で隔離収容されていたT 氏の体験を分析するものであった。元捕虜たちの約8割は日本に戻ってから自分が捕虜であったことを隠し通して来た。T 氏も差別を避ける為に、姓名も変え「どこの馬の骨ともわからない」男となって暮らして来た。山田氏はそのT 氏に寄り添い聞き取りを行って来たということだが、そのインタビューの実際の語りが今回の報告のなかで紹介されなかったことは大変残念であった。
第3 報告の桜井厚(立教大学)『戦争体験を語り継ぐストーリーの分析』は、 沖縄における平和ガイドという語り継ぐ実践活動において、どのような語りが生み出されているのか、どのように聞かれているのかを語りの内的な構造からアプローチするものであった。日本における戦争の語り継ぎは、個人の記憶をありのままに伝えるのではなく、戦争の悲惨さや平和の強調などのメッセージ性が強く、語り部の語りを聞いた聞き手側の具体的な出来事を聞き取る力を損ねているのではないかという指摘が大変興味深かった。(滝田 祥子)

6.大会記念テーマセッション
従来は「研究実践交流会」という枠だったところを、今回は、研究活動委員会が企画を練り、「第10 回大会記念テーマセッション」として開催した。昨年度、開催されたオーラル・ヒストリー・フォーラムの成果を受け継いで、日本のオーラル・ヒストリー研究は何をやってきたのか、これから何をやっていくのか。日本のオーラル・ヒストリー研究にとってJOHA はどういう場所であったのか、これからどういう役割を担っていくのか。これが本テーマセッションの根本的な問題関心であった。テーマとしては、日本におけるオーラル・ヒストリー実践の一源流である、地域女性史をとりあげた。
報告者は伊藤康子氏(愛知女性史研究会、元中京女子大学短期大学部教員)であり、「地域女性史と聞き書き」と題して報告された。報告の冒頭で伊藤氏は1934年に生まれ、1966年に夫の転勤で名古屋に転居し、名古屋女性史研究会に入会するまでの現代史・女性史のありかたについて、自分史をそこに重ねながら話した。それは、戦後の女性知識人が戦後歴史学、戦後民主主義をどう経験したのかという貴重な歴史的証言ともなっていた。報告の重心は、地域女性史における「聞き書き」とはいかなる経験であったのかという点におかれた。こうした観点から、自らが取り組んできた愛知を中心とする地域女性史の実践について、1977 年に呼びかけて結成された、女性史研究の全国ネットワークである「全国女性史研究交流集会」の歴史やそこでの論争点について、初期の主な地域女性史集団の具体的な作品について、紹介・分析した。伊藤は報告の結びで、「地域女性史は経緯と対等観をもって聞いた女性の生活史を束ね、社会の実像に陽の目を当ててきた」、「聞き書きとはその場に生きる人の力を強めるものである。東日本大震災後の現在、被災地でも聞き書きが始まっている。地域女性史にもやるべきことがたくさんある」と指摘した。伊藤の報告は、地域女性史の歴史的経験を通じて、実践的学知としてのオーラル・ヒストリーの初心を現在に伝えるものであった。また、聞き書きされたものをどう歴史資料として読み解くのか、文献資料とどのように組み合
わせるのか、オーラル・ヒストリーの古くて新しい問題についても具体的な経験から示唆を与えるものであった。
コメントは、「見えない歴史を伝えるために―地域女性史に学ぶオーラル・ヒストリーの可能性」と題して、山嵜雅子会員(立教大学教員)が行なった。自らが行なってきた京都人文学園の卒業生へのオーラル・ヒストリー実践および「練馬女性史を拓く会」の会員としての現在の取り組みを反省しながら、語り手の個人史に立ち入り、それを歴史の表面に出してしまったことにどう向き合うのかという問題や、研究者・調査者と調査される者との関係性(研究者のポジショニングの問題)について論点を提起した。山嵜は地域女性史の経験を「見て、学び、伝える」という実践であると性格づけ、地域の当事者である女性の経験に誠実に寄り添い、その声を構成の世代が受け継ぐという「知の継承」という側面も強調した。
質疑応答は大変活発であった。地域女性史の担い手の性格やその変化、生活者と研究者の関係、フェミニズム・ウーマンリブとの関連、地域女性史という学問を対象化した研究の必要性など、多岐にわたって論点が提起された。地域女性史に関してJOHA で継続的に研究していく必要性があることを意識させられたテーマセッションであった。(和田 悠)

7.シンポジウム
「語りから『いのち』について考える:聞き難いものを聞き、語り、書く」をテーマとして、専門を異にする3 人の報告者の発表を聞いた。このシンポジウムは、身近な人、深くかかわった人を失う経験を持ち、人は死と向かい合い、初めて「いのち」について考えるのではないか、残された者の「失われたいのち」との関わる時、人は「いのち」について語り始め、生きていく意味について考え、いまの自分を再考するのではないかとして、残された者の「いのちについての語り」について議論するというテーマ設定で行われた。
第1 の報告者やまだようこ氏は、『喪失の語り』を書き、残された者がどのように死者とともに生きるかをテーマとしている。本発表では、ご自身の個人的な喪失体験として、幸せ絶頂にあった親友の死について語ることから報告を行った。ナラティヴの機能として「自分自身を持ちこたえる」があることなどを理論的に議論し、不幸な出来事にあった時に活用できる文化的ナラティヴについての議論を展開し、最近日米で起こった不幸な出来事である東日本大震災3.11 とアメリカの同時多発テロ9.11で起こった文化的ナラティヴについて発表した。
東日本大震災3.11 では、「がんばろう、日本」が英国の新聞インディペデント(日曜版)にも掲載され、突然起こった理不尽で国全体を揺るがすネガティヴな出来事を、共同体が集団として乗り越えようとしたと論じた。このことと同じように、アメリカの同時多発テロ9.11 でも、”I love New York”や“We loveAmerica”と合唱が有効に働くのではないかという議論を展開しました。
第2 の発表者佐々木裕子氏は、在宅看護を中心として死に至る人々のいのちを観てきた看護師としての経験を中心として、患者が死と向かい合う中で、本人の「病いの語り」がどうように話され、生きる意味付け行為をしているかについて述べ、身内が死に至る過程での家族や看護師の関わりはどのようなものかについて、看護師としての実践経験について議論した。みずからが関わった具体的な事例に触れながら、死を前にしている人びとが、いのちの最期の段階にあっても示す、「生きることの尊さ・他者にむけられる大きな愛情」の姿を見て、そのことに感動し、深く交わる体験をしていると述べた。そして、看護師が死に行く人々の語りにどのように寄り添い、関わることで、その人びとのいのち・人生の物語を聞くことができるかについても論じた。そして、看護師として、人びとの語りをどのように支え、意味づけをし合い、看護の意味を発見し合う日々を送っているということにも触れられ、話された。
第3の発表者有末賢氏は、「自死の遺族の会」に深く関わり、フィールド調査をしている経験を中心にして、災害でも病気とは異なり、ある日突然、自らのいのちを絶った身近な人に深く関わり残された者の意識について、社会学者の立場から論じた。その本題に入る前に、自らの病気に関わる体験、自死に関わる体験から話され、そのことを語ることの難しさについて述べた。その後、今まで関わった「自死遺族の会」について論じ、自死の衝撃と沈黙について触れながら、自死の特殊性について議論した。また、その遺族たちの自責・自罰の思いなどについての複雑な心理的葛藤として、「後悔」や「取り返しのつかない思い」さらに、「怒り」の相手などについても語った。文章にできないこともあると言いながら、語りにくいことを公開の場で語ることができるが、書くことはできないこともある、という点などについても触れた。そして、最後に癒しと沈黙の関係について述べ、「祈り」と「和解」が今後の課題であると述べた。
指定討論者の山村氏からは、東日本大震災の被害に直接あるいは間接的にかかわるものとしての当事者から、コメントが述べられ、震災の衝撃の大きさについて指摘し、当事者の視点から、「がんばろう、日本」のナラティヴに対する違和感について述べた。また、もう一人指定討論者の清水透氏からも、ドミナント・ストーリーと見なされる「がんばろう、日本」に対する違和感が述べられた。それに対して、報告者のやまだようこ氏から、「がんばろう、日本」は単なるドミナント・ストーリーではなく、人びとを勇気づけるパワフルなナラティヴになる可能性があるというコメントなどがあった。このテーマについて、フロアーからのコメントもあり、活発な議論が行われた。
その熱を帯びる議論を聞きながら、司会者は、いつ議論を止めるべきかのタイミングを待ちながら大幅に時間延長をしてしまった。一般的にシンポジウムは発表者がそれぞれの発表を行い、議論が盛り上がらないものであるが、本シンポジウムは、それぞれの発表者の個人的体験も含む語りなどがあり、立場の異なった視点からの議論が展開されたものであり、閉会後、参加者から「いいシンポジウムを企画してくれました」など、さまざまな評価の高いコメントを聞くことができた。(塚田 守)

Ⅱ 総会報告
日時:2012 年9 月9 日(日)12:15~13:00
場所:椙山女学園大学 国際コミュニケーション棟418 教室
会長挨拶の後、以下の議案が諮られた。
第1 号議案 2011 年度事業報告
2011 年度(2011.7.1~2012.6.30)事業報告について、以下の諸点が報告、了承された。
1.会員の拡大
この年度には新規入会者20 名があった。内訳は一般12 名、学生他、8 名である。HP も昨年12月に従来のブログ形式のHP から新規のHP 管理業者に管理委託した。HP が閲覧しやすくなったので、これによって、さらに会員を増やしたい。
2.第9 回大会の実施と第10 回大会開催
2011.9.10-11 に愛媛県松山大学で第9 回大会が開催された。自由報告21 本の他に、シンポジウム「四国遍路:ピルグリメージとオーラル・ヒストリー」とワークショップ「オーラル・ヒストリーをいかに作品化していくか?」を実施した。また、一日目の午前中に松山城エクスカーションと松島美人原爆写真展を実施した。第10 回大会は椙山女学園大学で開催する。
3.学会誌7 号の発行と8 号の編集
学会誌第7 号を発行し、第9 回大会時に2011年度会費納入済会員に配布した。その他の納入済会員には後日、インターブックス社に依頼して、メール便で送付した。主要な図書館と法人には、辞退連絡がない限り寄贈した。次の学会誌第8 号には、第9 回大会シンポジウムとワークショップについての特集が組まれ、併せて一般公募論文が査読後に掲載される。また、この間今期の編集委員会において、これまで実態と少し離れていた投稿規定と執筆要項を和文と英文で改訂した。会誌販売は、従来通り、インターブックス(株)と、丸善を通じた大学図書館と書店経由の個人販売、およびアマゾンによる個人販売を継続することが確認された。
4.ワークショップの開催
JOHA オーラル・ヒストリーフォーラム「学知と現実のはざま」を前年度の第1 回(7 月開催)から3回にわたって開催した。第2 回は2011 年11 月27日「女性の生に向きあう」、第3 回は2012 年2 月25 日「学知と現実のはざまと当事者研究」のテーマで行った。
5.ニュースレターの発行
ニユースレターはJOHA9 からJOHA10 の間に21 号を発行し、会員メーリングリストによる配布を基本と し、数は少ないが非メール会員には郵送した。
6.ウェブサイトの充実
広報の効果を上げるために、従来のブログ形式のウェブサイトjoha.jp からカリテスに依頼した新しいウェブサイトに移行した。
7.会員相互の交流の促進
事務局管理の会員メーリングリストを通じ、理事会と会員、また会員相互の情報交換を促した。
8.理事の補充
当初編集委員会に入る予定だった山田理事が事務局長になったので、編集委員会にグレゴリー・ジョンソン会員を補充し、理事として就任をお願いした。

第2 号議案 2011 年度決算報告
2011 年度(2011.7.1~2012.3.31)決算報告資料に基づき報告され、了承された。

第3 号議案 2011 年度会計監査報告
監事の有末賢先生と野本京子先生より「会計帳簿、預貯金通帳、関係書類一切につき監査しましたところ、正確で適切であることを認めましたので、ここに報告いたします」と報告があり、了承された。

第4 号議案 2012 年度事業案
2012 年度(2012.7.1-2013.6.30)事業案について、以下の諸点が提案され、了承された。特に来年度から学会大会の参加費を学会員からも徴収することが決まった。
1.会員の拡大と維持
年次大会やワークショップなどの実施を通じ、またこれらの情報を広報することによって、本学会の周知に努め、引き続き会員数の拡大を目指す。また、会員の維持と会費収入確保のため、大会後年内を目途に郵送による入金状況確認と会費納入の督促を行う。
2.第10 回大会の実施と第11 回大会の準備
第10 回大会を2012 年9 月8-9 日の二日間にわたって愛知県名古屋市の椙山女学園大学において開催し、来年度の第11 回大会を9 月中に東京近辺にて開催すべく準備を行っている。開催校が最終的に決定次第、HP や会員ML を通じて広報する。
3.学会誌第9 号の発行
学会誌第8号は、第9回大会シンポジウム「四国遍路-ピルグリメージとオーラル・ヒストリー」と連続ワークショップの特集を組んで発行し、2012 年度会費納入者に大会時配付および、大会後に郵送する。学会誌第9 号には、「第10 回大会記念テーマセッション 日本のオーラル・ヒストリーの源流をたどる」と、シンポジウム「語りから「いのち」について考える」の2 つの特集を組み、査読を通過した一般公募論文とともに、掲載予定である。さらにJOHA の10 年間の歩みについて掲載する。
4.研究会・ワークショップの開催
通例では研究実践交流会となっている枠に今年度の大会は第10 回大会記念テーマセッションを企画したが、JOHA 設立10 周年を迎える第11 回大会も節目となる企画をし、それらと単発ワークショップを連動させて、オーラル・ヒストリーの足場論(日本のオーラル・ヒストリー研究が何をやってきた/やっていくのか、それを可能にする場としてJOHA が何をやってきた/やっていくのか)を議論する場を設定していく。
5.ニュースレターの発行
10 回大会の案内号として第22 号を発行した。今年度は年末に向けて第23 号を発行予定である。配付方法は会員ML に添付して配付し、郵送会員には郵送する。
6.ウェブ情報の充実と改善
カリテスの新しい学会ホームページが稼働し、見やすくなったが、さらに既存情報と新規情報の整備がひつようである。また、学会誌のバックナンバーの目次についても、HP で閲覧できるようにする。
7.会員相互の交流促進
新規会員など会員の異動をニュースレターを通じて会員に周知し、相互の交流に役立てる。また、会員の出版、活動情報についても学会誌での書評やニュースレター等を通じて積極的に共有する。
8.海外のオーラル・ヒストリー団体との交流
国際交流担当理事を中心に、海外のオーラル・ヒストリー団体との交流を促進し、会員に情報提供を行う。主にIOHA 等との具体的な交流体制を今後の検討課題とする。
9.学会発足10 周年記念事業
2013 年が本学会発足10 周年となるため、学会誌の特集号と来年度学会大会を通して記念事業を行う。その際に、この10 年間の本学会の歴史を学会誌に記録として残すことを予定している。
10.財政再建計画
現在、学会の財政が困難な状況にある。財政再建のために種々の方策を試みていくが、まずその一つとして、来年度からは学会員からも参加費一律千円を徴収することを提案する。

第5 号議案 2012 年度予算案
2012 年度(2012/4/1~2013/3/31)の予算案資料に基づき提案され、了承された。ただし、予備費が例年に比べて非常に少ないことなどが指摘され、財政立て直しについて意見を交換した。

第6 号議案 理事の補充について
編集委員会にグレゴリー・ジョンソン会員を補充し、理事として就任することが提案され、了承された。(山田 富秋)

Ⅲ 理事会報告
1.第五期 第4 回理事会
日時:2012 年9 月8 日(土) 10:30~12:30
場所:椙山女学園大学
出席:塚田、山田、河路、橋本、折井、山村、小倉、和田、川又(順不同)
委任欠席:森、仲、和田、松田、吉田、グレゴリー

1.前回議事録確認
・ニュースレター22 号発刊時に第3 回議事録を確認済み。この理事会の書記を川又理事に決定。
2.会長報告
JOHA10 大会開催についての準備状況を報告した。
3.事務局報告
(1)新入会員が1 名、住所変更が1 名あった。
(2)理事・開催時期など
・今期は会計年度が変更となったが、理事年度は現状のままにする。学会大会は開催校事情を考えると例年の9 月1~3 週開催を8 月末開催も視野に入れて検討するのが良い。
・今年は4~8 月のあいだ学会のイベントがなかった。これでは活動が活発に見えない。学会大会と総会が同時なので、他の試みも必要ではないか。
(3)来年度開催校
・京都文教大学での開催はできなくなった。
・大妻女子大学多摩キャンパスを会場として借りる可能性はある。
・その他、横浜市立大学の案も出た。いずれにせよ来年は10 周年なので東京近辺が望ましいことが確認された。
(4)財政立て直し案について
・9 日の総会提案として、来年度から学会員に対して、大会参加費(1,000 円)を一律で徴収することを諮ることにする。非会員は一律一日1,000円(二日参加なら2,000 円)と変更する。
・学会誌について制度改革案が出され、承認された。現在では70 万円近くかかるので、現状の自費出版体制を変え、編集・著作者は学会におき、発行をインターブックスとする(企画出版)。これによってかなりの減額が可能となる。次号の出版に向けて、新しい契約を行うことになった。
・来年度から事務局幹事の事務費用を時間給制にもどす。
・学会誌の著者謹呈冊数は来年度から2 部に変更する。
(5)総会に提出する議案書の検討
・文字等を一部修正をした。
(6)国際社会学会へのエントリー
・国際社会学会が2014 年7 月、横浜で開催される。グループエントリー(アブストラクト)の締切は12 月なので、JOHA として英語セッションを作ることが提案され、学会でプロジェクトチームを呼びかけることになった。
4.編集委員会から
・来年度の学会誌に、初代会長他のエッセイなどや10 年間の年表などを掲載することで今まで貢献してくださったことなどを記録しておきたいとの提案があった。
5.会計から
・今年度年会費は8 月末現在で597,490 円納入された(年会費収入予算の73%)。
・会員は本日時点で288 名(見込みを含む)。このうち2008 年度以降未納は4 分の1 で、ニュースレターのみ受け取っている活動休止状態にある。それを除いた2012 年度未納は103 名で、きっかけがあれば納入すると思われる。未納入者の会費納入を動機づける、活発な学会であることをアピールする企画・働きかけが必要ではないかという意見があった。
6.研究活動委員会から
・以前本学会として調査協力した、質的データ・アーカイヴ化研究会による質的データアーカイヴに関するアンケート調査結果について、12 月に一橋大学でフォーラムを実施する連絡があった。これは近くなったらHP 上で会員にアナウンスする。7.その他 次回委員会日程等理事会は例年2 月だが、話し合うべき議題が出てきたら早めに調整する。

Ⅳ.お知らせ
1.『日本オーラル・ヒストリー研究』第9号投稿募集
論文、研究ノート、聞き書き資料、書評、書籍紹介の原稿を募集いたします。掲載を希望される方は第8号の投稿規定・執筆要項を参照の上、編集委員会まで原稿をお送りください。次号は10周年記念号となります。大会での発表者のみなさんをはじめ、多くのみなさまのご応募をお待ちしています。
締め切り:2013年3月29日(金)消印有効
応募原稿送付先および問い合わせ先は以下の通りです。
日本オーラル・ヒストリー学会編集委員会
〒183-8534 東京都府中市朝日町3-11-1 東京外国語大学 総合国際学研究院 河路研究室内
kawajiyu[at]tufs.ac.jp (河路研究室)

2.国際学会大会のお知らせ
2013 年度米国オーラルヒストリー学会(OHA)、および英国オーラルヒストリー協会(OHS)年次大会の
日程、テーマ、発表者募集要項をお知らせします。
なお国際オーラルヒストリー学会(IOHA)の国際大会は隔年開催につき、次年度は開催されません。
各大会の詳細、問い合わせ先は以下をご参照ください。OHA の発表者募集締切は2013 年1月18 日、
OHS は2012 年12 月1日です。奮ってのご参加をよろしくお願いいたします。
(1)Oral History Association (USA) www.oralhistory.org
2013 Annual Meeting Call for Papers
Hidden Stories, Contested Truths: The Craft of Oral History
2013 OHA Annual Meeting October 9 – October 13, 2013
The Skirvin Hilton Hotel Oklahoma City, OK
Deadline: January 18, 2013
Proposal format: For full sessions, submit a title, a session abstract of not more than two pages, and a one-page vita or resume for each participant. For individual proposals, submit a one-page abstract and a one-page vita or resume of the presenter. Each submission can be entered on the web at:
http://forms.oralhistory.org/proposal/login.cfm
The deadline for submission of all proposals is January 18, 2013.
Proposal queries may be directed to: Beth Millwood, University of North Carolina at Chapel Hill, 2013
Program Co-Chair: beth_millwood@unc.edu
Todd Moye, University of North Texas, 2013 Program Co-Chair: moye@unt.edu
Stephen Sloan, 2013-14 OHA President: stephen_sloan@baylor.edu
For submission queries or more information, contact:
Madelyn Campbell, Executive Secretary
Oral History Association Dickinson College, P. O. Box 1773 Carlisle, PA 17013
Telephone (717) 245-1036 Fax: (717) 245-1046 E-mail: oha@dickinson.edu
(2)Oral History Society (UK) www.oralhistory.org.uk
The Annual Conference of the Oral History Society in conjunction with the Centre for Life History and Life Writing Research, University of Sussex
Corporate Voices: Institutional and Organisational Oral Histories
Venue: University of Sussex
Date: Friday 5th – Saturday 6th July 2013
The deadline for submission of proposals is 1st December 2012. Each proposal should include: a title, an abstract of between 250-300 words, your name (and the names of any co-presenters, panelists etc), your
institution or organisation, your email address, and a note of any particular requirements. Most importantly your abstract should demonstrate the use of oral history or personal testimony and be directly related to the history or development of aspects of organisational or corporate history. Proposals should be emailed to the Corporate Voices Conference Administrator, Belinda Waterman, at belinda@essex.ac.uk. They will be assessed anonymously by the conference organisers, and presenters will be contacted early in 2013.(国際委員会 吉田 かよ子)

3.会員異動
(1)新入会員 田代志門 昭和大学
(2)住所変更 田中里奈(新) 池上賢 (新)
◆連絡先(住所・電話番号・E-mail アドレス)を変更された場合は、できるだけ速やかに事務局までご連絡ください。

4.2012年度会費納入のお願い
いつも学会運営へのご協力ありがとうございます。
本学会は会員の皆様の会費で成り立っています。今年度の会費が未納の方におかれましては、何とぞご入金のほどよろしくお願いいたします。なお、先日発行しました学会誌は、2012 年度会費入金確認後に発送いたします。
■年会費
一般会員:5000 円、学生他会員:3000 円
*昨年度の移行期間を経て、2012年度より会計年度が4月1日から翌年3月31日までとなりました。年会費は12 ヵ月分に戻ります(昨年度のみ9 ヵ月分)。なお年会費には学会誌代が含まれています。
■ゆうちょ銀行からの振込先
口座名:日本オーラル・ヒストリー学会
口座番号:00150-6-353335
*払込取扱票(ゆうちょ銀行にある青色の振込用紙)の通信欄には住所・氏名を忘れずにご記入ください。
*従来の記号・番号は変わりありません。
■ゆうちょ銀行以外の金融機関から振り込む際の口座情報
銀行名:ゆうちょ銀行
金融機関コード:9900
店番:019
店名(カナ):〇一九店(ゼロイチキュウ店)
預金種目:当座
口座番号:0353335
カナ氏名:(受取人名):ニホンオーラルヒストリーガツカイ
郵便払込・口座振込の控えで領収書に代えさせていただきます。控えは必ず保管してください。
学会会計全般について、またご自身の入金状況を確認したい場合は、会計担当の橋本みゆき(電子メール: mieux[at]bf6.so-net.ne.jp)へお問い合わせください。