JOHAニュースレター第28号

2015年8月2日発行
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 日本オーラル・ヒストリー学会第13回大会(JOHA13)が2015年9月12日(土)、13日(日)の2日間にわたり大東文化会館において、また11日(金)には高島平団地(いずれも東京都板橋区)にてプレイベントが開催されます。お誘い合わせのうえ、ふるってご参加ください。

《大会開催校より》 JOHA第六期理事 川村 千鶴子(大東文化大学)
オーラル・ヒストリーの世界にようこそ!
2015年は、戦後70年、国連創設70周年に当たります。オーラル・ヒストリーは、歴史資料から排除されがちであった人びとの証言を拾い、多文化共生への不断の努力を蘇えらせてきました。そうした語り継ぎこそが、街の由緒を生成し、世代を超えて地域コミュニティを形成する土台になってきたと思います。
オーラル・ヒストリーの聴取は、地域史を知り、他者の心の深層に共感し、多様な人生に寄り添う力をもっています。多元価値社会を担う若者たちの将来のためにもオーラル・ヒストリーの可能性は、広がっています。オーラル・ヒストリーから生まれる異文化間トレランスは、それぞれの人生をより豊かにする力をもっています。
私たちJOHAは、様々なメディアを有効に使い、インタビューや音声史資料のよりよい保存、収集、利用方法を研究し、方法論を研鑽し、ジャンルを超えた実践者の相互交流を行ってきました。13日のシンポジウムは、「多文化共生とオーラル・ヒストリーの力」をテーマに移民・難民の人びとの人生と多文化共生能力を磨く教育実践を発信します。人間の生存環境を考える基礎となり、新たな語り合いの場にいたしましょう。

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Ⅰ.日本オーラル・ヒストリー学会 第13回大会
Japan Oral History Association 13th Annual Conference

開 催 日:2015年9月12日(土)、13日(日)  *11日(金)にプレ集会あり
開催場所:大東文化会館(東京都板橋区、開催校:大東文化大学)
交通手段:東武東上線東武練馬駅より徒歩3分。池袋から東武練馬まで各駅停車で14分。
参 加 費:会員 1,000円(2日通し)
非会員 一般:2,000円(1日参加1,000円)、学生他:1,000円(1日参加500円)
懇親会費:一般 4,000円、学生他 2,500円
開催校理事:川村千鶴子
学会事務局:川又俊則、研究活動委員会委員長:和田悠、会計:八木良広
大会に関してご不明な点がございましたら、JOHA事務局までお問い合わせください。

◎自由報告者へのお願い:
1)自由報告は、報告20分・質疑応答10分(合計30分)で構成されています。
2)配布資料の形式は自由です。会場では印刷できませんので、各自50部ほど印刷し、ご持参ください。
3)各会場にパソコンを準備しておりますので、ご利用の場合、USBメモリ等にプレゼンテーションのデータをお持ちください(ご自身のPC等をご使用の場合、RGBケーブル接続のみでUSBなどの接続方式には対応しておりません。必要な方は変換アダプター等もご準備ください。念のため資料を保存したUSBメモリ等もご持参ください)。動作確認等は各分科会の開始前にお願いいたします。会場担当者にご相談ください。

◎参加者へのお知らせ:
1)会員・非会員ともに両日とも受付してください。参加にあたっては事前申し込みは必要ありません。
2)昼食は近隣の食堂等をご利用いただくなど、各自でご用意ください。
3)大きな荷物を1階講師控室に一時置くことができます。スタッフは常時いるわけではないので貴重品は手元においてください。

1.大会プログラム

◎プレ集会 9月11日(金)
●15:30~ 高島平団地ツアー(都営三田線・高島平駅西口改札付近集合、要事前申込)
●17:00~ 大会プレ企画
「地域コミュニティづくりからオーラル・ヒストリーへ」 井上温子さん(板橋区議)
  コメント:赤嶺淳
 *参加費一人500円。水筒などをご持参ください。
 *会場の都合上、参加者は事前に、和田悠(研究活動担当理事)(yuwada(at)rikkyo.ac.jp)まで申し込みしてください。先着順になる場合があります。会員以外の参加も歓迎します。

◎第1日目 9月12日(土)
(理事会 11:00~ ホールにて)
●受付開始 12:00(1階 ホール入口)
●自由報告 13:00~15:30

○第1分科会 (ホール) 司会:小倉康嗣・滝田祥子
1-1 災害の記憶を「語り継ぐ」――伊那谷三六災害の経験を聞く
 岸 衞(日本ライフストーリー研究所)
1-2 戦後史の経験を語り継ぐ
 桜井 厚(立教大学)
1-3 「協働の場所」における故郷喪失のライフヒストリー――浪江町民による記憶の語り直し
 佐々木加奈子(東北大学情報科学研究科メディア文化論博士後期課程)
1-4 民俗芸能研究とオーラル・ヒストリー――五所八幡宮例大祭と鷺の舞を事例として
 川﨑瑞穂(国立音楽大学大学院博士後期課程)
1-5 統合失調症の娘を抱える両親の羅生門的現実
 青木秀光(立命館大学大学院先端総合学術研究科)

○第2分科会(401+402研修室) 司会:赤嶺淳・越川葉子
2-1 社会運動調査に求められる倫理的課題――レイシズム/反レイシズム運動のフィールドから
 松岡 瑛理 (一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程)
 久木山一進(一橋大学大学院言語社会研究科修士課程修了・安田学園講師)
2-2 ノンセクトとしての「ひと」教育運動
 香川七海(日本大学大学院)
2-3 環流するアジアの労働力――インドネシア人技能実習生の同胞リクルートとハビトゥス変容
 山口裕子(北九州市立大学准教授)
2-4 男女賃金格差は能力格差だ――男子進学校卒業生のその後-当時の発言を振り返る
 大矢英世(日本女子大学大学院人間生活学研究科博士後期課程)
2-5 海外生活が駐在員の配偶者の家族観に与える影響――4人の配偶者女性の語りから
 三浦優子(異文化トレーナー、海外生活企業アドバイザー)

●JOHA学会長挨拶 好井裕明(日本大学)(ホール)

●開催校学長 祝辞 太田政男 大東文化大学学長(ホール)

●研究実践交流会 15:50~17:40(ホール)
講師:中西新太郎さん(横浜市立大学名誉教授)
「新自由主義の時代と文化を描く―若者研究の実践から」
語られたことは、語らないこと、語りえないことの幾層もの上に現れる。ミシェル・ド・セルトーが夙に指摘したように、生きられた文化はこの堆積する層全体に浸されて存立する。語りを種々にとらえようとするアプローチ、歴史学、文化人類学、社会学、精神医学、民俗学、教育学、臨床哲学…は、したがって、沈黙と表出の堆積のなかではたらく文化のリアルを、それぞれのアプローチによって切り出す次元を不可避に含むはずである。
オーラル・アプローチのこの特質に由来する力(社会的世界の解明に資する)と困難とを考えるために、「個性的だね」という賞賛(と感じられる)表現が、差別的言辞にさえ逆転する現代日本の文化・コミュニケーション機制を手がかりに、語られたことの解析をめぐる諸課題について検討したい。
 司会:研究活動委員長 和田悠

●懇親会 18:00~20:00  
会場:マザーリーフ東武練馬店 03-5922-6781
参加費:4,000円、学生その他2,500円(着席・ブッフェ形式)
スペシャルゲスト:チョウチョウソーさん、 司会:和田悠
☆参加者にプレゼント:『なんみんと日本』(アジア福祉教育財団)と『新宿の韓国人ニューカマー100人のライフストリー』トヨタ財団助成)。

◎第2日目 9月13日(日)
●受付開始 9:00
●自由報告 9:30~12:00

○第3分科会(3308教室) 司会:好井裕明・鶴田真紀
3-1 誰のためのライフストーリー研究か?誰もが人生を物語ることはできるのか?――ライフストーリー研究がもつ発達障害者のアイデンティティ再形成促進可能性
 田野綾人(立教大学大学院社会学研究科社会学専攻博士課程前期課程)
3-2 障害児の姉のライフストーリー――プラダー・ウィリーの妹
 渡邉文春(松山大学大学院社会学研究科)
3-3 ある神経難病当事者の自己民族誌(自己エスノグラフィー)
 鈴木隆雄(千葉大学大学院人文社会科学研究科特別研究員)
3-4 看護ケアと語り――拒否的態度の患者に寄り添う看護師の語り
 塚田守(椙山女学園大学)

○第4分科会(3310教室) 司会:有末 賢・荒沢千賀子
4-1 日本進駐と朝鮮戦争従軍――ある日系アメリカ人二世のライフヒストリー
 佐藤けあき(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科国際関係論専攻博士後期課程)
4-2 戦後70年にあたって――様々な戦争経験から
 嶋田典人(香川県立文書館)
4-3 戦争経験をめぐる語り――インド・ナガランド州の事例をとおして
 渡部春奈(一橋大学 大学院、社会学研究科、博士後期課程)
4-4 平和案内人の活動実践と原爆記憶の継承
 深谷直弘(法政大学)
4-5 認識の真実――オーラル・ヒストリーの戯曲化
 加瀬豊司 (四国学院大学名誉教授)

●総会  12:15~13:00(ホール)
●昼休み 13:00~14:00
 第1回新理事会開催(ホール)

●シンポジウム  14:00~17:00(ホール)
「多文化共生の気づきとオーラル・ヒストリーの力」
(Multicultural Awareness in the Light of Oral History)
トランスナショナルな人の移動は、地域の多文化化・多国籍化をもたらし、学びの多様性と多文化共生の課題は多岐にわたっている。さらに脆弱国家や紛争地域からの難民が急増し、中東地域の危機や貧富の格差が危惧されている。2015年6月、国連難民高等弁務官事務所UNHCRは、世界の難民や国内避難民が、何と約6000万人にまで急増したと発表しており、難民の急増は、決して他人事ではない。
本シンポジウムでは、多文化共生社会とは、単に文化的多様性を尊重するだけではなく、移民、難民、無国籍者、障がい者、亡命者、母子家庭など社会的弱者の人生をかけがいのない人生と捉えている社会と捉える。いかにして相互に対等な「市民」と捉え、それぞれの「多文化共生能力」(multicultural intelligence)を培って発展していく社会を構築できるかを発信する。
ビルマから亡命したチョウチョウソー氏が、ライフヒストリーを語る。その逞しい人生から、「ともに生きる仲間」であることを共有し、さらに国籍とは何か、ハイブリディティとは何か、市民権と何か、多元価値社会の中で、人権に根差す社会の実現を語りあう。当事者の視点に立つとき、日本は何ができるのかが見えてくる。

 基調報告「オーラル・ヒストリーによる『気づき愛』の教育実践」:川村千鶴子
 ビルマ難民のオーラル・ヒストリー「日本における自己実現と社会参加」:
 チョウチョウソー(Kyaw Kyaw Soe)さん(ビルマ語雑誌「エラワン・ジャーナル」編集長)
 コメント:橋本みゆき、河合優子さん(立教大学異文化コミュニケーション学部准教授)
 司会:宮﨑黎子

2.自由報告要旨
【1-1】災害の記憶を「語り継ぐ」-伊那谷三六災害の経験を聞く-
 Handing down the memory of the disaster: Interview the experience of the “INADANI SABUROKU SAIGAI”in 1961
 岸 衞((社)日本ライフストーリー研究所)
 Kishi Mamoru: Japan Life Story Research Institute
伊那谷三六災害は、1961年6月伊那谷を襲った梅雨前線と台風による集中豪雨で山崩れ、土石流が発生し、137人が犠牲になった未曾有の災害である。2011年は三六災害から50年目という節目の年。「東日本大震災」と重なったこともあって、防災・減災の立場から、「三六災害を次の世代にどう受け継ぐのか」についての伊那谷各地の自治体で、様々な取り組みがなされた。演劇や歌舞伎で「三六災害」を表現する興味ある試みもなされた。しかしそれらは「災害を伝える」ものであった。
駒ヶ根市大洞で、7人のうち5人が一瞬にして濁流に呑み込まれた一家があった。祖父母、母親、兄、弟の5人が犠牲になった。「残ったのは父と私」と語る美也子さん。災害当時は小学校1年。助け出してくれた父親は今、94才になる。美也子さんと父親文夫さんへのインタビューを試みた。ここでは、二人の語りを中心に「災害の『何』を語り継ぐのか」を報告したいと思う。

【1-2】戦後史の経験を語り継ぐ
 Activities for handing down the experiences of the critical events in postwar Japan
 桜井 厚(立教大学)
 SAKURAI Atsushi: Rikkyo University
現在、戦争体験や戦後史のさまざまな出来事を語り継ぐ活動が盛んに行われている。ここでは、戦後日本において歴史的にも知られているいくつかの重要な出来事をとりあげ、その関係者の経験を語り継ごうとする活動について、その活動の担い手の語りから、戦後史からわれわれが何を学び、何を次世代へ伝えようとしているのかを検討したい。出来事としては、いわゆる「水俣病」、「コザ暴動」、「三里塚闘争」などである。いずれもわが国の現代史の重要な事件であり、なお継続しているものもあって、その全体像はさまざまな角度から論議されてきている。ここではそれらの見方とは一線を画し、語り継ごうとしている活動の、しかもその一部の人びとの語りに着目するもので、それぞれの事件の語り継ぐ活動の全体像にふれるものではないことをあらかじめお断りしておく。

【1-3】「協働の場所」における故郷喪失のライフストーリー:浪江町民による記憶の語り直し
 How“collaborative place” assists nterpretating life story: evacuees from Namie town, Fukushima case
 佐々木加奈子(東北大学 情報科学研究科 メディア文化論 博士後期課程3年) 
 Kanako Sasaki: Tohoku University Graduate school of Information Science Media cultural Laboratory
本研究では「協働の場」という語り手同士の対話を可能にする空間を設け、原発事故を受け、仮設住宅で避難生活をおくる福島県浪江町民を対象に、インタビュー収録を行い、彼らにとって意味のある語りはどのようなものか、実践を通して物語分析を行った。 “孫の世代に浪江の記憶を伝えよう”という前提で集まった生成継承性の高い8名の語りから、<対比の語り><ユーモアな語り><カタルシスな語り>の3パターンに整理し、事例となる語りを提示した。いずれのパターンもこれまで語る機会がなかった彼らが口を開き、故郷喪失に立たされながらも多様な意味づけが物語となって生まれ、後世に伝えようとする継承の力、generativityが「協働の場」により発揮された。

【1-4】民俗芸能研究とオーラル・ヒストリー―五所八幡宮例大祭と鷺の舞を事例として―
 Application of the Oral History in the Study on Folk Performing Arts: A Case Study of “Annual Festival of Gosho Hachimangu” and “Sagi-no-mai” in Kanagawa Prefecture
 川﨑 瑞穂(国立音楽大学大学院 博士後期課程3年)
 Kawasaki Mizuho: Doctoral course at Kunitachi College of Music (graduate school)
発表者は『日本オーラル・ヒストリー研究』第9・10号において、埼玉県秩父市の「神明社神楽」を例に、民俗芸能の通時的研究におけるオーラル・ヒストリーの有効性を示したが、このアプローチが有効な事例は他地域にも数多く存在する。例えば、発表者が今年度の笹川科学研究助成により調査を行っている、日本の民俗芸能「鷺舞」はその好例である。鷺の作り物を身につけて舞うこの風流系の芸能は、近年復興・創作されたものを除くと、5つの地域に伝承されている。本発表では特に、神奈川県足柄上郡中井町遠藤の「五所八幡宮例大祭」とそこで演じられる「鷺の舞」の考察を通じて、民俗芸能研究におけるオーラル・ヒストリーの有効性を示したい。

【1-5】統合失調症の娘を抱える両親の羅生門的現実 
 The Rashomon-Like Reality of Parents Who Have a Daughter with Schizophrenia
 青木秀光(立命館大学大学院先端総合学術研究科) 
 Hidemitsu Aoki: Graduate School of Core Ethics and Frontier Sciences Ritsumeikan Universsity
本報告では、20代で統合失調症を発症した娘を抱え、数十年間という歳月を共に歩んできた彼女の父親と母親からのインタビュー調査をもとに、彼らがどのような思いを抱いて生きてきたのかについて考察する。
ここでは、一般に障害児の面倒の多くを母親がみるというモデルストーリーが必ずしも妥当ではないことを中心に娘への関わりや家族会への参加の両親間での差異といったものを明らかにする。また、娘の障害に対する両親の意味付与が一概にはまとめられ得ないことを羅生門的現実として提示することも企図している。
なお、ライフストーリー法を採用し、客観的事実に照らした絶対的真理や真実の探求ではなく、その時、その場で生起してくる一回性の相互行為に焦点を当てて分析した。

【2-1】社会運動調査に求められる倫理的課題―レイシズム/反レイシズム運動のフィールドから―
 松岡瑛理(一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程)
 Eri Matsuoka
 久木山一進(一橋大学大学院言語社会研究科修士課程修了・安田学園講師)
 Kazuyuki Kukiyama
2000年代後半から、国内ではインターネット上で在日韓国・朝鮮人や韓国をターゲットとした人種差別的な書き込み、さらには在特会をはじめとする団体による排外デモが注目を集めている。2013年以降、それらへのカウンター(対抗運動)にも注目が集まるようになった。
報告者である久木山は在特会とも関わりを持つ愛国コミュニティ、松岡はそれらカウンター活動に関する調査を行ってきた。対照的な性質のフィールドながら、ともに感じてきたのは現在進行形で進むレイシズムの問題を調査するにあたって調査者側の倫理的な態度もまた、厳しく問われるということだ。両者の経験を踏まえ、人類学で指摘されてきた「調査地被害」の問題などと絡めた問題提起を行う。

【2-2】ノンセクトとしての『ひと』教育運動 
“hito”Educational Movement as Non-sect
香川七海(日本大学大学院)
kagawa nanami: Nihon University, Graduate School of Literature and Social Sciences
本報告は、『ひと』教育運動の参加者へのインタビュー調査を通して、この運動が同時期の日教組教育運動や民間教育運動のはざまに第三の選択肢として誕生したものであるということを明らかとするものである。
『ひと』教育運動は、1970年代から90年代にかけて展開された運動で、既存の教職員組合教育運動や教師が主体となる教育運動ではなく、市民が「個」として参加し、活動することを目的とした運動である。当時、教育運動の一部分が政党性に拘束されていたなかで、ラディカルな教師たちは、「子どものための教育運動」を理想とし、ノンセクトとして展開された『ひと』教育運動に参加することとなった。
当日の報告では、インタビュー調査の成果から、この運動が、既存の教育運動のほかに、第三のノンセクトとしての選択肢として誕生したものであったということについて論及する予定である。

【2-3】環流するアジアの労働力:インドネシア人技能実習生の同胞リクルートとハビトゥス変容 
 The incessant flow of Asian labor force: The compatriot recruitment and the transformation of habitus among  Indonesian technical intern trainees
 山口 裕子(北九州市立大学 准教授)
 YAMAGUCHI Hiroko: The University of Kitakyushu, Associate Professor
本研究発表では、近年の経済のグローバル化を受けて活発化、多元化するアジアの国際労働力移動の中でも、故地に帰還した元技能実習生による地元青年の送り出し事業(同胞リクルート)で来日したインドネシア人技能実習生を対象に聞き取り調査を行い、日本社会への適応過程と困難や工夫、ネットワーク形成の動態、ハビトゥス(態度、性向)や価値観変容の萌芽的状況を中心に考察する。それにより、当該制度の持続を可能にする外国人技能実習生の環流と、それを下支えするメカニズムとしての、実習生同士の情報ネットワーク、宗教実践や生活の工夫の実相の一端を明らかにする。

【2-4】男女賃金格差は能力格差だ-男子進学校卒業生のその後-  当時の発言を振り返る 
 He said that the man and woman pay gap happened for an ability difference. The boys’ preparatory school student looks back on a then opinion and the life of his own.
 大矢英世(日本女子大学大学院 人間生活学研究科 博士後期課程)
 OYA Hideyo
1994年度よりそれまで女子のみ必修科目であった高校家庭科が、男女必履修科目となった。制度上は男子も学ぶ家庭科となり、教科書の内容も一新した。しかし、男子校進学校における家庭科の定着には時間がかかり、2006年には男子進学校の家庭科未履修問題がマスコミで取り上げられている。筆者がこれまで実施してきた男子進学校の家庭科教員へのインタビュー調査からは、男子進学校における家庭科の導入にはさまざまな困難がつきまとったことが見えてきた。その中で家庭科開設当初に家庭科教員を最も悩ませ、反抗的な態度を繰り返していたという男子進学校卒業生へのインタビュー調査を実施し、その語りから男子進学校における家庭科の課題を考察した。

【2-5】海外生活が駐在員の配偶者の家族観に与える影響―4人の配偶者女性の語りから― 
 Influence of Living Overseas on Family Values of Japanese Expatriate Wives―through Stories of Four Expatriate Wives
 三浦優子(異文化トレーナー、海外生活企業アドバイザー)
 Miura,Yuko: Intercultural trainer, Corporate Adviser for overseas expatriate
駐在員の配偶者女性たちは、仕事や勉学という目的からではなく、自分の意志とは無関係に、夫に帯同して海外に渡航する。4人の配偶者女性たちに、滞在中に、転機やインパクトがあったと思う出来事などを、帰国して数年たった「今・ここ」で振り返り、自由に語ってもらうことにより、自己との向き合い方も含め、夫や子供との関係が、海外生活により、どのような影響を受けているのかを考察する。彼女達の語りの内容だけでなく、どのように語ったのかという語り方にも留意して、語りを渡航前、渡航中、帰国後と大きく分けて分析して、渡航前から、帰国後の今に至るまでの内的変化、またそのような変化をもたらした背景も捉えていく。

【3-1】誰のためのライフストーリー研究か?誰もが人生を物語ることはできるのか?―ライフストーリー研究がもつ発達障害者のアイデンティティ再形成促進可能性 
 Who is the Life-story approach for? Not everybody can talk about own life: I report Life-story approaches have significant potential to assist developmental disorders to rebuild their identities.
 田野 綾人(立教大学大学院 社会学研究科社会学専攻 博士課程前期課程) 
 TANO, Aya: Department of Sociology, Graduate School of sociology, Rikkyo University
人生はたびたび演劇の舞台に例えられる。しかし、舞台であるにも関わらず喋るべき台詞や自分の役割が 分からない/理解できない 人がいたらどうだろう? アイデンティティの拡散がそこでは起きている。本報告では、このような困難を抱えやすい発達障害者に焦点を当てる。これまでも、発達障害者におけるコミュニケーションの特異性や記憶の断片性、注意欠陥などが専門家や発達障害者本人によって議論されてきた。では、ライフストーリー研究者はこのような人々をどのようにして支援できるのだろうか? 本報告は、ライフストーリー研究者が場合によっては「科学的」であることをかなぐり捨てても、「偽の記憶」の形成を促したとしても構わないという立場を採り、ライフストーリー研究の可能性を広げる試みである。

【3-2】障害児の姉のライフストーリー ―プラダー・ウィリーの妹― 
 Life story of a elder sister with disabilitie’s child ―Younger sister of Prader-Willi syndrome―
 渡邉 文春(松山大学大学院社会学研究科) 
 Fumiharu Watanabe: Matsuyama University 
本報告は、染色体異常による「プラダー・ウィリー症候群」の妹をもつ姉へのインタビュー調査を行い、その語りから妹の障害をどのように捉えて、どのような姉妹関係を構築しているのかを考察した内容である。この障害は、乳幼児期が重度身体障害で、就学時期には身体障害が軽減されるのが特徴である。姉の語りからは、「障害を持つ妹へのスティグマ視」の側面が分かり、妹が生まれた頃には、彼女への介護役割が確認された。しかし、姉妹が成人した現在では、妹の障害について姉は無関心になっており、妹と「母親の深い関係」と、妹と「姉の浅い関係」が家族内で違和感なく成立している。姉が妹にスティグマを押し付けない工夫で、対等な姉妹関係を再編しているようだ。

【3-3】ある神経難病当事者の自己民族誌(自己エスノグラフィー) 
 Autoethnography of a person with neurological disease
 鈴木隆雄(千葉大学大学院人文社会科学研究科 特別研究員) 
 Suzuki Takao
28 歳まで病気や病院とは無縁だった者が、ある日、現代医学では治癒が不能とされる神経難病を発症する。本研究発表では、自己民族誌(自己エスノグラフィー)という手法で、次第に四肢の神経系が破壊され、麻痺していく患者当事者の「病い」 の経験を報告する。はじめに、当事者が「学問」として、「自分」や自分が属する文化や集団を研 究することの困難さやその学術的意義、研究手法を社会学・人類学等から先行研究を概観する。その中で、ある文化の当事者が、「自分自身」や「文化」を文化的、学術的に表現、記述し、その解釈を他者(外部)に示す自己民族誌(自己エスノグラフィー)を手がかりにして、患者としての経験を研究者として記述、表現する。

【3-4】看護ケアと語り―拒否的態度の患者に寄り添う看護師の語り 
 Nurse’s Care and Narrative―Narratives of Nurses Caring Patients with Rejecting Attitude-
 塚田 守(椙山女学園大学) 
 Tsukada Mamoru: Sugiyama Jogakuen University
本発表は、看護の事例研究会で発表された患者に関わる訪問看護師の経験についての発表とその研究会で集う看護師たちのコメントを、看護師たちによって共有された「対話的語り」として考察することを目的としている。この研究会は、ある大学教授夫妻の自宅で開催され、出欠もとらず20年以上続いているもので、発表者は、この研究会に5年前よりほぼ毎月1回のペースで参加している。本発表は、拒否的態度の患者への、ある訪問看護師の自らの関わり方、ケアの仕方がこれでよかったのかを他の参加者に投げかけるような形で発表された報告に対して他の参加者が行ったコメントを含め分析し、そこで共有された「看護ケア」の価値観を分析するものである。

【4-1】日本進駐と朝鮮戦争従軍―ある日系アメリカ人二世のライフヒストリー― 
 A life history of Japanese American Nisei who served in Japan and Korea
 佐藤けあき(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科国際関係論専攻博士後期課程2年)
 SATO Keaki: Doctoral Program in International Relations, Graduate School of Global Studies, Sophia University
本報告では、報告者がハワイで聞き取ったある日系アメリカ人二世の従軍経験を中心としたライフヒストリーを検討する。A氏は、熊本出身の両親のもとハワイのサトウキビプランテーションで生まれ育った。第二次世界大戦の終結後、両親の祖国に対する望郷の念からA氏は日本への進駐軍となるため米軍に志願するが、進駐後間もなく朝鮮戦争が勃発し朝鮮半島に派兵される。朝鮮半島では北朝鮮の捕虜に「日本語」で通訳を行った。A氏は自分より流暢な日本語を話すコリアンの人々に出会い衝撃を受ける。A氏の従軍経験から、これまでアメリカニズムの強調が主に論じられてきた二世のエスニック・アイデンティティを、国際関係の動きの中で捉えることでより多面的に読み解く。

【4-2】戦後70年にあたって~様々な戦争体験から
 70 years after World WarⅡ What people had to go through during the war
 嶋田典人(香川県立文書館)
 Norihito SHIMADA: Kagawa Prefectural Archives
2015年の今年は、戦後70年の節目の年である。戦争体験者の高齢化が進み、語り手が次第に少なくなってくる中で、聞き取り調査は「緊急性」を増す。今回取り上げる語り手は、香川県内在住の二人の方(男性)である。一人は、炭山勤労報国隊として九州での炭鉱(炭坑)で労働に従事、その後、郷里に帰り、詫間海軍航空隊の造成工事、徴兵後は佐世保で海軍に所属、佐世保空襲をも体験。もう一人は満蒙開拓青少年義勇軍所属、戦後のシベリア抑留と、様々な体験をされている二人の語りを報告する。

【4-3】戦争経験をめぐる語り―インド・ナガランド州の事例をとおして 
 Narrating the Experience of War: A Case Study In Nagaland, India
 渡部春奈(一橋大学 大学院、社会学研究科、博士後期課程) 
 WATABE Haruna
本発表の目的は、インパール作戦の激戦地であったインド北東部・ナガランド州において、当時の戦争経験者がそれぞれの経験をどのように語り、また語りなおしているのかを明らかにすることにある。日本軍が長期的に占領統治した他の地域とは異なり、ナガランドに居住するナガが日本兵と接触した期間は、わずか一年にも満たない。それでも語られ続ける当時の日本兵との出会いの語りには、個別具体的なものと併せて、複数の語り手に共通するパターン化された語りが存在する。これらを考察したうえで、パターン化された語りとは全く異なる語り口を用いることで、地域の観光化、ひいては発展につなげようとする村の取り組みに注目する。このように、戦争経験が現在的な影響を受けながら柔軟に語りなおされていく様を、2012年から断続的に行なったフィールドワークを基に検証する、一試論である。

【4-4】平和案内人の活動実践と原爆記憶の継承
 Handing down Memories of the Atomic Bombing and Practices of the Peace Volunteer Guides
 深谷 直弘(法政大学)
 FUKAYA, Naohiro
近年、戦争の継承活動に関する研究は、原爆の記憶やホロコーストの記憶、沖縄戦の記憶などを中心に、蓄積されてきている。ただ、これまでの研究は、活動の実践、あるいは活動者の生活史のどちらかのみに比重を置いた研究がほとんどであり、活動実践と生活史の両方に着目し、その関係性を検討したものはあまりなかったように思える。
そこで本報告は、現在の被爆地長崎で行われている継承活動のうち、2004年に設立されたボランティアガイドである平和案内人の活動者を取り上げ、彼・彼女らの継承活動が、生活史との関係のなかで、かつどのような条件下で可能になり、実際どのような継承実践が行われているのかを明らかにする。そしてその事例を通じて、原爆の記憶を継承していくことはどういうことなのかを考えたい。

【4-5】認識の真実:オーラル・ヒストリーの戯曲化 
 Felt Reality: Dramatization of Oral History
 加瀬豊司(四国学院大学名誉教授, 博士)
 Toyoshi Kase: Ph.D. (The University of Maryland), Professor Emeritus, Shikoku Gakuin University
この報告は語られた歴史の直接的再現に躊躇がある場合の一配慮として、戯曲化を考えていた。しかしこれは単なる語り手の隠しではなく、上演舞台という媒体により、内面の深いところに激動する要素を“劇動”させ、さらには認識者(読む、聞く、観る)の共振感情により、語りの内容の鮮明化に繋がると思った。テーマは日系アメリカ人史。日米間の戦争という極限状態の下、白人社会からの移民1世と2世に対する人種的偏見と排斥、移民親子の価値観の相違がもたらす“運命”や葛藤、親の祖国に対し犠牲覚悟で戦争に志願する2世の心情と行動による語りが中心。この理不尽さと不条理を演劇の原案(この原本は「オーラル・ヒストリー」のインタビューによる英文博士論文)とし、名古屋東文化小劇場で4月の中旬4日間、8回公演(観劇者総数:2、700人)をした。報告時には台本の一部を再現し、ドラマティック・プレゼンテーションを目指す。

3.会場案内
会場:大東文化会館 〒175-0083 東京都板橋区徳丸2-4
会場の問い合わせ:大東文化大学 地域連携センター事務室 電話:03-5399-7399
アクセス・マップ:
http://www.daito.ac.jp/campuslife/campus/facility/culturalhall.html

Ⅱ.理事会報告

Ⅲ.お知らせ
1.会員異動(2014 年12月から2015 年7月まで)

※連絡先(住所・電話番号・E-mail アドレス)を変更された場合は、できるだけ速やかに事務局までご連絡ください。
(事務局長 川又俊則)

2.2014年度(2015.4.1~2016.3.31)会費納入のお願い
いつも学会運営へのご協力ありがとうございます。
本学会は会員のみなさまの会費で成り立っています。今年度の会費が未納の方におかれましては、何とぞご入金のほどよろしくお願いいたします。9月のJOHA13大会時にスムーズに受付を済ませるためにも、なるべく大会前に納入してくださいますようお願いいたします。

■年会費
一般会員:5000 円 学生・その他会員:3000 円
*「学生・その他会員」の「その他」には、年収200万円以内の方が該当します。区分を変更される場合は、会費納入時に払込票等にその旨明記してください。
*年会費には学会誌代が含まれています。

■ゆうちょ銀行からの振込先
口座名:日本オーラル・ヒストリー学会
口座番号:00150-6-353335
*払込取扱票(ゆうちょ銀行にある青色の振込用紙)の通信欄には住所・氏名を忘れずにご記入ください。
*従来の記号・番号は変わりありません。

■ゆうちょ銀行以外の金融機関から振り込む際の口座情報
銀行名:ゆうちょ銀行
金融機関コード:9900
店番:019
店名(カナ):〇一九店(ゼロイチキュウ店)
預金種目:当座
口座番号:0353335
カナ氏名:(受取人名):ニホンオーラルヒストリーガツカイ

郵便払込・口座振込の控えで領収書に代えさせていただきます。控えは必ず保管してください。
学会会計全般について、またご自身の入金状況を確認したい場合は、
会計担当の八木良広(電子メール: yy.joha[at]gmail.com)までお問い合わせください。
(会計 八木良広)

Ⅳ.会員投稿
清水透
この春、大学での講義録をベースにして執筆した『ラテンアメリカ 歴史のトルソー』が出版されました。フィールドワーク、聞き取りを積み重ねるなかで浮かんできたラテンアメリカ500年の歴史の大きな流れ、そこから見えてくる「近代」とは、といった問題を扱っています。とはいえ、非売品。ご関心がおありの方は、立教大学ラテンアメリカ研究所03-3985-2578へお問い合わせください。
なお、2011年春2度にわたりニューヨークで実施した「不法就労」のインディオのオーラル・ヒストリーの作品、「砂漠を越えたマヤの民―コロニアル・フロンティアの揺らぎ」は、『オルタナティヴの歴史学』(有志社、2013年)に収録されています。同書所収の座談会では、歴史叙述の方法やオーラル・ヒストリーをめぐり、かなり激しい議論が展開されています。

* * *
後藤 一樹(慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程)
<ライフヒストリー>を内に含んだ<ライフストーリー>へ――学会発表から論文化へのプロセスでわかったこと
昨年の学会大会で私は、歩き遍路Kさんの<ライフヒストリー>について発表した。これを基にした論文が今年の学会誌に掲載される。学会では次のようなご指摘を頂いた。「Kさんとご家族との繋がりは?」(山村淑子先生)。「仏教的諦念とあるけどKさんの人生はそれだけ?」(金馬国晴先生)。「温泉で語り合ったんだ!? そんな面白い交流の話もあるなら」(小倉康嗣先生)。「理論よりももっとKさんの語りを生かして」(塚田守先生)。その日クリティカルに響いた先生達の「声」が木霊する中、私はKさんへの聞取りを続けた。すると、Kさんの人生の中に私が居る事に気が付いた。Kさんの生活史を深く知ろうとしてKさんの物語に介入している私が、Kさんを鏡に浮かび上がる。もうこれは「私たちの物語」である。けれども<ライフストーリー>に転じた物語の内で、Kさん固有の「声」がかき消される事はない(この点は桜井厚先生もご指摘済)。Kさんの「声」は新しい意味となった私の「声」と共に響き続ける。そして私は、「二者関係」の向こうに、それを含んだ「三者関係」の地平を見た。私は今、遍路・お接待者・研究者の三者の<クロス・ナラティヴズ>を追究している。