JOHAニュースレター32号(訂正版)の発行

JOHA会員 各位

昨日お送りしたJOHAニューズレター32号に誤りがございました。
お詫び申し上げますとともに、訂正いたします。
訂正版はこちら(JOHA NewsLetter No.32.3rd)になります。

JOHAニューズレター32号
4ページ
1.大会プログラム
【第一分科会】
【誤】松平けやき
→【正】松平けあき
*敬称略

7ページ
2.自由報告要旨
【第一分科会】
【誤】松平けやき(上智大学・大学院)
→【正】松平けあき(上智大学)
*敬称略

 

今号は、日本オーラル・ヒストリー学会第15回大会の特集号となっています。
大会は9月2、3日に、近畿大学東大阪キャンパスにて行われます。
みなさま、奮ってご参加ください。

 

2017年8月2日
JOHA広報委員

JOHAニュースレター31号(訂正版)の発行

JOHA会員 各位

先日お送りしたJOHAニューズレター31号に誤りがございました。
訂正してお詫びいたします。失礼いたしました。
訂正版はこちら(JOHA.NewsLetter31.re)になります。

JOHAニューズレター31号
3.『日本オーラル・ヒストリー研究』 第13号 原稿募集
21ページ
【誤】募集期間:2016年3月20日〜31日
→【正】募集期間:2017年3月20日〜31日

今号は、今年9月の大会(JOHA14)報告や来年3月11日に行われるシンポジウム「エゴ・ドキュメント/パーソナル・ナラティヴをめぐる 歴史学と社会学の対話」の案内、学会誌13号の投稿募集など、盛りだくさんの内容となっています。

シンポジウムにつきましては、本HPで別途お知らせいたします。

2016年12月26日
JOHA広報委員

JOHAニュースレター30号の発行

みなさま

先日発行しましたJOHAニュースレター30号に一部誤りがありました。                       訂正してお詫びいたします。最新版はこちら(JOHA.NL30.re)になります。

ニュースレター P.4
自由報告 第1分科会 1-3
タイトル:
【誤】 陸前高田市高田第一中学校避難所で(福祉避難室)はいかにして成立したか
 ↓
【正】 陸前高田市立第一中学校避難所で「福祉避難室」はいかにして成立したか
報告者氏名:
【誤】 斉藤公子
 ↓
【正】 齋藤公子

 

本号には、日本オーラル・ヒストリー学会第14回大会(於一橋大学)のプログラムが掲載されています。

みなさま、奮ってご参加下さいますよう、よろしくお願い致します。

JOHAニュースレター第28号

2015年8月2日発行
*ニュースレター掲載のメールアドレスは、(at)部分を@ に替えて送信してください。

 日本オーラル・ヒストリー学会第13回大会(JOHA13)が2015年9月12日(土)、13日(日)の2日間にわたり大東文化会館において、また11日(金)には高島平団地(いずれも東京都板橋区)にてプレイベントが開催されます。お誘い合わせのうえ、ふるってご参加ください。

《大会開催校より》 JOHA第六期理事 川村 千鶴子(大東文化大学)
オーラル・ヒストリーの世界にようこそ!
2015年は、戦後70年、国連創設70周年に当たります。オーラル・ヒストリーは、歴史資料から排除されがちであった人びとの証言を拾い、多文化共生への不断の努力を蘇えらせてきました。そうした語り継ぎこそが、街の由緒を生成し、世代を超えて地域コミュニティを形成する土台になってきたと思います。
オーラル・ヒストリーの聴取は、地域史を知り、他者の心の深層に共感し、多様な人生に寄り添う力をもっています。多元価値社会を担う若者たちの将来のためにもオーラル・ヒストリーの可能性は、広がっています。オーラル・ヒストリーから生まれる異文化間トレランスは、それぞれの人生をより豊かにする力をもっています。
私たちJOHAは、様々なメディアを有効に使い、インタビューや音声史資料のよりよい保存、収集、利用方法を研究し、方法論を研鑽し、ジャンルを超えた実践者の相互交流を行ってきました。13日のシンポジウムは、「多文化共生とオーラル・ヒストリーの力」をテーマに移民・難民の人びとの人生と多文化共生能力を磨く教育実践を発信します。人間の生存環境を考える基礎となり、新たな語り合いの場にいたしましょう。

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Ⅰ.日本オーラル・ヒストリー学会 第13回大会
Japan Oral History Association 13th Annual Conference

開 催 日:2015年9月12日(土)、13日(日)  *11日(金)にプレ集会あり
開催場所:大東文化会館(東京都板橋区、開催校:大東文化大学)
交通手段:東武東上線東武練馬駅より徒歩3分。池袋から東武練馬まで各駅停車で14分。
参 加 費:会員 1,000円(2日通し)
非会員 一般:2,000円(1日参加1,000円)、学生他:1,000円(1日参加500円)
懇親会費:一般 4,000円、学生他 2,500円
開催校理事:川村千鶴子
学会事務局:川又俊則、研究活動委員会委員長:和田悠、会計:八木良広
大会に関してご不明な点がございましたら、JOHA事務局までお問い合わせください。

◎自由報告者へのお願い:
1)自由報告は、報告20分・質疑応答10分(合計30分)で構成されています。
2)配布資料の形式は自由です。会場では印刷できませんので、各自50部ほど印刷し、ご持参ください。
3)各会場にパソコンを準備しておりますので、ご利用の場合、USBメモリ等にプレゼンテーションのデータをお持ちください(ご自身のPC等をご使用の場合、RGBケーブル接続のみでUSBなどの接続方式には対応しておりません。必要な方は変換アダプター等もご準備ください。念のため資料を保存したUSBメモリ等もご持参ください)。動作確認等は各分科会の開始前にお願いいたします。会場担当者にご相談ください。

◎参加者へのお知らせ:
1)会員・非会員ともに両日とも受付してください。参加にあたっては事前申し込みは必要ありません。
2)昼食は近隣の食堂等をご利用いただくなど、各自でご用意ください。
3)大きな荷物を1階講師控室に一時置くことができます。スタッフは常時いるわけではないので貴重品は手元においてください。

1.大会プログラム

◎プレ集会 9月11日(金)
●15:30~ 高島平団地ツアー(都営三田線・高島平駅西口改札付近集合、要事前申込)
●17:00~ 大会プレ企画
「地域コミュニティづくりからオーラル・ヒストリーへ」 井上温子さん(板橋区議)
  コメント:赤嶺淳
 *参加費一人500円。水筒などをご持参ください。
 *会場の都合上、参加者は事前に、和田悠(研究活動担当理事)(yuwada(at)rikkyo.ac.jp)まで申し込みしてください。先着順になる場合があります。会員以外の参加も歓迎します。

◎第1日目 9月12日(土)
(理事会 11:00~ ホールにて)
●受付開始 12:00(1階 ホール入口)
●自由報告 13:00~15:30

○第1分科会 (ホール) 司会:小倉康嗣・滝田祥子
1-1 災害の記憶を「語り継ぐ」――伊那谷三六災害の経験を聞く
 岸 衞(日本ライフストーリー研究所)
1-2 戦後史の経験を語り継ぐ
 桜井 厚(立教大学)
1-3 「協働の場所」における故郷喪失のライフヒストリー――浪江町民による記憶の語り直し
 佐々木加奈子(東北大学情報科学研究科メディア文化論博士後期課程)
1-4 民俗芸能研究とオーラル・ヒストリー――五所八幡宮例大祭と鷺の舞を事例として
 川﨑瑞穂(国立音楽大学大学院博士後期課程)
1-5 統合失調症の娘を抱える両親の羅生門的現実
 青木秀光(立命館大学大学院先端総合学術研究科)

○第2分科会(401+402研修室) 司会:赤嶺淳・越川葉子
2-1 社会運動調査に求められる倫理的課題――レイシズム/反レイシズム運動のフィールドから
 松岡 瑛理 (一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程)
 久木山一進(一橋大学大学院言語社会研究科修士課程修了・安田学園講師)
2-2 ノンセクトとしての「ひと」教育運動
 香川七海(日本大学大学院)
2-3 環流するアジアの労働力――インドネシア人技能実習生の同胞リクルートとハビトゥス変容
 山口裕子(北九州市立大学准教授)
2-4 男女賃金格差は能力格差だ――男子進学校卒業生のその後-当時の発言を振り返る
 大矢英世(日本女子大学大学院人間生活学研究科博士後期課程)
2-5 海外生活が駐在員の配偶者の家族観に与える影響――4人の配偶者女性の語りから
 三浦優子(異文化トレーナー、海外生活企業アドバイザー)

●JOHA学会長挨拶 好井裕明(日本大学)(ホール)

●開催校学長 祝辞 太田政男 大東文化大学学長(ホール)

●研究実践交流会 15:50~17:40(ホール)
講師:中西新太郎さん(横浜市立大学名誉教授)
「新自由主義の時代と文化を描く―若者研究の実践から」
語られたことは、語らないこと、語りえないことの幾層もの上に現れる。ミシェル・ド・セルトーが夙に指摘したように、生きられた文化はこの堆積する層全体に浸されて存立する。語りを種々にとらえようとするアプローチ、歴史学、文化人類学、社会学、精神医学、民俗学、教育学、臨床哲学…は、したがって、沈黙と表出の堆積のなかではたらく文化のリアルを、それぞれのアプローチによって切り出す次元を不可避に含むはずである。
オーラル・アプローチのこの特質に由来する力(社会的世界の解明に資する)と困難とを考えるために、「個性的だね」という賞賛(と感じられる)表現が、差別的言辞にさえ逆転する現代日本の文化・コミュニケーション機制を手がかりに、語られたことの解析をめぐる諸課題について検討したい。
 司会:研究活動委員長 和田悠

●懇親会 18:00~20:00  
会場:マザーリーフ東武練馬店 03-5922-6781
参加費:4,000円、学生その他2,500円(着席・ブッフェ形式)
スペシャルゲスト:チョウチョウソーさん、 司会:和田悠
☆参加者にプレゼント:『なんみんと日本』(アジア福祉教育財団)と『新宿の韓国人ニューカマー100人のライフストリー』トヨタ財団助成)。

◎第2日目 9月13日(日)
●受付開始 9:00
●自由報告 9:30~12:00

○第3分科会(3308教室) 司会:好井裕明・鶴田真紀
3-1 誰のためのライフストーリー研究か?誰もが人生を物語ることはできるのか?――ライフストーリー研究がもつ発達障害者のアイデンティティ再形成促進可能性
 田野綾人(立教大学大学院社会学研究科社会学専攻博士課程前期課程)
3-2 障害児の姉のライフストーリー――プラダー・ウィリーの妹
 渡邉文春(松山大学大学院社会学研究科)
3-3 ある神経難病当事者の自己民族誌(自己エスノグラフィー)
 鈴木隆雄(千葉大学大学院人文社会科学研究科特別研究員)
3-4 看護ケアと語り――拒否的態度の患者に寄り添う看護師の語り
 塚田守(椙山女学園大学)

○第4分科会(3310教室) 司会:有末 賢・荒沢千賀子
4-1 日本進駐と朝鮮戦争従軍――ある日系アメリカ人二世のライフヒストリー
 佐藤けあき(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科国際関係論専攻博士後期課程)
4-2 戦後70年にあたって――様々な戦争経験から
 嶋田典人(香川県立文書館)
4-3 戦争経験をめぐる語り――インド・ナガランド州の事例をとおして
 渡部春奈(一橋大学 大学院、社会学研究科、博士後期課程)
4-4 平和案内人の活動実践と原爆記憶の継承
 深谷直弘(法政大学)
4-5 認識の真実――オーラル・ヒストリーの戯曲化
 加瀬豊司 (四国学院大学名誉教授)

●総会  12:15~13:00(ホール)
●昼休み 13:00~14:00
 第1回新理事会開催(ホール)

●シンポジウム  14:00~17:00(ホール)
「多文化共生の気づきとオーラル・ヒストリーの力」
(Multicultural Awareness in the Light of Oral History)
トランスナショナルな人の移動は、地域の多文化化・多国籍化をもたらし、学びの多様性と多文化共生の課題は多岐にわたっている。さらに脆弱国家や紛争地域からの難民が急増し、中東地域の危機や貧富の格差が危惧されている。2015年6月、国連難民高等弁務官事務所UNHCRは、世界の難民や国内避難民が、何と約6000万人にまで急増したと発表しており、難民の急増は、決して他人事ではない。
本シンポジウムでは、多文化共生社会とは、単に文化的多様性を尊重するだけではなく、移民、難民、無国籍者、障がい者、亡命者、母子家庭など社会的弱者の人生をかけがいのない人生と捉えている社会と捉える。いかにして相互に対等な「市民」と捉え、それぞれの「多文化共生能力」(multicultural intelligence)を培って発展していく社会を構築できるかを発信する。
ビルマから亡命したチョウチョウソー氏が、ライフヒストリーを語る。その逞しい人生から、「ともに生きる仲間」であることを共有し、さらに国籍とは何か、ハイブリディティとは何か、市民権と何か、多元価値社会の中で、人権に根差す社会の実現を語りあう。当事者の視点に立つとき、日本は何ができるのかが見えてくる。

 基調報告「オーラル・ヒストリーによる『気づき愛』の教育実践」:川村千鶴子
 ビルマ難民のオーラル・ヒストリー「日本における自己実現と社会参加」:
 チョウチョウソー(Kyaw Kyaw Soe)さん(ビルマ語雑誌「エラワン・ジャーナル」編集長)
 コメント:橋本みゆき、河合優子さん(立教大学異文化コミュニケーション学部准教授)
 司会:宮﨑黎子

2.自由報告要旨
【1-1】災害の記憶を「語り継ぐ」-伊那谷三六災害の経験を聞く-
 Handing down the memory of the disaster: Interview the experience of the “INADANI SABUROKU SAIGAI”in 1961
 岸 衞((社)日本ライフストーリー研究所)
 Kishi Mamoru: Japan Life Story Research Institute
伊那谷三六災害は、1961年6月伊那谷を襲った梅雨前線と台風による集中豪雨で山崩れ、土石流が発生し、137人が犠牲になった未曾有の災害である。2011年は三六災害から50年目という節目の年。「東日本大震災」と重なったこともあって、防災・減災の立場から、「三六災害を次の世代にどう受け継ぐのか」についての伊那谷各地の自治体で、様々な取り組みがなされた。演劇や歌舞伎で「三六災害」を表現する興味ある試みもなされた。しかしそれらは「災害を伝える」ものであった。
駒ヶ根市大洞で、7人のうち5人が一瞬にして濁流に呑み込まれた一家があった。祖父母、母親、兄、弟の5人が犠牲になった。「残ったのは父と私」と語る美也子さん。災害当時は小学校1年。助け出してくれた父親は今、94才になる。美也子さんと父親文夫さんへのインタビューを試みた。ここでは、二人の語りを中心に「災害の『何』を語り継ぐのか」を報告したいと思う。

【1-2】戦後史の経験を語り継ぐ
 Activities for handing down the experiences of the critical events in postwar Japan
 桜井 厚(立教大学)
 SAKURAI Atsushi: Rikkyo University
現在、戦争体験や戦後史のさまざまな出来事を語り継ぐ活動が盛んに行われている。ここでは、戦後日本において歴史的にも知られているいくつかの重要な出来事をとりあげ、その関係者の経験を語り継ごうとする活動について、その活動の担い手の語りから、戦後史からわれわれが何を学び、何を次世代へ伝えようとしているのかを検討したい。出来事としては、いわゆる「水俣病」、「コザ暴動」、「三里塚闘争」などである。いずれもわが国の現代史の重要な事件であり、なお継続しているものもあって、その全体像はさまざまな角度から論議されてきている。ここではそれらの見方とは一線を画し、語り継ごうとしている活動の、しかもその一部の人びとの語りに着目するもので、それぞれの事件の語り継ぐ活動の全体像にふれるものではないことをあらかじめお断りしておく。

【1-3】「協働の場所」における故郷喪失のライフストーリー:浪江町民による記憶の語り直し
 How“collaborative place” assists nterpretating life story: evacuees from Namie town, Fukushima case
 佐々木加奈子(東北大学 情報科学研究科 メディア文化論 博士後期課程3年) 
 Kanako Sasaki: Tohoku University Graduate school of Information Science Media cultural Laboratory
本研究では「協働の場」という語り手同士の対話を可能にする空間を設け、原発事故を受け、仮設住宅で避難生活をおくる福島県浪江町民を対象に、インタビュー収録を行い、彼らにとって意味のある語りはどのようなものか、実践を通して物語分析を行った。 “孫の世代に浪江の記憶を伝えよう”という前提で集まった生成継承性の高い8名の語りから、<対比の語り><ユーモアな語り><カタルシスな語り>の3パターンに整理し、事例となる語りを提示した。いずれのパターンもこれまで語る機会がなかった彼らが口を開き、故郷喪失に立たされながらも多様な意味づけが物語となって生まれ、後世に伝えようとする継承の力、generativityが「協働の場」により発揮された。

【1-4】民俗芸能研究とオーラル・ヒストリー―五所八幡宮例大祭と鷺の舞を事例として―
 Application of the Oral History in the Study on Folk Performing Arts: A Case Study of “Annual Festival of Gosho Hachimangu” and “Sagi-no-mai” in Kanagawa Prefecture
 川﨑 瑞穂(国立音楽大学大学院 博士後期課程3年)
 Kawasaki Mizuho: Doctoral course at Kunitachi College of Music (graduate school)
発表者は『日本オーラル・ヒストリー研究』第9・10号において、埼玉県秩父市の「神明社神楽」を例に、民俗芸能の通時的研究におけるオーラル・ヒストリーの有効性を示したが、このアプローチが有効な事例は他地域にも数多く存在する。例えば、発表者が今年度の笹川科学研究助成により調査を行っている、日本の民俗芸能「鷺舞」はその好例である。鷺の作り物を身につけて舞うこの風流系の芸能は、近年復興・創作されたものを除くと、5つの地域に伝承されている。本発表では特に、神奈川県足柄上郡中井町遠藤の「五所八幡宮例大祭」とそこで演じられる「鷺の舞」の考察を通じて、民俗芸能研究におけるオーラル・ヒストリーの有効性を示したい。

【1-5】統合失調症の娘を抱える両親の羅生門的現実 
 The Rashomon-Like Reality of Parents Who Have a Daughter with Schizophrenia
 青木秀光(立命館大学大学院先端総合学術研究科) 
 Hidemitsu Aoki: Graduate School of Core Ethics and Frontier Sciences Ritsumeikan Universsity
本報告では、20代で統合失調症を発症した娘を抱え、数十年間という歳月を共に歩んできた彼女の父親と母親からのインタビュー調査をもとに、彼らがどのような思いを抱いて生きてきたのかについて考察する。
ここでは、一般に障害児の面倒の多くを母親がみるというモデルストーリーが必ずしも妥当ではないことを中心に娘への関わりや家族会への参加の両親間での差異といったものを明らかにする。また、娘の障害に対する両親の意味付与が一概にはまとめられ得ないことを羅生門的現実として提示することも企図している。
なお、ライフストーリー法を採用し、客観的事実に照らした絶対的真理や真実の探求ではなく、その時、その場で生起してくる一回性の相互行為に焦点を当てて分析した。

【2-1】社会運動調査に求められる倫理的課題―レイシズム/反レイシズム運動のフィールドから―
 松岡瑛理(一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程)
 Eri Matsuoka
 久木山一進(一橋大学大学院言語社会研究科修士課程修了・安田学園講師)
 Kazuyuki Kukiyama
2000年代後半から、国内ではインターネット上で在日韓国・朝鮮人や韓国をターゲットとした人種差別的な書き込み、さらには在特会をはじめとする団体による排外デモが注目を集めている。2013年以降、それらへのカウンター(対抗運動)にも注目が集まるようになった。
報告者である久木山は在特会とも関わりを持つ愛国コミュニティ、松岡はそれらカウンター活動に関する調査を行ってきた。対照的な性質のフィールドながら、ともに感じてきたのは現在進行形で進むレイシズムの問題を調査するにあたって調査者側の倫理的な態度もまた、厳しく問われるということだ。両者の経験を踏まえ、人類学で指摘されてきた「調査地被害」の問題などと絡めた問題提起を行う。

【2-2】ノンセクトとしての『ひと』教育運動 
“hito”Educational Movement as Non-sect
香川七海(日本大学大学院)
kagawa nanami: Nihon University, Graduate School of Literature and Social Sciences
本報告は、『ひと』教育運動の参加者へのインタビュー調査を通して、この運動が同時期の日教組教育運動や民間教育運動のはざまに第三の選択肢として誕生したものであるということを明らかとするものである。
『ひと』教育運動は、1970年代から90年代にかけて展開された運動で、既存の教職員組合教育運動や教師が主体となる教育運動ではなく、市民が「個」として参加し、活動することを目的とした運動である。当時、教育運動の一部分が政党性に拘束されていたなかで、ラディカルな教師たちは、「子どものための教育運動」を理想とし、ノンセクトとして展開された『ひと』教育運動に参加することとなった。
当日の報告では、インタビュー調査の成果から、この運動が、既存の教育運動のほかに、第三のノンセクトとしての選択肢として誕生したものであったということについて論及する予定である。

【2-3】環流するアジアの労働力:インドネシア人技能実習生の同胞リクルートとハビトゥス変容 
 The incessant flow of Asian labor force: The compatriot recruitment and the transformation of habitus among  Indonesian technical intern trainees
 山口 裕子(北九州市立大学 准教授)
 YAMAGUCHI Hiroko: The University of Kitakyushu, Associate Professor
本研究発表では、近年の経済のグローバル化を受けて活発化、多元化するアジアの国際労働力移動の中でも、故地に帰還した元技能実習生による地元青年の送り出し事業(同胞リクルート)で来日したインドネシア人技能実習生を対象に聞き取り調査を行い、日本社会への適応過程と困難や工夫、ネットワーク形成の動態、ハビトゥス(態度、性向)や価値観変容の萌芽的状況を中心に考察する。それにより、当該制度の持続を可能にする外国人技能実習生の環流と、それを下支えするメカニズムとしての、実習生同士の情報ネットワーク、宗教実践や生活の工夫の実相の一端を明らかにする。

【2-4】男女賃金格差は能力格差だ-男子進学校卒業生のその後-  当時の発言を振り返る 
 He said that the man and woman pay gap happened for an ability difference. The boys’ preparatory school student looks back on a then opinion and the life of his own.
 大矢英世(日本女子大学大学院 人間生活学研究科 博士後期課程)
 OYA Hideyo
1994年度よりそれまで女子のみ必修科目であった高校家庭科が、男女必履修科目となった。制度上は男子も学ぶ家庭科となり、教科書の内容も一新した。しかし、男子校進学校における家庭科の定着には時間がかかり、2006年には男子進学校の家庭科未履修問題がマスコミで取り上げられている。筆者がこれまで実施してきた男子進学校の家庭科教員へのインタビュー調査からは、男子進学校における家庭科の導入にはさまざまな困難がつきまとったことが見えてきた。その中で家庭科開設当初に家庭科教員を最も悩ませ、反抗的な態度を繰り返していたという男子進学校卒業生へのインタビュー調査を実施し、その語りから男子進学校における家庭科の課題を考察した。

【2-5】海外生活が駐在員の配偶者の家族観に与える影響―4人の配偶者女性の語りから― 
 Influence of Living Overseas on Family Values of Japanese Expatriate Wives―through Stories of Four Expatriate Wives
 三浦優子(異文化トレーナー、海外生活企業アドバイザー)
 Miura,Yuko: Intercultural trainer, Corporate Adviser for overseas expatriate
駐在員の配偶者女性たちは、仕事や勉学という目的からではなく、自分の意志とは無関係に、夫に帯同して海外に渡航する。4人の配偶者女性たちに、滞在中に、転機やインパクトがあったと思う出来事などを、帰国して数年たった「今・ここ」で振り返り、自由に語ってもらうことにより、自己との向き合い方も含め、夫や子供との関係が、海外生活により、どのような影響を受けているのかを考察する。彼女達の語りの内容だけでなく、どのように語ったのかという語り方にも留意して、語りを渡航前、渡航中、帰国後と大きく分けて分析して、渡航前から、帰国後の今に至るまでの内的変化、またそのような変化をもたらした背景も捉えていく。

【3-1】誰のためのライフストーリー研究か?誰もが人生を物語ることはできるのか?―ライフストーリー研究がもつ発達障害者のアイデンティティ再形成促進可能性 
 Who is the Life-story approach for? Not everybody can talk about own life: I report Life-story approaches have significant potential to assist developmental disorders to rebuild their identities.
 田野 綾人(立教大学大学院 社会学研究科社会学専攻 博士課程前期課程) 
 TANO, Aya: Department of Sociology, Graduate School of sociology, Rikkyo University
人生はたびたび演劇の舞台に例えられる。しかし、舞台であるにも関わらず喋るべき台詞や自分の役割が 分からない/理解できない 人がいたらどうだろう? アイデンティティの拡散がそこでは起きている。本報告では、このような困難を抱えやすい発達障害者に焦点を当てる。これまでも、発達障害者におけるコミュニケーションの特異性や記憶の断片性、注意欠陥などが専門家や発達障害者本人によって議論されてきた。では、ライフストーリー研究者はこのような人々をどのようにして支援できるのだろうか? 本報告は、ライフストーリー研究者が場合によっては「科学的」であることをかなぐり捨てても、「偽の記憶」の形成を促したとしても構わないという立場を採り、ライフストーリー研究の可能性を広げる試みである。

【3-2】障害児の姉のライフストーリー ―プラダー・ウィリーの妹― 
 Life story of a elder sister with disabilitie’s child ―Younger sister of Prader-Willi syndrome―
 渡邉 文春(松山大学大学院社会学研究科) 
 Fumiharu Watanabe: Matsuyama University 
本報告は、染色体異常による「プラダー・ウィリー症候群」の妹をもつ姉へのインタビュー調査を行い、その語りから妹の障害をどのように捉えて、どのような姉妹関係を構築しているのかを考察した内容である。この障害は、乳幼児期が重度身体障害で、就学時期には身体障害が軽減されるのが特徴である。姉の語りからは、「障害を持つ妹へのスティグマ視」の側面が分かり、妹が生まれた頃には、彼女への介護役割が確認された。しかし、姉妹が成人した現在では、妹の障害について姉は無関心になっており、妹と「母親の深い関係」と、妹と「姉の浅い関係」が家族内で違和感なく成立している。姉が妹にスティグマを押し付けない工夫で、対等な姉妹関係を再編しているようだ。

【3-3】ある神経難病当事者の自己民族誌(自己エスノグラフィー) 
 Autoethnography of a person with neurological disease
 鈴木隆雄(千葉大学大学院人文社会科学研究科 特別研究員) 
 Suzuki Takao
28 歳まで病気や病院とは無縁だった者が、ある日、現代医学では治癒が不能とされる神経難病を発症する。本研究発表では、自己民族誌(自己エスノグラフィー)という手法で、次第に四肢の神経系が破壊され、麻痺していく患者当事者の「病い」 の経験を報告する。はじめに、当事者が「学問」として、「自分」や自分が属する文化や集団を研 究することの困難さやその学術的意義、研究手法を社会学・人類学等から先行研究を概観する。その中で、ある文化の当事者が、「自分自身」や「文化」を文化的、学術的に表現、記述し、その解釈を他者(外部)に示す自己民族誌(自己エスノグラフィー)を手がかりにして、患者としての経験を研究者として記述、表現する。

【3-4】看護ケアと語り―拒否的態度の患者に寄り添う看護師の語り 
 Nurse’s Care and Narrative―Narratives of Nurses Caring Patients with Rejecting Attitude-
 塚田 守(椙山女学園大学) 
 Tsukada Mamoru: Sugiyama Jogakuen University
本発表は、看護の事例研究会で発表された患者に関わる訪問看護師の経験についての発表とその研究会で集う看護師たちのコメントを、看護師たちによって共有された「対話的語り」として考察することを目的としている。この研究会は、ある大学教授夫妻の自宅で開催され、出欠もとらず20年以上続いているもので、発表者は、この研究会に5年前よりほぼ毎月1回のペースで参加している。本発表は、拒否的態度の患者への、ある訪問看護師の自らの関わり方、ケアの仕方がこれでよかったのかを他の参加者に投げかけるような形で発表された報告に対して他の参加者が行ったコメントを含め分析し、そこで共有された「看護ケア」の価値観を分析するものである。

【4-1】日本進駐と朝鮮戦争従軍―ある日系アメリカ人二世のライフヒストリー― 
 A life history of Japanese American Nisei who served in Japan and Korea
 佐藤けあき(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科国際関係論専攻博士後期課程2年)
 SATO Keaki: Doctoral Program in International Relations, Graduate School of Global Studies, Sophia University
本報告では、報告者がハワイで聞き取ったある日系アメリカ人二世の従軍経験を中心としたライフヒストリーを検討する。A氏は、熊本出身の両親のもとハワイのサトウキビプランテーションで生まれ育った。第二次世界大戦の終結後、両親の祖国に対する望郷の念からA氏は日本への進駐軍となるため米軍に志願するが、進駐後間もなく朝鮮戦争が勃発し朝鮮半島に派兵される。朝鮮半島では北朝鮮の捕虜に「日本語」で通訳を行った。A氏は自分より流暢な日本語を話すコリアンの人々に出会い衝撃を受ける。A氏の従軍経験から、これまでアメリカニズムの強調が主に論じられてきた二世のエスニック・アイデンティティを、国際関係の動きの中で捉えることでより多面的に読み解く。

【4-2】戦後70年にあたって~様々な戦争体験から
 70 years after World WarⅡ What people had to go through during the war
 嶋田典人(香川県立文書館)
 Norihito SHIMADA: Kagawa Prefectural Archives
2015年の今年は、戦後70年の節目の年である。戦争体験者の高齢化が進み、語り手が次第に少なくなってくる中で、聞き取り調査は「緊急性」を増す。今回取り上げる語り手は、香川県内在住の二人の方(男性)である。一人は、炭山勤労報国隊として九州での炭鉱(炭坑)で労働に従事、その後、郷里に帰り、詫間海軍航空隊の造成工事、徴兵後は佐世保で海軍に所属、佐世保空襲をも体験。もう一人は満蒙開拓青少年義勇軍所属、戦後のシベリア抑留と、様々な体験をされている二人の語りを報告する。

【4-3】戦争経験をめぐる語り―インド・ナガランド州の事例をとおして 
 Narrating the Experience of War: A Case Study In Nagaland, India
 渡部春奈(一橋大学 大学院、社会学研究科、博士後期課程) 
 WATABE Haruna
本発表の目的は、インパール作戦の激戦地であったインド北東部・ナガランド州において、当時の戦争経験者がそれぞれの経験をどのように語り、また語りなおしているのかを明らかにすることにある。日本軍が長期的に占領統治した他の地域とは異なり、ナガランドに居住するナガが日本兵と接触した期間は、わずか一年にも満たない。それでも語られ続ける当時の日本兵との出会いの語りには、個別具体的なものと併せて、複数の語り手に共通するパターン化された語りが存在する。これらを考察したうえで、パターン化された語りとは全く異なる語り口を用いることで、地域の観光化、ひいては発展につなげようとする村の取り組みに注目する。このように、戦争経験が現在的な影響を受けながら柔軟に語りなおされていく様を、2012年から断続的に行なったフィールドワークを基に検証する、一試論である。

【4-4】平和案内人の活動実践と原爆記憶の継承
 Handing down Memories of the Atomic Bombing and Practices of the Peace Volunteer Guides
 深谷 直弘(法政大学)
 FUKAYA, Naohiro
近年、戦争の継承活動に関する研究は、原爆の記憶やホロコーストの記憶、沖縄戦の記憶などを中心に、蓄積されてきている。ただ、これまでの研究は、活動の実践、あるいは活動者の生活史のどちらかのみに比重を置いた研究がほとんどであり、活動実践と生活史の両方に着目し、その関係性を検討したものはあまりなかったように思える。
そこで本報告は、現在の被爆地長崎で行われている継承活動のうち、2004年に設立されたボランティアガイドである平和案内人の活動者を取り上げ、彼・彼女らの継承活動が、生活史との関係のなかで、かつどのような条件下で可能になり、実際どのような継承実践が行われているのかを明らかにする。そしてその事例を通じて、原爆の記憶を継承していくことはどういうことなのかを考えたい。

【4-5】認識の真実:オーラル・ヒストリーの戯曲化 
 Felt Reality: Dramatization of Oral History
 加瀬豊司(四国学院大学名誉教授, 博士)
 Toyoshi Kase: Ph.D. (The University of Maryland), Professor Emeritus, Shikoku Gakuin University
この報告は語られた歴史の直接的再現に躊躇がある場合の一配慮として、戯曲化を考えていた。しかしこれは単なる語り手の隠しではなく、上演舞台という媒体により、内面の深いところに激動する要素を“劇動”させ、さらには認識者(読む、聞く、観る)の共振感情により、語りの内容の鮮明化に繋がると思った。テーマは日系アメリカ人史。日米間の戦争という極限状態の下、白人社会からの移民1世と2世に対する人種的偏見と排斥、移民親子の価値観の相違がもたらす“運命”や葛藤、親の祖国に対し犠牲覚悟で戦争に志願する2世の心情と行動による語りが中心。この理不尽さと不条理を演劇の原案(この原本は「オーラル・ヒストリー」のインタビューによる英文博士論文)とし、名古屋東文化小劇場で4月の中旬4日間、8回公演(観劇者総数:2、700人)をした。報告時には台本の一部を再現し、ドラマティック・プレゼンテーションを目指す。

3.会場案内
会場:大東文化会館 〒175-0083 東京都板橋区徳丸2-4
会場の問い合わせ:大東文化大学 地域連携センター事務室 電話:03-5399-7399
アクセス・マップ:
http://www.daito.ac.jp/campuslife/campus/facility/culturalhall.html

Ⅱ.理事会報告

Ⅲ.お知らせ
1.会員異動(2014 年12月から2015 年7月まで)

※連絡先(住所・電話番号・E-mail アドレス)を変更された場合は、できるだけ速やかに事務局までご連絡ください。
(事務局長 川又俊則)

2.2014年度(2015.4.1~2016.3.31)会費納入のお願い
いつも学会運営へのご協力ありがとうございます。
本学会は会員のみなさまの会費で成り立っています。今年度の会費が未納の方におかれましては、何とぞご入金のほどよろしくお願いいたします。9月のJOHA13大会時にスムーズに受付を済ませるためにも、なるべく大会前に納入してくださいますようお願いいたします。

■年会費
一般会員:5000 円 学生・その他会員:3000 円
*「学生・その他会員」の「その他」には、年収200万円以内の方が該当します。区分を変更される場合は、会費納入時に払込票等にその旨明記してください。
*年会費には学会誌代が含まれています。

■ゆうちょ銀行からの振込先
口座名:日本オーラル・ヒストリー学会
口座番号:00150-6-353335
*払込取扱票(ゆうちょ銀行にある青色の振込用紙)の通信欄には住所・氏名を忘れずにご記入ください。
*従来の記号・番号は変わりありません。

■ゆうちょ銀行以外の金融機関から振り込む際の口座情報
銀行名:ゆうちょ銀行
金融機関コード:9900
店番:019
店名(カナ):〇一九店(ゼロイチキュウ店)
預金種目:当座
口座番号:0353335
カナ氏名:(受取人名):ニホンオーラルヒストリーガツカイ

郵便払込・口座振込の控えで領収書に代えさせていただきます。控えは必ず保管してください。
学会会計全般について、またご自身の入金状況を確認したい場合は、
会計担当の八木良広(電子メール: yy.joha[at]gmail.com)までお問い合わせください。
(会計 八木良広)

Ⅳ.会員投稿
清水透
この春、大学での講義録をベースにして執筆した『ラテンアメリカ 歴史のトルソー』が出版されました。フィールドワーク、聞き取りを積み重ねるなかで浮かんできたラテンアメリカ500年の歴史の大きな流れ、そこから見えてくる「近代」とは、といった問題を扱っています。とはいえ、非売品。ご関心がおありの方は、立教大学ラテンアメリカ研究所03-3985-2578へお問い合わせください。
なお、2011年春2度にわたりニューヨークで実施した「不法就労」のインディオのオーラル・ヒストリーの作品、「砂漠を越えたマヤの民―コロニアル・フロンティアの揺らぎ」は、『オルタナティヴの歴史学』(有志社、2013年)に収録されています。同書所収の座談会では、歴史叙述の方法やオーラル・ヒストリーをめぐり、かなり激しい議論が展開されています。

* * *
後藤 一樹(慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程)
<ライフヒストリー>を内に含んだ<ライフストーリー>へ――学会発表から論文化へのプロセスでわかったこと
昨年の学会大会で私は、歩き遍路Kさんの<ライフヒストリー>について発表した。これを基にした論文が今年の学会誌に掲載される。学会では次のようなご指摘を頂いた。「Kさんとご家族との繋がりは?」(山村淑子先生)。「仏教的諦念とあるけどKさんの人生はそれだけ?」(金馬国晴先生)。「温泉で語り合ったんだ!? そんな面白い交流の話もあるなら」(小倉康嗣先生)。「理論よりももっとKさんの語りを生かして」(塚田守先生)。その日クリティカルに響いた先生達の「声」が木霊する中、私はKさんへの聞取りを続けた。すると、Kさんの人生の中に私が居る事に気が付いた。Kさんの生活史を深く知ろうとしてKさんの物語に介入している私が、Kさんを鏡に浮かび上がる。もうこれは「私たちの物語」である。けれども<ライフストーリー>に転じた物語の内で、Kさん固有の「声」がかき消される事はない(この点は桜井厚先生もご指摘済)。Kさんの「声」は新しい意味となった私の「声」と共に響き続ける。そして私は、「二者関係」の向こうに、それを含んだ「三者関係」の地平を見た。私は今、遍路・お接待者・研究者の三者の<クロス・ナラティヴズ>を追究している。

JOHAニュースレター第27号

2014年12月22日
JOHAニュースレター第27号

日本オーラル・ヒストリー学会第12回(JOHA12)大会 報告特集
 2014年9月6日(土)、7日(日)の2日間にわたり、日本大学文理学部でJOHA12が開催されました。あいにくの雨模様でしたが、4つの自由報告部会、研究実践交流会、シンポジウムそれぞれにおいて報告に熱心に耳を傾ける参加者の姿がたくさん見られました。
 次回のJOHA13大会は2015年9月12~13日、大東文化大学板橋キャンパス*(東京都板橋区)での開催を予定しています。メーリングリストや学会HP上での案内・募集をお見逃しなく、どうぞふるってご参加ください。
*次回大会会場は大東文化大学の大東文化会館に変更しました。
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Ⅰ.日本オーラル・ヒストリー学会第12回年次大会報告
1.大会を終えて
 JOHA12大会は、2014年9月7日~8日、日本大学文理学部キャンパスにて行われました。学会会長が開催校担当を兼ねられました。多忙な中、お引き受けいただきました好井裕明会長、開催校会員として大会運営をサポートしていただいた中村英代先生、野口憲一先生はじめ、学生スタッフの皆様に感謝いたします。
 冷房が必要ない天候のなか、2日間で延べ122名(参加費徴収83名)の参加者を数え、盛況でした。年会費納入済み参加会員には完成したばかりの学会誌10号をお渡しできました。今回、自由報告の司会2人制、事務局管理のバックナンバー自己申告制配布を新たに試みました。1日目の研究実践交流会「オーラル・ヒストリーを用いた大学の教育実践」、2日目のシンポジウム「オーラルヒストリーで編み直す放送史」は登壇者のみならず、フロアからも活発な議論が展開しました。会員のみなさまの参加とご協力に感謝申し上げます。次回は2015年9月、大東文化大学板橋キャンパスで開催されます。どうぞよろしくお願いいたします。(JOHA事務局長 川又俊則)

2.第1分科会
司会:鶴田 真紀(1~2報告)・赤嶺 淳(3~5報告)
 第1分科会では、以下の3組5名の発表がおこなわれた。うち4本は、東北大震災に関するものであり、分科会としてのまとまりがあったものと考えている。まず、石村華代(九州ルーテル学院大学)氏が、「聞き書きによる文化継承の過程―「聞き書き甲子園」の事例検討を通して」と題した報告をおこなった。石村氏は、教育学の視点から、文化継承に関する新たな取り組みとしての「聞き書き甲子園」活動を社会教育活動と位置づけ、その事例研究をおこなった。海・山・川をフィールドに生業を営む「名人」とインタビュアーとしての高校生との関わりを記述することにより、この活動における「出会い」と「学び」の具体的諸相をあきらかにした。
 次に東京家政大学の岩崎美智子氏が、「ボランティアと仕事のあいだ―被災地で支援活動をした保育者たちの経験」と題した報告をおこなった。 岩崎氏は、東北地方の被災地におもむき、保育所で数か月~1年の間支援活動をおこなった保育者たちの語りをとおして、援助する側からみた「支援」のあり方について考察した。保育者が一定期間被災地で支援活動をすることは、「ボランティア活動」なのか、それとも「職業活動の一環」なのかと問いかけ、ボランティアとして活動することと職業人として働くことの相違を分析した。また、海外でのボランティア経験の有無が、被災者と支援者の協働のあり方に差異をもたらすという仮説は、今後の研究の発展性を感じさせてくれた。
 最後に上智大学のデビット・スレイター氏ら3名による「東北からの声」(Voices from Tohoku: A 3.11 video archive from 10 different communities)に関する発表があった。まずスレイター氏が同活動の歴史と概要、展望を紹介したあとで、 マヤ・ヴェセリッチ氏が震災の経験をかたる「語り部」の現代的意義について、彈塚晴香(東京大学大学院)氏が、いわゆる自主避難された女性たちの苦悩と現状について報告した。同活動は、学生が中心となって収録した400時間にもおよぶインタビュー記録を所蔵している。素人の学生がむけたマイクに語られた内容は、既成のマス・メディアがとらえきれていない「生の声」であり、それゆえに、震災の経験、その後の社会変容を物語る資料となっている。今後は、このアーカイブをいかに国内外で活用していくのか、期待したい。(赤嶺 淳)

3.第2分科会
司会:宮崎 黎子(1~3報告)・滝田 祥子(4~5報告)
 第2分科会では、5つの報告がなされた。
 第1報告の渡辺祐介(立命館大学大学院)「将校になる―ある『学徒兵』のライフヒストリー―」は、「学徒兵は何のために戦ったのか」という疑問から、「学徒兵」であった、神田氏のライフヒストリーを3日間15時間に及ぶインタビューから得て、彼の戦争体験と戦争観をもとに考察する。そこから体験者ならではの戦中派特有の‘割り切れなさ’が浮かび上がってくる。青年の善意や誠意が戦時体制に回収されるメカニズムと体験者のライフヒストリーが語る戦争の‘リアリティ’に迫る報告であった。
 第2報告の山本唯人(東京大空襲・戦災資料センター)「証言映像を捉え直す―『東京大空襲証言映像マップ』を通して―」は東京都江東区に所在する民立資料館である東京大空襲・戦災資料センターで今年3月、c-locと呼ばれるソフトウェアを活用し、空襲体験者の証言映像をモニタ画面上の3D地図を通して視聴する「東京大空襲証言映像マップ」という証言映像アーカイブを公開した。このアーカイブの操作をスライド画面上で実演し、その概要を説明すると同時に、オーラル・ヒストリーの新たな視聴方法の開発が、その研究にもたらす可能性について考察した。
 第3報告の小泉優茉菜(神奈川大学大学院)「長崎県生月島のかくれキリシタン信者のライフ・ヒストリー」は江戸幕府によって弾圧されたキリスト教信者たちが潜伏し、250年間信仰を伝承した。指導者のいない中で伝承された信仰は、日本の風土などと混淆し、現在は「かくれキリシタン信仰」として伝承されている。大戦下の混乱で伝承が滞って以来、伝承断絶の危機にある今、村川要一氏(89)の個人史から考察する。親から子へ口伝えで行われてきた伝承だが、今は「紙に書く」。また「唄おらしょ」(ラテン語のOratio<祈り>が日本語に近づき、転化)の採譜を通じて、日本独特の伝承を調査。先行研究では注目されてこなかった「個」とかくれキリシタン信仰との繋がりにも言及した。
 第4報告の藤井和子(関西学院大学大学院)「開拓が生みだすもの―戦後入植のフォークロア―」は開拓を通して人々がどのようなフォークロアを生み出したのかという観点から、戦後開拓について茨城県旧七会村で、ユニークな活動を展開している駒井英子さんのナラティブを紹介。まさに「創意工夫で新境地を拓く開拓者魂を引き継ぎ、再生可能エネルギー発電に取り組む」80歳の起業家駒井英子さんがつくった不二太陽光発電株式会社の成長と発展の物語は、原発事故後の新たな可能性を示唆する報告となった。
 第5報告の嶋田典人(香川県立文書館)「アーカイブズとオーラルヒストリー―文書等と聞き取り調査―」はオーラルヒストリーとアーカイブズは相互に補完しあうものとして、所属する香川近代史研究会の戦争体験等聞き取り調査の事例を分析。香川県立文書館における高松飛行場資料の利活用・普及事業。戦跡関連調査の実施―地域での聞き取り調査の必要性。高松飛行場と詫間海軍航空隊関連聞き取り調査について報告。記録資料とそれらを保存する(公)文書館、すなわちアーカイブズの必要性を述べた。
 5つの報告は多岐にわたり、多様性に富んでいたが、「日本の戦争体験」が通奏低音となっていることが共通していた。それぞれ中身の濃い報告であっただけに、報告そのものの時間も討議の時間も少ないのが、残念に思われた。(宮﨑黎子)

4.第3分科会
司会:橋本 みゆき(1~2報告)・山村 淑子(3~4報告)
 大会2日目午前の第3分科会は、山村淑子氏と橋本が進行を務めた。5名の報告を予定していたが1名が急病により欠席したため、4つの報告の後に山村氏の司会で全体討論の時間をもった。
 1つ目の報告は、後藤一樹氏(慶應義塾大学大学院)の「〈漂泊〉のライフストーリー─―ある歩き遍路の語りから」である。報告者が四国遍路中に出会い、再会したKさん(1948年生)の語りに現れる、四国遍路の意味の世界の変遷を象徴的相互作用プロセスとして描こうとしたもの。会場からは、Kさんにとっての仏教の重要性に関する質問があった。確かに単一の枠に収まらない意味世界である。ただ「交響」と広げてしまうまとめ方には、まだ検討できる余地があるようにも思われた。
 2つ目は、江口怜氏(東京大学大学院)の「被差別部落の人間形成と義務教育――神戸市内の夜間中学に学んだ夫婦の語りに焦点を当てて」である。学齢期に(夜間)中学を中退し、高齢になって再入学した被差別部落出身の夫婦(夫1936年、妻40年生まれ)の、人生の時期によって意味づけが異なる義務教育就学の語りに報告者は注目する。生活経験や職業による人間形成に対しての義務教育の意味は何か、もう一歩踏み込んだ結論も導けそうな事例である。
 3つ目は、吉村さやか氏(聖心女子大学大学院)「「女らしい文化」を生きる――髪を喪失した女性たちのライフストーリー」である。円形脱毛症当事者会の会長である39歳女性へのインタビューから、彼女の転機となった温泉での経験に焦点を当て、一方で脱毛症への理解を図る活動と、他方ではカツラ着用の社会生活を続ける個人の人生を理解しようとしたもの。質疑は、語り手と聞き手との関係性の記述の意義や、「女らしい」という表題に集中した。
 4つ目は、具美善氏(一橋大学大学院)「在韓結婚移住女性のライフストーリー――結婚移住のプロセスと意味」である。「多文化家族」の増加で知られる韓国。報告者は3調査事例を紹介し、ステレオタイプで描かれがちな近隣国出身女性たち自身の選択・結婚移住経験への主体的意味づけを論じた。参加者からは、出身国の社会構造や仲介業者が介在するケースなど背後要因への目配りの必要性、またかつての日本との類似性の指摘があった。
 一見マイノリティ問題を共通項としつつも、複数の視角を刺激される興味深い部会となった。雨にもかかわらず早くから集まった参加者らが積極的に発言して比較的じっくりと質疑応答・議論ができ、各報告への理解をさらに深めることができた。参加者の協力に感謝する。 (橋本みゆき)

5.第4分科会
 第4分科会では、1と2の報告については、有末賢(慶応義塾大学)が司会をし、3~5の報告は、山本須美子(東洋大学)が司会を担当した。第1報告は、張瑋容(お茶の水女子大学大学院)の「妄想と現実の交差点にみる女性オタクのセクシュアリティ―一人の台湾人女性オタクのライフストーリーから―」であった。台湾における「哈日ブーム」などを背景にして日本マンガの輸入のみならず、コスプレや同人誌即売会なども台湾に紹介されるようになって「オタク文化」が受容されるようになった。張さんは、Bさんという一人の台湾人女性オタクのライフストーリーを取り上げ、彼女の妄想と現実の交差点に見られるセクシュアリティに焦点を当てて、分析していた。大変興味深い報告であった。第2報告は、池上賢(立教大学兼任講師)の「マンガ家のライフストーリーに見る戦後マンガ史」であった。池上さんは、これまでマンガの読者を対象として、マンガに関する経験が、人々にとってアイデンティティのリソースになることを研究してきた。今回は、Sharon Kinsellaのマンガ編集者とマンガ家を対象にしたエスノグラフィーを重要な先行研究として、2人のマンガ家のインタビューを通して戦後マンガ史の一端を描いた。今後は、編集者へのインタビューも加えてライフストーリーとメディア・コンテンツの生産に向かっていくものと思われる。第3報告は、中原逸郎(京都楓錦会:慶応義塾大学大学院)「もてなし文化の民俗学的研究―京都北野上七軒の舞妓の聞き取りを中心に―」であった。従来、京都の花街は民俗学分野において取り上げられることが少なかった。中原さんは、芸妓や舞妓へのインタビューを通して、芸の習得や伝承、お茶屋遊びの民俗文化や「もてなし文化」の変遷について分析した。貴重な研究成果である。第4報告は、ケイトリン・コーカー(Caitlin Coker:京都大学大学院)「1960~90年代の舞踏グループのオーラル・ヒストリー―舞踏を生み出した日々の実践―」であった。コーカーさんの報告は、戦後日本の前衛舞踏家として有名な土方巽の舞踏グループに属した人々から、オーラル・ヒストリーを聞き取って、当時の舞踏の日々の実践を明らかにした。彼らは、制作・上演するため、ほとんどの舞踏家が稽古場で共同生活をして、キャバレーでの「金粉ショー」で活動の資金を稼いでいた。多様な視点から、1960~90年代の舞踏家たちの活動が描かれた。グローバルな視点についても今後研究されると良いと感じられた。第5報告は、竹原信也(奈良工業高等専門学校)「別子銅山社宅街(東平社宅)における昭和の生活史」であった。竹原さんは、愛媛県新居浜市の別子銅山(1691-1973)の山間に作られた社宅街(東平社宅)の生活文化を、生活経験者の語りから報告された。山間部での昭和の生活文化や共同性、コミュニティの内実が活き活きと描かれたものであった。5つの報告、どれもがオーラル・ヒストリーの魅力を引き出している秀逸な報告であったと思われる。(有末 賢)

6.研究実践交流会 「オーラル・ヒストリーを用いた大学の教育実践」
 聞き書き甲子園が代表的な事例であるが、近年、オーラル・ヒストリー(聞き書き)のもつ人間形成における意味や機能に着目をした実践が注目を集めているが、JOHAに所属している大学教員もまた大学の講義や演習などでオーラル・ヒストリーを活用した取り組みを実践しているはずであり、その経験を交流したいということを目的に、今年度の研究実践交流会では、オーラル・ヒストリーを活用した大学教育の実践をとりあげた。
 メインの報告者は、梅崎修氏(法政大学キャリアデザイン学部教員)。梅崎ゼミでは、約1年をかけて、企画から取材、編集、広告営業まですべての工程を学生に関わらせて、「神楽坂」のタウン誌『Roji(c)』を毎年発行してきた。タウン誌の特徴は、神楽坂の魅力を、街をつくっている人々のキャリアや想いという視点から伝えるところにある。梅崎ゼミの学生は、神楽坂で働いている人びとから仕事や人生を聞き取り、そのキャリアヒストリーを作品にまとめてタウン誌の記事として発表する。報告では、このようなゼミ生の実践成果を踏まえて、オーラル・ヒストリープロジェクトの運営の難しさ、オーラル・ヒストリーを教えることの難しさが語られ、以下のような論点があげられた。
・それは、テープ起こしという苦行と発表の場づくりの関係。
・発表の場があるから、読者に語り手の経験を伝えるという媒介性が生まれること。
・広告費や販売を考えることが学生にとって経営センスを学ぶよい経験になること。しかし一方で、トラブルが生まれること。
・就職活動と印刷所とのやり取りが生まれるので、かならず学生間の負担分担に対する不平が生まれること。
・記事になるので、インタビュー先とのトラブルが生まれること。しかし、上記の問題があるからこそ、よい学習経験でもあること。
 サブ報告者は、塚田守会員(椙山女学園大学)にお願いした。リアルな女子大生の「就活」の実態を女子大生の自分史を通じて肉薄した書として注目を集めている編著『就活女子』(ナカニシヤ出版、2013年)の成果に立っての報告であった。
 教師が学生(生徒)の話を徹底的に「聴く」ことで、学生たちは教師(他者)に対して自己を語り、その過程で人生を再吟味し、自分のこれまでの経験に意味を与えていき、自らをエンパワーメントしていくことが指摘された。つまりは、『就活女子』とは、学生へのライフ・ストーリーインタビューの試みであり、それがもつ人間形成的意味を塚田報告は明らかにした。
 質疑では、各教員の大学でのオーラル・ヒストリーを活用した授業の取り組みも紹介された。大学でのオーラル・ヒストリーを用いた教育実践を交流する場として一定の意義があったように思われる。(研究活動委員会 和田 悠)

7.シンポジウム 「オーラルヒストリーで編み直す放送史」
 日本で放送が始まってから来年(2015年3月)で90年となる。これまで放送史研究においては放送番組(映像・音声)アーカイブや関連する文書や書籍が主な資料であった。しかし近年、放送に携わってきた人びとの声や記憶に注目が集まっている。放送に携わってきた多様な立場の人びとの証言を聞き取り、内容を分析することで、文書資料の隙間を埋め得る事実関係が明らかになり、また放送番組が制作された社会文化的背景もより詳細に検討ができるようになり、多様な職種における制作現場の実相に迫ることができる。またオーディエンス研究においてもオーラルヒストリーは大きな可能性を秘めている。
 本シンポジウムではこうした問題関心のもとで、米倉律(日本大学法学部)「放送史研究における資料の現状とオーラルヒストリーの可能性」、廣谷鏡子(NHK放送文化研究所主任研究員)「オーラルヒストリーを用いた初期テレビドラマ研究の試み――『私は貝になりたい』(TBS、1958年)の事例を中心に――」、西村秀樹(近畿大学客員教授)「日本初の民間放送、新日本放送スタッフへのヒアリング」という3報告をいただいた。
 米倉氏は放送史研究がもともとアーカイブや資料等を保存する習慣がなかった放送界の現実を批判的に検討し、現在番組アーカイブ整備が進展し、アーカイブを利用した放送史研究が進展しつつある現況を確認した。そのうえで放送史をより豊穣なものにするうえでオーラルヒストリーの可能性を、①放送番組の成立・制作過程の解明、②「放送史」の「放送人史」からの捉え直し、③オーディエンス(視聴者)史のよる放送史の立体化の3点にまとめられた。
 廣谷氏は、放送初期の傑作である『私は貝になりたい』というドラマをめぐり、当時美術を担当していた坂上建司氏から詳細な聞き取りを行い、当時の制作現場での実践的な工夫をめぐる証言を明らかにした。「巣鴨拘置所の場面は全部創作」「インサートカットは舞台の幕」「狭いスタジオを有効に使う」「軍事裁判の楽屋裏」「予算も、時間も、材料もなかった」「13階段はスタジオ備品」等、興味深い内容がドラマ映像を並置しながら報告された。この報告は、米倉氏の指摘する②の可能性をめぐる事例研究の試みと言える。
 西村氏は、戦後日本初の民間放送である新日本放送スタッフ15名に対する聞き取りをもとにして報告された。それぞれの語りが整理され、インタビューで判明したこととして「関西のラジオとして、庶民性、反権力姿勢、娯楽を重視したこと」「1950年占領軍によるレッドパージの結果、新日本放送発足時にNHKから移行した人が多かったこと」「NHKに残留した人も、当時の組合対策や組合分裂で悩んだ人が多かったこと」などをあげられ、戦後の放送体制創成期においてフェミニズム、労働運動、営業等より具体的なテーマを加味した研究の必要性が主張された。
 その後、太田省一(社会学者)、八木良広(立教大学兼任講師)からのコメントをまじえ、討論を行った。十分な討議時間を確保できなかったが、放送史、放送という世界におけるオーラルヒストリーを用いた研究の可能性の広さや奥深さについては、フロアの人びとも含めて、共有されたのではないかと思う。(日本大学 好井裕明)

Ⅱ.総会報告
2014年度総会(第11回総会)
日時:2014年9月7日(日)12:15~13:00
場所:日本大学文理学部3号館 3306教室
会長挨拶、議長選出(舛谷鋭会員)の後、以下の議案が諮られた。

第1号議案 2013年度事業報告
2013年度(2013.9.1~2014.8.31)事業報告について、以下の諸点が報告、了承された。
 1.会員数の現状 新規入会者が17名あった。内訳は一般5名、学生他12名である。学会大会での発表や学会誌の執筆が目的で新入会する方が多かった。2年間の学会費未納による自動退会者等21名、自己申告退会2名。3月31日現在の会員は240名である。
 2.第11回大会の実施と第12回大会開催 第11回大会は、通例の9月開催を前倒しし、2013年7月27~28日の二日間にわたって立教大学新座キャンパスにて学会設立10周年記念大会として開催した。自由報告は4つの分科会に分かれ、14本の報告があった。大会初日には、記念テーマセッション「JOHA10 年 いまオーラル・ヒストリーを問いなおす―ヒストリーとストーリーのはざまで」をフロア参加型のワークショップ形式で行い、大会二日目には記念講演として、アーサー・フランク教授(カナダ・カルガリー大学)の「語りがたきを語る」を開催した。第12回大会については2014年9月6~7日の二日間、日本大学文理学部(東京都世田谷区)で開催することになった。広報活動としてA4判の掲示ポスターを作成した。後藤一樹会員にデザインを引き受けていただき、学会HPに掲載し、学会理事を中心に広報に努めた。
 3.学会誌9号の発行と10号の編集・発行について 2013年9月に学会誌第9号を発行し、会費納入会員へ郵送した。この9号より、学会がインターブックス社から300部を買い取り、インターブックス社が出版元・販売元になった。これによって出版費用を恒常的に格安に抑えることができた。10号の編集は例年通り校正終了し、会費納入済会員に対して、第12回大会参加者には会場にて、非参加者には郵送で配布される。
 4.ワークショップの開催 2013年度は単独のワークショップを行なわなかったが、2014年の学会大会の研究実践交流会をコーディネートするために研究委員会を開催し、委員のあいだで議論・検討を行なってきた。
 5.ニュースレターの発行 ニュースレターはJOHA11後JOHA12の間に25号(2013年12月15日)と26号(2014年8月23日)を発行した。広報委員2名が編集分担。会員メーリングリストでの配信を基本とし、郵送会員数名には事務局から郵送した。
 6.ウェブサイトの充実 前期に移行した新ウェブサイト(http://joha.jp/) を学会事務局と広報委員会が管理運営している。
 7.会員相互の交流の促進 会員メーリングリストを通じた会員相互の情報発信が適宜なされている。
 8.海外のオーラル・ヒストリー団体との交流 国際交流担当理事を中心に、海外のオーラル・ヒストリー団体との交流を促進し、会員に情報提供を行う。2014年7月にはISA世界社会学会(RC38)が横浜で開催され、JOHAメンバーも、セッション・オーガナイザーや報告者として参加した。

第2号議案 2013年度決算報告
2013年度(2013.4.1~2014.3.31)決算報告資料に基づき報告され、了承された。

第3号議案 2013年度会計監査報告
山田富秋監事と折井美耶子監事より「会計帳簿、預貯金通帳、関係書類一切につき監査しましたところ、正確で適切であることを認めましたので、ここに報告いたします」と報告があり、了承された。

第4号議案 2014年度事業案
2014年度(2014.9.1~2015.8.31)事業案について、以下の諸点が報告、了承された。
 1.会員の拡大と維持 年次大会やワークショップなどの実施を通じ、またこれらの情報を広報することによって、本学会の周知に努め、引き続き会員数の拡大を目指す。また、会員の維持と会費収入確保のため、大会後年内を目途に郵送による入金状況確認と会費納入の督促を行う。
 2.第12回大会の実施と第13回大会の準備 第12回大会を2014年9月6~7日の二日間にわたって日本大学文理学部(東京都世田谷区)において開催する。自由報告は4つの分科会に分かれ、20本の報告を予定している。研究実践交流会「オーラル・ヒストリーを用いた大学の教育実践」および、シンポジウム「オーラル・ヒストリーで編み直す放送史」を開催予定である。来年度の第13回大会については2015年9月12~13日の二日間にわたって大東文化大学板橋キャンパス(東京都板橋区)での開催を予定している。
 3.学会誌第11号の発行 学会誌第11号は、第6期理事会の編集委員会によって、JOHA12のテーマセッション内容と自由投稿をもとにして編集する方針である。
 4.研究会・ワークショップの開催 2014年度に多文化共生まちづくりとオーラル・ヒストリーをテーマにワークショップを開催することを計画し、そのための予備的な議論を委員会内で行なっている。また、学校教育関係者の学会への参加を視野におさめた研究活動についての議論を研究活動委員会で検討・提案をする予定である。
 5.ニュースレターの発行 JOHA12後に大会報告を中心にしたニュースレター第27号を、JOHA13前に大会プログラムを中心にした第28号の発行を予定している。
 6.ウェブ情報の充実と改善 学会ホームページをさらに見やすく整備するとともに、適宜更新していく。
 7.会員相互の交流促進 学会HPや会員メーリングリストの活用、ニュースレター配信を通じて、会員相互の交流を促進する。また、会員の出版、活動情報についても学会誌での書評等を通じて積極的に共有する。
 8.海外のオーラル・ヒストリー団体との交流 国際交流担当理事を中心に、海外のオーラル・ヒストリー団体との交流を促進し、会員に情報提供を行う。
 9.理事選挙 今年度は理事改選期にあたる。2015年3月末に選挙権・被選挙権の確認を行い、現理事の任期満了の2ヶ月前までに第7期理事選挙を行う。
 10.学協会誌の電子化事業 学協会誌の電子図書館事業が2016年度に終了となるが、本学会の対応について理事会内にワーキンググループを立ち上げ、議論を進めていく。

第5号議案 2014年度予算案
2014年度(2014.4.1~2015.3.31)の予算案資料に基づき提案され、了承された。(事務局長 川又俊則)

Ⅲ.理事会報告
第六期JOHA第4回理事会議事録
日時:2014年9月6日(土)11:00~12:00
場所:日本大学文理学部(3号館)
参加:好井、赤嶺、有末、岩崎、小倉(議事録)、川又、川村、塚田、橋本、宮崎、八木、和田
欠席(委任):小林、田中、桜井

1.議事録記載者確認(詳細は略)
2.学会大会について
(1)日程・会場等確認 (2)総会議案確認
3.各委員会報告
(1)編集委員会 (2)研究活動委員会 (3)広報委員会
4.事務局報告
(1)入会、異動
5.その他
(1)今後の理事会予定 (2)次期理事選挙について(事務局長 川又 俊則)

Ⅳ.お知らせ
1.『日本オーラル・ヒストリー研究』 第11号投稿募集
 論文、研究ノート、聞き書き資料、書評、書籍紹介の原稿を募集いたします。
 掲載を希望される方は第10号の投稿規定・執筆要項を参照の上、編集委員会まで原稿をお送りください。学会大会での発表者のみなさんをはじめ、多くのみなさまのご応募をお待ちしています。
 締め切り:2015年3月31日(火曜日)
 応募原稿送付先および問い合わせ先は以下の通りです。

日本オーラル・ヒストリー学会編集委員会
〒464-8662 名古屋市千種区星ヶ丘元町17-3 椙山女学園大学国際コミュニケーション学部 塚田守研究室内
メールアドレス mamoru[at]sugiyama-u.ac.jp (編集委員長 塚田 守)

2.国際交流委員会から
<ISA2014 横浜大会の報告>
 国際社会学会ISAは2014年7月13日から19日までパシフィコ横浜で第18回大会を開催しました。JOHAに関係の深いRC38「Biography and Society」は 11のセッションと3つのジョイント・セッションを持ちましたが、そのなかにJOHA会員の塚田守さん、山田富秋さん、橋本みゆきさんの発案で開かれることになったセッション「Understanding Social Problems through Narratives by Insiders」がありました。このセッションはとりわけ報告希望者が多く集り、ドイツ、フィンランド、ノルウェイ、オランダ、トルコ、ブラジル、日本の計7カ国から14名が多様な社会問題についての研究報告をしました。一人一人の報告時間が短かったのが惜しまれますが、世界各地でライフストーリー・インタビューや質的調査にたずさわる報告者たちの研究成果と調査にかける熱意が満席の会場で共有され、大変意義深いセッションとなりました。
 次回は、2018年にカナダ・トロントで開催されます。また中間会議が2016年7月にウィーンで開かれますので、ぜひご参加ください。

<海外学会情報>
【Oral History Society】イギリス オーラルヒストリー学会2015
イギリスのオーラルヒストリー学会(Oral History Society)の2015年大会は7月にイギリスのロンドン大学Royal Hollowayで開催されます。詳しくは学会HPをご覧ください。
Oral History Society HP http://www.ohs.org.uk/
 2015年7月10日‐11日 於・ロンドン大学
 大会テーマ: Oral Histories of Science, Technology and Medicine
【Oral History Association】アメリカ オーラルヒストリー学会2015
アメリカのオーラルヒストリー学会 Oral History Association 第18回大会は2015年10月にフロリダ州タンパで開かれます。
詳しくはOHAのHPを参照ください。http://www.oralhistory.org/
 2015年10月14日-18日  於・フロリダ州タンパ
【ISA】国際社会学会2016
国際社会学会International Sociological Associationは、2016年7月にオーストリアのウィーン大学において、第3回中間会議「ISA Forum of Sociology」を開催します。
詳細は学会HPをご覧ください。
学会HP http://www.isa-sociology.org/forum-2016/
 2016年7月10日‐16日  於・オーストリア ウィーン大学
Call for Sessions 期間: 2015年1月15日―2月15日
 Call for Papers 開始: 2015年4月7日
 Abstract申込み期間: 2015年6月3日―9月30日
email-address  biography-and-society[at]gmx.de (国際交流委員長 小林多寿子)

3.会員異動(略)
※連絡先(住所・電話番号・E-mail アドレス)を変更された場合は、できるだけ速やかに事務局までご連絡ください。 (事務局長 川又俊則)

4.2014年度(2014.4.1~2015.3.31)会費納入のお願い
 いつも学会運営へのご協力ありがとうございます。
 本学会は会員のみなさまの会費で成り立っています。今年度の会費が未納の方におかれましては、何とぞご入金のほどよろしくお願いいたします。なお、先日発行しました学会誌は、2014年度会費入金の確認後、発送いたします。
■年会費
一般会員:5000 円、学生他会員:3000 円
*年会費には学会誌代が含まれています。
■ゆうちょ銀行からの振込先
口座名:日本オーラル・ヒストリー学会
口座番号:00150-6-353335
*払込取扱票(ゆうちょ銀行にある青色の振込用紙)の通信欄には住所・氏名を忘れずにご記入ください。
*従来の記号・番号は変わりありません。
■ゆうちょ銀行以外の金融機関から振り込む際の口座情報
銀行名:ゆうちょ銀行
金融機関コード:9900
店番:019
店名(カナ):〇一九店(ゼロイチキュウ店)
預金種目:当座
口座番号:0353335
カナ氏名:(受取人名):ニホンオーラルヒストリーガツカイ

 郵便払込・口座振込の控えで領収書に代えさせていただきます。控えは必ず保管してください。
 学会会計全般について、またご自身の入金状況を確認したい場合は、会計担当の八木良広(電子メール: yy.joha[at]gmail.com)へお問い合わせください。(会計 八木良広)