第4分科会(メディア)報告要旨

第4分科会(メディア)
司会:池上賢、倉石一郎

ラジオドラマ史にみる脚本制作の変遷についての1考察
石井育子( ㈱エフエム東京 報道・情報センター)
ラジオドラマは、誕生から90年以上続いている長い歴史がある。テレビ誕生以前から現在のメディア融合時代まで、時代状況、メディア環境、産業構造の移り変わりの中で独自の変化・進化を続けてきたユニークな表現ジャンルともいえる。ネットの普及によりメディア環境が激変している現在、そうした歴史的変遷を踏まえることなく、ラジオドラマの今後の可能性を構想することは困難である。歴史を辿るうえでは、残された音源や記録、資料が限られているため、制作者・脚本家の証言、および彼らが残した数少ない著作が重要な手掛かりとなる。今回は、現在ほぼ唯一の職業的ラジオドラマ専門の脚本家である北阪昌人氏の証言を中心に、ラジオドラマの歴史的展開を跡づけながら、その延長上としての現状及び今後の可能性について分析・考察した結果を報告したい。

ベトナム戦争期のジャーナリスト/諜報員の語りと現在:『ファム・スアン・アン―名前のとおりに生きた男』とその関連書籍をめぐって
澁谷由紀(東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門 [U-PARL] 特任研究員)
本報告では、ベトナム戦争期のベトナム共和国(旧南ベトナム)において、国際ニュース通信社ロイターやニュース週刊誌『タイム』誌の特派員をつとめた解放勢力側の諜報員ファム・スアン・アンに焦点を当て、彼の語りが持つ今日的意味を考察する。分断国家を経験したベトナムでは、諜報員の存在や二つの体制間の移動は決して特異なことではない。にもかかわらず、2002年にベトナムで出版されたルポタージュ『ファム・スアン・アン―名前のとおりに生きた男』はベトナム国内外で大きな反響を呼んだ。本報告では同書と欧米で出版された関連書籍をとりあげ、アンの語りが政治的にどのように利用されたのか、どのように人々に受け止められたのかについて検討する。

社会派TVドキュメンタリーの成立過程の研究、戦争の加害と被害をめぐる『記憶の澱』の研究
西村秀樹(同志社大学嘱託講師)・小黒純(同志社大学社会学部メディア学科)
「社会派TVドキュメンタリーの成立過程の研究」の第三弾の発表。本作品(山口放送、2017年放送)は戦争の加害と被害証言を取り扱ったTVドキュメンタリー、第13回日本放送文化大賞テレビグランプリの受賞作品。満州開拓団でおきたソ連兵相手の「性接待」、捕虜の殺害、民間人の殺害など、「先の大戦の記憶を語り、残したいという人びと」の証言をたんねんに取材した制作ディレクターから、制作意図、過程を聴きます。浮かび上がるのは、「心の奥底にまるで澱のようにこびりついた記憶」。

在外ベトナム人コミュニティにおける声の発信:米国のベトナム語メディア関係者の語りから
林貴哉(大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程)
1975年のベトナム戦争終結に伴い国外に亡命したベトナム難民は、世界各地でベトナム人コミュニティを形成している。本発表では、米国のベトナム人コミュニティにおいてベトナム語で放送されているテレビ番組において、どのような背景のもと、いかに情報発信が行われているのかを分析する。番組制作者への聞き取りから、番組において南北ベトナム統一前の伝統的なベトナム語を使用していることがベトナム人コミュニティの声を守り、発展させていくことの土台になっていること、さらに、コミュニティの発展に伴って視聴者やテレビ局の社員の構成にも変化が生じており、ベトナム難民1世の声と若い世代の声の共存が目指されていることが明らかになった。