第3分科会(移民)報告要旨

第3分科会(移民)
司会:佐々木てる、清水美里

在日フィリピン人の第二世代のオーラルヒストリー:アートを通じた表現活動から考察する
仙波梨英子(横浜市立大学大学院都市社会文化研究科博士後期課程)
本研究は、フィリピン系移民のなかでも1980年代以降に日本で生まれ育った「第二世代」に焦点をあて、アートを通じてオーラルヒストリーを共同制作していく試みである。具体的には、在日フィリピン人の第二世代(以下、第二世代)と〈アートのグループ展示を開催する〉という、企画・準備・制作・展示といった、プロジェクト型の発信活動をするなかで、第二世代がどのような世界を描き、他者と関わりあうのかに注目する。また、調査者としての「わたし」が、一作家として参与型観察をおこなうことにより、調査する側・される側という分断された立場を超え、相互作用の中でたち現れていく「わたし」自身の姿をも考察対象とする。本発表では、現時点であきらかになった事象を中心とした分析の経過を報告する。

「留学(さ)せざるを得ない」-当事者のライフストーリーから中国の教育現実を解明する
孫夢(首都大学東京人文科学研究科社会行動学専攻社会人類学教室博士後期課程)
日本が少子高齢化の社会になり、労働力不足の現状を緩和するため、「技能実習生」だけではなく、留学生も沢山呼び寄せた。このうち中国からの留学生は12万人で、全留学生数に対して占める割合は約40%となっている。こうした背景から、留学生、特に、中国人留学生を対象に行われてきた研究は多岐にわたっている。教育学や社会学や心理学などの観点から留学生政策の是非や留学生の適応問題を論じていることが多い。本研究は教育人類学の視点から、母子の二人の主人公のライフストーリーに注目し、中国人留学生の主人公はどうして日本留学を選び、その母親はどのように子どもの留学を実現させたのか等、留学に纏わって、中国人留学生が「留学(さ)せざるを得ない」理由を明らかにし、現在中国における教育現実を解明する。

在日コリアンの国境を越えた親族の繋がり―朝鮮半島の南北に離散して暮らす親族との「再会」に着目して―
竹田響(京都大学 人間・環境学研究科)
本発表では、第二次世界大戦終戦以前に朝鮮半島より日本の内地に移ってきた、いわゆるオールドカマーの「在日コリアン」と呼ばれる人びとの親族ネットワークに焦点を当てる。
在日コリアンの9割程度は朝鮮半島南部に自身の出自を持つが、1959年から1984年にかけて実施された日本から朝鮮民主主義人民共和国への「帰国事業」によって、10万人弱の在日コリアンが朝鮮民主主義人民共和国に「帰国」し、朝鮮半島の南北に在日コリアンの親族が離散するという事象が生じた。
今日、在日コリアンが、大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国に離散して暮らす親族とどのような国境を越えた親族ネットワークを構築しているのかを、親族との「再会」に着目しながら明らかにする。

「あなたの名」を知らぬ者は生活史をどう語るか -ある中国帰国者3世への聞き取り事例から-
山崎哲(一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程)
本報告の目的は、「あなたの名」を知らなかった者がいかに自己の歴史を語ったのかについて検討することである。具体的には、中国帰国者と総称される人々のうち、ある3世への聞き取り事例を通して行う。
中国帰国者とは、日本へ帰国または移住した中国残留孤児・婦人等とその家族を指す。報告者は中国残留孤児・婦人の孫世代である3世に生活史調査を行なってきた。その中で、報告者による聞き取り調査時にある3世が自らを中国帰国者“である”と初めて知った事例に出会った。本報告では、彼女がなぜ中国帰国者という「あなたの名」を知らなかったのか、また、自身も3世である報告者との相互作用を通じて、彼女自身と家族の歴史がいかに紡がれたかについても考察する。