第2分科会(仕事)報告要旨

第2分科会(仕事)@YCUスクエア4階403
司会:有末賢、矢吹康夫

高齢者労働力化と就労当事者の経験――高齢自営漁師たちの出漁実践と語りを事例に
島田有紗(京都大学大学院人間・環境学研究科)
地球規模で高齢者人口が増加している。中でも日本は高齢化率21%を超す「超高齢社会」であり、高齢化は特に深刻だ。高齢者向け医療・介護体制や経済支援等の面で多くの課題を抱えるが、その中の一政策として高齢者労働力化が進められている。その動きは社会学や経済学領域から検討されてきたが、主に高齢世代の貧困や彼らの経済的貢献性などについて、俯瞰的視座から論じられている。
本報告では、高齢者労働力化に関する俯瞰的言説を再考するため、青森県大間町にて自営漁に従事する(一般定年65歳以上の)高齢漁師の生活史と語りを取り上げる。漁師町の文脈において、高齢漁師らの出漁が必ずしも経済性や生産性に回収されない実態から、高齢者労働力化の福祉的機能について考える。

芸の発信−京都上七軒北野をどりの創成を中心に−
中原逸郎(京都楓錦会、日本ライフストーリー研究所)
花街は芸舞妓が日本舞踊等の芸を披露し、地元の花街言葉により顧客を応接する都市民の交流の場で、日本固有の遊興地とも言えよう。戦前まで花街は各地方の民俗を取り入れ芸を発信してきたが、第二次世界大戦後は西洋化、民主化等の社会変化の中、芸の発信にも様々な変化が現れた。
本発表では昭和 27 年(1952)の北野上七軒(京都市上京区、以下上七軒)の花街舞踊(舞台舞踊)である北野をどりの創成に焦点を当て、文献資料研究に上七軒における聞き取りを加え、戦後の花街の芸を取り巻く思想や社会環境の変化にせまる。

海外駐在員女性配偶者の生活の中の両義性―語りからの考察
三浦優子(立教大学平和・コミュニティ研究機構特任研究員)
グローバル化が進み、時間と空間の圧縮が起こり、国境を越えて移動する人々の生活にも変容が起きている。本報告では、そのなかでも海外に仕事目的で移動する駐在員である夫に帯同する配偶者の日常生活実践に焦点を当てる。女性たちは、家族や他の駐在員配偶者たちとどのようにつながり、どのような気持ちを抱きながら暮らしているのであろうか。事例として日本の駐在員家族が多く暮らすドイツ・デュッセルドルフ日本人社会に注目し、そこに暮らす3人の駐在員配偶者たちの生活に着眼する。3人の女性たちの語りから、駐在生活を肯定的にとらえながらも葛藤や疑問も抱くという両義性が浮き彫りになる。その背景要因、そして今何が問われているのかも考えていく。

語り始めた「ホームレス」の人々―――『ビッグイシュー日本版』「今月の人」誌面分析から
八鍬加容子(京都大学文学研究科 博士後期課程)
ホームレス状態の人々が販売者を務めるストリート・マガジン『ビッグイシュー日本版』には、「今月の人」という販売者のライフ・ストーリーのコーナーがある。これまで聞く耳も語る口も持たなかった「ホームレス」の人々の声が、ストリート・マガジンというコミュニティを通して世に出ることの歴史的文脈と意味・意義はどういうところにあるのであろうか。
本発表では、『ビッグイシュー日本版』創刊号(2003年9月11日発売)から最新号までの「今月の人」を誌面分析し、そこでどのように「ホームレス」が表象されたかを分析する。次に、同時期のメディア報道内の「ホームレス」の表象を比較することで、「ストリート・マガジン」というコミュニティが形成されていく過程で物語がどのような役割を果たしているのかを検討していく。