joha5 自由論題報告 第2分科会

科学技術のオーラル・ヒストリー(百207教室)司会・吉田かよ子
1. 伊藤憲二Kenji ITO (総合研究大学院大学 The Graduate University for Advanced Studies
「科学技術社会論におけるオーラルヒストリー」 Oral history in Science, Technology and Society (STS)
 本発表は、科学技術の関係者に対するオーラルヒストリーの可能性を論じる。オーラルヒストリーが人文社会科学系の研究者によって発展させられてきたために、日本における文理の壁は、自然技術的な営為に対するオーラルヒストリーの適用を阻む作用をし、科学史研究においてオーラルヒストリーは穴埋め的に使われるのが大半であった。しかし、近年の科学技術社会論の傾向は、最近のオーラルヒストリーの方法によく適合しているといえる。本発表は、これまでになされたオーラルヒストリーの事例を紹介すると同時に、今後の具体的なプロジェクトの可能性を示し、科学技術を対象としたオーラルヒストリーの可能性が、必ずしも科学技術をバックグラウンドとしない研究者にも開かれていることを示そうとするものである。
2.安倍尚紀Naoki ABE (東京福祉大学 Tokyo University of Social Welfare)
「科学.技術分野に於けるオーラルヒストリーの方法論的な諸問題—社会学の視点から」
Methodological issues of oral history in science and technology: From a sociologist’s point of view
 オーラルヒストリーの方法論を論じる際に取り沙汰される先研究には、歴史学や文化人類学をはじめ、社会学のインタビュー調査なども含まれる。オーラルヒストリーには、さまざまな分野の質的調査のノウハウを結集している側面がある。このように横断的な形で各分野にちらばりながらも一つの研究領域として他から判別されるオーラルヒストリーであるが、とりわけ、科学技術分野における実践は様々な方向性をもっている。本報告では、核融合科学研究所や高エネルギー加速器科学研究所、分子科学研究所、葉山高等研究センンターに関連するオーラルヒストリー実践を踏まえて、方法論についての論点を整理してみたい。
3.平田光司Kohji HIRATA (総合研究大学院大学葉山高等研究センター(Hayama Center for Advanced Studies, the Graduate University for Advanced Studies)
「総研大におけるオーラルヒストリー計画」 The Oral History Project at Sokendai
 総研大では大学共同利用機関の歴史研究の一環としてオーラルヒストリー(OH)を進めている。対象には中心的な科学者だけでなく、普通の科学者、その家族、秘書、学生、事務員、企業関係者、周辺住民などを含めることによって、科学の発展を内部史としてだけでなく、社会的活動としても記録する。記録は広範な研究者の共有財産とする。必要なのは、(1)オーラルヒストリアンの集団を形成し、(2)個人の力量だけに依存しないOHの方法を確立し、(3)学術的に価値のあるコレクションを作成し、(4)公開の基準を設け、(5)施設も確保する、ということである。これらについての検討状況を報告する。
4.木村一枝Kazue KIMURA (核融合科学研究所 アーカイブ室(Fusion Science Archives, National Institute for Fusion Science)
「核融合アーカイブスにおけるオーラルヒストリーの試み」Oral History in Fusion Science Archives, NIFS
 日本における核融合研究の歴史はおよそ50年であるが、関連する研究機関,行政機関は多数におよび,多岐に亘る学問分野を含み,更に国際的な連携と競争のもとに研究が進められている。核融合科学研究所アーカイブ室では,核融合研究の経緯や研究体制の変遷について明らかにするため、文書史料のみでは不十分な事柄について、オーラルヒストリーによる史料補完を行っている。核融合研における試みを以下の観点で報告する。(1)核融合研究者を対象にしたインタビューの実践紹介、(2)自然科学分野におけるインタビューの一方法(目的、手法、契約書、形態、報告書等)(3)インタビューを実施する際の問題点や手法,技術(4)今後の計画、課題