joha5 自由論題報告 第3分科会

オーラル・ヒストリーと戦争(百206教室)司会・中尾知代
1.渡辺祐介Yuusuke WATANABE (立命館大学大学院 Graduate School, Ritsumeikan University)
「ライフストーリーの解釈――元日本兵が語った銃剣刺突訓練について――」
An Interpretation of Life-Story: On a Training of Bayonet-Charge talked by a Former Japanese Soldier
 戦争体験を語る元日本兵のA氏は、折に触れて「事実だけ語るから」と口にする。しかし、〈どの〉事実を〈どのように〉語るかが語り手に委ねられている場合、「事実だけ語る」という価値中立的な響きのフレーズをもってしても、〈この〉事実を〈このように〉語ることから生じるメタ・メッセージを抑制することはできない。本発表では、修士論文でまとめた研究成果に基づき、A氏が語った銃剣刺突訓練についてのライフストーリーの解釈を報告する。評価語句やシンボライズされたライフストーリーを使って解釈したA氏のメタ・メッセージは、戦争体験者が〈いま、ここ〉で戦争体験の多元的意味世界に生きていることを教えてくれる。
2.坪田典子Michiko TSUBOTA (東京都立大学大学院Graduate School,Tokyo Metropolitan University)
「撫順の奇蹟」”Miracle in Fushun”
 元帝国陸軍北支那派遣軍第12軍第59師団所属の兵士であった絵鳩毅さんのライフ・ヒストリーを中心に戦争責任を考える。94歳の絵鳩さんは現在も自らの戦争行為の罪責を証言し続けている。絵鳩さんを行動に向かわせる背景には戦後、戦犯として中国撫順市に拘留されていたときの経験がある。本報告では、絵鳩さんが戦争中の「日本鬼子」から人間性を取り戻して、自らの戦争行為の犯罪性・加害性を認識し、被害者である中国人に自身の戦争犯罪を告白し謝罪することを通して「平和の使徒」として生まれ変わったその経験を「撫順の奇蹟」として報告する。また、絵鳩さんの経験から加害者の側が加害を認識していく条件を議論する。
3.北村毅Tsuyoshi KITAMURA (早稲田大学高等研究所 Waseda Institure for Advanced Study)
「戦争体験をめぐる元兵士と家族の戦後誌──家族のナラティヴとして〈戦争〉を聞き取る」A Postwar Life History of a Veteran and his Family: Listening to War Stories in/by a Family
 戦争体験者が、戦後をどのように生きてきたのか、彼らの〈その後〉において戦争体験はいかなる意味を持ってきたのか、という問いかけを主題として(副題とはなっても)、彼らに対する聞き取りが行われることは少ない。さらには、パブリックに戦争体験の保存・継承の意義が主張されることはあっても、体験者の家族の中で戦争体験がどう語り継がれてきたのか、家族誌・史の中でどのような意味を持っているのか、について問われることはほとんどなかった。本報告では、ある元日本兵とその家族を例に、彼らのオーラル・ヒストリーを紐解きつつ、家族のナラティヴとして〈戦争〉を聞き取るとはどういうことなのか、模索してみたい。
4.玉山和夫 Dr. Kazuo TAMAYAMA MBE (戦史作家 Military History Writer)
「 聞き取り調査の発表と歴史書」 Publication of Oral-history and History Books
 筆者は第二次世界大戦のビルマ(現ミヤンマー)に於いて戦った日本軍兵士の聞き取りを経時的に収載したものをTales by Japanese Soldiers およびRailwaymen in the Warの2冊の書籍として英国で刊行した。(前書は日本語版あり) ビルマの戦争を初めから終わりまで歴史として読めるような  構成にしたので、前書は25000部以上世界各国でよまれた。これはオーラルヒストリーの発表にあたっての参考になると思い、その経過をのべると共に、利点と欠点を検証する。
5. 仲田周子 Shuko NAKADA (日本女子大学大学院 Japan Women’s University)
「日系ペルー人強制収容における沖縄「帰国者」の語り」 On Japanese Peruvian Internment: focusing on the narratives of the “Returnee” to Okinawa
 本報告では、第二次大戦中に行われた日系ペルー人強制収容に関する当事者の「肯定的な語り」に着目し、強制収容経験の再検討を試みる。ここでは特に、戦後、沖縄へ帰国した二世の語りをとりあげる。日系ペルー人の強制収容に関する「肯定的な語り」は、補償運動において強調された公的なストーリーに回収されない、強制収容経験の多様性を浮かび上がらせるものとして捉えることが可能である。沖縄出身者にとって、戦後の日本への「帰国」が、二重の意味を持って語られていることに注意しながら、「肯定的な語り」がどのように語られ、どのような意味を持つのか社会学的に検討する。
吉田かよ子Kayoko YOSHIDA (北星学園大学短期大学部 (Hokusei Gakuen University Junior College)
「ネバダテストサイト・オーラルヒストリープロジェクトに見るオーラルヒストリー・アーカイブ化の実際」Archiving Oral Histories of Nevada Test Site Oral History Project
 2002年にネバダ大学歴史学部で開始されたネバダ・テストサイト(ネバダ核実験場)に係わるオーラルヒストリー・プロジェクトは4年におよんだインタビューの収録をほぼ終え、今年からネバダ大学ラスベガス校図書館での保管、公開にむけての作業が始まった。本報告では、これまで日本において知られることの少なかった米国の大規模オーラルヒストリー計画のアーカイブ化の実際を、プロジェクト責任者と大学図書館のアーキビスト、デジタル・アーキビストとの協働作業の実態を中心に論じる。また、アーカイブ化および公開に際しての、同プロジェクトにおける法的、倫理的枠組みも合わせて紹介する。