JOHAニュースレター第16号

【目次】
(1) 第7回大会プログラム、自由報告要旨
(2) オーラル・ヒストリーと倫理的・法的問題
(3) 第5回ワークショップ報告
(4) 理事会報告
(5) 事務局便り

(1) 日本オーラル・ヒストリー学会第7回大会プログラム、自由報告要旨

http://joha.jp/?eid=102


(2) オーラル・ヒストリーと倫理的・法的問題
酒井 順子
 オーラル・ヒストリーの社会的・学問的認知が高まってきた今日、プロジェクトを実施する団体・研究者と話し手の間の、研究者間の、そしてインタビュー資料を保存するアーカイヴと寄贈者および利用者の間の、調査研究時における倫理的・法的問題について議論をしていくことが急務の課題となっており、本学会でもこの問題についての検討を開始しました。
 まず考えなければならないのは著作権とプライヴァシィの保護です。現行の著作権法では聞きとり資料の著作権については直接言及されていませんが、オーラル・ヒストリー・インタビューの内容およびテープも、「スピーチ」と同様に広い意味での「固定されていない言語の著作物」と考えられます。海外のオーラル・ヒストリー研究者の間では、話し手の話した内容には著作権があると考え、その使用にあたっては、著作権を譲ってもらう、あるいは許可を得ることが慣例化しています。日本においても、オーラル・ヒストリー・インタビューの音声と内容、書き起こしの著作権をいかに扱うべきか検討が必要です。
 プライヴァシィの保護に関しても、話し手の不利益にならないようにし、個人情報を保護していかなければなりません。例えば、プロジェクトの実施時に、録音テープと話し手のリストは別々に保存するなどの配慮が必要です。インタビュー内容の引用にあたっては、実名表記か仮名表記かについて話し手からの了解を得る必要があります。
 オーラル・ヒストリー研究の蓄積の厚い国々においては、著作権やプライヴァシーの保護だけでなく、インタビュー資料の保存、研究・教育目的のための資料公開とその公開条件(例えば非公開期間など)、また成果発表の方法などについて、プロジェクト実施機関あるいは個人研究者、インタビュアーと話し手との間で同意書を交わすことが一般化しています。そうしたところでは、多くの場合、話し手はインタビューの資料価値を理解し、著作権を研究機関やプロジェクト実施者に譲渡しています。しかし、研究協力における契約が社会的な慣例となっていない日本においては、どのような形で、話し手の著作権やプライヴァシィを保護していくべきか十分な議論が求められています。
 海外のオーラル・ヒストリー研究団体の倫理的法的問題への対応事例をみると、合衆国のオーラル・ヒストリー学会では、ガイドラインを作って会員に指針を示しています。イギリスのオーラル・ヒストリー協会の場合は、協会による指針としてではなく、考えられうるあらゆる法的・倫理的問題を扱った論文をホームページに掲載しています。オーストラリアのオーラル・ヒストリー学会では、基本的な指針のみをホームページに示した上で、個々のケースについては学会が相談に応じるとしています。本学会でも、統一したガイドラインを作ることが必要であるかどうかについて検討していく必要があります。
 オーラル・ヒストリー研究における倫理的な問題は、法律を遵守するだけでは十分ではなく、研究者と話し手との間の倫理的な関係性について絶えず意識していかざるをえません。社会的に有利な立場にいる研究者が話し手の語りから研究成果をあげて去っていくことへの批判も確かにあります。しかし同時に、オーラル・ヒストリー実践者や研究者には、個々人の貴重な経験を聞き、埋もれていた事実や感情に光を与え、より全体的な歴史像や社会像を描いていく責任があります。そのためにも、社会的・学問
的な力関係を越えて、話し手との間に対等で一貫した信頼関係を築いていく努力が聞き手には求められます。さらには、話された経験を広く共有して公共の議論を作っていくために、資料をアーカイヴに蓄積していくことを話し手に理解してもらう努力が必要です。
 本学会では、引き続き、こうした倫理的・法的問題を検討していく予定です。


(3) 第5回ワークショップ報告
 JOHA第5回ワークショップは「オーラリティにおける当事者性/非当事者性をめぐって」をテーマに、7月4日、上智大学にて開催された。この古くて新しい課題を設定したのは、従来の「権力性」の視点からではなく、語り手と聞き手が対峙する場に差し戻して議論したかったからである。「オーラリティの場」にこだわることによって、「当事者/非当事者」という二項対立図式を超える新しい関係性を見出したいと考えた。通常の報告者数より多い5名を設定したのは、そうした意図からである。方向性が拡散したまま収拾がつかなくなる危惧はあったが、多声の可能性にかけてみた。結果として、扱う対象もアプローチの方法も異なりながら、当事者/非当事者として他者とどのようにつながることができるのかを追及するという点で、共通の議論ができたと思う。
 第一報告者の李洪章は、「在日」というポジショナリティに依拠してきた「私」が、「ダブル」と出会うことによって揺らぎを経験するなかで、在日朝鮮人運動が抱える痛みにこだわり、「ダブル」との対話を試みようとしている。第二報告者の鈴木隆雄は、「障害」を持つ当事者として同じ当事者の対象と向き合う時、利点よりむしろ困難の方が多く、そこに立ち現れる当事者としての感情、研究者としての感情にどう折り合いをつけるのかについて語った。第三報告者の石川良子は、当事者への共感から「ひきこもり」研究を始め、当事者からの反発に遭いながら「分からないことが分かる」地点へと到り、そこから当事者と共有可能な地平を見つめる。第四報告者の大城道子は、200人にもおよぶ聞き取り経験から、対象者の当事者性が拡大・越境し、みずからの当事者性が問われていることに気づく。聞き手の声を消して語り手の「声」を聞けるようになる時、当事者性を共有できた瞬間がおとずれる。第五報告者の門野里栄子は、経験の関係性から非当事者が当事者に接続する可能性を示しながら、どうしても越えられない断絶について再考する。そして歴史的時間と社会的状況を生きる〈あなた〉と〈わたし〉の関係から「寄り添う」ことの意味を見出そうとした。
 フロアーからの質問を契機に、マイノリティの声をどのようにひろいあげるのか、時間の経過によって変化する当事者性あるいは関係性、どのような関係性の持ち方・あり方がありうるのか、予想が裏切られていくオーラリティの面白味、「寄り添う」とはどういうことかなど、2時間にわたってじっくり議論が交わされた。最初は拙かった報告が、フロアーからの触発によって「生きること」を問う豊かな内容になったことは、コーディネーターとしてこの上ない喜びであり、また深い感謝を持つものである。
文責 齋藤雅哉・門野里栄子


(4) 理事会報告
1.2008~09年度 第2回理事会議事録
日時 2009年3月7日 13時~17時20分
場所 日本女子大学目白キャンパス

1) ワークショップの件
 (1) 2名のコーディネーター中心に準備が進められているとの経過報告があった。数名からの問い合わせがあり、セッション構成可能。司会者・報告者等の詳細を4月のNLで報告予定。会場使用料無料化のため、上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科国際関係論専攻との共催が承認された。
 (2) 前回ワークショップは学会誌第5号に小特集を、今回のワークショップは第6号に小特集を予定。
 (3) 今回のワークショップは実践講座的なものではなく、テーマセッションとすることが確認された。

2) 編集委員会報告
 (1) 編集委員長から、現時点で大学図書館は本学会誌を27館が所蔵し(前回報告より23館増)、県立図書館も2館ほど所蔵しているとの報告があった。学会誌の販売として、アマゾンへの手続きが進行中。
 (3) 学会誌の発行サイクルが確認された。
 (4) 学会誌広告依頼先として、過去の掲載・依頼社以外にも打診することが確認された。

3) 学会誌ガイドラインの件
 (1) 2008年10月2日修正の「執筆要項」が示され、他領域にまたがる本学会では、参照文献表示についてそれぞれの分野の慣行にしたがうことでよいということが確認された。英文についてはシカゴスタイルを踏襲。
 (2) 査読規定案について検討、確認された。
 (3) 今後の学会誌編集に協力していただく「編集顧問」案が提起され、承認された。
 (4) 査読者・編集顧問等の公開が検討され、当分の間本学会では現状通り公開しないことが確認された。

4) 電子化の件
  小林会長から、学会誌3、4号はすでにCiNiiに掲載されていることが報告された。

5) 第7回大会の件
 (1) 吉田理事よりパネリスト案が提示された。
 (2) 北星学園大学へ4月に公開講座補助金を申請することが報告された。
 (3) シンポジウムタイトルは、「アイヌのオーラルトラディション」に決定。

6) 学会倫理規程の件
 (1) 酒井理事から、『著作権ハンドブック』や他学会を参照して作成した「倫理的問題に関する指針(素案)」が提出された。
 (2) 他国の状況などを周知すること、実践する会員の方々の意識を高める目的などもあり、今後、NLなどで各国の情報を提供する方向が提案された。
 (3) 「倫理的問題」について継続して審議を続けることが確認された。

7) 次期理事選挙の件
  前回の選挙担当者から選挙の流れが説明され、現事務局長を中心に選挙の作業を進めていくことが確認された。

8) ニューズレターの件
 発行のスケジュールと内容が発表された。

9) 会計
  前回理事会以降の入金等の報告。会計担当より、今年度分の現時点での入金
は152名(一般84名、学生他68名)であり、全体の60%台の納入率(前年度同様)であること、4月1日付で未納入の会員へ督促状を郵送する予定であることが報告され承認された。

10) その他
  次回理事会の日程について確認した。

2.2008~09年度 第3回理事会議事録
日時 2009年7月4日 10時~12時55分
場所:上智大学四谷キャンパス

1) 会計報告
 川又理事から、電子化によって学会誌著作権料収入があったこと、現時点で、238名(79%が会費納入済み)の会員数であること等が報告された。

2) ワークショップの件
 蘭理事から、当日午後開催のワークショップについての説明があった。

3) 第7回大会の件
 吉田理事から、第7回大会のシンポジウムの説明があり、コメンテーターの人選について報告・承認された。分科会の報告順序を決定するとともに、報告時間20分、質疑応答5分とすることにした。
 北星学園から補助金20万円を受けることが報告された。

4) 編集委員会報告
 舛谷理事から第5号の編集状況の報告があった。
 「聞き書き資料」の定義について話し合ったが、様々な点についてさらに検討する必要があり、継続審議とした。アマゾンでの委託販売について協議した。

5) 学会誌ガイドラインの件
 学会誌ガイドラインが提案され大枠を承認した。本案を総会に諮ることにした。

6) 学会倫理規程の件
 酒井理事から倫理規定についてはなお検討中との報告があり、これまで話し合った内容紹介を次号のNL16号に掲載することにした。

7) 次期理事選挙の件
 野本選挙管理員会委員長から経過についての報告があった。選出理事を招集し、その際に次期会長ならびに推薦理事を決定することを確認した。

8) ニュースレターの件
 7月末発行を予定。担当理事および掲載内容について確認した。退会者名については理事会で報告し議事録に残すが、NLには掲載しないことを確認した。

8) その他
 次回理事会は、9月12日(土)10:30~12:00、北星学園大学で開催することになった。


(5) 事務局便り

1.会員異動
(非掲載)

2.【会計から】2009年度会費納入のお願い
 いつも学会運営へのご協力ありがとうございます。会計担当です。2008年度の会費納入率も、会員の皆様のご協力のおかげで前年度水準を維持できました。
 さて、本学会の2009年度の会計年度は、2009年7月1日から2010年6月30日までとなっております。この会費には該当年度の学会大会参会費・学会誌代等が含まれております。新年度2009年度会費の納入をお願いいたします。学会大会時のお支払いは、大会のみ参加者・新入会者などとの区別のため、受付での混乱を招きやすいので、既会員の方につきましては、できるかぎり事前に郵便振替等による納入をお願いいたします。振り込み用紙には住所・氏名・電話番号・電子メールアドレス等をご記入ください。また、郵便振替の控えで領収書に代えさせていただきます。控えは必ず保管してください。 
 また、2008年度以前の会費を未納の方は、2009年度会費と併せてご入金くださいますようお願いいたします。入金確認の後、既刊の学会誌などをお送りいたします。本学会では会則により、2年間会費を未納の方は自動的に退会の扱いとなります。したがって、2007・2008年度(2007年7月1日~2009年6月30日)の会費2年度分をまだお支払い頂いていない方につきましては、今回のニュースレターが本学会からの最後のご連絡となります。学会の運営は、会員の皆様の会費で成り立っております。ご協力のほど重ねてお願いいたします。 
〈会費〉一般会員 5,000円 学生会員・その他 3,000円
〈振込先〉ゆうちょ銀行 口座名:日本オーラル・ヒストリー学会
口座番号: 00150-6-353335
 すでにご存じの通り、平成21年1月5日から、ゆうちょ銀行と全国の金融機関との相互振り込みが可能になっています。本学会の情報は以下の通りですのでご参照ください。
銀行名:ゆうちょ銀行、金融機関コード:9900、店番:019、店名(カナ):〇一九店(ゼロイチキュウ店)、預金種目:当座、
口座番号:0353335、カナ氏名(受取人名):ニホンオーラルヒストリーガツカイ
 ●従来の記号・番号は上記の通りで変わりありません。
(ゆうちょ銀行口座間の振替はこの記号・番号が使えます)。
 本学会の会計や入金確認などは、会計担当の川又俊則(059-378-1020:鈴鹿短期大学代表番号、もしくはkawamatat[at]suzuka-jc.ac.jp)へお問い合わせください。