日本オーラル・ヒストリー学会第7回大会

Japan Oral History Association 7th Annual Conference

2009年9月12日() ・9月13日()                      

会場:北星学園大学

 

1.大会プログラム

 

第1日目           9月12日()

 

12:00         大会登録受付(B1階玄関)

 

13:00-14:45   第一分科会(B507教室 司会:滝田祥子 横浜市立大学)

1.郷 崇倫  (おもいでプロジェクト)

オーラル・ヒストリーによる「短農」研究:カリフォルニア州オレンジ郡における短農の歴史と、オーラル・ヒストリーを通した「歴史相互理解」への第一歩  注 短農 派米農業研修生

2.藤井大亮 (筑波大学大学院博士後期課程)

 米国の高等学校におけるオーラル・ヒストリーの展開―ジョージア州の‘Foxfire’Project in Georgia,U.S.A

3.鄭京姫 (早稲田大学大学院日本語教育研究科博士後期課程)

「差別」と「差異」の物語―日本語学習者が語る「日本語人生」から

 

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15:00-18:30    clip_image001.gif (図書館棟A教室)

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  Ⅰ部  シンポジウム「アイヌのオーラル・トラディション」

報告者     「アイヌ文化をみせる・伝える」

秋辺日出男      阿寒アイヌ工芸協同組合専務理事

        「先祖の言葉をさぐって」

大須賀るえ子     白老 楽しく・やさしいアイヌ語教室主宰

「アイヌ語を覚えて、語るということ」

川上将史       北海道大学アイヌ・先住民研究センター

「アイヌの世界―ヤイユーカラの森から」

計良智子       ヤイユーカラの森運営委員 

         

討論者      津曲敏郎       北海道大学大学院文学研究科教授、北方研究教育センター長

         清水透        慶應義塾大学

司会       吉田かよ子      北星学園大学短期大学部

Ⅱ部  パフォーマンス「アイヌの歌と語り」

遠山サキ(アイヌ文化伝承者)・堀悦子母娘による歌と語り

司会        田村将人       北海道開拓記念館

 

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18:40    懇親会   北星学園大学 大学会館3

          

 

2日目         9月13日()

 

9:00-12:30 第二分科会(B507教室 司会:古村えり子 北海道教育大学)

 

1.小林久子 (東京医科歯科大学大学院 保健衛生額研究科博士課程)

 心臓ペースメーカーと共に生きる、ある女性の生活史

2.木村一枝 (核融合科学研究所 アーカイブ室)

 「KEK最初の10年―名古屋大学の共同研究者とのインタビューを通して―

3.深谷直弘 (法政大学大学院社会学研究科博士後期課程)

 原爆の記憶の継承と若者の平和活動:高校生一万人署名活動参加者の聞き取りから

4.八木良広 (慶應義塾大学大学院社会学研究科博士後期課程)

一生活者としての被爆者 東友会の相談活動を通じて

5.川又俊則 (鈴鹿短期大学)

  老年期の信仰生活:老人ホームで暮らす元牧師を中心に

6.岩佐奈々子(北海道大学大学院教育学研究科 修士課程)

都市部に住むアイヌ民族の人々のライフストーリー:自己肯定の経験を通して

12:30-13:15  総会    (A500教室)

 

13:30-16:00  研究実践交流会  (B507教室)

「少数民族・先住民族研究とオーラル・ヒストリー」   

司会:有末 賢(慶応義塾大学)

話題提供者:松田 凡(京都文教大学)

      内山明子(駒沢大学)

      栗田梨津子(広島大学大学院)

      新井かおり(立教大学大学院)

 

大会参加費    会員  無料

         非会員 一般 2,000

             学生:1,000

シンポジウムのみ参加は無料

 

会場: 北星学園大学  札幌市厚別区大谷地西2-3-1

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地下鉄利用の場合は(札幌駅から大通駅までは、南北線「真駒内」方面行きに乗車して)大通駅で東西線「新さっぽろ」行きに乗車し、大谷地駅下車。(所要 15分)
自動車等利用の場合は南郷通り大谷地神社信号を右折して約200mclip_image007.gif

新千歳空港連絡バス(北都交通・中央バス)利用の場合は「地下鉄大谷地駅 直行便」に乗車し、大谷地駅下車。(所要 35分)
JR
利用の場合は「札幌・小樽」方面行きに乗車し、新札幌駅で下車。地下鉄東西線に乗り換えし、大谷地駅下車。(所要 JR27分、地下鉄5分)

問い合わせ先:日本オーラル・ヒストリー学会事務局 東京都府中市朝日町3-11-1 

東京外国語大学 野本京子研究室内  http://joha.jp

または 北星学園大学短期大学部 吉田かよ子研究室 (〒004-8631札幌市厚別区大谷地西231北星学園大学) email: kyoshida@hokusei.ac.jp   

Tel: 001-891-2731   Fax:011-896-7660

 

2.自由報告要旨

 

第1分科会

(1)郷 崇倫  GO Takamichi

オーラル・ヒストリーによる“短農”研究:カリフォルニア州オレンジ郡における短農の歴史と、オーラル・ヒストリーを通した“歴史相互理解”への第一歩

 Tanno through Oral History: Shedding a Light on an O.C. Japanese-American Experience

(Oral History and Historical Communication and Understanding for Japanese and Japanese-Americans)

戦後のオレンジ郡の日系史においては、未だに理解されていない点が多く、今後の研究が待たれている。そこで、1950年代から60年代にかけてオレンジ郡で活躍した短農(派米農業研修生)の歴史に光を当てたい。短農という制度を通して、数百名の日本の優秀な若者がオレンジ郡にて日系二世の経営する農場で多くの農作業に従事した。研究発表では、1957年に渡米した群馬県出身の若者と彼らを雇った三宅明乙(あけみ)氏(帰米二世)のオーラル・ヒストリーを紹介し、日系史と日本史の一幕である短農の歴史に迫ってみたい。そして、短農の研究を通した私自身の、“日系史と日本史の歴史相互理解”の意義についても触れてみたい。

 

(2)藤井大亮  FUJII Daisuke

米国の高等学校におけるオーラル・ヒストリーの展開―ジョージア州の“Foxfire”プロジェクトを事例として

Oral History in High School Classroom : Transition of the “Foxfire” Project in Georgia, U. S. A.

オーラル・ヒストリーが初等・中等教育にも普及している米国では、「草の根の教育改革」として、数多くのプロジェクトが実践されてきている。そのなかでも、本報告では、1966年に成立していらい今日まで存続し続けており、為に初等・中等教育におけるオーラル・ヒストリー・プロジェクトの嚆矢とされるジョージア州の“Foxfire”プロジェクトを事例に、米国の高等学校においてどのようにオーラル・ヒストリーが展開されてきたのかを明らかにする。“Foxfire”プロジェクトでは、高校生が地域住民に聞き取りを敢行し、その成果として雑誌“foxfire”を制作している。この“Foxfire”誌の記事を創刊号から時系列に沿って縦断的に分析することで、そこに表象されるオーラル・ヒストリーの内容及び実践が、時代とともにどのように変化してきたのかを解明する。

 

(3)鄭 京姫  CHUNG Kyunghee

「差別」と「差異」の物語-日本語学習者が語る「日本語人生」から

The Story of discrimination and difference

from what the learners say of their “Japanese language life”

日本語学習者は日本の社会で日本語を使いながら生活をしていく中で,日本語による支障がないのにもかかわらず、自分の存在に対して,「否定」され,自分は日本人と違うのだと「差別」を感じている。しかし、彼らが社会的弱者という感じから拭い去ることができない。何故ならば日本語教育の中には、「日本人」対「外国人」という線引きされた「差別」があり、それは「差異」は際立たせ、日本語学習者は自らを「日本人」より価値のない存在であると、自ら価値付けをしてしまえるシステムがあるからだ。本発表では、日本語学習者が語る「日本語人生」から、彼らをひとりの人間として「そこで生きている」という感覚を失わせるその問題を追っていきたい。

 

2分科会

(1)小林久子  KOBAYASHI Hisako

心臓ペースメーカーと共に生きる、ある女性の生活史

   A Life story of a woman with a Cardiac  pacemaker 

わが国では心臓ペースメーカーを装着している人が40万人を超えるが、その人たちの個人的な生活に着目した報告は数少ない。不整脈は不安との関連が強い身体疾患だが、「機械に心臓を預けた身体」で生活することは、日常的にどのような気がかりや困難をもたらすのだろうか?特に心臓ペースメーカーの導入期と、飛躍的に進歩した現在とでは、生活上の困難さに変化がみられるのだろうか?インタビューに応じた語り手は、1960年代に完全房室ブロック治療のため日本製ペースメーカー第一号を装着し、装着期間が世界最長に達する人である。語り手の43年間の軌道をたどることを通じて、心臓ペースメーカー装着者の困難体験のリアリティーを探ってみたい。

 

(2)木村一枝  KIMURA Kazue

KEK最初の10年」-名古屋大学の共同研究者とのインタビューを通してー

The  first  decade in KEK through interviews with collaboration researchers of Nagoya University

総合研究大学院大学のオーラルヒストリープロジェクトとして「KEK最初の10年」が行われている。高エネルギー物理学研究所は1971年につくば市に創設された最初の大学共同利用機関であり、日本の素粒子物理学の中枢研究機関である。このOHプロジェクトは研究所に関係する研究者、秘書、学生、地域の人々を含めたインタビューを通して研究の歴史ではなく、「科学と社会」の視点から研究所を捉えようとする企画である。本報告は、その一部であるが、名古屋大学の共同研究者を通してみたKEKの最初の10年の特徴を明らかにしたい。

(3)深谷直弘  FUKAYA Naohiro

 原爆の記憶の継承と若者の平和活動:高校生一万人署名活動参加者の聞き取りから

Relaying Memories of the Atomic Bombing and Peace Activities of the Youth: Oral History Interviews of Participants in Getting Petition Signed by 10,000 High School Students

近年、戦争体験を語り継ごうという実践や活動があらゆる集団で行われている。そこで本発表は、語り継ぎを基礎においた平和活動に焦点をあて、活動参加者の語り継ぎの実践や活動について検討する。分析視角は以下の2点である。1点目は、この平和活動自体の検討である。この活動の参加者はどのようなきっかけや意味づけをして活動を行っていたのか。そして、どのような社会的環境で活動が可能となっているのかである。2点目は、参加経験者が平和活動に向かう過程を物語化する中で、浮上してくる資源を明らかにすることである。この二点の検討から、現在、被爆地長崎における語り継ぎのあり方を示すことができるだろう。

 

(4)八木良広  YAGI Yoshihiro

一生活者としての被爆者 東友会の相談活動を通して

Hibakusha
as a one person who lives his/her daily life: An Analysis of
consultation services of Toyukai

本報告は、戦後日本社会のなかで被爆者運動を推し進めてきた被爆者の日常生活の一端を明らかにすることを目的としている。報告者はこれまで主に東京都内にある被爆者団体・東友会の活動に焦点をあて、比較的社会の表舞台に登場する被爆者の姿について考察してきた。ただ、東友会の活動はそれとは異なる、福祉・医療をはじめ生活全般に関する相談活動がある。限定的には、相談者の被爆者と応答者の相談員との間のやりとりによって実践されているが、被爆者の生活全般に関連するためその時々の内容によって医師や弁護士、支援者など多くの人びとも関わってくる活動である。東友会を構成する重要な側面であるとともに、被爆者の生活の重要な構成要素でもある。その活動の概要を示しながらどのように被爆者の生活を成り立たせているかについてインタビューから明らかにしていきたい。

(5)川又俊則  KAWAMATA
Toshinori

老年期の信仰生活:老人ホームで暮らす元牧師を中心に

Religious
life in old age
Mainly
former pastor
 in
a nursing home

超高齢少子社会において、一般社会同様、宗教集団の信者も宗教指導者も高齢者割合が多くなるのは必然である。この社会状況下、各教派で独自の年金制度が十分整わず、キリスト教主義にもとづくケアハウスや老人ホーム等も十全ではない状況で、元牧師たちは長い「老年期」を生きる。本報告では、現役の牧会生活を終えた元牧師や元牧師夫人のうち、老人ホームなど自宅以外で信仰生活を全うしようとしている人びとへの生活史調査をもとに、各教派等の取り組みと合わせて、「老年期」の多様な信仰生活を考察する。経済問題・健康問題・家庭問題などを抱えながら、教会外で信仰を守り続ける彼らの言動から、現代日本における信仰と「老年期」に関する課題を提示する。

(6)岩佐奈々子  IWASA
Nanako

都市部に住むアイヌ民族の人々のライフストーリー:自己肯定の経験を通して

Life
Stories of the Urban Ainu People : the Significance of
Self-affirmative Experiences
 

本研究では、都市部に住むアイヌ民族の人々の「新しい生き方」を生み出すきっかけとなった経験に注目し、アイヌの人々にインタビューを試みた。
そのインタビューの語りの中で、人々の経験がどのように自己を肯定するきっかけとなったのか、またその肯定するプロセスがどのように歴史・社会的背景の影響を受けていたのかを考察する。今まであまり語ることがなかったアイヌの人々自身に自己を語ってもらうことは、「今」という時代に生きるアイヌの人々の実像を映し出し、その現状をライフストーリーを通して社会に認識してもらうことにつなげていく。