オーラル・ヒストリー実践講座 報告

2005年4月24日に、オーラル・ヒストリー実践者の裾野を広げていくために、初心者向け実践講座を横浜市の「海外移住資料館」で開催し、盛況の内に終えることができました。
受講者は、会員11名、非会員33名。内訳は、大学教員・大学院生(教育学、社会学、異文化コミュニケーション学、人類学などインタビューを調査手法に用いる大学院生)、一般市民(インタビューによる自己啓発を目指す人、インタビュー術をスキルとして習得しようとする人)でした。日本オーラル・ヒストリー学会からの講師として、有末賢、伊藤友江、折井美耶子、酒井順子、桜井厚、佐渡アン、野本京子、吉田かよ子が参加しました。午前中にオーラル・ヒストリーの概要(定義、レコーディングの是非、他の学問との関連など)および調査倫理・著作権問題について講義があり、続いて海外に移住した日系移民のライフストーリーの展示もある「海外移住資料館」を、同研究員小嶋茂氏の案内により全員で見学しました。午後はインタビュー(グループ・インタビュー、ペア・インタビュー)の実際的なトレーニングがおこなわれました。
講座の広報は、ニュースレター(12月、4月)およびJOHAホームページに掲載しておこなうと同時に、準備担当者が個人的に知り合いの研究者および大学院生に声をかけたり、市民運動団体に連絡したり、また歴史研究情報ウェブサイトにも情報を載せておこないました。
今後の課題
初心者を対象とした今回の実践講座では、特定のテーマにしぼらず、オーラル・ヒストリー全般に関わる概略的な講義を扱いました。インタビューの多様な手法、例えば深層インタビューや構築主義的インタビュー、またインタビュー解釈における諸問題等については時間の都合で言及できず、また特定のテーマの研究成果を議論することもできなかったが、オーラル・ヒストリーによる研究法の具体的な手順への参加者の理解は深まったのではないかと思われます。
終了後、参加者のうち何人かに連絡してフィードバックを得ました。それらをまとめると以下の通りです。
1. オーラル・ヒストリーの概略について伝える初心者向け実践講座は今後も開催していくことに意義があると思われる。
2. 今後開催するにあたってはテーマ別にあるいは参加者の背景によって別々に講座を開いていくべきだという意見もある。しかし理想としては、テーマを特定せずに広く方法論上の共通問題を議論していくこと、また参加者の背景によって狭い集団を対象にした実践ワークショップを行うのではなく、民間研究者と大学研究者とが共同してオーラル・ヒストリーの手法を発展してくことが求められている。
3. 学会はオーラル・ヒストリーの方法論上の諸問題、とくに倫理問題と著作権問題について学会としての取り組みを進めて行くことが求められている。
4. 合宿形式のワークショップ、連続講座を開催するなどの提案も参加者からあった。
参加者からのコメント例
A 大学院生(博士課程-人類学:ジェンダーと開発)
私の率直な感想として、盛りだくさんの大変興味深い講座であったと思います。なかなかあのような実践的な講座を受けたいと思っても、機会がなかったので、非常に貴重なものであったと思います。
日程も参加者としては、抵抗なく参加出来る日程構成だったと思います。また、全体の構成も、「講義」と「実践」といった感じで良かったと思います。「講義」に関しては何一つ不満もなく、大変勉強になったのですが、「実践」に関しては、あの短い時間のなかで、少々厳しかったかな・・・といった印象を持ちました。なんだか消化不良といった感じでした。それならば、ビデオなどを通して、「良い例(良いインタビュー)」と「悪い例(インタビュー)」などを観て参加者同士で意見を述べ合うといったものの方が分かりやすいような気が致します。
B 大学院生(博士課程―教育学)
実践講座に関しては、一参加者として申し上げるならば、やはり講師に質問や感想を述べることができるような「ふりかえり」の時間があれば良かったかなとは思います。ですが、今回のように限られた時間の中では難しいことですよね。アメリカでは2週間もかけて実践的トレーニングが行われるそうですが、それだけの時間をかけるとなると、さぞ密度の濃いワークショップになるのでしょうね。
私としては、合宿形式のワークショップが実施されるならば、参加してみたいという気持ちはあります。ですが、民間への浸透という点では弱まるかもしれませんね。私が午後のワークショップで一対一の形式でインタビューを行ったお相手は友人に誘われて参加された主婦の方でした。まったくオーラル・ヒストリーというものを知らず、ただ誘われたから参加したとのこと。最初はオーラル・ヒストリーと聞いてもよくわからなかったそうですが、講座が進行する中で徐々に興味をもっていかれたようでした。おそらく、入門講座に該当するような実践講座であれば、一日形式の方が参加者に広く開かれているのではないでしょうか。
入門としての一日形式のもの、それからちょっと段階を別にする合宿形式のもの、あるいは連続講座のようなもの…などいろいろと形式自体は考えられるように思います。私個人の欲張りな感想を申し上げれば、参加者の目的等に応じていくつかの講座形式があるのもおもしろいように思います。