JOHAニュースレター第11号

第5回日本オーラル・ヒストリー学会年次大会
盛況のうちに閉幕
 「第5回日本オーラル・ヒストリー学会大会」は、9月15日(土)、16日(日)の両日にわたって日本女子大学目白キャンパスで開催されました。4分科会と実践交流会では、いずれも活発な報告や議論が交わされました。大会2日目、午後からは日本女子大学と共催で「オーラリティとはなにか」と題するシンポジウムが開かれ、オーラリティの特質や意義に関して学際的な討議が繰り広げられました。なお、大会を通しての参加者は97名でした。
 来年度の年次大会は、2008年10月に慶應義塾大学で開催される予定です。会員のみなさまの報告申し込みをお待ちしております(「お知らせ」をご覧ください)。また、2008年7月に京都にてJOHA主催のワークショップを開催します。詳しくは本誌「Ⅳワークショップのご案内」に掲載しています。みなさま、ふるってご参加ください。

【目次】
(1) 第5回年次大会報告
1.第1分科会
2.第2分科会
3.第3分科会
4.第4分科会
5.研究実践交流会
6.シンポジウム

(2) 第4回総会
1.2006年度事業報告
2.2006年度決算報告
3.2006年度会計監査報告
4.2007~08年度理事選出過程と理事会構成
5.2007年度事業計画
6.2007年度予算

(3) 理事会
1.担当役員
2.理事会報告

(4) ワークショップのご案内

(5) お知らせ
1.学会誌第4号投稿募集
2.2008年度年次大会報告募集
3.会員異動
4.2007年度会費納入のお願い

(1) 第5回年次大会報告

1.第1分科会 オーラル・ヒストリーとエスニシティ
 この分科会では三名の報告者が登壇したが、「エスニシティ」に触れつつも、オーラルヒストリー活用の三態を示す興味深い組み合わせとなった。
 最初のファンセカ酒井・アルベルト氏(城西国際大学)の「ライフストーリーにおける抽象化された言説の問題に関する一考察――在日南米コミュニティとそのメディアを事例に」は在日南米コミュニティについてエスニックメディアによるモデル・ストーリーが提示され、そこに移民コミュニティのオーラルヒストリーを併用することで、「移民の戦略」という読解が行われた。二番目の矢野可奈子氏(京都大学大学院)の「占領のもとで生きる――カーレムとアームネのインティファーダ」はパレスチナ難民女性のオーラルヒストリーが、インティファーダ(民衆蜂起)経験を中心に素材として提示された。日本人研究者が直接現地語で収集したオーラルヒストリーは、圧倒的な存在感を示した。三番目の酒井順子氏(立教大学)の「個人的ナラティヴと集合的記憶の交差――第二次世界大戦後イギリスに渡った女性たちのライフストーリーの分析から」は近三十年のオーラルヒストリー研究史を踏まえ、在英日本人女性のナラティブの歴史的文脈を紹介しつつ、国民国家の歴史構築に対する異議申し立てという批評を含んでいた。
 もちろん収集、解釈、批評というそれぞれの段階は、すぐさまオーラルヒストリー研究の優劣を示すものではない。そのいずれもがオーラルヒストリー活用の姿を示していると言える。その証拠として、フロアからの補足説明を促す質問がどの報告に対しても相次ぎ、時間を大きく超過してしまったことを付記しておく。
(舛谷鋭)

2.第2分科会 科学技術のオーラル・ヒストリー
 第2分科会では4名からの報告があった。科学技術と社会の境界領域にアプローチする手法としてのオーラルヒストリーは、日本におけるオーラルヒストリー研究の新たな領域であり、この領域に挑む研究者がそれぞれの研究実践を踏まえて発表を行なった。第1報告者の伊藤憲二氏(総合研究大学院大学)は「科学技術社会論におけるオーラルヒストリー」と題して、近年の科学技術社会論の傾向にオーラルヒストリーの方法が適合していることを指摘し、北米における科学史のオーラルヒストリーを事例として紹介した。1960年代の量子力学創生期の物理学者たちへのインタビュー記録のアーカイブ化(AHQP)に始まり、現在の米国物理学会の物理学史センターに設けられたオーラルヒストリー・アーカイブに至るまで、北米ではオーラルヒストリーは常に科学史資料としての有用性を示してきた。日本では北米に比べてこのような試みははるかに弱体であり、その理由として日本の科学史家の資料の収集・保存に対する関心の欠如を伊藤氏は挙げた。しかし近年の科学技術社会論の傾向は科学の実践や文化的側面への関心を喚起するものであるとし、科学技術のエスノグラフィー、科学とジェンダー、サイト・スタディーズといった新たな研究視点でのオーラルヒストリーの有効性を論じた。
 第2報告者の安倍尚紀氏(東京福祉大学)は、「科学技術分野に於けるオーラルヒストリーの方法論的な諸問題―社会学の視点から」と題して、情報と記憶のドキュメンテーションとしてのオーラルヒストリーの方法論の分析を試みた。そして資料や研究動向の羅針盤として機能するオーラルヒストリーは、社会学的アプローチとアーカイブスとの統合によって、問題指向型と記録指向型の両面を備えるものであるべきと結論づけた。第3報告者の平田光司氏(総合研究大学院大学)からは「総研大におけるオーラスヒストリー計画」と題して、同大学における大学共同利用機関の歴史研究の一環としてのオーラルヒストリープロジェクトの報告があった。その計画意図は巨大科学を内部史ではなく社会史として記録することにあり、また学界の共有財産としてアーカイブ化も合わせて実施することにある。具体的計画として、高エネルギー加速器研究機構の社会史、国立天文台すばる観測所プロジェクトの紹介があった。最終報告者の木村一枝氏(核融合研究所アーカイブ室)は「核融合アーカイブスにおけるオーラルヒストリーの試み」と題して、日本における核融合研究の文書史料のみでは不十分な周辺状況を提供しうる方法としてのオーラルヒストリーの採用と、実際のインタビューに際しての段階別の手法および課題を詳細に述べた。
 伊藤氏の言う「日本における文理の壁が技術的な営為に対する適用を阻む」ゆえに、科学技術分野におけるオーラルヒストリーは近年までその有用性すら論じられる機会を得ることがなかった。その意味で、4人の報告者からの問題提起と将来への展望に、この分野におけるオーラルヒストリーの今後の可能性を期待させる分科会であった。
(吉田かよ子)

3.第3分科会 戦争の記憶
 戦争のオーラル・ヒストリー学会の成熟さを感じるに十分であった。まず第一発表者の渡辺祐介さん(立命館大学大学院)と第二発