JOHAニュースレター第3号

【目次】

(1) 大会報告
1.基調講演
2.第1分科会 「移動と移民」
3.第2分科会 「戦争―占領・植民地・ヒバク」
4.第3分科会 「女性・地域・生活」
5.第4分科会 「宗教」
6.第5分科会 (English Session) “Oral History Focusing on ‘Prewar Japan’”
7.研究実践交流会
8.オーラル・ヒストリー・ワークショップ
9.総会報告

(2) 日本オーラル・ヒストリー学会会則 (The Rules of Japan Oral History Association)

(3) オーラル・ヒストリー実践講座へのご案内

(4) 学会誌『日本オーラル・ヒストリー研究』の創刊
1.『日本オーラル・ヒストリー研究』投稿規程
2.『日本オーラル・ヒストリー研究』執筆要項

(1) 大会報告

第2回日本オーラル・ヒストリー学会大会
2004年9月11日(土)~12日(日)
於:立教大学(池袋キャンパス)

 日本オーラル・ヒストリー学会第2回大会は、2004年9月11日、12日の2日間にわたって、のべ110名余の参加者を得て、立教大学で開催されました。大会報告の概要を以下に掲載します。

1.基調講演
 第2回大会の基調講演者には、カリフォルニア州立大学フラトン校歴史学教授で2003年度米国オーラル・ヒストリー学会会長を務められたアート・ハンセン氏を迎えた。ハンセン氏は1970年代より、日系アメリカ人の強制収容所体験などを中心に多数のインタビューを行い、オーラル・ヒストリーの手法の確立と普及に貢献してこられた。当日は “Barbed Voices-Oral History, Resistance, and the World War II Japanese American Exclusion and Detention Experience”と題する講演の中で、その30年に及ぶ研究成果の一端を紹介された。
 1972年にフラトン校で研究手法であり、また史資料の一形態でもあるオーラル・ヒストリーに出会った氏は、同年開始された初の日系人に対するオーラル・ヒストリープロジェクトに参加した。特にハンセン氏が注目したのは、戦時転住センターのひとつであったマンザナー収容所内での抵抗運動だった。大学から最も近い収容所であり、同僚の多くがマンザナー収容経験者だったこと、またUCLAの図書館にマンザナー暴動の詳細な記録が存在したことなどから、それらの文献資料の価値を高める意味でオーラル・ヒストリーのインタビューに取り組んだとその経緯を述べられた。
 収容経験者・収容所関係者へのインタビューに対する準備として、ハンセン氏が拠り所としたのが社会学者スタンフォード・ライマンの日系二世研究だった。講演のかなりの時間を割いて、ライマンの二世研究を紹介されたが、文化的背景の異なる人々へのインタビューに先立つこうした背景理解のアプローチは、同様の研究課題に取り組む参加者には興味深いものであったに違いない。
 多くの二世へのインタビューを重ねるうちに、ライマンの類型学的考察から次第に解き放たれていく氏自身の聞き取り実践者としての成長プロセスもまた、オーラル・ヒストリーの持つ双方向性のもたらす余禄として、共感を呼ぶものであった。講演時間の制約のために、実際のインタビューを収めたVTR等をゆっくりと鑑賞することができなかったのが心残りだった。
 ハンセン氏はJOHA大会のために周到に講演原稿を準備され、その後の分科会にも熱心に参加された。またJOHAの今後の発展を力の限り支えていきたい、と永久会員になることをお申し出いただいたことに、心から感謝申し上げたい。(吉田かよ子)

2.第1分科会 「移動と移民」
 本「移動と移民」部会は、湯山英子さん(北海道大学)による「仏領インドシナの邦人社会―オーラル史料の役割」、小谷幸子さん(総合研究大学院大学) による「『日本』という場所:在米韓国系高齢者移民の移住史とライフストーリー」、そして小林多寿子さん(日本女子大学)による「ある日系アメリカ人一世の「ライフ」-伝記的方法としてのオーラルストーリー」という3つの報告がなされた。3報告とも「移動と移民」という部会にふさわしく、戦前期の仏領インドシナの邦人社会、在米韓国系高齢移民、そして日系アメリカ人一世という多様な「移動と移民」を対象とする報告で、それぞれ非常に興味いものであり、熱心に質疑がかわされた。以下にそれぞれの報告を中心に簡潔に紹介していこう。
 まず、第1報告は、戦前の仏領インドシナの邦人社会を対象とするが戦間期の調査・研究資料は乏しく、オーラル資料に活路を求める。仏領の邦人社会では小規模店主が主で、なかでも漆商がその中心であった。そこで、漆店で働いていたひとたちへの聞き取りを行ったわけだが、それは資料からは知りえなかった漆取引の流通経路を明らかにすることばかりでなく、とりわけ心象としての日本人社会の形成に役立ったという。湯山さんの専攻が経済史であるためか、オーラル資料は統計資料や文書資料と対等と言うよりは補助的なものと控えめに位置づけられている点が特徴的であったが、この分野でのオーラル史料の可能性を示す先駆け的な報告であった。
 第2の小谷報告は、日本の植民地支配を受けた在米韓国系高齢者移民が自らの人生をどのように振り返るのかを「日本」という場所にまつわる記憶と関係から考察することを目的としたライフヒストリー調査における相互関係性をリフレクティブに報告したものでした。植民地支配の負い目を感じる聞き手と、進んで自らの「身の上話」を日本語で語る韓国系高齢者移民という語り手との独特の日本語空間で進行するライフヒストリー調査であったことを振り返るなかで、語りが生成される場から生まれた「日本」という場所のシンボリックな意味を考察する。そして、語りによって生成された象徴空間は語り手(と聞き手)という主体の意味世界や内的要素にのみよるのではなく、主体をとりまく歴史性、社会関係、イデオロギーなどが関係していることをリフレクティブに考察していく、奥行きが深くて興味深い報告であった。
 第3の小林報告は、タクジ・ヤマシタ(1874-1959)という日系人をとりあげて伝記的な方法としてのオーラルストリーを用いて、マスメディアなどでいわば公的につくられたヤマシタのストリーとは異なるもうひとつの私的なストリーを提示するという、方法論からも野心的な報告であった。では、伝記的方法としてのオーラルストリーとはどのようなものかと言うと、ヤマシタと個人的直接的に接する機会のあった8人のひとたちに、2001年~03年にかけてヤマシタについて語ってもらうという方法がとられた。8人の語りを重ね合わせると、その私的なストリーは重層的で厚みがあり、公的なストリーとは別の側面を表していた。ライフヒストリーは生きているひとへのインタビューを前提としてきた