JOHA8 9月11日(土)12:45-15:15 第1分科会 要旨

1.ライフストーリーにおけるマンガ経験――経験の重層性・社会性・歴史性・・・池上賢 (立教大学大学院社会学研究科)

現代の日本社会においてマンガは長い歴史を持ち、日常生活に浸透したメディアの一つとなっている。また、近年では専門学部の設立やマンガを取り扱った企画展の実施など文化として認められてきている。その一方で、マンガの発達を支えてきた読者にたいする研究はまだ十分に行われていない。以上の点を踏まえて、本報告では2人の男性のライフストーリーにおけるマンガ経験を詳細に検討する。それにより、マンガ経験が単に作品を購読した経験ではなく、語り手自身の個人的経験や社会的・歴史的な状況に関する経験を重層的に含むものであり、時には語り手にとってアイデンティティを構成するリソースとなることを明らかにする。

2.大都市周辺地域で生活する男性家族介護者のライフストーリー・・・仲 真人(聖路加看護大学)

介護は女性の役割であるとするジェンダー規範が支配的なわが国では、家族の介護はおもに娘や嫁、妻によって担われてきた。ところが近年、少子高齢化や核家族化、都市化にともなう親族ネットワークの拡散などを背景に、主介護者として家族介護に従事する男性の人口が増加している。家族介護については、すでに数多くの物語があるものの、そのほとんどは女性介護者を語り手とするものであり、男性介護者を語り手とする介護経験の物語はまだ少ない。本報告では、大都市周辺地域で老親の在宅介護を続ける男性介護者の語りを紹介しつつ、男性介護者の生活史の記述を試みる。

3.オーラル・ヒストリーと“海を越えた交流”-ある日系人と日本人の“絆づくり”をふりかえる・・・郷崇倫(横浜市立大学大学院都市社会文化研究科)

オーラル・ヒストリーの実践および活用のひとつとして、家族の歴史の調査があげられる。そして、人々はそこから、それがどんなに些細なことであっても、驚きや悲しみの再発見を得る。今回の発表では、JAリビングレガシーの活動を通してわたしが知りあった、ある日系人と日本人のオーラル・ヒストリーの実践例を紹介する。オーラル・ヒストリーの実践をとおして、半世紀以上にわたる“太平洋をまたいだ、彼ら彼女らの絆づくり”の経緯について解説をする。さらに、今回の発表内容とオーラル・ヒストリーの活用をふくめて、“日本人の日系史理解のありかたとその可能性”についても触れて、参加者の皆様と有意義な議論を展開していきたい。

4.科学技術社会論(STS)におけるオーラルヒストリーの有用性・・・平田光司(総合研究大学院大学先導科学研究科)

科学技術社会論(STS)は科学技術と社会の界面に生じるさまざまな問題に対して、真に学際的な視野から、批判的かつ建設的な学術的研究を行うもので、日本における学会は2001年に設立された。STS 研究の方法には主に科学史、科学哲学、科学社会学、科学人類学、科学コミュニケーションなどがあるが、これら既存の分野を基礎としつつ、現代的な諸問題に直接関わるテーマを対象とする。科学者およびその周辺の人物へのオーラルヒストリーインタビューを行った経験をもとに、STSにおけるオーラルヒストリーの有効性について考える。