理事会(第9期)

<任期:2019年9月から2021年大会まで>

会長:赤嶺淳

事務局長:矢吹康夫

会計:上田貴子

編集委員長:石川良子
編集委員:今野日出晴
編集委員:佐野直子
編集委員:塚田守
編集委員:根本雅也

研究活動委員長:橋本みゆき
研究活動委員:小林多寿子
研究活動委員:能川泰治
研究活動委員:安岡健一
研究活動委員:山本恵里子

広報委員長:野入直美

大会校理事:佐藤量(任期 2019年9月~2020年大会まで)
大会校理事:佐々木てる(任期 2020年9月〜2021年大会まで)

監事:岩崎美智子
監事:倉石一郎

日本オーラル・ヒストリー学会第17回大会(JOHA17)のご案内

日本オーラル・ヒストリー学会第17回大会(JOHA17)が2019年9月7日(土)、8日(日)の2日間にわたり横浜市立大学において開催されます。お誘い合わせのうえ、ふるってご参加ください。
報告要旨などの詳細は、順次アップロードしていきますので、いましばらくお待ちください。

日本オーラル・ヒストリー学会 第17回大会
Japan Oral History Association 17th Annual Conference

開 催 日:2019年9月7日(土)、8日(日)
開 催 場 所:横浜市立大学金沢八景キャンパス(〒236-0027  横浜市金沢区瀬戸22-2)
・会場は、キャンパス内YCUスクエア(報告、シンポジウム等)といちょうの館(懇親会)で行われます
交通アクセス:京浜急行線「金沢八景駅」下車徒歩5分、シーサイドライン「金沢八景駅」下車徒歩7分
交通アクセスとキャンパスマップ
大会参加費:会員 1,000円、非会員 一般:2,000円、学生他:1,000円
懇 親 会 費:一般 4,000円、学生他 2,000円
大会時託児サービスを実施します。詳細は こちら をご確認ください。

大会に関してご不明な点がございましたら、JOHA 事務局までお問い合わせください。
E-mail: joha.secretariat(at)ml.rikkyo.ac.jp
※ [at]を@に差し替えて送信してください。

大会プログラム

大会プレ企画 9月6日(金)
中村高寛監督、陳天璽さんと一緒にヨコハマの歴史を歩く、味わう、語る
詳しくは こちら
9月3日追記 大会プレ企画は、定員に達しましたので、申込受付は終了しました。

第1日目 9月7日(土)
10:00 受付開始 @ピオニーホール(YCUスクエア1階)前ロビー

10:30〜13:00 映画『禅と骨』(中村高寛監督、2017年)上映会 @ピオニーホール

【監督紹介】
中村高寛さんは、1975年横浜生まれ。松竹大船撮影所でキャリアをスタートさせた後、北京電影学院でドキュメンタリー映画の手法を学ぶ。帰国後、中国人ドキュメンタリー映画監督李纓氏の撮影助手を務める。『ヨコハマメリー』が監督第1作。今回上映の『禅と骨』は第2作目。DVD化されていない作品のため、実践交流会で話題を提供していただく前に上映することにした。

【作品解説】
1918年に横浜でアメリカ人実業家の父と新橋芸者の母の間に生まれたヘンリー・ミトワの93年の人生をその複雑さ、滑稽さ、胡散臭さ、愛おしさを包み隠さずに作品にした。1923年に横浜で関東大震災を経験し、1940年には単身渡米。日米開戦後すぐに自ら志願して日系人強制収容所で過ごす。アメリカ国籍を放棄するが、帰還船に乗ることを拒否しアメリカに留まる。戦後はロサンゼルスで順風満帆な生活を築いていたが、突然1961年日本に帰国。京都嵐山天龍寺で禅僧になり、古都の文化人や財界人に囲まれて悠々自適の晩年を過ごすとおもいきや、80歳を目前に突如「赤い靴」の映画を作りたいと中村監督を彼の夢に巻き込むことになる。
この作品は、ヘンリー・ミトワの人生を観客に伝えるために、ドキュメンタリー+ドラマ+アニメ+時代背景や制作過程を解説したパンフレットというジャンルを縦横無尽に駆け巡る手法をとった。縦軸には横浜の近現代史の流れと日米関係、とりわけ第二次世界大戦の日系アメリカ人強制収容所体験が暗い影を差す。横軸には家族や友人との関係が彼の人物像を際立たせるように配置されている。一人の人生を歴史軸に据え、かつ、人間関係の網目の中に位置付けることは、オーラルヒストリーの正統的な手法である。本作品は、全部で9つの章に分かれている。

13:00 – 15:30 自由報告部会
第1分科会(戦争)@YCUスクエア4階401 報告要旨
・竹原 信也「移動する女性の体験が意味すること~済南の日本人居留地、満州・錦州での生活経験と八路軍従軍看護婦経験を有する女性のライフ・ヒストリー~」
・四條 知恵「ろう者の原爆の語り」
・那波 泰輔「1980年代のわだつみ会における加害者性との向き合い——1988年の規約改正に着目して」
・福田 真郷「沖縄県の在日米軍基地における「黙認耕作」」

第2分科会(仕事)@YCUスクエア4階403 報告要旨
・中原 逸郎「芸の発信−京都上七軒北野をどりの創成を中心に−」
・三浦 優子「海外駐在員女性配偶者の生活の中の両義性―語りからの考察」
・島田 有紗「高齢者労働力化と就労当事者の経験――高齢自営漁師たちの出漁実践と語りを事例に」
・八鍬 加容子「語り始めた「ホームレス」の人々―『ビッグイシュー日本版』「今月の人」誌面分析から」

16:00〜18:00 研究実践交流会(開催校企画)@ピオニーホール
作品化の手法:伝えること、伝わること、共有すること
【司会】滝田祥子
【発題者】中村高寛 「横浜をめぐる近現代史の聞き取りのドキュメンタリー映画化をめぐっての模索:『ヨコハマメリー』『禅と骨』そしてその先へ」
【趣旨】
研究実践交流会の目的は、オーラルヒストリーの実践をめぐり大会参加者同士が自分自身の研究実践の内容を共有し、今後の研究を続けていく上で有用な気づきを得やすい場をつくることにある。
JOHA2019年春季シンポジウム『ビジュアルオーラルヒストリーの可能性と現在』と実践ワークショップ『作品と現地をつなぐ』の流れを受けて、今回は<作品化>の局面に焦点をあて、聞き取りやオーラルヒストリーインタビューを作品化するときに、1)伝えていくための工夫はどのようにしているのか、2)作品化したあとに実際に伝わったのは何か手応えはあるのか、3)過去の記憶を共有することの難しさと可能性とはなにか、の3つの問いについて議論していきたいと考えている。
まず、前半は中村高寛監督をおむかえし、対話形式でこれまでの作品化のプロセスで苦労した点、工夫した点、成功した点、失敗した点、これからチャレンジしようと思っている企画などについてお話を伺う。実際の映像のダイジェストを見せていただきながら、膨大なビジュアルデータや収集した情報をどのようにして選択し作品に落とし込んでいくのか、など監督自身のドキュメンタリーの手法を明らかにしていく。前作『ヨコハマメリー』が、自分自身を語らぬメリーさんをめぐる様々な人の記憶から伊勢佐木町という<現地>の一つの時代を描いたのに対して、2作目の『禅と骨』では、メリーさんに負けず劣らずユニークな人物を目の前にしてその人の人一倍複雑な人生を理解することをその人自身の語りを主軸に描いている。前者は撮れてしまった映画で、後者は監督が確信的に撮った映画だと言われたこともあるようだが、その違いはどのようにして生まれ、そのことは監督自身の作品化をめぐる手応えにどのような影響を与えているのだろうか。
後半は、ワークショップ形式で、参加者の方々の作品化(論文、本、映像、など)実践を共有し、先に挙げた3つの問いについて考えを深めていきたいと企画している。最後に全体で共有し、中村監督からコメントをいただくことにする。

18:30〜20:30 懇親会 @いちょうの館

9月8日(日)
9:00 受付開始 @ピオニーホール(YCUスクエア1階)前ロビー

9:30〜12:00 自由報告部会
第3分科会(移民)@YCUスクエア4階401 報告要旨
・孫夢「「留学(さ)せざるを得ない」-当事者のライフストーリーから中国の教育現実を解明する」
・山崎 哲「「あなたの名」を知らぬ者は生活史をどう語るか -ある中国帰国者3世への聞き取り事例から-」
・竹田 響「在日コリアンの国境を越えた親族の繋がり―朝鮮半島の南北に離散して暮らす親族との「再会」に着目して―」
・仙波 梨英子「在日フィリピン人の第二世代のオーラルヒストリー:アートを通じた表現活動から考察する」

第4分科会(メディア)@YCUスクエア4階403 報告要旨
・林 貴哉「在外ベトナム人コミュニティにおける声の発信:米国のベトナム語メディア関係者の語りから」
・澁谷 由紀「ベトナム戦争期のジャーナリスト/諜報員の語りと現在:『ファム・スアン・アン―名前のとおりに生きた男』とその関連書籍をめぐって」
・石井 育子「ラジオドラマ史にみる脚本制作の変遷についての1考察」
・西村秀樹・小黒純「社会派TVドキュメンタリーの成立過程の研究、戦争の加害と被害をめぐる『記憶の澱』の研究」

12:05〜13:00 総会 @ピオニーホール

13:00〜14:00 特別イベント @ピオニーホール
科研費改革の背景と動向 (田中雅一JOHA研究活動委員会委員長)

14:00〜17:30  シンポジウム @ピオニーホール
〈見えないもの〉のオーラル・ヒストリー
【司会】田中雅一(国際ファッション専門職大学)、橋本みゆき(立教大学)
【趣旨】
幻覚や幻聴、夢、心霊現象、超常現象といった目に見えないものは、しばしば当事者たちの生に大きな影響を与える。たとえば、災害や戦争で亡くなった者が夢に現れ、遺言を残したり、自らの進むべき道に何か示唆を与えていたり、過去の夢が「虫の知らせ」であり予言・予知であったと認識していたりする。しかし、いかにそれが当事者たちにとってリアリティのあるものとして存在していても、目に見えないものは虚構であるかのように受け止められることも多い。
このシンポジウムは〈見えないもの〉のオーラル・ヒストリーに関連する研究に取り組む人々をパネリストとして招き、その意義や方法について議論する。私たちは〈見えないもの〉に対してどのようにアプローチし表現することができるのか。そして〈見えないもの〉に着目することで〈見える〉ようになるものとは何なのか。
〈見えないもの〉はオーラル・ヒストリーの実践にも深く関わる。インタビューにおいて、相手が自分の経験した幻覚や超常現象を話すとき、私たちは戸惑ったり疑ったりするかもしれない。一方、彼・彼女らが家族や仕事について話をしてもそれを疑うことはほとんどないだろう。だが、その対象者が過去に体験したいずれも、私たちにとっては〈見えないもの〉でもある。〈見えないもの〉のオーラル・ヒストリーを考えることは、フィクションとノンフィクション—虚構と現実—の境界を問い直すことにもつながることになるだろう。 (文責 研究活動委員会・根本雅也)
【報告】
・金菱清(東北学院大学)幽霊と夢のナラタージュ―東日本大震災の〈いまはむかし〉
・北村毅(大阪大学)平和学習とシャーマニズムの接点―あるガマにおける日本兵の「亡霊」をめぐって
・根本雅也(日本学術振興会)幻覚の口述史―ある被爆者の憎しみと赦しの物語り
【コメント】有薗真代(龍谷大学)、村上陽子(沖縄国際大学)

第4分科会(メディア)報告要旨

第4分科会(メディア)@YCUスクエア4階403
司会:池上賢、倉石一郎

ラジオドラマ史にみる脚本制作の変遷についての1考察
石井育子( ㈱エフエム東京 報道・情報センター)
ラジオドラマは、誕生から90年以上続いている長い歴史がある。テレビ誕生以前から現在のメディア融合時代まで、時代状況、メディア環境、産業構造の移り変わりの中で独自の変化・進化を続けてきたユニークな表現ジャンルともいえる。ネットの普及によりメディア環境が激変している現在、そうした歴史的変遷を踏まえることなく、ラジオドラマの今後の可能性を構想することは困難である。歴史を辿るうえでは、残された音源や記録、資料が限られているため、制作者・脚本家の証言、および彼らが残した数少ない著作が重要な手掛かりとなる。今回は、現在ほぼ唯一の職業的ラジオドラマ専門の脚本家である北阪昌人氏の証言を中心に、ラジオドラマの歴史的展開を跡づけながら、その延長上としての現状及び今後の可能性について分析・考察した結果を報告したい。

ベトナム戦争期のジャーナリスト/諜報員の語りと現在:『ファム・スアン・アン―名前のとおりに生きた男』とその関連書籍をめぐって
澁谷由紀(東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門 [U-PARL] 特任研究員)
本報告では、ベトナム戦争期のベトナム共和国(旧南ベトナム)において、国際ニュース通信社ロイターやニュース週刊誌『タイム』誌の特派員をつとめた解放勢力側の諜報員ファム・スアン・アンに焦点を当て、彼の語りが持つ今日的意味を考察する。分断国家を経験したベトナムでは、諜報員の存在や二つの体制間の移動は決して特異なことではない。にもかかわらず、2002年にベトナムで出版されたルポタージュ『ファム・スアン・アン―名前のとおりに生きた男』はベトナム国内外で大きな反響を呼んだ。本報告では同書と欧米で出版された関連書籍をとりあげ、アンの語りが政治的にどのように利用されたのか、どのように人々に受け止められたのかについて検討する。

社会派TVドキュメンタリーの成立過程の研究、戦争の加害と被害をめぐる『記憶の澱』の研究
西村秀樹(同志社大学嘱託講師)・小黒純(同志社大学社会学部メディア学科)
「社会派TVドキュメンタリーの成立過程の研究」の第三弾の発表。本作品(山口放送、2017年放送)は戦争の加害と被害証言を取り扱ったTVドキュメンタリー、第13回日本放送文化大賞テレビグランプリの受賞作品。満州開拓団でおきたソ連兵相手の「性接待」、捕虜の殺害、民間人の殺害など、「先の大戦の記憶を語り、残したいという人びと」の証言をたんねんに取材した制作ディレクターから、制作意図、過程を聴きます。浮かび上がるのは、「心の奥底にまるで澱のようにこびりついた記憶」。

在外ベトナム人コミュニティにおける声の発信:米国のベトナム語メディア関係者の語りから
林貴哉(大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程)
1975年のベトナム戦争終結に伴い国外に亡命したベトナム難民は、世界各地でベトナム人コミュニティを形成している。本発表では、米国のベトナム人コミュニティにおいてベトナム語で放送されているテレビ番組において、どのような背景のもと、いかに情報発信が行われているのかを分析する。番組制作者への聞き取りから、番組において南北ベトナム統一前の伝統的なベトナム語を使用していることがベトナム人コミュニティの声を守り、発展させていくことの土台になっていること、さらに、コミュニティの発展に伴って視聴者やテレビ局の社員の構成にも変化が生じており、ベトナム難民1世の声と若い世代の声の共存が目指されていることが明らかになった。

第3分科会(移民)報告要旨

第3分科会(移民)@YCUスクエア4階401
司会:佐々木てる、清水美里

在日フィリピン人の第二世代のオーラルヒストリー:アートを通じた表現活動から考察する
仙波梨英子(横浜市立大学大学院都市社会文化研究科博士後期課程)
本研究は、フィリピン系移民のなかでも1980年代以降に日本で生まれ育った「第二世代」に焦点をあて、アートを通じてオーラルヒストリーを共同制作していく試みである。具体的には、在日フィリピン人の第二世代(以下、第二世代)と〈アートのグループ展示を開催する〉という、企画・準備・制作・展示といった、プロジェクト型の発信活動をするなかで、第二世代がどのような世界を描き、他者と関わりあうのかに注目する。また、調査者としての「わたし」が、一作家として参与型観察をおこなうことにより、調査する側・される側という分断された立場を超え、相互作用の中でたち現れていく「わたし」自身の姿をも考察対象とする。本発表では、現時点であきらかになった事象を中心とした分析の経過を報告する。

「留学(さ)せざるを得ない」-当事者のライフストーリーから中国の教育現実を解明する
孫夢(首都大学東京人文科学研究科社会行動学専攻社会人類学教室博士後期課程)
日本が少子高齢化の社会になり、労働力不足の現状を緩和するため、「技能実習生」だけではなく、留学生も沢山呼び寄せた。このうち中国からの留学生は12万人で、全留学生数に対して占める割合は約40%となっている。こうした背景から、留学生、特に、中国人留学生を対象に行われてきた研究は多岐にわたっている。教育学や社会学や心理学などの観点から留学生政策の是非や留学生の適応問題を論じていることが多い。本研究は教育人類学の視点から、母子の二人の主人公のライフストーリーに注目し、中国人留学生の主人公はどうして日本留学を選び、その母親はどのように子どもの留学を実現させたのか等、留学に纏わって、中国人留学生が「留学(さ)せざるを得ない」理由を明らかにし、現在中国における教育現実を解明する。

在日コリアンの国境を越えた親族の繋がり―朝鮮半島の南北に離散して暮らす親族との「再会」に着目して―
竹田響(京都大学 人間・環境学研究科)
本発表では、第二次世界大戦終戦以前に朝鮮半島より日本の内地に移ってきた、いわゆるオールドカマーの「在日コリアン」と呼ばれる人びとの親族ネットワークに焦点を当てる。
在日コリアンの9割程度は朝鮮半島南部に自身の出自を持つが、1959年から1984年にかけて実施された日本から朝鮮民主主義人民共和国への「帰国事業」によって、10万人弱の在日コリアンが朝鮮民主主義人民共和国に「帰国」し、朝鮮半島の南北に在日コリアンの親族が離散するという事象が生じた。
今日、在日コリアンが、大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国に離散して暮らす親族とどのような国境を越えた親族ネットワークを構築しているのかを、親族との「再会」に着目しながら明らかにする。

「あなたの名」を知らぬ者は生活史をどう語るか -ある中国帰国者3世への聞き取り事例から-
山崎哲(一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程)
本報告の目的は、「あなたの名」を知らなかった者がいかに自己の歴史を語ったのかについて検討することである。具体的には、中国帰国者と総称される人々のうち、ある3世への聞き取り事例を通して行う。
中国帰国者とは、日本へ帰国または移住した中国残留孤児・婦人等とその家族を指す。報告者は中国残留孤児・婦人の孫世代である3世に生活史調査を行なってきた。その中で、報告者による聞き取り調査時にある3世が自らを中国帰国者“である”と初めて知った事例に出会った。本報告では、彼女がなぜ中国帰国者という「あなたの名」を知らなかったのか、また、自身も3世である報告者との相互作用を通じて、彼女自身と家族の歴史がいかに紡がれたかについても考察する。

第2分科会(仕事)報告要旨

第2分科会(仕事)@YCUスクエア4階403
司会:有末賢、矢吹康夫

高齢者労働力化と就労当事者の経験――高齢自営漁師たちの出漁実践と語りを事例に
島田有紗(京都大学大学院人間・環境学研究科)
地球規模で高齢者人口が増加している。中でも日本は高齢化率21%を超す「超高齢社会」であり、高齢化は特に深刻だ。高齢者向け医療・介護体制や経済支援等の面で多くの課題を抱えるが、その中の一政策として高齢者労働力化が進められている。その動きは社会学や経済学領域から検討されてきたが、主に高齢世代の貧困や彼らの経済的貢献性などについて、俯瞰的視座から論じられている。
本報告では、高齢者労働力化に関する俯瞰的言説を再考するため、青森県大間町にて自営漁に従事する(一般定年65歳以上の)高齢漁師の生活史と語りを取り上げる。漁師町の文脈において、高齢漁師らの出漁が必ずしも経済性や生産性に回収されない実態から、高齢者労働力化の福祉的機能について考える。

芸の発信−京都上七軒北野をどりの創成を中心に−
中原逸郎(京都楓錦会、日本ライフストーリー研究所)
花街は芸舞妓が日本舞踊等の芸を披露し、地元の花街言葉により顧客を応接する都市民の交流の場で、日本固有の遊興地とも言えよう。戦前まで花街は各地方の民俗を取り入れ芸を発信してきたが、第二次世界大戦後は西洋化、民主化等の社会変化の中、芸の発信にも様々な変化が現れた。
本発表では昭和 27 年(1952)の北野上七軒(京都市上京区、以下上七軒)の花街舞踊(舞台舞踊)である北野をどりの創成に焦点を当て、文献資料研究に上七軒における聞き取りを加え、戦後の花街の芸を取り巻く思想や社会環境の変化にせまる。

海外駐在員女性配偶者の生活の中の両義性―語りからの考察
三浦優子(立教大学平和・コミュニティ研究機構特任研究員)
グローバル化が進み、時間と空間の圧縮が起こり、国境を越えて移動する人々の生活にも変容が起きている。本報告では、そのなかでも海外に仕事目的で移動する駐在員である夫に帯同する配偶者の日常生活実践に焦点を当てる。女性たちは、家族や他の駐在員配偶者たちとどのようにつながり、どのような気持ちを抱きながら暮らしているのであろうか。事例として日本の駐在員家族が多く暮らすドイツ・デュッセルドルフ日本人社会に注目し、そこに暮らす3人の駐在員配偶者たちの生活に着眼する。3人の女性たちの語りから、駐在生活を肯定的にとらえながらも葛藤や疑問も抱くという両義性が浮き彫りになる。その背景要因、そして今何が問われているのかも考えていく。

語り始めた「ホームレス」の人々―――『ビッグイシュー日本版』「今月の人」誌面分析から
八鍬加容子(京都大学文学研究科 博士後期課程)
ホームレス状態の人々が販売者を務めるストリート・マガジン『ビッグイシュー日本版』には、「今月の人」という販売者のライフ・ストーリーのコーナーがある。これまで聞く耳も語る口も持たなかった「ホームレス」の人々の声が、ストリート・マガジンというコミュニティを通して世に出ることの歴史的文脈と意味・意義はどういうところにあるのであろうか。
本発表では、『ビッグイシュー日本版』創刊号(2003年9月11日発売)から最新号までの「今月の人」を誌面分析し、そこでどのように「ホームレス」が表象されたかを分析する。次に、同時期のメディア報道内の「ホームレス」の表象を比較することで、「ストリート・マガジン」というコミュニティが形成されていく過程で物語がどのような役割を果たしているのかを検討していく。

第1分科会(戦争)報告要旨

第1分科会(戦争)@YCUスクエア4階401
司会:木村豊、人見佐知子

ろう者の原爆の語り
四條知恵(日本学術振興会特別研究員PD(長崎大学))
原爆被爆後の障害は、原爆被害そのものとして語られてきたが、被爆以前から障害を持っていた人々の被害とその後の歩みが社会的に顧みられる機会は少なかった。従来の市史を中心とする歴史記述の中で周縁におかれてきた社会的弱者の原爆被害の中でも、障害者の被害の問題に取り組んだ先行研究は少なく、被害の実態も不明である。報告者の関心は、ろう者の集団がどのように原爆被害の記憶を形成してきたのかということにある。本報告では、長崎県立ろう学校をめぐる原爆の語りに着目し、集団としてどのように原爆被害の記憶が形成されてきたのかを検討する。

移動する女性の体験が意味すること~済南の日本人居留地、満州・錦州での生活経験と八路軍従軍看護婦経験を有する女性のライフ・ヒストリー~
竹原信也(奈良工業高等専門学校)
前年度JOHA16にて『中国残留日本人女性のオーラル・ヒストリー~移動・家族・従軍看護婦を中心に~』と題し、済南の日本人居留地で生まれ、満州・女学校時代に挺身看護隊として学徒動員され、終戦後は八路軍に従軍看護婦として留用され中国国内を転々とした女性の体験を帰国後の生活も含めて報告した。本報告では、前年度報告と指摘を省みつつ、(1)済南、満州・錦州での食生活・教育・家族形態などの生活実態、(2)八路軍従軍看護婦経験の記憶や口述資料を巡る問題、(3)彼女の「移動」と「体験」を通じて考える「近代日本」と「日本人」の多様なあり方という、三つの個別のテーマについて報告する。

1980年代のわだつみ会における加害者性との向き合い——1988年の規約改正に着目して
那波泰輔(一橋大学大学院)
本発表は、戦没学徒の遺書集『きけわだつみのこえ』を軸に作られた日本戦没学生記念会(わだつみ会)が、1988年に規約に戦争責任の文言をいれたことに着目し、1980年代にわだつみ会がどのように加害者性と向き合っていったのかを考察をしていく。1980年代は教科書問題などにより、日本の加害者性とアジアへの被害がより周知されていった時代であった。1970年代以降、わだつみ会への若い世代の入会が少なくなっており、1980年代に会は積極的に若い世代に働きかけた。しかし、若い世代からはわだつみ会の加害者意識の欠如を指摘されることになった。1980年代に加害者意識が問われたことや、若い世代の獲得を目指したことなどにより規約改正が議論され、規約に戦争責任の文言を追加されていった。

沖縄県の在日米軍基地における「黙認耕作」
福田真郷(京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程)
発表者は、2018年に計3か月間、沖縄県沖縄市にある、在日米軍嘉手納弾薬庫施設内の「黙認耕作地」にて農業、畜産業に従事しフィールドワークを実施した。「黙認耕作」とは、在日米軍基地敷地内での、住民による農業などの土地利用を指す。高度な軍事利用のされていない場所で、一定の制限のもと住民が果樹やサトウキビなどを栽培している。成立背景を戦中、戦後の米軍による土地収奪に持ち、「島ぐるみ闘争」を経て正式に制度化された。沖縄市、読谷村、嘉手納町など県中部には、フェンスの内外、土地所有権の有無を問わず、多くの耕作者が今なお存在する。本発表は、「黙認耕作者」および地域と米軍基地の関係性に焦点を当て、その様相を述べる。

JOHA17 大会プレ企画のご案内

9月7日(土)、8日(日)に開催される日本オーラル・ヒストリー学会大会のプレ企画として、9月6日(金)に「中村高寛監督、陳天璽さんと一緒にヨコハマの歴史を歩く、味わう、語る」を企画しています。ふるってご参加ください。

9月3日追記 定員に達しましたので、申込受付は終了しました。

大会プレ企画

中村高寛監督、陳天璽さんと一緒にヨコハマの歴史を歩く、味わう、語る

コーディネーター:滝田祥子

9月6日(金)
16:00 JICA横浜2階海外移住資料館展示室前ロビー集合(企画展:コーヒーが結んだ日系人と日本)
17:00- 中華街まち歩き
17:30- 華都飯店ディナー (陳天璽さんの中華街の記憶)(予算:各自2000円程度)
19:30 - 伊勢佐木町まち歩き+老舗のバー(アポロ)でバーテンダーさんから話を聞く。(中村高寛監督と一緒に)(予算:各自ワンドリンク分)
21:00頃 バーで解散、終了

※ 中村高寛さん(映画監督)には9月7日の研究実践交流会で話題を提供していただきます。中華街の中にオフィスがあり、中村さんのドキュメンタリー映画制作の原点の街を一緒に散策することで、聞き取りと作品の間をつなぐヒントが見つかるかもしれません。
※ 陳天璽さん(早稲田大学教授)は、「無国籍」についての研究をし、ドキュメンタリー映画も制作しています。華都飯店はご実家です。
★ 申し込み先着15名限定にします。ご希望の方はできるだけ早くJOHA事務局へお申し込みください。飲食代のほかに、拠点間移動のための交通費がかかる場合があります。当日の天候などにより、予定が変更する場合がありますのでご承知おきください。お申し込みの際には、お名前とあわせて、当日連絡が可能な携帯電話番号をお知らせください。

E-mail: joha.secretariat(at)ml.rikkyo.ac.jp
※ (at)を@に差し替えて送信してください。

大会時の託児サービスのご案内

日本オーラル・ヒストリー学会では、第17回大会の期間中に託児室を設置します。託児業務は、株式会社明日香に委託します。
大会プログラムの詳細は、7月中旬頃に会員宛に配信のニューズレターならびにホームページで公開します。

利用料・支払
お子さまお一人につき、1時間あたり1000円です。
学会員以外の方もご利用になれます。

利用時間・場所
時間:2019年9月7日(土)10:00~21:00
◆◆◆2019年9月8日(日)9:00~18:00
場所:会場キャンパス内の一教室。セキュリティ確保のため、お申込者のみにご案内します。

対象年齢
1歳~6歳(未就学児)
※対象年齢を満たさない場合は、ご相談ください。

定員
各日5名

申込み方法
お申込み・お問い合わせは、メールにてお願いいたします。
託児室の利用をご希望のかたは、①から⑤までの項目をすべてご記入のうえ、2019年7月31日(土)17:00までに、下記のアドレスまでお申込みください。
申込期限を8月23日(金)まで延長しました。
① 保護者氏名
② 託児室を利用されるお子さまの人数 ※お2人以上の場合以下の情報はすべてのお子さまについてお願いします。
③ お子様の年齢( ○ 歳 ○ ヶ月)
④ 性別
⑤ 一時保育利用希望日、時間帯
定員になった場合、締め切らせていただくことがあります。お早めにお申し込みください。
期日を過ぎますと対応できかねますので、ご注意ください。

申込み先
日本オーラル・ヒストリー学会事務局 joha.secretariat[at]ml.rikkyo.ac.jp
[at]を@にしてお送りください。
メールの標題は、「託児室予約」と記入してください。

その他
キャンセルのご連絡は、2019年9月5日(木)17:00までにお願いいたします。以降はキャンセル料が発生します。
前日(5日17:00以降):キャンセル料(半額)が発生します。
当日(6日17:00以降):キャンセル料(全額)が発生します。
託児室の設置・運営は学会会計で賄っております。ご理解・ご協力のほどお願いいたします。
当日、発熱(37.5℃以上)や感染症など体調不良や、集団保育に適さないと保育スタッフが判断した場合には、お預かりをお断りすることがあります。
利用希望の連絡をいただいた方には、一時保育について別途ご連絡いたします。なお、一時保育中のお子様の飲食物は持ち込みとなります。